長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ドクター・スリープ』

2020-01-14 | 映画レビュー(と)

  さて前述『シャイニング』における監督キューブリックと原作キングの仲を取り持ったのが40年ぶりの続編『ドクター・スリープ』だ。キングはファンからの「ダニーはその後、どうなったんですか?」という問いかけをきっかけに本作の執筆を始めたという。40年後のダニーは実の父親に殺されかけたトラウマと、自身の持つ特殊能力“シャイニング=かがやき”に怯え、かつての父と同じようにアルコール中毒となって生きていた。本作でダニーを演じるのはいよいよ名バイプレーヤーとして円熟するユアン・マクレガーだ。

 ここでマイク・フラナガン監督について触れておこう。
1978年生まれの41才、キング作品は既に2017年の『ジェラルドのゲーム』で映画化済みのホラー界の新鋭だ。本作ではキューブリック版にオマージュを捧げつつ、キング原作に準ずる作劇(脚本も担当)をしているが、これを昨今のファンダムを意識した続編映画群と同列に語るのは見当違いだ。これらの絶対条件をクリアするのは序の口。既にNetflixドラマ『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』で評価を確立しているフラナガンは臆する事なく自身の作家性を発揮しており、実に頼もしい仕上がりである。酸化銅のようにくすんだアシッドグリーンの映像美、Jホラーの影響も色濃い湿度の高さを持った恐怖描写、そして抜群のキャスティング眼が冴え渡る。悪役レベッカ・ファーガソンのクールビューティぶりや、実質上の主演となるカイリー・カランの堂々たる存在感はもとより、『ツイン・ピークス』の巨人でおなじみカレス・ストルケイン、『ウエストワールド』『ファーゴ』で存在感を放ったザーン・マクノーランら近年のTVドラマで活躍した俳優や、“ヒルハウス組”からロバート・ロングストリート、そしてヘンリー・トーマスが重要な役柄で登場しているのも嬉しい。“ヒルハウス”では女優のキャスティングが目を引いたが、本作でも“スネークバイト・アンディ”役エミリー・アリン・リンドが印象的である。

身を隠すように生きてきたダニーに再び活力を与えるのが同じ“シャイニング”を持つ少女アブラだ。しかし、その強すぎる力を狙って悪の能力者達が襲い来る。『ドクター・スリープ』は大友克洋の『童夢』よろしく超能力バトル映画になっており、前作とはまるで性格が違う。肩を落とすファンもいるかも知れないが、この齟齬はキューブリック版『シャイニング』とキング版『シャイニング』の関係性にも近い。『シャイニング』原作では我に返った父親が身を挺してオーバールックホテルを焼き払い、息子に愛を告げる。フラナガンは映画の最後でそれらを融合させる。そこにはキューブリックの冷徹さでは到達しえない優しさが満ちており、40年の時を経てようやく『シャイニング』は完結するのである。


『ドクター・スリープ』19・米
監督 マイク・フラナガン
出演 ユアン・マクレガー、カイリー・カラン、レベッカ・ファーガソン、ザーン・マクノーラン、エミリー・アリン・リンド、ロバート・ロングストリート、ヘンリー・トーマス、カレス・ストルケイン
 

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