4月10日、松本市勤労会館2F第4会議室で第7回憲法ゼミが行われ、13人が出席しました。
■第6章 司法 第76条~82条
・レポーター、参加者の問題提起
第77条 最高裁判所は、裁判に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 検察官、弁護士その他の裁判に関わる者は、最高裁判所の定める規則に従わなければならない。
3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。
Q.「訴訟」を「裁判」に変えた理由は?「弁護士その他の裁判に関わる者」を加えた理由は?
第79条 最高裁判所は、その長である裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官で構成し、最高裁判所の長である裁判官以外の裁判官は、内閣が任命する。
2 最高裁判所の裁判官は、その任命後、法律の定めるところにより、国民の審査を受けなければならない。
3 前項の審査において罷免すべきとされた裁判官は、罷免される。
(旧4項削除 審査に関する事項は、法律でこれを定める。)
4 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
5 最高裁判所の裁判官は、全て定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、分限又は懲戒による場合及び一般の公務員の例による場合を除き、減額できない。
Q.(現行)77②最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする・・・と比較して憲法に明確な規定を書かなくていいのか疑問。
第80条 「任期を10年とし」→「法律の定める任期」に変更。
Q.任期を憲法で定めなくしていることに疑問。退職間際の裁判官はいい判決を出すと聞いたが、そのことと関係しているのか?
成沢孝人先生のコメント
司法権の独立は、まず78条がある。78条は罷免について「心身の故障のために職務を執ることが出来ないと決定された場合」だけです。裁判官の身分保障はかなり強力です。だから、その趣旨を徹底してお金で圧力がかからないように減額してはいけないとなっている。これが減額できることになるので改悪。「分限又は懲戒による場合及び一般の公務員の例による場合」減額できることになる。
これは裁判官の任期と関連していて、10年任期というのは日本のキャリア裁判官の場合は不適切であると言われている。なぜ10年任期かというとアメリカにおいて裁判官が政治的に企業を規制する法律をつくるために労働条件に介入する法律を違憲にしていく。そういうことがないように裁判官の権限を弱めるため10年任期とした。アメリカの裁判官は法曹一元制なので弁護士の中から裁判官になる。日本の場合は司法試験が終わった段階で三つに分かれますので、10年間というのは裁判官独立にマイナスに働く。宮本裁判官再任拒否事件があった。たった一人だが、理由がなく(おそらく青年法律家協会に入っていたことが理由だが)、60年代から70年代の司法反動の時に、公務員の労働基本権が問題になったころ、人事での介入が行われた。10年任期を利用して誰でもよかったと思うが、若い宮本裁判官が青法協をやめなかったことを理由に再任が拒否された。青法協をやめなかった人はほかにもいたが。ただし裁判所は理由を示さなかった。罷免ではなく採用なんだから、どんな人を雇ってもいいはずだというのが裁判所の見解。最近、78条で再任されない人が増えているらしい。政治的な理由で再任されなかった人は宮本裁判官だけです。若くして裁判官になって10年で辞めさせられればいい判決は書けない。いい判決は定年間近の裁判官が出す。それを「法律で定める」とかえるのだから短くできる。それだけでも圧力になる。
憲法学では、基本的には再任が原則であって、再任されないときには理由を示さなければならないというのが通説。つまり日本の裁判官はアメリカの裁判官と違って、職業裁判官で公務員と同じでキャリア裁判官なので、身分保障がなければいい判決が出せないから、80条があるにもかかわらず、基本再任が通説。盗聴法の時にがんばった裁判官がいて、話題になったので再任された。裁判官の身分を弱くするということで現行憲法に弱点があるとすれば80条と言われている。それをさらに弱くするということでしょう。
77条2項に弁護士も最高裁規則に従わなければならないとしていることは問題だ。現状でも裁判所が訴訟を仕切っていてしたがっているが、正式に書かれれば規則違反ということが出てくる。これまでは裁判は当事者主義といわれてて、あくまで原告被告が主人公であったが、それをやり方によっては規則で縛ることになる。
■第7章 財政 第83条~91条
・レポーター、参加者の問題提起
第83条2項を新設し「財政の健全性」の確保が書き込まれた。
第86条2項「補正予算」、3項「暫定予算」、4項「債務負担行為」を新設。
第89条「第20条3項のただし書きに」規定する場合は支出が可能に。
第91条財政状況の報告を国民をはずし、国会だけにした。
・成沢孝人先生のコメント
「財政の健全性」は、自民党がアベノミクスに行く前の産物。これはアメリカの共和党が主張した。アベノミクスはどんどん借金を増やす政策で健全性はない。ようするに赤字国債だめだとして全く借金もできなくなれば福祉もできなくなる。アメリカもイギリスもこれで手足が縛られてしまう。一般論としてはいいが、憲法に書いてしまうとアベノミクスも違憲になる。リーマンショック以前のグローバル経済を反映して「財政の健全化」ということが憲法に書かれた。今なら書かない。
86条で「補正予算」「暫定予算」「債務負担行為」を書いているのは、実際にやっていることを憲法に書いているが、内閣がお金をどんどん使うということを憲法で承認してしまうとマイナス効果が出る危険性がないわけではない。
89条についてですが、現行においては政教分離違反、20条1項3項89条違反といわれる。靖国神社は儀礼的だからと言って変える。2項は私学助成が違憲ではないかという考えがあるが、「公の支配に属さないとは何か」という議論があるがゆるやかな解釈をしてきた。それを条文化している。「監督が及べば出していい」と変えている。現行もそのように考えられている。憲法改正のための議論としては「私学助成は違憲だ」という人がいる。憲法改正の口実とされてきたところがある。
90条3項は、83条の2項とセットで新自由主義的な方向で使われるのかもしれない。
(文責:中川博司)
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