宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

国際宇宙ステーションへの最終便。無人補給船“こうのとり 9号機(HTV9)”が大気圏へ再突入し任務完遂!

2020年08月22日 | 宇宙 space
国際宇宙ステーションへ物資輸送を担う無人補給船“こうのとり 9号機(HTV9)”が、8月20日に大気圏に再突入しました。
これまでの全てのミッションを成功させ、国際宇宙ステーションの運用に欠かすことのできない重要な役割を担ってきた“こうのとり”。
これにより、初号機から始まった11年間の運用を終えたことになります。
“こうのとり 9号機(HTV9)”を搭載したH-IIBロケット9号機の打ち上げ。(Credit: JAXA)
“こうのとり 9号機(HTV9)”を搭載したH-IIBロケット9号機の打ち上げ。(Credit: JAXA)


国際宇宙ステーションへの最終便“こうのとり 9号機(HTV9)”

“こうのとり 9号機(HTV9)”を搭載したH-IIBロケット9号機は、5月21日(水)午前2時31分に、種子島宇宙センターの第2発射場から予定通りに打ち上げを実施。

“こうのとり 9号機(HTV9)”は、国際宇宙ステーションのロボットアームに把持され、この後“ハーモニー・モジュール(第2結合部)”へ取り付けられれ、補給物資の搬出作業が行われています。
国際宇宙ステーションのロボットアームに把持された“こうのとり 9号機(HTV9)”。(Credit: JAXA/NASA)
国際宇宙ステーションのロボットアームに把持された“こうのとり 9号機(HTV9)”。(Credit: JAXA/NASA)
補給物資に含まれていたのは、JAXAが調達した国産の生鮮食品。
初搭載の“キウイフルーツ”のほか、“パプリカ”や“河内晩柑(かわちばんかん)”、“清美オレンジ”、“レモン”、“温州みかん”が国際宇宙ステーションの宇宙飛行士に届けられました。
一方で“こうのとり 9号機(HTV9)”には、国際宇宙ステーションで発生したゴミや不要になった機器などが積み込まれた。

ハッチが閉じられると“こうのとり 9号機(HTV9)”は、軌道離脱のためのエンジン噴射を実施し国際宇宙ステーションを離脱します。

そして、8月20日(水)午後3時40分(日本時間)、第3回軌道離脱マヌーバを実施した“こうのとり 9号機(HTV9)”は大気圏への再突入を無事完遂。
搭載していたゴミなどとともに、再突入時の熱や衝撃によって破壊され、燃え尽きたようです。
JAXAが調達し、国際宇宙ステーションの宇宙飛行士に届けらえた国産の生鮮食品。(Credit: JAXA)
JAXAが調達し、国際宇宙ステーションの宇宙飛行士に届けらえた国産の生鮮食品。(Credit: JAXA)


無人補給船“こうのとり(H-II Transfer Vehicle:HTV)”

今回でシリーズ最終号機となった“こうのとり”。

開発が始まったのは1988年、10年以上の歳月をかけて実用化され、2009年の技術実証機からは日本の物資に限らずISS国際パートナーの物資も輸送してきました。

また、“こうのとり”は大型の実験装置を国際宇宙ステーションへ輸送できる唯一の宇宙船として、国際宇宙ステーションの運用に欠かすことのできない重要な役割を担っていました。
総重量6トンという世界最大級の積載能力を持つ。大きく貢献できたのは、設計寿命を超えたバッテリーに替わる新型バッテリを6号機から継続して輸送してきたこと。

JAXA自身も“こうのとり”の開発・打ち上げ・運用を通じて多くの技術や知見を獲得し、これまでの全てのミッションを成功させてきました。

国際宇宙ステーションのような有人施設に飛行・接近する宇宙機には、厳しい安全基準を満たすことが課せられます。

このため、JAXAが開発したのがランデブ・キュプチャでした。
これは、宇宙機を国際宇宙ステーションに対して相対停止させてロボットアームで把持する技術。
もちろん“こうのとり”に適用され、この技術はアメリカの補給機にも採用され国際標準になったそうです。

さらに、7号機での小型回収カプセル、9号機の無線LAN伝送など、“こうのとり”の運用機会を活用した技術実証を通じて、今後の有人宇宙活動の進展につながる成果を挙げてきました。

その“こうのとり”が最終号機を迎えたのは寂しいことですが、すでにJAXAは後継機となる新型の無人補給船“HTV-X”の開発を進めています。

これまでに蓄積してきた技術や知見を活かして開発される無人補給船“HTV-X”。
輸送能力や運用性を向上させ、月周回有人拠点“Gateway”への物資補給などもにも活用可能な発展性のある宇宙機になるようですよ。


こちらの記事もどうぞ


ヒッグス粒子がミュー粒子対に崩壊する反応の兆候を、大型ハドロン衝突型加速器“LHC”で発見!

2020年08月21日 | 宇宙 space
欧州合同原子核研究機構“CERN”は、大型ハドロン衝突型加速器“LHC”の実験において、ヒッグス粒子がミュー粒子対に崩壊するという、希少な反応の兆候をATLAS実験で2σ、CMS実験で3σという統計的精度観測したことを発表しました。
“LHC”のATLAS(実験)日本グループには、大学院生を含めて約150人という非常に多くの日本人研究者が参加しているんですねー
今回の成果は、名古屋大学大学院理学研究科・素粒子宇宙起源研究所の研究グループが主要な貢献を果たしたそうです。


スイスとフランスにまたがる巨大加速器“LHC”

本来、素粒子は質量をもちません。
でも、ヒッグス場との相互作用によって質量を獲得すると考えられていて、その仕組みのことを“ヒッグス機構”といいます。

この“ヒッグス機構”を実証するため、スイスとフランスにまたがる巨大加速器“LHC”が建設され、その証拠になるヒッグス粒子が2012年7月4日に発見されたのは記憶に新しい出来事です。

その発見に貢献したのが、“LHC”に設置されたATLAS測定器を用いたATLAS実験でした。

ATLAS測定器の建設では、日本は費用の一部を負担しただけでなく、各種装置の製造やデータ解析、研究などにおいて大きく貢献。
ATLAS測定器の一部であるミュー粒子検出器は、32万の検出部を備えた全高25メートルの巨大さを誇り、名古屋大学などが建設や運用をリードしている装置です。

ヒッグス粒子がミュー粒子対に崩壊するという、希少な反応をとらえたのも、このミュー粒子検出器によるものでした。


ヒッグス粒子が崩壊してできたミュー粒子対を探すには

ミュー粒子は電子と同じ性質を持つ素粒子です。
ただ、電子の約200倍も重く、物質粒子の中では電子などのレプトンの第2世代に属しています(電子は第1世代)。
物質粒子は3世代あることが実験で分かっている。
素粒子の紹介図。物質粒子はクォークもレプトンもともに3世代まである。ミューオンは第2世代に属し、第1世代に属する電子と同じ性質を持つが、質量は大差があり約200倍になる。(Credit: 名古屋大学プレスリリース)
素粒子の紹介図。物質粒子はクォークもレプトンもともに3世代まである。ミューオンは第2世代に属し、第1世代に属する電子と同じ性質を持つが、質量は大差があり約200倍になる。(Credit: 名古屋大学プレスリリース)
ヒッグス粒子は発見されたものの、まだその生成や崩壊の反応を精査する必要があり、“LHC”を用いた実験は現在も進められています。

そして、ATLAS実験で2015年~2018年にかけて行われたのが、13TeVという高いエネルギーを投入した陽子衝突実験でした。

陽子同士が衝突すると、その衝撃によりヒッグス粒子も生成され、その直後にさらにさまざまな粒子対に崩壊していきます。
ミュー粒子対は、そのヒッグス粒子の崩壊した粒子対の中に存在しています。

ただ、ミュー粒子対はヒッグス粒子の崩壊からだけでなく、ほかにいくつもの物理過程によって誕生しています。
さらに、ヒッグス粒子が崩壊してミュー粒子対ができる割合は5000個に1個程度、他はすべて別の物理過程を経て誕生しています。

このように、いくつものミュー粒子対がある中で、ヒッグス粒子由来であることを見分けられるのでしょうか?
それには、ミュー粒子対のエネルギーや運動量、放射角度を正確に測定する必要があるんですねー

そして、ヒッグス粒子由来である決め手になるのが、その質量です。

ミュー粒子対の情報から、崩壊前の親粒子の質量を算出することができるので、ヒッグス粒子と同程度の125GeV程度であれば、その親粒子はヒッグス粒子と考えることができます。
実験結果からミュー粒子対の候補を含む事象を集め、ミュー粒子候補のエネルギーや運動量、放出角度の情報から算出した質量分布図。ミュー粒子対がヒッグス粒子の崩壊によるもの(本物)であれば、ヒッグス粒子の質量である125GeV付近に集まり、そうでない場合(偽物))はより低い質量から右肩下がりに分布する。(Credit: 名古屋大学プレスリリース)
実験結果からミュー粒子対の候補を含む事象を集め、ミュー粒子候補のエネルギーや運動量、放出角度の情報から算出した質量分布図。ミュー粒子対がヒッグス粒子の崩壊によるもの(本物)であれば、ヒッグス粒子の質量である125GeV付近に集まり、そうでない場合(偽物))はより低い質量から右肩下がりに分布する。(Credit: 名古屋大学プレスリリース)
こうして取得された全データをもとに詳細な研究が行われた結果、2σの統計的精度で観測されたのが、ヒッグス粒子がミュー粒子対に崩壊する反応でした。

2σとは統計的精度を表すもので、この確率は現在の計算量においては“ヒッグス機構”の予想と一致する結果になります。

そして、ミュー粒子は第2世代の素粒子であることから、第2世代の物質粒子における質量の起源も“ヒッグス機構”にあること、さらに素粒子の世代自体も“ヒッグス機構”に起因することが示唆されるとしています。

なお、素粒子の研究では、一般的に統計的精度が5σを超えて初めて「発見」と主張することが可能になります。
なので、今回のATLAS実験の2σ、そして異なる仕組みを持つCMS測定装置を用いたCMS実験での3σは、統計的確度としてまだ不十分といえます。

そのため、研究グループでは今後も高統計のデータを実験で蓄積していく予定です。
研究グループによると、それらを用いれば5σを超えることができるとしています。

また、そのときの結果から“ヒッグス機構”の予測値と実際の観測値のズレを見ることができ、新たな物理現象などが発見できる可能性もあるそうです。

なお、“LHC”は2025年頃まで実験を続けた後、加速器の高輝度化と検出器のアップグレードを実施し、2027年頃からパワーアップして実験を再開する予定。
今後10年、20年とアップグレードを行いながら運用されていくようです。


こちらの記事もどうぞ


やっぱりチリが原因? 超新星爆発を控えるベテルギウスの急激な減光は、放出された大量のプラズマによって引き起こされていた。

2020年08月19日 | 宇宙 space
今後10万年以内に超新星爆発が観測されるのではないか っと考えられている赤色超巨星があります。
それは、2019年10月~2020年2月にかけての急激な減光が話題になったオリオン座のベテルギウス。
減光の原因として考えられているのは、“ベテルギウス自身が放出したチリ”あるいは“ベテルギウスの表面に生じた黒点”の2つの説があるんですねー
今回、発表されたのはハッブル宇宙望遠鏡などによる観測結果によるもの。
急激な減光は、ベテルギウスから放出された大量のプラズマによって引き起こされたようです。


ベテルギウスから放出された大量のプラズマがチリを形成した

今回、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究グループが発表したのは、2019年~2020年にかけて観測されたベテルギウスの減光が、ベテルギウスから放出された大量のプラズマによって引き起こされたとする研究成果でした。

2019年10月~11月にかけて行われたハッブル宇宙望遠鏡による紫外線の波長で観測されたのは、ベテルギウスの南半球から放出された高密度かつ超高温のプラズマが、ベテルギウスの大気中を時速およそ30万キロで外側に向けて移動する様子でした。

研究グループが考えているのは、このプラズマがベテルギウスから数百万キロほど離れて冷えたことでチリの雲が形成された結果、地球から見えたベテルギウスの一部がチリに隠されて減光が観測されたのではないかということ。

どの恒星も星間空間へ向けて物質を放出しています。
ベテルギウスは太陽の3000万倍のペースで質量を失っているものの、今回の活動では通常の2倍に相当する質量の物質が南半球だけで放出された異例なもののようです。
プラズマの放出とチリの形成を描いたイメージ図。(左)の2点はベテルギウスからプラズマの塊が放出されて外側へ移動する様子。(右)の2点はプラズマから形成されたチリの雲を地球から見た様子。(Credit: NASA, ESA, and E. Wheatley (STScI))
プラズマの放出とチリの形成を描いたイメージ図。(左)の2点はベテルギウスからプラズマの塊が放出されて外側へ移動する様子。(右)の2点はプラズマから形成されたチリの雲を地球から見た様子。(Credit: NASA, ESA, and E. Wheatley (STScI))
また、ベテルギウスの膨張・収縮をとらえたカナリア諸島のテイデ天文台にあるSTELLA望遠鏡を使った観測では、ベテルギウスの減光が始まるとともに膨張速度が遅くなり始め、最も暗くなった頃に収縮へ転じたことが確認されています。

さらに、研究グループは、活動のタイミングそのものはベテルギウスの脈動変光星としての約420日間の周期に基づくものであり、光球(光で見た場合の恒星の表面)の膨張が大気を介したプラズマの放出を後押しした可能性を指摘しています。
脈動変光星とは、膨張と収縮を繰り返すことで明るさが変わる変光星。


すでに次の減光が始まっている

一方、NASAの太陽探査機“STEREO”が2020年6月下旬から8月上旬にかけてベテルギウスを観測。
すると、ベテルギウスの明るさが再び暗くなっていることが明らかになります。

ベテルギウスが直近で最も暗くなったのは2020年2月なので、約420日の周期に対して1年以上早い減光でした。

ただ、現在のオリオン座は昼間の空に昇っているので地球からの観測は難しいんですねー
なので、ベテルギウスを観測する機会は8月下旬から9月上旬頃のハッブル宇宙望遠鏡を使った観測になります。

爆発前の数週間で恒星がどのようにふるまうのかは誰も知りませんし、ベテルギウスは超新星爆発を起こす準備ができているという予測もあります。
今後10万年以内に起こるといわれている超新星爆発、私たちが生きているうちに見ることはできるのでしょうか?
ベテルギウスの明るさの変化を示したグラフ。緑はアメリカ変光星協会のデータベース、赤はNASAの太陽探査機“STEREO”の観測データ。(Credit: Dupree, et al.)
ベテルギウスの明るさの変化を示したグラフ。緑はアメリカ変光星協会のデータベース、赤はNASAの太陽探査機“STEREO”の観測データ。(Credit: Dupree, et al.)


こちらの記事もどうぞ


準惑星ケレスの内部には地下海があり、そこから塩水が表面に湧き上がっている。NASAの小惑星探査機“ドーン”の観測データから分かったこと。

2020年08月17日 | 太陽系・小惑星
火星と木星の間にある小惑星帯で最も大きい天体が準惑星ケレスです。
今回分かってきたのは、ケレス表面のクレータに、地球の海氷で一般的にみられる物質が見つかったこと。
さらに、このクレーターの地下には塩水をたたえる海があることでした。
地球以外の天体で海の誕生につながる物質が見つかったことは、生命誕生がどんな天体でも起こりうることを意味しているのかもしれません。


海氷で一般的にみられる物質をケレスのクレーターで発見

準惑星ケレスは、火星と木星の間に存在する小惑星帯で最大の天体(直径960キロ)で、C型小惑星に分類されています。

C型小惑星と呼ばれる天体は、有機物や水などの揮発性物質を多く含む“炭素質コンドライト”という隕石とスペクトルが似ているので、水や有機物が多く存在する天体だと予想されているんですねー
小惑星探査機“はやぶさ2”が探査を行った“リュウグウ”や、NASAの“オシリス・レックス”が探査中の“ベンヌ”もC型小惑星になります。

ケレスの表面には、今から約2200万年前の微惑星衝突で形成されたと考えられている、直径約92キロの“オッカトル・クレーター”があります。

今回、NASAの小惑星探査機“ドーン”による重力測定データから分かってきたのは、“オッカトル・クレーター”の地下およそ40キロには、今も幅数百から1,000キロにわたって塩水が溜まっていることでした。
“ドーン”はNASAが打ち上げた準惑星ケレスおよび小惑星ベスタを目標とする無人探査機。低コストで効率の良いミッションを目指した太陽系内の探査計画“ディスカバリー”の1つ。

さらに、“オッカトル・クレーター”の中央に存在しているのが“ケレアリア・ファキュラ”と呼ばれる明るい領域。
この領域では、ハイドロハライト(含水岩塩)という海氷で一般的にみられる物質が見つかっていて、地球以外では初めてのことでした。

“ケレアリア・ファキュラ”のハイドロハライトは、今から約750万年前と約200万年前に地表へと湧き上がってきた塩水に由来していると考えられています。
ハイドロハライトという物質は、非常に不安定な存在で時間の経過とともに消失してしまうので、噴出し始めたのは最近2万年の出来事と考えられる。

地球以外の天体で海の誕生につながる物質が見つかったことは、生命誕生がどんな天体でも起こりうることを示唆しています。

地球上で海が誕生したのも、今回ケレスで発見されたような事象が、ごく短期間に何度も繰り返されたからかもしれません。
NASAの小惑星探査機“ドーン”が撮影した準惑星ケレス(疑似カラー画像)。中央付近にあるのが“オッカトル・クレーター”で、この中に明るい領域“ケレアリア・ファキュラ”が存在する。(Credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA)
NASAの小惑星探査機“ドーン”が撮影した準惑星ケレス(疑似カラー画像)。中央付近にあるのが“オッカトル・クレーター”で、この中に明るい領域“ケレアリア・ファキュラ”が存在する。(Credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA)


ケレスで起きている“潮汐加熱”をともなわない独特な低温火山活動

今回、研究チームが注目したのは、“オッカトル・クレーター”の活動時期でした。

“ケレアリア・ファキュラ”のハイドロハライトの大部分は、クレーター形成時の熱で溶けた地下の浅いところからもたらされたものの、その熱は衝突から数百万年程度で失われたと見られています。

ただ、“ドーン”のミッション中に“オッカトル・クレーター”を断続的に覆う薄いもやの兆候が見つかっていること。
さらに、“ドーン”がケレスに到着する前の2014年には、ヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星“ハーシェル”によってケレスから水(水蒸気)が噴出していることも明らかになっています。

時にはかなり爆発的だったとされる初期の低温火山活動と比ると、なぜ現在の活動は落ち着きながらも続いているのでしょうか?

考えられる可能性は、クレーターが形成された際の衝撃で地殻に亀裂が生じ、地下の塩水が表面へと湧き上がる経路ができたことです。
この亀裂を通して今も塩水が地表へと湧き上がり、ほとんどが昇華によって失われているのかもしれません。

太陽系で知られているものとしては、独特な低温火山活動が起きている準惑星ケレス。

木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、惑星の潮汐作用による内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られています。

今回、ケレスは少なくとも比較的最近まで地質活動をしていたことが明らかになりました。
このことが示唆するのは、氷に富んだ天体では“潮汐加熱”が起きなくても、ケレスと同様の活動が生じているかもしれないということ。

さらに、ケレスにおけるごく最近の地質活動の証拠は、「小天体は地質学的に活発ではない。」 っとする一般的な認識を覆し、惑星科学に新たな方向性をもたらしたようです。


こちらの記事もどうぞ


かき乱されて混とんとした状態にあるはず… 初期宇宙に見つけたのは、整った姿をした赤ちゃん銀河だった!

2020年08月15日 | 銀河・銀河団
アルマ望遠鏡を使った観測により、私たちが住む天の川銀河によく似た銀河が宇宙の遥か彼方に見つかりました。
そこは、この銀河から発せられた光が地球に届くまでに約124億年もかかる場所。
つまり、私たちは宇宙が14億歳だった頃の銀河を観測していることになるんですねー
理論的に予想されているのは、初期宇宙の全ての銀河の内部では、ガスが激しく乱れ動いていて不安定な状態にあること。
でも、今回見つかった銀河に含まれるガスは、研究者たちも驚くほど秩序だった動きをしていたようです。
アルマ望遠鏡が観測した124億光年彼方に位置する銀河“SPT0418-047”。この銀河と地球の間に位置する別の銀河の重力によって電波の通り道が曲げられリング状に見えている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.)
アルマ望遠鏡が観測した124億光年彼方に位置する銀河“SPT0418-047”。この銀河と地球の間に位置する別の銀河の重力によって電波の通り道が曲げられリング状に見えている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.)


観測史上最も遠い場所に位置する天の川銀河に似た銀河

今回の研究を進めたのは、ドイツ・マックスプランク天体物理研究所を中心とするチームでした。

この研究成果は、銀河形成の研究において重要な意味を持つことに…
私たちの天の川銀河や、その近くにある渦巻銀河と同じような構造が、120億年以上昔にすでに作られていたことを示していたからです。

研究の対象になったのは、とけい座の方向約124億光年彼方に見つかった銀河“SPT0418-47”。
この銀河に渦巻腕は確認できませんでしたが、天の川銀河にある典型的な二つの特徴を兼ね備えていたんですねー
それは、回転する円盤と、銀河中心部の星の集まり“バルジ”です。

バルジを持つ銀河が、これほど遠くで見つかったのは今回が初めてのこと。
“SPT0418-47”は天の川銀河に似た銀河としては、観測史上最も遠いものでした。

理論研究や、これまでの観測結果から期待される事実とは全く逆で、この銀河が実際には天の川銀河に近い場所にある銀河とよく似ていることは大変な驚きでした。

これまで、初期宇宙では銀河はまだ成長の途中であり、ガスの動きは混とんとしていて、天の川銀河のような成熟した銀河に見られる構造は、まだ作られていないと考えらていたからです。
アルマ望遠鏡による“SPT0418-047”の観測画像を元に重力レンズ効果を補正し、実際の銀河の姿を再構成した画像。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.)
アルマ望遠鏡による“SPT0418-047”の観測画像を元に重力レンズ効果を補正し、実際の銀河の姿を再構成した画像。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.)

“SPT0418-047”におけるガスの動きを示した図(左は観測画像、右は観測画像を元に重力レンズ効果を補正して再構築した銀河の実際の姿)。私たちから遠ざかる方向に動くガスを赤色、近づく方向に動くガスを青色で示している。右側の図で分かるように、“SPT0418-047”はきれいな円盤銀河で、非常に整った回転をしている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.)
“SPT0418-047”におけるガスの動きを示した図(左は観測画像、右は観測画像を元に重力レンズ効果を補正して再構築した銀河の実際の姿)。私たちから遠ざかる方向に動くガスを赤色、近づく方向に動くガスを青色で示している。右側の図で分かるように、“SPT0418-047”はきれいな円盤銀河で、非常に整った回転をしている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.)


重力レンズ効果とアルマ望遠鏡を使った遠方銀河の観測

“SPT0418-47”のような遠方にある銀河を研究することは、銀河がどのように生まれ、どのように進化してきたかを理解するためにもとても重要です。

この銀河から発せられた光が地球に届くまでにかかる時間は約124億年。
なので、私たちが見ている“SPT0418-47”は、宇宙が生まれてから14億年だった頃の姿ということになります。

これは、現在の宇宙の年齢“138億歳”のおよそ10%しか経っていない時代に相当し、生まれたばかりの銀河がまさに成長していく時代に当たります。

ただ、これらの銀河は大変遠くにあるので、地球上で最も強力な望遠鏡をもってしても、その詳しい様子を描き出すことは大変困難なことなんですねー

この難題に対する解決策として、研究チームが用いたのは重力レンズ効果でした。

恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力がレンズのような役割を果たすことで、曲げられたりする現象を重力レンズ効果といいます。
これにより遠くの銀河が大きく拡大され、アルマ望遠鏡の高い解像度と相まって、銀河の詳しい様子を調べることができたわけです。

重力レンズ効果を受けた銀河“SPT0418-47”の姿は、地球から見るとほぼ完全なリング状。
研究チームは、最新のコンピュータモデリングによって重力レンズ効果を注意深く補正することで、“SPT0418-047”の真の姿を再構築し、その中のガスの運動を調べています。


初期宇宙に存在する整った姿をしている銀河

銀河“SPT0418-47”の内部では、星が盛んに作られていて、とても活発な状態にありました。
それなのに、初期宇宙の銀河としては、これまでに見たこともないほど整った姿をしていたんですねー

この結果は、まったくの予想外で、銀河の進化を理解する上でとても重要な示唆を与えてくれそうです。

一方、“SPT0418-047”は円盤構造を持っていて、現在の宇宙に存在する渦巻銀河に似た特徴を示していました。
でも、その進化の先では、天の川銀河とは全く違う楕円銀河に進化するだろうと研究者たちは考えています。

今回の発見が示しているのは、「初期宇宙の銀河は、かき乱されて混とんとした状態にある。」という、これまでの推測が必ずしも正しくないということ。
また、秩序だった銀河が初期宇宙にどのように作られるのか? っという大きな疑問も提示することになりました。

アルマ望遠鏡の観測からは、2020年5月にも初期宇宙に存在する回転銀河が発見されています。

重力レンズ効果のおかげで、“SPT0418-047”の方が銀河内部のより詳しい状況を調べることができ、天の川銀河との類似性もより良く見出すことができました。

今後の研究で、これらの秩序だった赤ちゃん銀河が普遍的なものなのかどうかを調べることで、銀河進化研究の新たな扉を開くことができるはずです。


こちらの記事もどうぞ