「夏王朝は幻ではなかった」副題は「1200年遡った中国文明史の起源」である。
著者は中国の歴史学・考古学・天文学・放射線物理学に及ぶ第一線の研究者約200名を集めて1995年~2000年かけて「夏・商・周年表作成国家プロジェクト」のすべての会議に同席を許された作家である。
夏の存在は史記などで広く語られてきたものの、商(中国では殷のことを商という)や周の時代については曖昧な年代しか判らなかった。
それがこのプロジェクトによって、①夏代はほぼ紀元前2070年に始まった②商(殷)は1600年に始まった③商の最後のあの悪名高き紂王が周の武王に征伐されたのが紀元前1046年である事などが明らかになった。
これらの年の特定に当たっては、歴史学・考古学・天文学・放射線物理学を駆使して算定されたものであるが、その数字はきりの良い数字となっている。
この研究は史記はもちろんのこと、尚書(書経)・竹書紀年や孟子等の書物、甲骨・竹簡・青銅器などに記された文字記録や天象記録、次々と出土されてきた甲骨の放射線年代測定法等々を前後左右に組み合わせてジグローパズルを埋めてゆくかごとくの作業を行って辿りついたものである。
2000年の11月にこの研究が公表されるまでは中国で公式に最も古いとされていた年が紀元前841年だったのである。それがこの研究で一挙に、1200余年遡ったわけである。
内容的に難しくいろいろな地名が出てくるのでゆっくりと時間をかけて読み直したいと思っているが、興味を引かれた点を2,3記しておく。
① 放射線同位炭素による年代測定:炭素14による年代測定法は考古学において最も広くつかわれている年代測定法。炭素14は生物体が死ぬと新たに補充されず5730年ごとに半減するという法則に従って減少する。そのため、植物動物を問わず、死亡後そのサンプルに含まれる炭素14の減少の度合いを測定すれば死亡した年代を割り出すことができる。すべての生物の死体に残る有機物及び風化していない骨や貝殻などはすべてこの方法で年代が測定できる。ただこの測定は誤差が100年ないし500年にわたることがある
② 加速器質量分析法(AMS法)による年代測定:1970年代末に欧米で開発された核分析技術であり、寿命の長い放射線核素・スクレインの同位元素の存在比を測定して年代を推定するもの。従来の炭素法に比べると必要とするサンプルの量が1000分の1以下ですむというメリットがある。また炭素法の最低でも48時間かかるところがこのAMS法では僅か数十分で結論が出る。精度も炭素法よりも高い
③ 天文学の発展:今では高性能コンピューターによって過去の日食や月食の起こった時期をかなり性格に推定できる。古代中国では天象観測を極めて重要な国の政とみなしどの王朝でも高い位の担当官を置いていた。尚書や史記・春秋さらには甲骨文には日食などの記述が見られる。これらの文書記録を天文学と照合することによって古代中国で起こった年を推定することができる。
一応、夏まで中国の歴史を遡ることができた。修正は加えられるかもしれないが、ともかくも画期的なことだと思う。次のターゲットは黄帝・堯・舜の伝説の時代であるという。興味の尽きないところである。
書名:夏王朝は幻ではなかった
著者:岳
訳:朱建栄、加藤優子
発行所:柏書房(株)
発行年:2005年5月25日
著者は中国の歴史学・考古学・天文学・放射線物理学に及ぶ第一線の研究者約200名を集めて1995年~2000年かけて「夏・商・周年表作成国家プロジェクト」のすべての会議に同席を許された作家である。
夏の存在は史記などで広く語られてきたものの、商(中国では殷のことを商という)や周の時代については曖昧な年代しか判らなかった。
それがこのプロジェクトによって、①夏代はほぼ紀元前2070年に始まった②商(殷)は1600年に始まった③商の最後のあの悪名高き紂王が周の武王に征伐されたのが紀元前1046年である事などが明らかになった。
これらの年の特定に当たっては、歴史学・考古学・天文学・放射線物理学を駆使して算定されたものであるが、その数字はきりの良い数字となっている。
この研究は史記はもちろんのこと、尚書(書経)・竹書紀年や孟子等の書物、甲骨・竹簡・青銅器などに記された文字記録や天象記録、次々と出土されてきた甲骨の放射線年代測定法等々を前後左右に組み合わせてジグローパズルを埋めてゆくかごとくの作業を行って辿りついたものである。
2000年の11月にこの研究が公表されるまでは中国で公式に最も古いとされていた年が紀元前841年だったのである。それがこの研究で一挙に、1200余年遡ったわけである。
内容的に難しくいろいろな地名が出てくるのでゆっくりと時間をかけて読み直したいと思っているが、興味を引かれた点を2,3記しておく。
① 放射線同位炭素による年代測定:炭素14による年代測定法は考古学において最も広くつかわれている年代測定法。炭素14は生物体が死ぬと新たに補充されず5730年ごとに半減するという法則に従って減少する。そのため、植物動物を問わず、死亡後そのサンプルに含まれる炭素14の減少の度合いを測定すれば死亡した年代を割り出すことができる。すべての生物の死体に残る有機物及び風化していない骨や貝殻などはすべてこの方法で年代が測定できる。ただこの測定は誤差が100年ないし500年にわたることがある
② 加速器質量分析法(AMS法)による年代測定:1970年代末に欧米で開発された核分析技術であり、寿命の長い放射線核素・スクレインの同位元素の存在比を測定して年代を推定するもの。従来の炭素法に比べると必要とするサンプルの量が1000分の1以下ですむというメリットがある。また炭素法の最低でも48時間かかるところがこのAMS法では僅か数十分で結論が出る。精度も炭素法よりも高い
③ 天文学の発展:今では高性能コンピューターによって過去の日食や月食の起こった時期をかなり性格に推定できる。古代中国では天象観測を極めて重要な国の政とみなしどの王朝でも高い位の担当官を置いていた。尚書や史記・春秋さらには甲骨文には日食などの記述が見られる。これらの文書記録を天文学と照合することによって古代中国で起こった年を推定することができる。
一応、夏まで中国の歴史を遡ることができた。修正は加えられるかもしれないが、ともかくも画期的なことだと思う。次のターゲットは黄帝・堯・舜の伝説の時代であるという。興味の尽きないところである。
書名:夏王朝は幻ではなかった
著者:岳
訳:朱建栄、加藤優子
発行所:柏書房(株)
発行年:2005年5月25日