クラシック音楽のひとりごと

今まで聴いてきたレコードやCDについて綴っていきます。Doblog休止以来、3年ぶりに更新してみます。

モーツァルトのクラリネット協奏曲イ長調K.622 ジャック・ランスロ(Cl)/パイヤール

2005年10月23日 06時00分27秒 | 協奏曲
冷え込んできました。低気圧に寒冷前線の通過。
冷たい雨も降りました。
一気に冬支度であります。

今日は松山へ出張。車中ではずっとモーツァルトを聴いていた。
特に良かったのはクラリネット協奏曲イ長調K622。モーツァルトの数ある協奏曲、最後の作品であり、死の直前の大傑作。
演奏はジャック・ランスロのクラリネット、ジャン=フランソワ・パーヤール指揮パイヤール室内管弦楽団。1963年頃の録音のERATO盤で、カップリングはランパル/ラスキーヌのフルートとハープのための協奏曲。往年の決定盤だ(今もかな?)。長いことレコードで愛聴していたのを、1986年のCD再発時にすぐに購入した覚えがある。
久しぶりに聴いたが、涙がこぼれるほど感動した。

この世にこんな美しい音楽があってエエんか?

これは、モーツァルトの死の1カ月前に完成された作品。
モーツァルトは自分の死期を悟っていたのか(悟っていたとしか思えないのだが)、この協奏曲は、もう天上の音楽としか云いようがないほど、枯れているにもかかわらず美しい。この世の煩悩だの妄執だのを超越した、彼岸の音楽と言っても良いかもしれない。
転調はあまりないし、感情的な激烈なところは皆無。
もう、気品漂う、あの世の音楽とでも言いたくなる。

自分の葬式にはこの協奏曲の第2楽章を流して欲しいものだと、今日、出張の車中でしみじみボクは思ったのであります。

ランスロのクラリネットが実にイイ。
クラリネットにしては、少し軽めの音色。馥郁として柔らかいのだが、しっとりだとか、暗いということはない。明るく、やや軽さを帯びた音色。フランス系の管楽器奏者の特徴だとは思うが、明るく爽やか。メロウな響きの中に、気品があるのが心地よい。

クラリネットの高音部の抜けるような美しさは、色で例えればレモン色がかった白。ツンと突き抜けるような音色が、たまらなく綺麗。
もちろん、低音部では太い音で朗々と歌う。高音から低音に移る瞬間が、その音色の鮮やかな変化が、また何とも云えず美しい。

第1楽章の序奏部、パイヤール室内管弦楽団のテンポはやや速め。これも、明るく爽やかで柔和な伴奏だ。クラリネットが登場すると、一気に音楽が充実する。軽さだけでなく、気品や情緒が感じられるようになる。

第2楽章は、この協奏曲の白眉。モーツァルトが書いた音楽の中でも屈指の美しさ(とボクは思っている^^)。ゆったりと静かに流れる伴奏に乗って、過去を振り返るような、しみじみとした音楽をクラリネットが心ゆくまで歌ってゆく。後ろ髪を引かれるような音楽。これで、いろいろなものとのお別れなんだ・・・・とでも云っているかのような音楽。ランスロのクラリネットが、余剰たっぷりに演奏してゆく。軽さよりも高貴さを感じさせる演奏だ。

終楽章は、シンプルなロンド。闊達なクラリネットの動き、柔らかく刺激音のない伴奏。彼岸の音楽と云うにふさわしい。耳を澄ますと、時折「魔笛」のフレーズのような音楽も聞こえる。
ランスロもパイヤールも、全く美しく終曲まで持ってゆく。美しいのは演奏家の手柄と云うより、作曲の凄さだとは思うが。

クラリネットの響きには哀愁があります。
深まりゆく秋にふさわしい楽器かもしれません。




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