ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

ブリリアントな多面体  霧笛131号から

2019-10-21 23:12:06 | 2015年4月以降の詩
四本の弦楽器の諧調(ハーモニー) 鍵盤楽器の旋律(メロディ) 不協和を抱え込んだ和音(コード)   不協和こそが相和する discordこそがconcord   世に災いの種は尽きない 世に喜びの種は包蔵される 災いは乱暴に放り出されてある 喜びは箱の中に隠されてある 見出して取り出さなければならない しかし 往々にして喜びの陰から災いがしゃしゃりでる . . . 本文を読む

旅人 霧笛130号から

2019-08-17 13:34:12 | 2015年4月以降の詩
 わたしは旅人 生まれ育ち今も住んでいる街へ旅する 半島と湾と島とが交差する 海辺に開けた街   盛り土された区画に 公営住宅コンビニ理髪店ガソリンスタンド酒屋外食店BRTの駅タクシー会社ドラッグストアスーパーマーケット信用金庫葬儀場住居 ようやく建築が並び始めた新しい街を走り 川を渡る新しい橋の先の高台に削り取った新しい道路を走り その先の 島へ 海を渡る工事を終 . . . 本文を読む

時間旅行 霧笛130号から

2019-08-16 22:21:47 | 2015年4月以降の詩
ハイウェイを走る 黄昏時西空に陽は落ちて まるで夜空へ続く滑走路みたいに いつのまにか流星のひとつになったように   フェンダーローヅの音色が 子どもじみた白昼のおしゃべりを 大人の時間に誘い込む   東京ローズの息子がいっとき住んでいたとかいう港の街へ ハーバーライトが微風のなかできらめく街へ すべての思い出を思い出して あなたをもういちど わたしの . . . 本文を読む

枠  霧笛129号から

2019-05-22 15:20:58 | 2015年4月以降の詩
私は私である 私は私ではない あなたはあなたである あなたはあなたではない   あなたは私である   私の外にあるもの 私ではないひとびと 私のなかには何もない 外から絶えず侵入され 何かを取り込み何かを拒絶する 私のなかにいくつかの小さな枠組みをつくり 必死に持ちこたえようとする 小さな枠組みのモザイクを 必死に守ろうとする   私 . . . 本文を読む

天国と地獄  霧笛129号から

2019-05-22 15:14:17 | 2015年4月以降の詩
蓮の華が咲き どこからともなく穏やかな陽が差す池のほとり 真っ青に晴れわたるわけでもなく どんよりと曇っているわけでもない あるひとびとは平穏な池面を見るともなく眺め あるひとびとはベンチにゆったりと腰をかけ せかせかと速足で歩くひとはいない 厳しい視線でひとを問い詰めるような監督者はいない 小賢しく立ち回り自分の居場所を探し求める必要もない そこにおのずからゆったりとたたずんで . . . 本文を読む

喪失    霧笛128号から

2019-01-26 11:40:16 | 2015年4月以降の詩
僕の生きている時代は 千代に八千代に 続くわけではない 巌の さざれ石となりゆくほどの時も経過することがない   天から落ちた天女の羽衣を拾うことがあっても ひとときの夢 うつつではあっても夢 天女は再び月の世界へ舞い戻る あでやかにきらびやかな舞を舞い踊り あくまでも静かに音もなく舞い踊り あるいは冷たい悪魔の微笑を浮かべて舞い踊り 天使のやさしげな微笑を浮か . . . 本文を読む

曼珠沙華 霧笛128号から

2019-01-24 22:47:07 | 2015年4月以降の詩
(写真:藤野茂康氏)花の美しさなどというものはないあるのは あるのは美しい花 真っ赤な毒入りの曼珠沙華家のそばのがけの草むらのなかにちょうど彼岸時に花をつけるこの世とあの世の境い目を区切るように真っ赤な毒入りの曼珠沙華 口に含むと恐ろしく甘いに違いない見かけは燃えるように赤いのに能面のように端正でしかしいったん口に含むと恐ろしく甘いすべてがとろけて意識を失ってしまうよ . . . 本文を読む

手のひらに

2018-12-24 11:34:20 | 2015年4月以降の詩
手のひらに収まるような小さな星 きらきらと輝いている 順行と逆行を繰り返す惑星は みずから光ることもないし みずから光る恒星に比べたら ずっとずっと小さいけれども 手のひらに収まるほど小さくはない   惑いながら遊ぶ星 何かを惑って 何かを真面目に考えて 何かを面白がって 遊んでいる星   見上げてごらん 空の高さを 高みの星を 手のひらにすく . . . 本文を読む

私は日本人だろうか? 詩誌霧笛127号から

2018-10-21 23:04:15 | 2015年4月以降の詩
私は日本人であるより先に気仙沼人である と言ってみる ああ アイデンティティの拠り所として まずは気仙沼人である と言ってみたが それは怪しいもので 根なし草の地球人かもしれない 地球人などといっても種として人類であるということで実体のない空理空論のたぐいだ 地球語などというものは存在しないのだから   私の中で気仙沼弁でできている層と 共通語でできている層と . . . 本文を読む

若葉 霧笛第126号から

2018-08-04 10:25:06 | 2015年4月以降の詩
  若葉色の若葉 針葉樹の暗い緑のなかに ようやく一~二本だけ   ソメイヨシノは 花の時季が過ぎ ほんのりとさくら色を残しながら 葉桜に移りかわる   その他の桜はそれぞれ さくら色の花 濃い色の花 うす色の花   庭の黄色い水仙のそばに チューリップが 似た色合いの黄色い花を咲かせ そこらには タンポポが とげとげ . . . 本文を読む

星 霧笛第126号から

2018-08-04 10:21:19 | 2015年4月以降の詩
流れていく 星が 蒼昏い天空の中枢を 一筋の光明として 月のない漆黒の天蓋の下   きらきらと瞬く恒星と 燃え尽きるまで燃え続ける流星 ひとのいのちを中点において ほとんど永遠のそのさきまでながらえるものと あまりにもはかなく数秒で消え去るものの対比   いずれにしろ 太陽の下 ほとんど白い青天の 明晰判明な知に曝された隠れ場のない世界とは対極の . . . 本文を読む

文学的な倒錯について

2018-08-02 23:38:33 | 2015年4月以降の詩
ちからを尽くして狭き門より出でよ 抗いえないかたちをつくり もだえ苦しむ   わたしが苦しみあなたが苦しむ その先に   ほとんど実現しない欲望があるからこそ いまを享楽しえる   コントロールしえないものを奇跡的にコントロールしえたその一瞬にこそ   日常は安楽ではない 日常は安楽である しかし 安楽ではないからこそ この夜 . . . 本文を読む

秘密

2018-05-13 11:07:37 | 2015年4月以降の詩
秘密内緒にしてね指切りしましょ 誰にも言わないでね 公の場ではね 官公庁のど真ん中の密室で何を語るかどこまで語るか調整して すり合わせて腹を合わせて緊密にシナリオを組み立てて   記憶にあることは記憶にあるし 忘れたことは覚えていない 何にも調整する余地のないシンプルなこと 資料を参照して思い出すこともあるが しかしまあ 覚えていることを忘れたふり 資料探して確認 . . . 本文を読む