宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

目指すは“超新星背景ニュートリノ”の初観測! “スーパーカミオカンデ”が観測感度を向上。

2020年08月28日 | 宇宙 space
“超新星背景ニュートリノ”の世界初の観測を実現するため、“スーパーカミオカンデ”の観測感度が向上されました。
“スーパーカミオカンデ”は、岐阜県の神岡鉱山内の地下1000メートルに設置されている世界最大級のニュートリノ観測装置。
今回感度の向上を図るため、検出タンク内の純水にレアアースのガドリニウムを加えたそうです。


まだ検出されていない“超新星背景ニュートリノ”

今回の高度化を実施したのは、“スーパーカミオカンデ”を運営する中心機関“東京大学宇宙線研究所”のスーパーカミオカンデ共同研究グループ。

“スーパーカミオカンデ”は、岐阜県飛騨市神岡鉱山内の地下1000メートルに設置された、直径39.3メートル、全高41.1メートルの円筒型をしたタンクです。

その中に5万トンの純水が貯められていて、タンク内を通過したニュートリノが水分子と衝突した際に生じるニュートリノ現象(チェレンコフ光)を、壁に設置された約1万3000本の高感度光センサーがとらえるという仕組みをしています。
観測感度の向上が図られた“スーパーカミオカンデ”検出器。(Credit: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)
観測感度の向上が図られた“スーパーカミオカンデ”検出器。(Credit: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)
先代の“カミオカンデ”の後を引き継ぎ、“スーパーカミオカンデ”が実験をスタートさせたのは1996年のこと。
今では、東京大学宇宙線研究所の神岡宇宙素粒子研究施設を中心に、世界の49の大学や研究機関から約190名の研究者が参加する国際共同実験になっているんですねー

これまでの活躍としては、太陽ニュートリノや大気ニュートリノ、人工ニュートリノなどの観測。
なかでも、2015年の“ニュートリノ振動の発見”では大きな役割を果たしています。
東京大学の梶田隆章博士たちが“ニュートリノ振動の発見”の功績によりノーベル賞を受賞している。

でも、これまでのところ“スーパーカミオカンデ”も含めて、検出できていない“超新星背景ニュートリノ”というものがあります。

質量の大きい恒星は、一生を終えるときに超新星と呼ばれる大規模な爆発現象を起こします。
そのエネルギーの大半はニュートリノとして放出され、目に見える光の形で放出されているのは0.01%ほど…
なので、爆発の仕組みを明らかにするには、この超新星ニュートリノの観測を重ねていく必要があります。

また、現在の宇宙にある比較的重い元素は超新星爆発でできたと考えられていて、その解明のためにも超新星ニュートリノの観測が不可欠とされています。

ただ、距離的に観測しやすい天の川銀河内では、超新星爆発は30~50年に1度しか起きないと見積もられています。

そこで、重要になってくるのが、宇宙全体に存在しているはずの“超新星背景ニュートリノ”の検出です。

超新星爆発は、宇宙全体では毎秒数回の頻度で発生しているとされています。
そうすると、宇宙誕生から現在までの超新星爆発で放出されたニュートリノは、宇宙中に拡散、蓄積されていることになります。

それらが“超新星背景ニュートリノ”と呼ばれ、1秒間に手のひらを数千個が通過していると計算されているほど膨大なものと見積もられています。
過去の超新星爆発によるニュートリノ観測の概念図。上部の円筒が“スーパーカミオカンデ”を示す。(Credit: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)
過去の超新星爆発によるニュートリノ観測の概念図。上部の円筒が“スーパーカミオカンデ”を示す。(Credit: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)


“超新星背景ニュートリノ”は宇宙全体に存在しているはず

ただ、遠方からの超新星ニュートリノとなると、それだけ検出が難しくなり、高感度が必要とされます。

これまでも、年間に数回程度のニュートリノ反応が“スーパーカミオカンデ”のタンク内で起きていると考えられてきましたが、ノイズによる反応と判別がつかない状態でした。

そこで、今回感度の向上を図るため導入されたのがガドリニウムでした。

ランタノイドに含まれる原子番号64のレアアースがガドリニウムです。
全元素中でも中性子の捕獲能力が優れていることが知られていて、その能力は水に溶かした場合だと0.01%の濃度でも50%の確率で中性子を捕獲。
さらに、0.1%の濃度になれば90%の確率で捕獲できるとされています。

この特性を活かして、ノイズと“超新星背景ニュートリノ”の切り分けを試みようというわけです。

ガドリニウムに関しては、環境基準や排水基準などの法的な規制はなく、MRI検査の造影剤として使用されている他、日本の土壌中に3~7ppmの濃度で存在しているそうです。

ただ、一般的な河川にあまり存在しない物質なので、今回の改修では漏出など十分に配慮して取り扱うため、作業は2018年から開始されています。

そして、2019年末までに注水した水の純水化が進められた後、2020年2月までに新開発の硫酸ガドリニウム水の循環純化装置で処理する試験を実施。
その後、タンク内純水の透過率を元の純水装置と同レベルで保てることを確認しています。

さらに、7月14日~8月17日までの35日間にわたって、13トンの硫酸ガドリニウム八水和物(Gd2(SO4)3・8H20)を導入。
5万トンの純水に対する重量比は、0.026%の濃度でガドリニウム単体の濃度だと0.01%になるそうです。
反電子ニュートリノの反応と“スーパーカミオカンデ”のタンク内で発生する信号(チェレンコフ光)のイメージ。(Credit: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)
反電子ニュートリノの反応と“スーパーカミオカンデ”のタンク内で発生する信号(チェレンコフ光)のイメージ。(Credit: 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)
もちろん、太陽ニュートリノなど、これまでの観測を妨げないようにする必要もあります。
なので、開発された硫酸ガドリニウム八水和物は、極めて放射性不純物の少ないものになっています。

なお、今回のガドリニウムの導入で中性子の捕獲効率は50%に到達。
今後、数年かけて濃度をさらに上げていく予定で、7~8年の観測で“超新星背景ニュートリノ”の世界初観測を目指すようです。


こちらの記事もどうぞ



最新の画像もっと見る

コメントを投稿