長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ゴッドレス-神の消えた町-』

2018-07-28 | 海外ドラマ(こ)

ハリウッドは今や"TV黄金期”。各配信会社がオリジナル作品を製作し、凌ぎを削る戦国時代だ。人気映画監督たちのTV界流入はもちろん、昨年エミー賞を賑わせたHBO製作『ナイト・オブ・キリング』のスティーブン・ザイリアンのように脚本家として長年活躍してきた人が新たにショーランナーとして作品を発表できる土壌も整ってきた。

 本作の監督・脚本を務めるのも『アウト・オブ・サイト』『マイノリティ・リポート』『ローガン』などを手がけてきた脚本家スコット・フランクだ。往年の名作西部劇を彷彿とさせる本作は彼の最高傑作と言っていい堂々たる仕上がりである。とりわけソダーバーグやスピルバーグの下で第2版監督を務めてきた撮影監督スティーブン・メイズラーのカメラは筆舌し難く、これはスマホやタブレット、TVではなく劇場で堪能したいレベルの映像美である。しばしば"映画級”という宣伝文句が踊るTVドラマ界だが、これほどスクリーンで見たかったと思わせる画作りのドラマはなかった。こんな思いがけない傑作が生まれる事からも如何に現在のTV界が充実しているかわかるハズだ。

物語の舞台は1884年のニューメキシコ、炭鉱事故により男性のほとんどが死んだ町ラ・ベル。そこへ瀕死の重症を負った謎の男ロイ・グッドが現れる。無法者フランク・グリフィンの下で我が子同然に育てられてきた彼は大金を持ち逃げし、半殺しの目に合ったのだ。町の外れに暮らす牧場主アリスによって匿われたロイだが、グリフィンの魔手は迫りつつあった。

定型こそ西部劇のそれだが、時代は"Me too”である。
ロイとグリフィンの対決を主軸にしながら物語を動かすのはラ・ベルの寡婦達だ。『ダウントン・アビー』でお馴染みミシェル・ドッカリー、エミー賞助演女優賞候補に挙がったメリット・ウェバーがウエスタンスタイルに身を包み、ウィンチェスター銃を携える姿はほれぼれする程カッコいい。女手一つで生計を立て、身を守ることができる彼女らにとって男は必ずしも必要な存在ではない。教えを乞い、コミュニティに居場所を見出していく男たちのオールドスタイルな不器用さが対照的だ。ロイ・グッド役の好漢ジャック・オコンネル、トーマス・サングスターや、怪優のイメージが強い保安官役スクート・マクネイリーら男優陣も好演。中でもフランク・グリフィン役ジェフ・ダニエルズの単なる悪漢では終わらない深味は、この名優が新たなキャリアのピークに立った事を知らしめてくれる。

 本作を見てアメリカ文学の巨匠コーマック・マッカーシーの小説を思い出した。マッカーシーは『すべての美しい馬』『越境』『平原の町』の"国境三部作”で近現代のアメリカ西部を舞台にしている。人と馬、親と子、大地と人、そして神と人の在り方を描いた散文詩のような文体はまるで神話のような神秘性があり、それは同時にアメリカが血と暴力で築き上げられた事を看破する。『ゴッドレス』はハリウッドがかつて量産した"ウエスタン”の定型を踏みながら、さらにアメリカを形成した西部開拓史の精神性にまで踏み込んでいるのだ。その抒情性はアメリカの地を踏む者のみならず、遠く海を隔てた僕たちをも魅了するのである。



『ゴッドレス-神の消えた町』17・米
監督 スコット・フランク
出演 ジャック・オコンネル、ジェフ・ダニエルズ、ミシェル・ドッカリー、メリット・ウェバー、スクート・マクネイリー、トーマス・サングスター、他

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