「パトさん、パトさんっ!私すっごい面白いエッセイ見つけたの
」
そう言って近づいてきたK井ちゃん、30歳独身、恋人なし。
彼女は北海道大学の農学部卒業で、ちょっと不思議系のお嬢さんです。
「なに?、なに?」
パトのデスクに来たK井ちゃんは、雑誌「おとなのOFF」の
ページをパラパラとめくり、
「これ、これ、面白いから読んでみてよ」
そう言われて雑誌を覗き込むと、『サナダ虫を守る会』
と題した免疫学者 藤田紘一郎氏のエッセイがありました。
(藤田氏をTVで見たことあります)
彼はお腹の中に寄生虫のサナダ虫を飼っていて、「マサミちゃん」と
名前を付けて、こよなく愛を注いでいます。
日本人にアトピーや花粉症が増え始めたのは、寄生虫の感染率が
5%を切った1965年頃からだと彼は分析しています。
寄生虫は独りで生活することができません。
マサミちゃんたち寄生虫が、宿主の中に入って宿主を
殺してしまうと自分自身も死んでしまいます。
ですからそんなバカなことはしません。
宿主が元気でないと困るので、マサミちゃんは彼がアトピーにも
癌にもならないようにしているんだとか。
マサミちゃんたちサナダ虫は現在、絶滅の危機らしいです。
マサミちゃんの子孫繁栄には、宿主の藤田氏が川でウンチをしなければ
いけないんです。
しかも、普通の川でしてもダメだそうで、サケがいる北海道の石狩川まで
行って事を遂行する必要があるんですって。
石狩川でマサミちゃんの卵が孵化し、ミジンコの体内に入って
そこで発育。
そのミジンコをサケが食べないと感染幼虫にならないそうです。
日本では、川でウンチをする人がいなくなってしまったのが、
絶滅の原因だと彼はこのエッセイで訴えているのです。
読み終わってK井ちゃんに、
「そう言えば、マリア・カラス(オペラ歌手)や
ナオミ・キャンベル(スーパーモデル)ってサナダ虫飼ってたの
聞いたことある。ダイエット効果抜群らしいわよ
」
って言ったら、K井ちゃんがさっきより更に近くに寄ってきて囁きました。
「大きな声では言えないけど、私、昔サナダ虫飼ってたんです。」
「ええっ・・・
マジで
」
「あの頃、食べても食べても全然太らなくって、すごい調子良かったの。
」
彼女は毎週のように、「ダイエットしなくちゃ」とか「こんな運動始めました」
とか自分の体のことを色々と報告してくれます。
「そいで、そいで・・・?」
「でもある日、トイレで、お尻を拭いても拭いても、なんかが取れないのっ」
「ふんふん、それで・・・?」
「なんか、ものすごい長いものが出てきて、もうビックリしちゃって、
病院に行っちゃったの。・・・で、虫下し飲んじゃったのぉ~っ
」
「ダメじゃ~~ん
」
「あの時、虫下し飲んでなけりゃ・・・あぁ~失敗した
」
心の底から後悔している様子の彼女でしたが、ふと疑問が浮かびました。
「でもさ、なんでK井ちゃんにサナダ虫入ったんだろ?」
「・・・わかんないっ
」
「・・・・はっ
K井ちゃん北海道行ってたじゃん・・・サケ、サケ、鮭だぁ~っ
」
決して藤田氏が石狩川で事に及んだとは申しませんが、そう関連付けるパトなのでした。
サナダ虫