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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『キングコング 髑髏島の巨神』

2017-04-24 | 映画レビュー(き)

 レジェンダリーピクチャーズがギャレス・エドワーズ版『GODZILA』に続いて放つモンスター映画ユニバース第2弾は、気持ちがいいくらいに振り切れた快作だ。ジョーダン・ヴォート=ロバーツなる無名の新人監督の“キングコングとベトナム戦争時代の米兵が戦う”というワンアイデアから製作が始まったというが、なかなかどうして。企画不足の消化不良なハリウッド映画が相次ぐ昨今、この新鋭は観客の見たい絵をしっかり見せ、我々の快楽中枢を満たしてくれる。

1973年、米軍のベトナム戦争撤退が決まった日。謎の政府機関によって未知なる“髑髏島”への探検隊が編成される。
研究チームはジョン・グッドマン、護衛の米兵隊隊長はサミュエル・L・ジャクソン。共にキチ〇イ役ならお手の物の怪優が画面に揃い踏みし、これだけで十分、怪獣映画なみのインパクトだ。この2人の前ではイケメン・ヒーロー枠にトムヒ(註:トム・ヒドルストン)を配しても空気化してしまうのだから驚きだ。

むしろブリー・ラーソンが映画にハマる70年代美人顔で唯一、銃も持たなければお色気もか弱さも皆無という、清く正しい現代性で主演女優として屹立しているのが頼もしい。怪獣に追い詰められた恐怖からハラリと涙が(ほぼ条件反射のように)こぼれ落ちるさり気ない場面まで、彼女の気取らない演技メソッドが貫かれている。オスカー受賞後、急激に垢ぬけてスターオーラを増しており、これは想像以上の大輪ではないだろうか。
パニック映画は往々にしてB級のキャストが作品にチープさを与えてしまうが、ロバーツ監督は豪華キャストを無駄遣いする事無くそれぞれに見せ場を与え、映画のグレードを1つも2つも上げて抜かりがない。

役者が揃うと映画は早々に、何ら出し惜しみする事なくキングコングを登場させる。バッコーン!!
まんまキルゴア中佐なサミュエル叔父貴率いるヘリコプター部隊を叩き落とすコング!
キングコングVS『地獄の黙示録』!
この自分が見たい絵を観客にも見せてイかせる力技!

髑髏島に降り立った一行を次々と巨大怪獣たちが襲い、コングがプロレスよろしくバンバンぶっ倒していくが、サミュエル叔父貴も負けてはいない。ロバーツの書いた企画書はきっと“キングコング対『地獄の黙示録』”“キングコング対サミュエル・L・ジャクソン”、そして“サミュエル・L・ジャクソン対巨大怪獣”だったに違いない。叔父貴といえばのあの名台詞も爆笑モノのパロディとして使われ、コングと同レベルの愛されっぷりだ。
一方でCGに頼らず、ロケーションをフル活用し、この世ならざる秘境のランドスケープを切り取ったカメラもいい。この監督、見た目はヒゲモジャの正直どうかと思う風貌だが、なかなかの手練れではないか。

 まさかエンドクレジットの後にあんなアガる真のエンディングがあるなんて、ほとんどの観客は夢にも思わなかったのだろう。場内が明るくなるまで席を立たないように。ついにアイツらが大スクリーンに帰ってくるぞ!!


『キングコング 髑髏島の巨神』17・米
監督 ジョーダン・ヴォート=ロバーツ
出演 トム・ヒドルストン、サミュエル・L・ジャクソン、ブリー・ラーソン、ジョン・グッドマン、ジョン・C・ライリー
 
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『君の名は。』

2016-11-01 | 映画レビュー(き)

映画はこんな言葉から始まる。
“目が覚めると泣いている。起きたら忘れていて、何か…欠けている。ずっと探している気がする”。

新海誠らしいポエティックな台詞に、僕は何年も前に見たきり忘れていたクシシュトフ・キェシロフスキ監督の91年作「ふたりのベロニカ」をふと思い出した。世界のどこかで同日同時刻に生まれた自分そっくりのベロニカが死んだ時、もう1人のベロニカはまるで世界が終るかのような不安に苛まされる。

あなたにもそんな事はなかっただろうか?
ある日、ワケもなく悲しくなり、虚無感に包まれたこと。それは世界のどこかでもう1人の自分が死んだ瞬間なのだ。

もう1人の自分とは何か。
運命の恋人を人はまるで自分の片割れのように感じるのだという。瀧と三葉の宿命の出会いに理由は要らない。彼らはお互いに自分自身なのである。二人は突然ワケもなく入れ代わった生活に戸惑いながら新しい人生に今までにない自分を見つけ出していく。入れ代わった時の互いの痕跡をもとに意識し合う二人。SFを理屈で辻褄合わせしようとしない語り口がいい。なぜなら若い頃の恋の原動力とは“思い込み”だ。若い頃は思い込みで恋するくらいがいい。

この映画は震災で亡くなった少女が自分の運命の相手だったかも知れないという思い込みに衝き動かされた瀧の物語とも見て取れる。東京に暮らす平凡な少年が大震災を通して世界と自分の距離を知っていく。青年は“自分の死”を経験することで成長し、大人になっていくのだ。

震災の日を回避しようとする終幕は『シン・ゴジラ』と同じく3.11のあの日、僕らはまだやれたハズだという痛切な想いの象徴でもある。2016年、東宝を通じて3.11後の心象風景がメインストリーム映画として大ヒットした事は日本映画史上における重大事件として記憶されるだろう。

 入れ代わった二人がそれぞれの生活を楽しみ、やがて互いの存在を知っていく展開をRADWIMPSの挿入歌で省略した演出はドラマの重要な見せ場を損なっており(好きな相手の電話番号を得るドキドキはもうロマンス映画の見せ場じゃないの?)、終幕も観客のエモーションより先走って挿入歌をかけるなど相変わらずナルシストな多弁さが目立つが、所謂“セカイ系”だった新海の作風が3.11と結びつき、メインストリームへ昇華された会心の1本として、見逃せない。


『君の名は。』16・日
監督 新海誠
 
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『キャロル』

2016-10-26 | 映画レビュー(き)

 ひそやかなときめき、悦び、痛みが匂い立つ。50年代アメリカ、同性愛はおろか女性の自立さえ認められていなかった時代。デパートの売り子テレーズは人妻キャロルに一目で恋をしてしまう。

パトリシア・ハイスミスが匿名で出版し、永らく作者不詳のまま読み継がれてきたレズビアン小説の金字塔をトッド・ヘインズ監督は「エデンより彼方に」(2001年)同様、ダグラス・サーク風メロドラマの方法論で映画化しているが哀しいかな、わずか15年で世界はより不寛容となり、切迫感を持ったドラマとして成立している。

テレーズに扮したルーニー・マーラが素晴らしい。
佇まいだけで孤独と喪失を体現する彼女には愛を失った人であれば誰もが胸を締め付けられるはずだ。これはメロドラマであるのと同時に自分が何者かもわからないヒロインがアイデンティティを確立するまでの物語でもある。
マーラのフォトジェニックな美しさを彩った衣装、美術、撮影の設計も見事だが、大きな演技が未だもてはやされるハリウッドにおいて雰囲気だけで映画を成立させる個性は現代アメリカ女優のみならず、世界的に見ても稀有だろう。アカデミー賞ではキャンペーン戦略ゆえに助演扱いとなってしまったが、先行したカンヌ映画祭ではケイト・ブランシェットを差し置いて女優賞を獲得した。

もちろんブランシェットは彼女の偉大なキャリアに新たな足跡を残す名演である。
優美なマダムは見初めた少女の前で優美に振る舞いそれは…とにかく“ハンサム”なのだ。しかし、この“ジーナ・ローランズのようにカッコいい女”という演技的記号はヘインズの『アイム・ノット・ゼア』でボブ・ディランを演じて実証したように彼女にとっては朝飯前である。

“キャロルという記号であること”の理由は最後に明かされる。望まぬ結婚をし、自由と愛を捨てた彼女がこの時代を生きるためには優雅で颯爽とした女でなくてはならなかった。自分を偽る事しかできなかった女の哀しみをやはりブランシェットは名演するのである。

 野心的な表現で批評家に高く評価されてきたヘインズだが、本作は2女優の名演によって最も胸打つ作品となった。


『キャロル』15・米
監督 トッド・ヘインズ
出演 ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ
 
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『禁じられた歌声』

2016-10-02 | 映画レビュー(き)

 驚くべきは西アフリカはティンブクトゥを舞台にしたこの素朴なモーリタニア製映画がアカデミー外国語映画賞候補はおろか、フランス版オスカーといわれるセザール賞で主要7部門を独占した事だろう。イスラム武装勢力に占拠され、暴力と戒律によって支配された人々をスケッチしていく本作はドラマチックな虚飾を纏わず、時に牧歌的とも思える筆致で世界のありのままを描き出そうとする。そんな衒いもない映画がアサイヤス「アクトレス」はじめ地元フランス勢を差し置いた事にこの国の社会構造を垣間見るのだ。昨年からフランス国内で相次ぐテロ事件の事を思えば社会的関心が高まっていた事も想像がつく。

 説明を排したシンプルな語り口には歌を禁じ、女性を虐げ、宗教の笠を着て権威を振るう者たちへの監督アブデラマン・シサコの怒りがにじんでいる。人々が鞭や石で打たれる中、一人華美に着飾り、権力者を笑う気の触れた女。狂気には狂気でしか抗えないのか。


「禁じられた歌声」14・仏、モーリタニア
監督 アブデラマン・シサコ
 
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