長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『バグジー』

2023-11-29 | 映画レビュー(は)

 1991年のアカデミー賞は『羊たちの沈黙』が作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞、主演女優賞の“主要5部門”を独占した史上3番目の映画として歴史に名を残した年だが(4本目の映画は30数年を経た今も現れていない)、一方でアカデミー賞史上類を見ない不作の年でもあった。今でこそ作品賞候補枠が10本以内に拡大されたことでアニメーション映画のノミネートも珍しくなくなったが、この年はディズニー映画『美女と野獣』がアニメ映画として初の候補入り。その他、『JFK』『サウス・キャロライナ愛と追憶の彼方』と並び、そして最多10部門で候補に挙がったのがバリー・レヴィンソン監督の『バグジー』だった。

 前年に『グッドフェローズ』がギャング映画を大きく更新した後で、『バグジー』はまるで寝ぼけているかのような仕上がりだ。ジョー・ペシが暴れ出しかねないほどテンポは緩慢で、バイオレンス劇なのかロマンス劇なのか一向にトーンが定まらない。ウォーレン・ベイティ演じる主人公バグジーはまったく好きになれないキャラクターで、スコセッシ映画のようなアンビバレントな魅力を持っているとは到底言えないだろう。数少ない慰めと言えば、1940〜50年代のロサンゼルス一帯を支配したギャング、ミッキー・コーエンに扮したハーヴェイ・カイテルだろうか。『LAコンフィデンシャル』の原作者ジェイムズ・エルロイも度々描写したこのギャングスタは非常に小柄な元ボクサーで、歩く暴力装置のような男だったと言われている。脂の乗り切ったカイテルがド迫力で演じ、アカデミー助演男優賞にノミネート。彼の偉大なキャリアでオスカー候補がこれ1度きりというのは何かの悪い冗談としか言いようがない。

 バグジーはギャングたちの資金洗浄の場としてラスヴェガスにカジノを建設し、後のカジノ都市の礎を築く。これをアメリカンドリームと位置づける本作の批評性の無さを、「1991年だから」と時代性に求めるのは無責任だろう。バリー・レヴィンソンの息子サム・レヴィンソンは近年、HBOのTVシリーズ『ユーフォリア』などで活躍しているが、1985年生まれの彼が強く影響を受け、あからさまに引用するのは90年代のガス・ヴァン・サント、スコセッシであり、父バリーの作品ではない。時代を超えられない映画、というのも確かに存在するのだ。


『バグジー』91・米
監督 バリー・レヴィンソン
出演 ウォーレン・ベイティ、アネット・ベニング、ベン・キングズレー、ハーヴェイ・カイテル、エリオット・グールド、ジョー・マンテーニャ
 

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