読書感想日記

最近読んだ本の感想

『蝦蟇の油』 黒澤 明 著 岩波書店

2008-02-07 00:11:34 | 随筆
 黒澤監督の自伝。説教でも指南でもないものの、今までの中途半端な自分の人生を深く反省させられ、読んでよかったと思う。
 私は、本を読んでいないどころか、映画もほとんど見ていないので、黒沢監督について特に感心を持ったことがなく、お名前やその作品名くらいしか知らなかった。
 しかし、ある新聞のコラムでこの本の一部が紹介され、興味を持ったのだった。
 それは、「苦しい状況での撮影は、早く終えたいものだが、そういうときにこそ3倍の時間を掛けて撮影する」というような言葉でした。
 その言葉の意味を、また、何がそう思わせるのかを確かめたかったのです。
 映画監督の自伝なのだから、さぞかし映画のことばかり難しい言葉で書いてあるのだろう、と思いながら表紙をめくり、ページをめくった。
 すると、意外にも監督自身の幼少からのことが、ごく普通の文章で書かれているのでした。
 そしてその文章は、私が黒澤明という人と本の中で一緒に同じ時代を生きているように、私を一瞬のうちに引き込んでしまいました。
 そう、この本の中で監督自身が述べているように、助監督時代に多くの脚本を書き上げている人なのだから、文章がとても巧みなのは当然のことだったのです。
 自分は変わるつもりが無くとも、時間というものは、周囲の人や、ましてや大切な故郷までも変えてしまうものであること、厳しい鍛錬を積むことで、どんな状況にも動じない姿勢が保てること、視野を幅広くどん欲にもつことで、考え方や人間自身に幅ができること、どんな相手や批評にも迎合せず、正しいと思うことを通す姿勢など、私にとって学ぶことがたくさんあった。
 そして、私が気になっていたあの言葉の背景は、すぐに妥協してしまう私の目を覚まし、明日からの私を変えてしまうほどに思えるほどのものでした。
 時間があれば、黒沢監督の作品を見てみようかとも思い始めています。
コメント
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