長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『トゥルー・ディテクティブ シーズン3』

2019-08-06 | 海外ドラマ(と)

※このレビューは物語の結末に触れています※

最新シーズンは大絶賛されたシーズン1への原点回帰を思わせるイントロダクションだ。呪術的殺人を匂わせる物証、過去と現在を往復する叙述…。守りの姿勢ではない。やがて見えてくるのは事件に翻弄され、“時間”に苦しめられた人々の悲哀である。

1980年、幼い兄妹がこつ然と姿を消す。ヘイズ刑事(マハーシャラ・アリ)とウエスト刑事(スティーヴン・ドーフ)が捜査にあたり、程なくして兄が他殺体で発見される。残された物証を手がかりに容疑者を探すが妹を見つけることはできず、事件は迷宮入りする。

1990年、とある事件現場から発見された指紋が行方不明だった妹ジュリーのものと一致。捜査本部が再度、立ち上げられる。

2015年、老境のヘイズは未だ解決を見ない事件についてインタビューを受ける。しかし既にアルツハイマーが進行していた。

これら3つの時間軸がシームレスにつながる展開に一瞬、たじろいでしまうが心配ない。メイクの力も借りながら俳優陣が見事に演じ分け、第1話が終わる頃にはしっかり構成を理解する事ができる。中でも主演マハーシャラ・アリは内面の心理演技で3つの時代を演じ分けるさすが巧さだ。本作でエミー賞主演男優賞にノミネートされている。



何度も言ってきた事だが、PeakTVの今、俳優達のベストアクトはTVドラマにある。長らくキャリアが低迷したスティーヴン・ドーフはいつの間にか脂が乗って、実に渋い俳優になっていた。ファムファタール的なアンニュイさと、芯の強さを演じ分けるカルメン・イジョゴもようやくその実力を証明したと言っていいだろう。
そしてスクート・マクネイリーである。『ゴッドレス』の弱視の保安官など、近年バイプレーヤーとして注目を浴びる彼の爆発的なパフォーマンスこそPeakTVの醍醐味だ。今やブロックバスターと超低予算に二極化した米映画界において、彼のような隠れた名優が実力を発揮するのがテレビであり、そこにアメリカ俳優界の層の厚さがある。

一方、2015年パートでインタビュアーを演じるご贔屓サラ・ガドンは実にもったいないキャスティングだった。終盤にきっと大きな見せ場があるのでは…と期待していたが、ムダ遣いもいい所である。『またの名をグレイス』で名を上げたと思っていたが、この才能あふれるカナダ人女優もハリウッドではまだまだ外様なのか。解せん(もっとも、美人過ぎて現代劇では浮いてしまうのかも知れない)。



小説家でもあるショーランナー、ニック・ピゾラットによる脚本は3つの時制の交錯によって「視聴者は知っているのに、登場人物は知らない」という事態を生み出し、ミステリファンを悶えさせてくれる。だが、事件解決は主眼ではない。最終話を前にして事件の全容はほぼ浮かび上がり、老いたヘイズの救済に焦点が当てられていく。

事件の迷宮入りによってヘイズは刑事の職を失い、家庭も崩壊。2015年に妻の姿は既に亡く、娘とも疎遠だ。他者を寄せ付けない自分の意固地さがそうさせたとわかっていても、こう思わずにはいられない。事件さえ解決できていれば、と。

終幕、ヘイズは行方不明だったジュリー・パーセルの行方を突き止めるが、その途上で我を失う。だがそれで良かったのかも知れない。記憶に苦しめられ、最愛の妻との記憶に救われ、その記憶もかつて身を潜めたベトナムの密林に埋もれていく。人は忘れる事で救われる時もあるのだ。


『トゥルー・ディテクティブ シーズン3』19・米
製作 ニック・ピゾラット
出演 マハーシャラ・アリ、スティーヴン・ドーフ、カルメン・イジョゴ、スクート・マクネイリー、サラ・ガドン


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『バトル・オブ・ザ・セクシ... | トップ | 『トレイン・ミッション』 »

コメントを投稿

海外ドラマ(と)」カテゴリの最新記事