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目指すは2021年の初打ち上げ! 小型スペースシャトル“ドリームチェイサー”の挑戦

2020年01月08日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
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シエラ・ネバダ社が開発を進めている有人宇宙船が“ドリーム・チェイサー”です。
小さいながらも翼を持っていて、スペースシャトルのように宇宙から滑走路に着陸し、何度も再使用できる有翼宇宙往還機。
2021年には、貨物輸送用の無人“ドリーム・チェイサー”の初打ち上げが行われるようです。


小型スペースシャトル“ドリーム・チェイサー”

“ドリーム・チェイサー”はシエラ・ネバダ社が開発している有翼宇宙往還機。
スペースシャトルのような翼を持ち、地球と宇宙を往復飛行でき、さらに15回以上の再使用ができる能力を持った小型シャトルです。

製造はロッキード・マーティンが担当し、社内にある特別開発チーム“スカンク・ワークス”が培ってきた技術が、活用されるそうです。

全長は約9メートル、翼の長さは約7メートルで、スペースシャトルの4分の1ほどという小ささ。
翼は空母艦載機のように折りたたむことができ、既存のロケットのフェアリングの中に収められて打ち上げられます。
有人宇宙船版の“ドリーム・チェイサー”はアトラスVロケットの先端にむき出しの状態で搭載される設計だった。

帰還時には翼を広げ、スペースシャトルが着陸していたケネディ宇宙センターのシャトル着陸施設(滑走路)に着陸することになります。
“ドリーム・チェイサー・カーゴ・システム”のイメージ図。(Credit: SNC)
“ドリーム・チェイサー・カーゴ・システム”のイメージ図。(Credit: SNC)
現在開発が進んでいるのは、“ドリーム・チェイサー・カーゴ・システム”と呼ばれる無人の補給船。
シャトル型の機体の後部には“カーゴ・モジュール”を持っていて、機体と“カーゴ・モジュール”を合わせると与圧物資を約5000キロ、非与圧物資を約500キロ、合計で約5500キロの物資を国際宇宙ステーションに運ぶことができます。

また、シャトル型の機体を活かして、約1750キロの物資を国際宇宙ステーションから地球に持ち帰ることもできます。

特に注目すべき点は、“ドリーム・チェイサー”は翼を使って大気圏内を滑空飛行し、滑走路に着陸することができること。
これにより、搭載物にかかる加速度は1.5Gと小さくなるので、壊れやすい物資なども安全に持ち帰ることができるんですねー
さらに、着陸後すぐに持ち帰った物資を取り出せるという特徴も持っています。

もちろん、国際宇宙ステーションからの物資回収は、スペースX社の“ドラゴン”補給船でも行えます。
でも、“ドラゴン”補給船はカプセル型なので加速度が大きく、また海に着水するため、“ドリーム・チェイサー”のこうした特徴は唯一無二のものになります。

なお、“カーゴ・モジュール”は使い捨てで、帰還時には国際宇宙ステーションで発生したゴミなどを搭載。
シャトルとの分離後には地球の大気圏に再突入し、ゴミと共に燃え尽きることになります。


有人宇宙船から無人補給船へ

国際宇宙ステーションへの物資輸送を行うため開発が進められている“ドリーム・チェイサー”。
もともとはNASAの「民間企業による有人宇宙船の実用化を支援」計画の下で、開発が進められていた宇宙船のひとつでした。

カプセル型宇宙船になるスペースX社の“ドラゴンV2”やボーイング社の“CST-100”とは異なり、スペースシャトルに似たリフティング・ボディを持つ“ドリーム・チェイサー”。
ベースになったのは、かつてNASAのラングレー研究所が国際宇宙ステーションからの緊急帰還用として開発を進めていた、“HL-20”という宇宙船でした。
“ドリーム・チェイサー”のイメージ図。(Credit: SNC)
“ドリーム・チェイサー”のイメージ図。(Credit: SNC)
“ドリーム・チェイサー”の源流は、1960年代のソ連で開発されていた実験機“BOR”にまでさかのぼることができます。
1986年になり、“BOR”とNASAなどがかねてより研究していた、胴体そのものが揚力を生む“リフティング・ボディ”機との融合が図られ、国際宇宙ステーションの脱出艇“HL-20”の開発を開始。
でも、1990年には資金難により開発は中止… 以来、“HL-20”の存在は長らく忘れ去られることになります。

2005年になり、スペースデブ社というベンチャー企業が“HL-20”の研究成果や試験機などを受け継ぎ“ドリーム・チェイサー”としてよみがえり、2008年にはスペースデブ社をシエラ・ネバダ社が買収して現在に至っています

このような経緯から分かるように、もともと“ドリーム・チェイサー”は有人宇宙船として開発されていて、シエラ・ネバダ社も当初は国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送用としてNASAに売り込んでいました。

地球低軌道まで7人の乗員が輸送でき、滑走路へ着陸できる上に、再使用も可能。
そして輸送能力の高さからも“ドリーム・チェイサー”は注目されていました。

実際にNASAからの発注が行われるまでには、ラウンド形式でいくつかの審査が行われています。
その最終候補まで残った“ドリーム・チェイサー”ですが、最終的にNASAがこの計画で選んだのはボーイング社とスペースX社。
ここで、小型のスペースシャトルが宇宙へ行くチャンスは途切れてしまうことに…

でも、シエラ・ネバダ社は諦めていませんでした。
“ドリーム・チェイサー”を貨物専用にした“ドリーム・チェイサー・カーゴ・システム”を発表するんですねー

この機体で、NASAによる国際宇宙ステーションへの貨物輸送を民間に委託する計画“商業輸送サービス2”の契約獲得を狙い、2016年見事に勝ち取ることになります。

一方、開発はやや遅れていて、2013年に実施されたヘリコプターを使った滑空試験飛行では着陸に失敗。
2013年10月の試験飛行では、順調に滑空飛行していたが左側の車輪が出ず着陸には失敗。左側の翼を擦る形で着陸している。2017年11月に実施された滑空試験飛行に成功している。
その後、設計が二転三転するなどして、当初2019年の打ち上げ予定が、2021年までズレています。
2017年11月に行われた2度目の滑空試験飛行。“ドリーム・チェイサー”はエドワーズ空軍基地滑走路22Lへの着陸を成功させている。(Credit: SNC)
2017年11月に行われた2度目の滑空試験飛行。“ドリーム・チェイサー”はエドワーズ空軍基地滑走路22Lへの着陸を成功させている。(Credit: SNC)


2021年の初打ち上げはULAの新型ロケット“ヴァルカン”

“商業輸送サービス2”の実施業者の一社として選ばれたシエラ・ネバダ社。
2019年以降から2024年にかけて、“ドリーム・チェイサー”を使い最低6回の補給ミッションを行うことが決まっています。

今回の発表によると、“ドリーム・チェイサー”は製造を今年後半に完了し、2021年には初打ち上げに向けて準備を進めることに。
なお、シエラ・ネバダ社では有人機版“ドリーム・チェイサー”の開発も継続していて、補給機版の実績や、今後の需要の変化などによって、宇宙飛行士を乗せて飛ぶ可能性もあるそうです。

一方、シエラ・ネバダ社はロケットを持っていません。
なので、打ち上げは他社に発注する必要があり、欧州や日本のJAXAのロケットも候補に挙がっていました。
シエラ・ネバダ社では、“ドリーム・チェイサー”は様々なロケットに搭載できる高い互換性があるとし、複数のロケットが候補に挙がっていた。スペースX社のファルコン9、欧州のアリアン5やアリアン6、日本のH2BやH3といったロケットにも搭載可能としている。

最終的に“ドリーム・チェイサー”の打ち上げは、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の次期ロケット“ヴァルカン”に決定。“ヴァルカン”は現在運用中のアトラスVやデルタIVの後継機になります。

“ヴァルカン”が選ばれた理由は、“ドリーム・チェイサー”計画における協力関係があったこと、そしてアトラスVやデルタIVが高い打ち上げ成功率やオンタイム打ち上げ率を持つなど、実績が豊富なことでした。
ユナイテッド・ローンチ・アライアンスは、ロッキード・マーティン社とボーイング社の合弁事業で、“ドリーム・チェイサー”の製造はロッキード・マーティン社が担当している。

打ち上げはケネディ宇宙センターから実施される予定で、“ヴァルカン”の開発が間に合わなかった場合にはアトラスVロケットを用いることになります。
“ドリーム・チェイサー”を搭載した“ヴァルカン・ロケット”のイメージ図。(Credit: SNC/ULA)
“ドリーム・チェイサー”を搭載した“ヴァルカン・ロケット”のイメージ図。(Credit: SNC/ULA)
“ヴァルカン”の初打ち上げは2021年の予定で、“ドリーム・チェイサー”が搭載されるのは2回目の打ち上げ。
NASAとの契約で定められている計6回の補給ミッションの打ち上げ全てを“ヴァルカン”が担うことになります。
(画像)
打ち上げ後の“ドリーム・チェイサー”は、滑空によりケネディ宇宙センターへ戻り着陸する予定です。

現在、シエラ・ネバダ社は“ドリーム・チェイサー”に合体させる4.6メートルのカーゴモジュール“シューティング・スター”や、8.2メートルの膨張モジュール“LIFE(Large Inflatable Fabric Environment)”の開発も進めているようです。

国際宇宙ステーションの緊急脱出艇から有人宇宙船を経て、無人補給船となって宇宙へ飛び立つことになった“ドリーム・チェイサー”。
運用までには、大気圏再突入や国際宇宙ステーションとのドッキングなど、まだまだ試験や開発が続くことになります。


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