テロ新法、委員会採決へ

今日、衆議院の国際テロ防止特別委員会で補給支援特措法(テロ新法)案の委員会採決が行われる。明日は、本会議採決だ。採決にあたり、複雑な気持ちでいっぱいだ。この間、補給活動に代わる民主党の現実的な代案づくりに努力してきたが、いまだに成案を得るに至っていないのは残念だ。途中に党首会談が入るなど、すっかりタイミングを逸した格好で、政権担当能力を示すどころではなくなってしまった。

私は、テロ特委員の一人として、これまで3回質疑に立ち、補給支援活動はこれを継続すべきと考えるが、新法案には我が国の安全保障法体系を歪める致命的な欠陥があることを指摘し続けてきた。すなわち、我が国は、自衛隊の出動に際してはとくに(国民の直接代表にして国権の最高機関たる)国会による民主的コントロールに服せしめることを定めてきたが、新法案にはそれが省略された。自衛隊法に基づく「防衛出動」「治安出動」、PKO協力法に基づくPKF本体への協力活動、周辺事態安全確保法、テロ対策特措法(11月1日に失効した旧法)、およびイラク復興支援特措法に基づく後方地域支援活動などについては、すべて事前あるいは事後に国会の承認を求めてきたのである。このような国会による「民主的統制の原則」は、我が国戦前戦中の「統帥権の独立」、機能不全に陥った「大政翼賛議会」といった歴史的な反省に立った、軍隊運用に係る我が国固有の大原則なのである。しかし、今回採決を求められている新法案では、この国会承認の規定がすっぽり抜け落ちている。詳細については、私のHPから過去3回の質疑をご覧いただきたいが、この点は、政府でも与党議員の間でも法案の修正ポイントとして広く共有されている。私は、先日の質疑でも宣言したが、この国会関与規定の復活修正がない限り、法案に賛成することはできない。

では、修正すればいいではないか。修正して、補給活動を速やかに再開しろ!・・・というのが世の常識であろう。しかし、そうならないところに、苦悩がある。最大の障害は、民主党執行部による「補給活動違憲論」だ。曰く、「国連決議の明確な授権のなく、米英軍の自衛権行使として開始された不朽の自由作戦(OEF)およびそれに伴う海上阻止活動(MIO)への海上自衛隊による補給支援活動は、政府の禁ずる集団的自衛権の行使にあたり憲法違反である。」私は、党内論議の中でも、このブログでもしばしば言及してきたように、このロジックには二重三重の意味でついて行けない。

集団的だろうが個別的だろうが、自衛権を行使するためには、第一に、我が国に対する急迫不正の侵害がなければならない。しかも、自衛権の行使とは武力の行使を伴うものである。武力の行使とは、いうまでもなく相手を破壊したり殺傷したりする行為である。海上自衛隊による洋上補給活動は、直接武力を行使しているわけでもなく、(自衛権発動の第一要件である)我が国への直接の侵害があったわけでもないので、米英軍が自衛権の行使としてOEF-MIOを開始し、我が国の海上自衛隊がその支援活動に従事したからといって、その活動がすなわち自衛権の行使にあたるわけではない。

また、国連決議をめぐっても、柔軟な解釈の余地は十分に残されていると考える。それは、昨年末、党内論議の末に合意された民主党の「政権政策の基本方針」を読めば明らかだ。そこには以下のように書かれている。
「国連の平和活動は、国際社会における積極的な役割を求める憲法の理念に合致し、また主権国家の自衛権行使とは性格を異にしていることから、国連憲章第41条及び42条に拠るものも含めて、国連の要請に基づいて、わが国の主体的判断と民主的統制の下に、積極的に参加する」(傍線は筆者)

ポイントは、「国連の要請」とは何か、である。

この点を頭に入れて、911同時多発テロの翌日に採択された国連安保理決議1368を改めて読んでみると、同決議が国連加盟国に対し以下のような勧告・要請を行っていることがわかる。第一に、911テロ攻撃の「実行者、組織者(アルカーイダのことを指す=筆者注)および支援者(当時のアフガニスタンを支配していたタリバーン政権を指す=筆者注)を法に照らして裁くために緊急に共同して取り組むこと」、第二に、「更なる協力」、ならびに「テロ行為を防止し抑止するため一層の努力をすること」を国際社会は求められたのである。10月7日の米英軍によるアフガン攻撃は、(同決議で容認された)自衛権の行使であるとともに、同決議の勧告および要請に呼応した軍事行動であったといえるのである。しかも、その後の累次の国連安保理決議を通じて、OEFおよびOEF-MIOは、ISAFとともに認知され、アフガニスタンの治安回復に資するものとして歓迎、評価されてきたことも事実である。

したがって、6年前に、我が民主党は、米英軍の攻撃を「支持」し、テロ特措法案の骨格に賛成し、海上自衛隊による補給活動の実施についての国会承認に賛成したのである。これを今更、「憲法違反だ!」と叫ばれても戸惑うばかりだ。(・・・もちろん、その後の補給活動をめぐって補給データの取り違い、情報の隠蔽疑惑などが噴出したことにより政府説明が破綻し、自衛隊の活動に対する行政府のシヴィリアン・コントロールに重大な疑義が生じてしまったことは否定し得ない事実であり、このことで、補給活動に対する国民の不信感が高まってしまったことを看過するつもりはない。)

そこで、もう一度、「国連の要請」とは何か、に話を戻して考えてみたい。
その際、いくつか参考になる文書があるので紹介したい。

まず、先日の党首会談で合意されたとされる「幻の合意事項」である。
「国際平和協力に関する自衛隊の海外派遣は、国連安保理もしくは国連総会の決議によって設立、あるいは認められた国連の活動に参加することに限る。したがって、特定の国の軍事作戦については我が国は支援しない。」(傍線は筆者)

ポイントは、「あるいは」以下の「(国連安保理もしくは国連総会の決議によって)認められた国連の活動」にも、自衛隊を含む我が国の支援・協力が可能であるとした点である。この「あるいは」以下の付加事項の意味するところは重要である。なぜなら、(月刊誌『世界』などで反響を呼んだ)小沢理論は、自衛隊の支援協力が国連決議によって設立された国連の活動(たとえば、国連PKOやアフガニスタンにおける国際治安支援部隊(ISAF)など)だけに限られる、と誤解されているからである。この誤解は、マスコミの間に根強いが、党内でも共有されているようなので、敢えて注意を喚起しておきたい。この国連安保理等に「認められた活動」というのは、先に参照した民主党の『政権政策の基本方針』で自衛隊参加の根拠となりうる「国連の要請に基づいて」行われる国際的な平和活動とほぼ同趣旨と解されるのである。この重要なポイントをさらに明らかにするために、いささか古い文書を紐解いてみたい。

それは、1990年に小沢代表が自由民主党幹事長だった時代に策定に心血を注いだとされる『国際連合平和協力法案』(審議の末廃案)に明らかである。

「第3条第1項 国際の平和および安全の維持のための活動
国際の平和および安全の維持のために国際連合が行う決議(以下「国連決議」という。)に基づき、又は国連決議の実効性を確保するため、国際連合その他の国際機関又は国際連合加盟国その他の国(「国際連合等」という。)が行う活動をいう。」(傍線は筆者)

ここで注目したいのは、「又は」以下の「国連決議の実効性を確保するため、・・・国際連合加盟国・・・が行う活動」に対しても自衛隊の協力・支援を行うことができる、と明記されている点だ。つまり、自衛隊の派遣は国連決議で設立された国連の活動のみに限られない。国連決議の実効性を確保するために結集した多国籍部隊による平和協力活動についても自衛隊の派遣対象となりうるのである。

同様の自衛隊参加についての柔軟な参加基準は、小沢代表率いる自由党が累次にわたって国会提出した実績のある『国の防衛および自衛隊による国際協力に関する基本法案』(第153回衆第1号)第6条の規定の中に見られる。

「第6条 
我が国は、国際の共同の利益のため必要があると認めるときは、国際連合の総会、安全保障理事会もしくは経済社会理事会が行う決議または国際連合、国際連合の総会によって設立された機関もしくは国際連合の専門機関もしくは国際移住機関が行う要請に基づいて行われる国際の平和および安全の維持もしくは回復を図るための活動(武力の行使を伴う活動を含む。)又は国際的な救援活動に、我が国の防衛に支障のない限り、自衛隊の部隊の派遣等により、積極的に協力するものとする。」(傍線は筆者)

ここでも、重要なのは、「または」以下の「国連等の要請に基づいて行われる・・・活動」にも自衛隊の部隊を派遣できる、というラインである。もう繰り返しての説明は不要だと思う。ここでいう「要請」は、最初に参照した民主党政策文書にある「要請」と軌を一にした文言であり、国連の要請に基づく活動とは、すなわち関連する国連決議の実効性を確保するために国連加盟国が行う活動とほぼ同義である。

ここまで考えてくれば、国連決議1368の勧告・要請に呼応して行われているOEF-MIO(しかも、その後の複数の国連決議によって明確に認知を受けている活動)は、国連決議の実効性(つまり、「テロ行為を防止し抑止するためいっそうの努力をするよう国際社会に求め」た決議1368第4項の実効性)確保するために国連加盟国(つまり、米英はじめ多国籍部隊)が行う活動と見なし得る余地は十分あるのではないか。

以上は、もちろん個人的な見解だ。ただし、今後、国際平和協力に関する一般法・恒久法の審議において最大の争点になる事柄なので、委員会採決にあたって敢えて問題提起し、これからの党内論議に備えておきたい。
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