共産党機関紙「赤旗」から名指し批判

先日の朝日新聞に掲載された鼎談記事をめぐり、日本共産党の機関紙「赤旗」から名指し批判を受けた。天下の「赤旗」、ある意味で名誉なことだ。ただし、看過すべからぬ大事な問題なので、全文引用して、きちっと反論・説明しておきたい。

(引用はじめ)
「朝日」てい談の暴論--核持ち込み認め、三原則堅持?(赤旗2010年1月21日)

 核兵器を持ち込ませずとした非核三原則の堅持と、核兵器を積んだ米軍艦船の日本寄港・領海通過は矛盾しない―。こういう珍論とも暴論ともいうべき議論が、朝日新聞紙上の鼎談(ていだん)(19日付)で行われています。外務省の核密約調査とからんで、核積載艦の寄港・領海通過を公然と認めようとする動きとして看過できません。

同盟強化論者

 「朝日」の鼎談は現行安保条約50年企画で、防衛省の長島昭久政務官、元外務省幹部・元首相補佐官の岡本行夫氏、元陸上自衛隊幹部の山口昇防衛大教授と、日米軍事同盟強化論者ばかりをそろえて行われています。

 そのテーマの一つが、核積載艦の寄港・領海通過を日米間の事前協議の対象外にし、自由な核持ち込みを認めた日米核密約の問題です。外務省の密約調査の結果が公表(2月予定)されるのを受け、米国の核抑止との関係をどう説明するのかとの司会の質問に、長島氏は「今後の政策にあたっては、非核三原則は堅持し、『持ち込ませず』の定義をより明確化する。事前協議は求める」と答えます。

 しかし、これを受けて岡本氏は「米国の解釈は一時寄港や領海通過は『持ち込み』ではない、だから非核三原則は守っていると。実際、日本が言っているのは三・五原則だ。本来の三原則に一時寄港と領海通過という〇・五がくっついてしまっている」と発言。司会から「領海通過や一時寄港を三原則の外に置いた場合、事前協議を求めるのか」と聞かれ、長島氏は「岡本さんの定義でいけば、それはプラス〇・五で三原則の外だから求める必要はない」と言うのです。

 つまり、2人の議論を合わせると、核兵器を持たず、つくらず、持ち込ませずの非核三原則のうち「持ち込ませず」について、米側は、核積載艦の寄港・領海通過を含まないと解釈している。しかし、日本側は表向きは、「持ち込ませず」の原則に寄港・領海通過も含めており、プラス〇・五の三・五原則になっている。だから寄港・領海通過を公然と認めて〇・五を差し引いても、もとの三原則になるだけで、非核三原則「堅持」に変わりはない―ということになります。

 核積載艦の寄港・領海通過を認めようとする論者は従来、非核三原則を二・五原則に見直すべきだと主張してきました。これは、三原則から寄港・領海通過の〇・五を引いて二・五原則にするというものです。これに対し、公然と寄港・領海通過を認めながら非核三原則も「堅持」すると強弁する議論は今まで聞いたことがなく、アメリカ言いなりの詭弁(きべん)、驚くべき開き直りです。

核抑止正当化

 長島氏は「(一時寄港・領海通過について事前協議を)求めたら拡大抑止論は崩壊する」と言います。しかし、そうした米国の核戦略を「抑止」の名で正当化することこそ、標的になった国々に核兵器を持つ口実を与え、歯止めのない核拡散を生むことになります。

 鼎談では、核問題だけでなく、「日本は米軍の抑止力から最大限の恩恵を被っている」「それが嫌なら日米安保体制を出て、武装中立に行くしかない」(岡本氏)「緊密で対等な関係を結ぼうとすれば、日本の果たすべき責任はもっと大きくなる」(山口氏)など、同盟関係見直しへの脅しともいえる議論も展開しています。今の「朝日」の立場を象徴しています。
(引用終わり)


いかがでしょうか。

まず、第一に、「核抑止」を我が国の安全保障の根幹と位置付けている私の議論と、「核抑止」そのものを否定する日本共産党の持論が噛み合わないのは、残念ながら仕方がない。前提が異なるのであるから、議論はどこまでも平行線となる。

しかし、岡本行夫さんによる「非核3.5原則」という問題提起は、我が国の国是である非核三原則を国際社会の現実の中で貫徹させる上で、きわめて興味深いものだった。岡田外相が主導する「核密約」解明も、歴史的事実を明らかにする意義は大きいが、その結果が我が国の今後の安全保障政策を縛るものとなってはなるまい。つまり、核保有を拒否する我が国の立場を前提にした場合、北朝鮮や中国やロシアの巨大な核戦力を前にその安全保障を確立するためには、米国による拡大抑止戦略と緊密な連携をとる(敢えて、ここで「依存する」という言葉使わない!)必要があることは論を俟たないだろう。

ところで、米国の拡大抑止は次の三つから構成される。
(1)米国の(報復)核戦力
(2)米国の通常戦力(前方展開兵力はその担保)
(3)米国によるミサイル防衛システム

このうち、(2)と(3)については、それぞれ緊密な日米同盟協力が行われているた。前者をめぐっては、アジア太平洋地域に前方展開された米軍との共同演習や共同訓練や共同のオペレーションが平時から積み重ねられてきた。後者においても、昨年の北朝鮮のミサイル発射時に見られたように日米のミサイル防衛協力の着実な深化は、我が国の安全保障における基盤ともいえる。いずれにおいても、我が国は米国に一方的に依存するものではない。

今日最大の問題は(1)の米国の核戦力による拡大抑止の信頼性をどう確保していくかである。昨今の北朝鮮の核脅威をめぐり、我が国で巻き起こった核武装論や敵基地攻撃論などは、米側からみれば米国による拡大抑止の信頼性が低下した証左と映る。したがって、昨年のゲイツ国防長官来日時の(普天間問題の陰に隠れてしまった)真のアジェンダはまさしくそれであったし、最近報道された岡田外相から米政府の外交安全保障閣僚に宛てた書簡もこの点が今年行われる日米同盟深化の最重要課題であることを物語っていたと言えよう。

そして、上述の「拡大抑止の三本柱」のうち、(1)の米国による核抑止力に限っては、核保有の可能性をを自ら排除した我が国として、安全保障上これに全面的に頼らざるを得ないのである。したがって、「赤旗」から激しく非難されようとも、このさい非核三原則の定義を明確化する過程で、「持ち込ませず」をintroduction(配備)としていたその出発点に遡り、定義をめぐり混乱をきたした過去の議論を整理して行くことは、核武装の道を拒絶し非核三原則の国是を貫き「核のない世界」実現を目指す鳩山政権としてギリギリの戦略的決断ではないかと考える。

もしこの議論を否定し、あくまで「非核3.5原則」に固執すれば、それは米国による拡大抑止の信頼性を浸食することとなり、「米国の核抑止力に頼らず我が国の安全保障を確立するために」との理由からかえって核保有の議論へ道を開くことになりかねない。それこそが、誰も望まない最悪のシナリオではないか。この際、こういった現実的な視点に立った核抑止を含む拡大抑止の議論が国民の間に広く行われることを望むものである。
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