すみそめの ゆふべのそらに 月は澄み まことのわれの 堅きをぞいふ
*「墨染めの」は「夕べ」にかかる枕詞ですね。「堅し」は文字通り「堅い」とか「まじめだ」とかいう意味です。
くらい夕べの空に月は澄んで、ほんとうの自分というものがとても堅固であることを語る。
今の世の中には、偽物の自分を生きている人がそれはたくさんいます。顔やそのほかのものを他人から盗み、見栄えのいい自分を作って、それを生きるという馬鹿なことをしている人がとても多い。
そういう人たちは、嘘を本当にしたいとも考えるのです。本当の自分が嫌だからです。それは馬鹿なことばかりして、とても醜く、おかしな姿になっているからなのです。
人のものを盗んで自分をよくするなどということは、はっきり、醜いことですから、そんなことをしていると、本当の自分がどんどん醜く、いやなものになっていくのです。
それがつらくて、偽物の人間はどうにかして、嘘の自分をほんとうにできないかと考える。そして偽物の自分をこれでもかときれいにして、人に見せつけるのですが。
そんなことをしても嘘が本当になりはしない。醜いことをやり重ねて、本当の自分がどんどん醜くなっていくだけだ。
そんな自分を、月は高いところから見下ろしている。そして真実を見抜いている。本当の自分に帰って、それを真面目に生きるほうが、どんなに幸せかということを静かに教えている。
嘘はどんなに堅固に装っても、はかないものなのだ。永遠にそれで生きていくことなどできはしない。
たとえそれが今はどんなに醜くても、本当の自分の姿を生きていくほうが、人間は幸せなのです。嘘ではないからです。