ブラジル。トランスジェンダーの少女ヴァレンティナはシングルマザーの母親と田舎町に越してくる。学校で入学手続き進め、補講の話がまとまると不意に顔を曇らす。「出欠はありますか?」ブラジルは法整備が進み、自らの意思で性別と通名を選択することができるが、未成年の彼女は両親のサインが必要だ。失踪した父の行方は知れず、果たして彼女はヴァレンティナを名乗れるのか?
ヴァレンティナが直面する数々の困難と執拗な差別にこの題材が『ボーイズ・ドント・クライ』の頃からストーリーテリングに変化がないのかと思わせられるが、ブラジルの現実を知れば近年のハリウッドにおけるクィア描写はあまりに理想的過ぎるのかも知れない。エンドロールで明かされるトランスジェンダーの平均寿命が35歳という現実こそ本作の重要なモチーフであり、いくら法的整備が進もうと世間の偏見は容易く解消することはできないのだ。ヴァレンティナの周囲の人々が皆、自分の生き方を肯定していることは重要だろう。ゲイのジュリオ、学生にしてシングルマザーのアマンダ、そして母マルシアもまた新たな恋人を見つけ、ヴァレンティナもそれを認めているのが微笑ましい。閉塞的な田舎町で周囲の価値観から外れて生きていく事は容易くないが、1人1人が自己肯定できる社会があるべき姿だ。
ヴァレンティナを演じるティエッサ・ウィンバックは本国ブラジルで多くのフォロアーを持つトランスジェンダーのYouTuber。LGBTQの子供たちに自分を受け入れることの重要性を説いているという。ハリウッドで長年議論されている”トランスジェンダーの役はトランスジェンダーが演じるべき”という課題は当然のようにクリアされており、この小さな映画がブラジルから出てきたことを評価したい。
『私はヴァレンティナ』20・ブラジル
監督 カッシオ・ペレイラ・ドス・サントス
出演 ティエッサ・ウィンバック、グタ・ストレッサー、ロナルド・バナフロ、レティシア・フランコ
4月1日より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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