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かき乱されて混とんとした状態にあるはず… 初期宇宙に見つけたのは、整った姿をした赤ちゃん銀河だった!

2020年08月15日 | 銀河・銀河団
アルマ望遠鏡を使った観測により、私たちが住む天の川銀河によく似た銀河が宇宙の遥か彼方に見つかりました。
そこは、この銀河から発せられた光が地球に届くまでに約124億年もかかる場所。
つまり、私たちは宇宙が14億歳だった頃の銀河を観測していることになるんですねー
理論的に予想されているのは、初期宇宙の全ての銀河の内部では、ガスが激しく乱れ動いていて不安定な状態にあること。
でも、今回見つかった銀河に含まれるガスは、研究者たちも驚くほど秩序だった動きをしていたようです。
アルマ望遠鏡が観測した124億光年彼方に位置する銀河“SPT0418-047”。この銀河と地球の間に位置する別の銀河の重力によって電波の通り道が曲げられリング状に見えている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.)
アルマ望遠鏡が観測した124億光年彼方に位置する銀河“SPT0418-047”。この銀河と地球の間に位置する別の銀河の重力によって電波の通り道が曲げられリング状に見えている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.)


観測史上最も遠い場所に位置する天の川銀河に似た銀河

今回の研究を進めたのは、ドイツ・マックスプランク天体物理研究所を中心とするチームでした。

この研究成果は、銀河形成の研究において重要な意味を持つことに…
私たちの天の川銀河や、その近くにある渦巻銀河と同じような構造が、120億年以上昔にすでに作られていたことを示していたからです。

研究の対象になったのは、とけい座の方向約124億光年彼方に見つかった銀河“SPT0418-47”。
この銀河に渦巻腕は確認できませんでしたが、天の川銀河にある典型的な二つの特徴を兼ね備えていたんですねー
それは、回転する円盤と、銀河中心部の星の集まり“バルジ”です。

バルジを持つ銀河が、これほど遠くで見つかったのは今回が初めてのこと。
“SPT0418-47”は天の川銀河に似た銀河としては、観測史上最も遠いものでした。

理論研究や、これまでの観測結果から期待される事実とは全く逆で、この銀河が実際には天の川銀河に近い場所にある銀河とよく似ていることは大変な驚きでした。

これまで、初期宇宙では銀河はまだ成長の途中であり、ガスの動きは混とんとしていて、天の川銀河のような成熟した銀河に見られる構造は、まだ作られていないと考えらていたからです。
アルマ望遠鏡による“SPT0418-047”の観測画像を元に重力レンズ効果を補正し、実際の銀河の姿を再構成した画像。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.)
アルマ望遠鏡による“SPT0418-047”の観測画像を元に重力レンズ効果を補正し、実際の銀河の姿を再構成した画像。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.)

“SPT0418-047”におけるガスの動きを示した図(左は観測画像、右は観測画像を元に重力レンズ効果を補正して再構築した銀河の実際の姿)。私たちから遠ざかる方向に動くガスを赤色、近づく方向に動くガスを青色で示している。右側の図で分かるように、“SPT0418-047”はきれいな円盤銀河で、非常に整った回転をしている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.)
“SPT0418-047”におけるガスの動きを示した図(左は観測画像、右は観測画像を元に重力レンズ効果を補正して再構築した銀河の実際の姿)。私たちから遠ざかる方向に動くガスを赤色、近づく方向に動くガスを青色で示している。右側の図で分かるように、“SPT0418-047”はきれいな円盤銀河で、非常に整った回転をしている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.)


重力レンズ効果とアルマ望遠鏡を使った遠方銀河の観測

“SPT0418-47”のような遠方にある銀河を研究することは、銀河がどのように生まれ、どのように進化してきたかを理解するためにもとても重要です。

この銀河から発せられた光が地球に届くまでにかかる時間は約124億年。
なので、私たちが見ている“SPT0418-47”は、宇宙が生まれてから14億年だった頃の姿ということになります。

これは、現在の宇宙の年齢“138億歳”のおよそ10%しか経っていない時代に相当し、生まれたばかりの銀河がまさに成長していく時代に当たります。

ただ、これらの銀河は大変遠くにあるので、地球上で最も強力な望遠鏡をもってしても、その詳しい様子を描き出すことは大変困難なことなんですねー

この難題に対する解決策として、研究チームが用いたのは重力レンズ効果でした。

恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力がレンズのような役割を果たすことで、曲げられたりする現象を重力レンズ効果といいます。
これにより遠くの銀河が大きく拡大され、アルマ望遠鏡の高い解像度と相まって、銀河の詳しい様子を調べることができたわけです。

重力レンズ効果を受けた銀河“SPT0418-47”の姿は、地球から見るとほぼ完全なリング状。
研究チームは、最新のコンピュータモデリングによって重力レンズ効果を注意深く補正することで、“SPT0418-047”の真の姿を再構築し、その中のガスの運動を調べています。


初期宇宙に存在する整った姿をしている銀河

銀河“SPT0418-47”の内部では、星が盛んに作られていて、とても活発な状態にありました。
それなのに、初期宇宙の銀河としては、これまでに見たこともないほど整った姿をしていたんですねー

この結果は、まったくの予想外で、銀河の進化を理解する上でとても重要な示唆を与えてくれそうです。

一方、“SPT0418-047”は円盤構造を持っていて、現在の宇宙に存在する渦巻銀河に似た特徴を示していました。
でも、その進化の先では、天の川銀河とは全く違う楕円銀河に進化するだろうと研究者たちは考えています。

今回の発見が示しているのは、「初期宇宙の銀河は、かき乱されて混とんとした状態にある。」という、これまでの推測が必ずしも正しくないということ。
また、秩序だった銀河が初期宇宙にどのように作られるのか? っという大きな疑問も提示することになりました。

アルマ望遠鏡の観測からは、2020年5月にも初期宇宙に存在する回転銀河が発見されています。

重力レンズ効果のおかげで、“SPT0418-047”の方が銀河内部のより詳しい状況を調べることができ、天の川銀河との類似性もより良く見出すことができました。

今後の研究で、これらの秩序だった赤ちゃん銀河が普遍的なものなのかどうかを調べることで、銀河進化研究の新たな扉を開くことができるはずです。


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