ユーゴスラヴィア建国当時の通貨単位
1.オーストリア・ハンガリー帝国
①オーストリア帝国、占領下のボスニア・ヘルツェゴビナ: heller, Krone
②ハンガリー王国: fillér, Korona
2.SHS王国建国後
③スロヴェニア: vinar, Krona
④クロアチア: filir, Kruna
⑤ボスニア・ヘルツェゴビナ: heller, Kruna
小包第1期の郵便料金は旧オーストリア・ハンガリー帝国の料金であるため、この両国の通貨を使って記載します。
SHS王国建国後の各地域で発行された切手の額面は、各地域の通貨単位で記載します。
小額の通貨単位は小文字で記載し、大きい単位は大文字で書き始めます。
尚、1920年5月16日からセルビアとの通貨統合がおこなわれるまでは、上記の①~⑤の通貨の価値は同等でしたので以下の交換レートが成り立ちます:
100 heller = 100 fillér = 100 vinar = 100 filir = 1 Krone = 1 Korona = 1 Krona = 1 Kruna
参考文献
(1)MICHEL ÖSTERREICH-SPEZIAL 1990
(2)MICHEL Europa-Katalog Ost 1988/89
(3)MICHEL 1952年版のユーゴスラヴィア (国立国会図書館研究員・田中邦夫氏にご提供いただいたものです)
(4)Stanley Gibbons Stamp Catalogue Part 3 Balkans, 3rd edition, 1987
I. 小包料金 第1期 1918年10月29日~1919年6月30日まで
序 ---ドイツの研究者の苦労---
旧ハプスブルク帝国領土内の第1期の小包料金は、第1次世界大戦中に郵便料金が改訂されたオーストリア・ハンガリー帝国領及びボスニア・ヘルツェゴビナの料金と制度がそのまま適用されました。
第一次世界大戦末期の混乱により郵便料金の記録が完全には把握されていなかったこと、そしてチトーの共産主義時代の排他性、さらに1990年代のユーゴ内戦の混乱により調査ができなかったことにより、ドイツの研究者の方々も相当苦労されています。
ハンガリー王国やボスニア・ヘルツェゴビナの料金のように、1998年や2002年になってやっと発見されたものもあります。
特に文献(3)の1999年の発見は、ボスニア内戦が終わった後にボスニア・ヘルツェゴビナのサラエヴォでMuhasilović婦人とSarić婦人が調査してやっと発見された非常に貴重なものであり、相当な労力が費やされています。
このようなドイツの研究者の多大な努力にもかかわらず、まだ料金が不明のままになっている部分もあります。文献や私の収集品から判明する部分は備考として記載してあります。将来新しい発見が行われる可能性は十分あるため、追加・修正の可能性もあります。
以上述べたような状態であることをご理解の上お読みいただき、このブログをご覧の皆様のお手元にあるマティリアルの料金解析に応用していただければ幸いです。
ドイツの研究者も、日本で彼らの研究成果が生かされていることを知れば喜ぶものと思われます。尚、原論文は全てドイツ語で記載され、翻訳は私が行なっています。
A. 旧オーストリア帝国領(スロヴェニア、ダルマチア)(参考文献(1))
旧オーストリア帝国の料金を適用した。
通貨:オーストリア帝国100 heller = 1 Krone = SHS王国スロヴェニア100 vinar = 1 Krona
(1)重量料金
5kg以下-----------------------------100 vinar
5kgを越えて10kg以下---------220 vinar
10kgを越えて15kg以下-------320 vinar
15kgを越えて20kg以下-------420 vinar
(20kgを越える小包は重過ぎて作業が困難なため取り扱われない)
(2)価格表記料金(保険料金) 300 Kronen毎に10 vinar
(3)代金引換料金 10 vinar
(4)かさばる小包------特別料金
ブログ著者備考:
文献(1)には特別料金と記載されているだけです。しかし、同一時期のハンガリー王国とボスニア・ヘルツェゴビナでは「50%追加料金(重量料金に対して)」という扱いでした。また、私の手元にもスロヴェニアで50%追加料金を徴収したと考えられる使用例があります。このため、オーストリア帝国領でもかさばる小包は「50%追加料金(重量料金に対して)」であり、スロヴェニアの第1期の小包に適用されたと考えられます。
(5)速達料金 市内料金100 vinar, 遠隔地料金 200 vinar
文献(5)の記載:受取人が引き渡し郵便局の直接配達範囲内にいる限り、速達料金100 vinar (1 Krone)は全ての配達料金を含んでいた。
ブログ著者備考:
速達扱いの場合は配達料金を含んでいますから、通知料金や配達料金が徴収されることはありません。また、市内料金と遠隔地料金がどのように区別されるのかは文献に記載されていません。
(6)至急料金 120 vinar
文献(5)の記載: オーストリア鉄道郵便の特別な形態である「Dringend至急」は、可能な限り最も速い配達を行う輸送である。
ブログ著者備考:
ボスニア・ヘルツェゴビナの料金表では、「至急料金は速達料金に加算する」とされています。また、私の手元にもスロヴェニアで速達料金と至急料金を2つとも支払い、速達と至急扱いの2つのラベルを貼った使用例がありますので、オーストリア領でも「至急料金は速達料金に加算する」扱いがされていると考えられます。
速達料金を徴収せずに至急料金だけを徴収した使用例も私の手元にありますが、これは取扱い方法を誤っていると推定しています。
(7)通知料金 5 vinar (保険有りも無しも同額)
ブログ著者備考:郵便局への小包の到着を受取人に通知する。受取人から徴収し不足切手により領収される。
(8)配達料金
①保険無し、または1000 Kronen までの保険の場合
1)5万人以上の人口の場所宛て 50 vinar
2)1万人以上の人口の場所宛て、あるいは国有郵便局のある小さい場所宛て 30 vinar
3)残りの場所 20 vinar
②1000 Kronenを越える保険付き小包の場合は、1000 Kronen毎に20 vinarを加算
ブログ著者備考:受取人の住所に配達する。受取人から徴収し不足切手により領収される。
(9)小包私書箱への小包の保管に対する小包1個当たりの料金
文献(5)の記載:
オーストリア帝国領の「Abholungsvorbehalt(受取に行くことを予約する)」扱いの小包は、現代の私書箱と同一である(小包私書箱)。受取人は自分宛ての郵便物が小包私書箱にあるかどうかを気をつけておき、あればそれを交付されて入手する。特に、定期的に高頻度に郵便物が届く商人がこの特別サービスを利用した。この扱いの小包には小包1個当たりの料金が課せられ、リュブリャナでは当時10 vinarであった。小包1個当たりの料金とは別に、月毎の小包私書箱料金は10 Kronenであった。この料金が現金で支払われたのか、該当書式に不足切手で支払われたのかは分からない。
ブログ著者備考:
(a)小包私書箱の使用者
文献(5)には「特に、定期的に高頻度に郵便物が届く商人がこの特別サービスを利用した」と記載されています。そして、リュブリャナ1郵便局での使用例が示されており、商人が自分の商店の名前の入った楕円形のスタンプを押して受取日を記入しています。この文献の著者は、商人はこのようなスタンプを使用するが、個人は通常はこのようなスタンプを使用しないと記載しています。このような商人のスタンプの存在は、小包私書箱の使用の判断の根拠になるようです。
(b)リュブリャナ以外の都市や町の料金
文献(5)に記載されているリュブリャナの使用例とは別に、小包到着地のスロヴェニアのツェリエとマリボールという大都市で10 vinarの不足切手を貼った第1期の使用例が私の手元に複数あります。このため以下のように考えられます:
①受取人から徴収し不足切手により領収される(使用例は不足切手が使用されています)
②リュブリャナ、マリボール、ツェリエ 10 vinar(これらは使用例があります)
(この料金は、第1期と次の第2期では同じ金額であると考えられる証拠があります)
③残りの全ての市町村では5 vinarの可能性があると推定(これは現段階ではC.ボスニア・ヘルツェゴビナで実施されていた料金規定からの推定です)。
(c)小包私書箱の1個当たりの料金が5 vinarの場合について
この場合は小包私書箱の1個当たりの料金5 vinar と通知料金 5 vinar は同じ5 vinar の料金で、しかも両方とも小包の受取人から不足切手により領収されるため、料金だけでは両者は区別できません。しかし、通知料金の場合は受取人の住む通りと番地まで小包送票に記載され、小包私書箱の1個当たりの料金は郵便局名までしか記載されないと考えられるため、両者の識別は可能な場合があると考えられます。
ただし、通りや番地がなくても郵便局名と受取人の名前だけ書いておけば住所が分かるような小さな町や村では、小包私書箱の1個当たりの料金5 vinar と通知料金 5 vinar の区別がつかない可能性もあります。これらは個々の小包送票の記載を検討する必要があると思われます。
ただし、小包私書箱を持つためには1ヶ月で5 Kronen (1年で60 Kronen)必要なため、大量の小包を受け取る企業や商店に限定され、それらは大きな都市や町やそのすぐ側にありますから、小さな町や村では通知料金 5 vinarである可能性の方が高いと思われます。
(小包私書箱の取り扱いは「C.ボスニア・ヘルツェゴビナ」の項も参照してください。)
(10)旧ハンガリー王国領及びボスニア・ヘルツェゴビナ宛て小包
文献(1)には明記されていませんが、旧オーストリア帝国領(スロヴェニア、ダルマチア)から、旧ハンガリー王国領及びボスニア・ヘルツェゴビナ宛て小包は、国内料金と同一料金であったと考えられます。私の手元にもこれを裏付ける使用例があります。
B. 旧ハンガリー王国領(クロアチア-スラヴォニア)(参考文献(2))
旧ハンガリー王国の料金を適用した。
通貨:オーストリア帝国100 heller = 1 Krone
= ハンガリー王国100 fillér = 1 Korona
= SHS王国クロアチア-スラヴォニア100 filir = 1 Kruna
旧オーストリア帝国領、ボスニア・ヘルツェゴビナ宛ての場合には、オーストリア帝国とハンガリー王国の間で定められた郵便協定に基づき国内宛てとは異なる高い料金が適用された。
1.国内小包(クロアチア-スラヴォニア宛て)
(1)重量料金
5kg以下-----------------------------90 fillér
5kgを越えて10kg以下---------170 fillér
10kgを越えて15kg以下-------270 fillér
15kgを越えて20kg以下-------370 fillér
(20kgを越える小包は重過ぎて作業が困難なため取り扱われない)
(2)価格表記料金(保険料金) 300 Kronen毎に10 fillér
(3)代金引換料金 10 fillér
(4)かさばる小包は、50%追加料金(重量料金に対して)
(5)速達料金 文献(2)に未記載
(6)至急料金 文献(2)に未記載
(7)通知料金 5 fillér
(8)配達料金 20 fillér
1000 Kronenを越える価格表記小包の場合には追加料金として1000 Kronen毎に10 fillér
以上の料金は、小包の発送人から徴収して普通切手を使用した。
ブログ作成者備考:
①ハンガリー王国では、通知料金、配達料金は小包の発送者から徴収され普通切手で領収されます。オーストリア帝国とボスニア・ヘルツェゴビナでは小包の受取人から徴収し不足切手により領収されます。
②小包私書箱への小包の保管に対する小包1個当たりの料金に関する情報は入手できていません。現時点では、旧オーストリア帝国領やボスニア・ヘルツェゴビナと同様の扱いが存在していたと推定しています。
2.旧オーストリア帝国領、ボスニア・ヘルツェゴビナ宛て小包
(1)重量料金
5kg以下-----------------------------100 fillér
5kgを越えて10kg以下---------220 fillér
10kgを越えて15kg以下-------320 fillér
15kgを越えて20kg以下-------420 fillér
(20kgを越える小包は重過ぎて作業が困難なため取り扱われない)
(2)価格表記料金(保険料金) 300 Kronen毎に10 fillér
(3)代金引換料金 10 fillér
オーストリア帝国領、ボスニア・ヘルツェゴビナ宛て小包では、通知料金と配達料金は発送者からは徴収しない。到着局で受取人から徴収した。
ブログ作成者備考:
①かさばる小包の料金は文献に未記載です。国内便と同様に「50%追加料金(重量料金に対して)」と推定しています。
②速達料金は文献に未記載です。
C. ボスニア・ヘルツェゴビナ(参考文献(3))
オーストリア・ハンガリー帝国による占領時代のボスニア・ヘルツェゴビナの料金を適用した。
通貨:オーストリア帝国100 heller = 1 Krone
= オーストリア帝国占領下ボスニア・ヘルツェゴビナ100 heller = 1 Krone
= SHS王国ボスニア・ヘルツェゴビナ100 heller = 1 Kruna
1.国内小包(ボスニア・ヘルツェゴビナ宛て)
(1)重量料金
5kg以下------------------------------80 heller
5kgを越えて10kg以下---------170 heller
10kgを越えて15kg以下-------270 heller
15kgを越えて20kg以下-------370 heller
(20kgを越える小包は重過ぎて作業が困難なため取り扱われない)
(2)価格表記料金(保険料金)
(2a)参考文献(3): 1918年9月1日から値上げ;300 Kronen毎に5 heller
(2b)参考文献(4): 1918年10月1日から値上げ;300 Kronen以下は10 heller、それを越えると300 Kronen毎に5 heller
ブログ作成者備考:
ユーゴスラヴィアの小包料金第1期では、ボスニア・ヘルツェゴビナにおける(2a)と(2b)の両方の使用例が参考文献(4)で報告されています。第1次大戦末期から直後の混乱期であるため、1918年9月1日の料金値上げから僅か1ヵ月後の1918年10月1日の小包料金の再改訂が領域内で徹底せず、2種の料金が適用されていたと考えられます。
(3)代金引換料金 10 heller
(4)かさばる小包は、50%追加料金(重量料金に対して)
(5)速達料金 100 heller
(6)至急料金 120 heller(速達料金に加算する)
(7)通知料金 5 heller (保険有りも無しも同額)(受取人から徴収し不足切手により領収される)
(8)配達料金(受取人から徴収し不足切手により領収される)
①保険無し、または1000 Kronen 以下の保険の場合
1)人口1万人以上の都市 30 heller
2)残りの市町村 25 heller
3)ドイツからの小包、全市町村宛て 30 heller
②1000 Kronenを越える保険の場合は、1000 Kronen毎に20 hellerを加算
③配達証明 25 heller
(9)小包私書箱への小包の保管に対する小包1個当たりの料金(受取人から徴収し不足切手により領収される)
サラエヴォ及びモスタル 10 heller
残りの全ての市町村 5 heller
ブログ著者備考:
(9)のボスニア・ヘルツェゴビナにおける小包私書箱の取り扱いに関しては、文献(4) p.16に下記のように記載されています:
「受取人への小包の引渡しの際または後の料金に関して、さらに特別な場合を指摘する。
詳しく言うと、受取人はいわゆる「受取保留」(文献(5)には「受取に行くことを予約しておく」と書かれています)を宣言することができ、受取人宛ての郵便物(小包も含む)を配達するのではなく、引渡し郵便局で受取人のために保管し、受取人の要求に基づいて供給することができる。この業務は、主として大企業の要求により行われ、我々の今日の郵便私書箱に十分に匹敵している。
受取保留を小包にまで拡大する受取人は、1ヶ月当たり一定の「小包私書箱料金」(サラエヴォとモスタルでは10 Kronen、全ての他の場所では5 Kronen)を支払い、そしてそれに加えて小包1個当たりにいわゆる「1個当たりの料金」を支払う(サラエヴォとモスタルでは10 heller、全ての他の場所では5 heller)。」
2.旧オーストリア帝国領、旧ハンガリー王国領宛て
(1)重量料金
5kg以下-----------------------------100 heller
5kgを越えて10kg以下---------220 heller
10kgを越えて15kg以下-------320 heller
15kgを越えて20kg以下-------420 heller
(20kgを越える小包は重過ぎて作業が困難なため取り扱われない)
(2)価格表記料金(保険料金) 300 Kronen毎に10 heller
(3)代金引換料金 10 heller
(4)かさばる小包は、50%追加料金(重量料金に対して)
(5)速達料金 100 heller
(6)至急料金 120 heller(速達料金に加算する)
(7)配達証明 25 heller
ブログ著者備考: 通知料金と配達料金は受取人から徴収したと考えられます。
参考文献
(1)Nachrichtenblatt der Arbeitsgemeinschaft Jugoslawien und Nachfolgestaaten 47/93, p.732-735 (1993)
Pror. Dr.-Ing. Klaus Wieland
Ausgewählte Postgebühren in Slowenien 1918 bis 1921
スロヴェニアにおける1918年~1921年までの郵便料金選集
(2)Nachrichtenblatt der Arbeitsgemeinschaft Jugoslawien und Nachfolgestaaten 64/98, p.1144-1147 (1998)
Pror. Dr.-Ing. Klaus Wieland
Ausgewählte Postgebühren im Königreich SHS 1918/19
SHS王国1918/1919の郵便料金選集
(3)Nachrichtenblatt der Arbeitsgemeinschaft Jugoslawien und Nachfolgestaaten 67/99, p.1206-1207 (1999)
Pror. Dr.-Ing. Klaus Wieland
Die Erhöhung der Postgebühren in Bosnien und der Herzegowina
ボスニア・ヘルツェゴビナにおける郵便料金の値上げ
(4)Arge der Balkan Länder, No. 158, p.12-18, (2002)
Dr. Helmut Kobelbauer, Pror. Dr.-Ing. Klaus Wieland
Nochmals Postgebühren – Pakete in Bosnien und der Herzegowina
さらに郵便料金---ボスニア・ヘルツェゴビナの小包
(5)Arge der Balkan Länder, No. 161, p.28-31, (2003)
Dr. Helmut Kobelbauer
Nebenstempel der Paketabgabe beim Postamt Ljubljana
リュブリャナ1郵便局による小包引渡しの証示印
以上