長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ハウス・オブ・カード シーズン5』

2017-06-06 | 海外ドラマ(は)

このレビューは物語の重要な展開について触れています※


【シーズン5にかけられた期待】
シーズン4の最終回は背筋の凍る衝撃的な幕切れだった。

これまでの悪事がワシントン・ヘラルド紙のハンマーシュミット記者によって暴かれ、大統領選挙戦も劣勢。
いよいよ進退極まったフランクがリチャード三世よろしく「馬をくれ!」と叫ぶのかと思いきや、マクベス夫人さながらに妻クレアが悪魔の奸計を施す。

クレア「恐怖と手を組むのよ」
フランク「…我々ならできる(Yes,We can)」

時同じくして、アメリカ国内ではイスラム過激派組織ICOによるテロ事件が発生し、犯人はインターネット上で人質を公開処刑する。
誰もが目を背ける中、フランクとクレアだけはじっと前を、そう、第4の壁を破り、テレビの前にいる僕らに語りかける。

「私たちが恐怖を作るのだ」

それから1年、アメリカはフランクの思い描いた策略以上に混沌と恐怖に陥った。
世界中にヘイトの嵐が吹き荒び、そしてドナルド・トランプの大統領当選。それから今日に至るまでの騒乱はご存知の通りだ。現実が信じがたいほど遥か向こうへフィクションを追い越してしまった。
共和党はトランプによって実質上の壊滅に追い込まれ、ジョエル・キナマンのような端正で凛々しい若き候補者など現れる余地もない。

常にアメリカの社会政治を風刺し、そして先駆けてきた『ハウス・オブ・カード』がトランプという非現実的なまでの現実をどう描くのか?その興味は尽きず、シーズン5への期待は否が応でも高まっていったのである。


 【ハウス・オブ・トランプ】

シーズン5冒頭、フランクは議会に乗り込み、荒々しいスピーチで議場を混乱に陥れる。
テロの恐怖を煽り、強いリーダーである事をアピールするそのアジテーションはこの1年で僕らが何度も目にしてきたそれだ。入国禁止も、FBIへの介入も、目くらましのための戦争も全部現実に見たシーンだ。

なんてこった、これじゃフランクがトランプの二番煎じじゃないか。

その後もドラマはスノーデン事件、さらにはブッシュ対ゴアの大統領選時における不正疑惑など古びたネタばかりを投入してくる。トランプ当選の原動力となったオルトライトや、フランクのバイセクシャルに対しての言及があっても良かっただろう(フランクの親友の失踪のサブプロットは全く機能していない)。

『ハウス・オブ・カード』は一体どうなってしまうのか?これまで高いクオリティを維持してきた本作もついにアメリカドラマお決まりの末路、低迷による打ち切りとなってしまうのだろうか?

フィクションはトランプを倒すことができるのか。
シーズン5はドラマのストーリー展開よりも、クリエイター達による創作物(虚構)と現実との戦いの行方が気になってしまい、いつも以上のスピードで一気見してしまった。


【ショーランナー、ボー・ウィリモンの離脱】
シーズン5のもう1つの注目点はこれまでショーランナーを務めてきたボー・ウィリモンの不在だ。
彼が抜けた影響は如実に現れている。前述の同時代性の欠如、そして何よりセリフの魅力が減じられてしまった。
『ハウス・オブ・カード』の魅力の1つは劇作家でもある彼が手掛けたセリフの優雅さにあった。第4の壁を突破するフランクの独白が面白いのは、素晴らしいセリフを素晴らしい俳優ケヴィン・スペイシーが操り、そこに悪の華にあるからだ。ところがシーズン5では第7話冒頭、ついにフランクがただ状況説明のためだけに我々に語りかけてくる。いくらスペイシーが名優とはいえ、素晴らしい脚本、セリフがあってこそ名優たり得るのである。ウィリモンの離脱によってフランクは大いに精彩を欠いた。


【トランプ対ワンダーウーマンの母】
シーズン終盤、フランクは不正操作した選挙の結果、ついに大統領に再選するが、これまでの悪事が次々と露見し、政権は火だるま状態となる。この景色は今まさに、フィクション以上のドラマとなっているトランプ政権の“ロシアゲート疑惑”を彷彿とさせられた。ここから『ハウス・オブ・カード』が現実に追いつき始める。

第12話クライマックス、公聴会に立つフランクは僕たちに語りかける「これが見たかったんだろう?」。
『ハウス・オブ・カード』はオバマ政権時の2013年にスタートした。大きな期待を持って迎えられたオバマだったが、ねじれ国会により政権は停滞し、決められない政治に多くの人が苛立ちを覚えた。イデオロギーにも既得権益にも囚われずに政策を通していくフランクはオバマ時代が生んだ理想のアンチヒーローであり、彼と同じくオバマへの反動で誕生したのがトランプなのだ。
そう、フランクの正体はトランプだったのだ。彼は第4の壁を破り、視聴者(投票者)へ「理性の時代の終焉へようこそ」と嘯く。フランクは民主主義の歪な願望の象徴であり、このメタ構造を晒した事で『ハウス・オブ・カード』は一応の結末に達したと言っていいのかもしれない。

フランクは奇策を弄し、自ら大統領職を辞して副大統領である妻クレアを繰り上げ当選させる。トランプもこれ以上の炎上となれば弾劾か、さもなくば辞職だろうが、さすがにイヴァンカには継げない。クレアはフランクの犯罪を帳消しとする大統領恩赦を発効せず、僕らにこう言うのだ。「私の番よ」

ここでようやく(本当にようやっと)『ハウス・オブ・カード』はトランプに勝つのである。
トランプが散々蔑んできた女性がトランプを倒し、その権力の座に就くのである。

僕はこの最終回をちょうど全米で『ワンダーウーマン』が大ヒットを飛ばしている週末に見た。
『ワンダーウーマン』の歴史的快挙についてはまた後に書くと思うが、女性監督による女性を主人公にしたビッグバジェットが大成功した時同じくして、ワンダーウーマンの母を演じているロビン・ライトが『ハウス・オブ・カード』でトランプ(もといフランク)を倒した事は2017年の映画界を象徴する重大な事件ではないだろうか。
アメリカ映画(およびドラマ)の潮流がここ1~2年でもの凄いうねりになっている事は肌身に感じていたが、今年はいよいよガラスの天井が打ち破られ、いわゆる“女性映画”が躍進する重要な転換点となるかもしれない。

ロビン・ライトはこのシーズンでは大トリとなるラスト2話を監督兼任もしている。
ヘッドディレクターが不在である以上、願わくばシーズン6にはクレアに素晴らしいセリフを書いてくれる理想的な女性脚本家が参入し、めきめきと演出手腕を高めている監督ロビン・ライトを支えてくれたらと思う。『ハウス・オブ・カード』は彼女のドラマになった。

もちろん、フランクもこのまま黙ってはいないだろう。
彼が身を隠す部屋からはホワイトハウスが一望できる。そう、トランプインターナショナルホテルはホワイトハウスから徒歩15分だ。

※後述 『ワンダーウーマン』鑑賞。ロビン・ライトの役は「ワンダーウーマン」の母ではなく叔母でしたね。ヒロインの育ての師と呼べる精神的支柱の役でした。初期段階の情報を後追い確認せず、この記事を書き上げていました。レビューの意味合いは変わらないと思うので、訂正はしません。あしからず。※


『ハウス・オブ・カード シーズン5』
出演 ケヴィン・スペイシー、ロビン・ライト
※Netflixで独占配信中※


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