長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ノベンバー』

2023-02-17 | 映画レビュー(の)

 生き物とも機械ともつかない三足歩行の物体が牛をさらい、空に舞い上がる冒頭部から『ノベンバー』はライナル・サルネット監督の自由奔放なイメージが満載の1本だ。マルト・タニエルの美しいモノクロームを得たこの映画は、私達をファニーでグロテスクなエストニアの寒村に誘ってくれる。ここでは厳しい冬を前にして人々が互いの物を掠め盗りながら生きている。冒頭で牛をさらった魔導器具は“クラット”と呼ばれる使い魔で、人々は悪魔と魂を引き換えにして農耕具に命を与え、家事を手伝わせているのだ(クラットはやることがなくなると「仕事をくれ」と唾を吐く)。

 死者の日にはご先祖様があの世から還ってきて、サウナに入る。村にはドイツから公爵とその美しい娘がやってきて、青年ハンスは彼女に恋をする。彼は森の十字路で悪魔と契約すると、雪だるまをクラットに変える。遠い異国から雪となってやってきたこの使い魔は、美しい恋物語を歌う。そんなハンスに恋をするリーナは、なんとか彼の心を得ようと魔女を訪ねて…アンドルス・キヴィラクの原作からエピソードを抽出した本作はドラマツルギーよりも悪夢的で美しいイメージが優先され、映画館の闇に身を沈めてこそ堪能することができるだろう。


『ノベンバー』17・エストニア
監督 ライナル・サルネット
出演 レア・レスト、ヨルゲン・リーク、イエッテ・ローナ・エルマニス、アルヴォ・クマナギ、ディーター・ラーザー

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