
製作陣は肝心の“企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても、国家や民族が消えてなくなるほど情報化されていない近未来”という設定をすっかり忘れていたようだ。グーグルが世界を被い、個人の携帯端末が世界と繋がるようになった今、『ブレードランナー』よろしくなオリエンタリズムの大都市ランドスケープはあまりに古臭く、そのくせ主人公を東洋人から白人へと“ホワイトウォッシュ”したキャスティングは時代錯誤もいい所だ。
ファンとしては、製作陣の原作の読み違えに文句をつけたくなってしまう。主人公“少佐”のキャラクターを細かに描写した事だ。
少佐こと草薙素子はわずかに残った脳以外は全身機械のサイボーグであり、それまでの経歴や記憶に謎が多く、そもそも性別すら定かではない。その匿名性、アイデンティティの曖昧さが多くの観客に「自分とは何者なのか」と訴え、支持を得てきたのである。また本実写版は基本的に押井守監督による劇場版第1作をベースとしているが、そもそも歪なまでに個性の強い呪術的な押井演出こそが魅力であったと再認識できる。
本実写版は劇場版のみならず、TVシリーズ『S.A.C』の2ndシーズンから傑作『草迷宮』のエピソードも取り入れられている。
少佐の過去を描くといういわば型破りなこのエピソードは、素晴らしい脚本と菅野よう子によるスコア(『I do』!)が神山健二のほとんど神業レベルの演出によって共存しており、本実写版が易々と手を出すべき要素ではなかった。そもそも素子とクゼ(もしくは人形遣い)によるこの一種のラブストーリーには涅槃や極楽浄土といった仏教的イメージが重ねられており、それがエロチックでもあり、神秘的でもある事で多くのファンを魅了してきたのではないだろうか。この東洋的ニュアンスはハリウッド版では望むべくもなかった。
とは言え、ハリウッドのこうした単純化は今に始まった事ではなく、文句をつけるのは野暮だろう。
むしろいかにマイナーチェンジし、最大公約数を拡げたのか、その企画開発ぶりに目を向けた方が『攻殻』ファンも報われる。
人外を演じるとピタリとハマる美しいスカーレット・ヨハンソンはキャスティング段階から批判に曝されてきたが、決して見劣りするようなパフォーマンスではない。キャスト陣の似せ方、アクションシーンの完全再現、さらにはバセット・ハウンドにまで目配せされており、作り手達が現場を楽しんだのは伝わってくる。ビートたけしの荒巻は原作ファンとしてはどうかと思うが、たけし自身へのオマージュは効いていた(一方、あのタイミングで登場してなんら違和感のない桃井かおりは凄い)。
全米では興行的に大惨敗を喫し、続編が作られるような事もないだろう。
近年でいえばニール・ブロムカンプの『チャッピー』、ジョナサン・ノーランの『ウエストワールド』の方がゴーストの在処を追い求めており、よっぽど攻殻ぽかった。そして間もなく、『ブレードランナー』の続編が公開となる。
ファンとしては、製作陣の原作の読み違えに文句をつけたくなってしまう。主人公“少佐”のキャラクターを細かに描写した事だ。
少佐こと草薙素子はわずかに残った脳以外は全身機械のサイボーグであり、それまでの経歴や記憶に謎が多く、そもそも性別すら定かではない。その匿名性、アイデンティティの曖昧さが多くの観客に「自分とは何者なのか」と訴え、支持を得てきたのである。また本実写版は基本的に押井守監督による劇場版第1作をベースとしているが、そもそも歪なまでに個性の強い呪術的な押井演出こそが魅力であったと再認識できる。
本実写版は劇場版のみならず、TVシリーズ『S.A.C』の2ndシーズンから傑作『草迷宮』のエピソードも取り入れられている。
少佐の過去を描くといういわば型破りなこのエピソードは、素晴らしい脚本と菅野よう子によるスコア(『I do』!)が神山健二のほとんど神業レベルの演出によって共存しており、本実写版が易々と手を出すべき要素ではなかった。そもそも素子とクゼ(もしくは人形遣い)によるこの一種のラブストーリーには涅槃や極楽浄土といった仏教的イメージが重ねられており、それがエロチックでもあり、神秘的でもある事で多くのファンを魅了してきたのではないだろうか。この東洋的ニュアンスはハリウッド版では望むべくもなかった。
とは言え、ハリウッドのこうした単純化は今に始まった事ではなく、文句をつけるのは野暮だろう。
むしろいかにマイナーチェンジし、最大公約数を拡げたのか、その企画開発ぶりに目を向けた方が『攻殻』ファンも報われる。
人外を演じるとピタリとハマる美しいスカーレット・ヨハンソンはキャスティング段階から批判に曝されてきたが、決して見劣りするようなパフォーマンスではない。キャスト陣の似せ方、アクションシーンの完全再現、さらにはバセット・ハウンドにまで目配せされており、作り手達が現場を楽しんだのは伝わってくる。ビートたけしの荒巻は原作ファンとしてはどうかと思うが、たけし自身へのオマージュは効いていた(一方、あのタイミングで登場してなんら違和感のない桃井かおりは凄い)。
全米では興行的に大惨敗を喫し、続編が作られるような事もないだろう。
近年でいえばニール・ブロムカンプの『チャッピー』、ジョナサン・ノーランの『ウエストワールド』の方がゴーストの在処を追い求めており、よっぽど攻殻ぽかった。そして間もなく、『ブレードランナー』の続編が公開となる。
『ゴースト・イン・ザ・シェル』17・米
監督 ルパート・サンダース
出演 スカーレット・ヨハンソン、ビートたけし、マイケル・ピット