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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

水星の動きから太陽を調べてみると…

2018年02月10日 | 太陽の観測
太陽は年を取るたびに質量が減り、徐々に重力が弱くなっていくので、
太陽系の惑星の軌道は広がりつつあるんですねー

今回はこの関係を利用して太陽を調べるお話し。

研究では水星の軌道の変化から、
太陽の質量の減少やその他のパラメータが直接計算されたようです。


太陽の内部構造を知る

水星が軌道上で最も太陽に近づく位置“近日点”は、
時間の経過と共に移動することが分かっています。

でも、その要因の大部分は他の惑星による重力で、
2番目に大きな影響は太陽の重力による時空の歪みなんですねー

  アインシュタインが発表した一般性相対理論は、
  この水星の動きを上手く説明できたことで説得力を増したそうです。


さらに、これら2つよりも影響は小さくなりますが、
太陽の内部構造やダイナミックスも水星の近日点移動に影響しています。

つまり、水星の動きを詳しく調べて他の影響の分を差し引けば、
太陽の内部構造などを知ることできるはずです。
○○○
太陽と水星。水星は太陽に近いので、太陽の重力などの影響を非常に受けやすい。


水星の軌道

今回の研究ではNASAゴダード宇宙センターのチームが、
水星の動きの観測をもとに太陽質量の減少を直接計測。

まず、水星の位置推算の精度を向上させるため、
NASAの水星探査機“メッセンジャー”の電波追跡データを利用します。
  探査機“メッセンジャー”、水星3000周回を達成
    

“メッセンジャー”は2008年と2009年に計3回の水星フライバイ(接近通過)を行い、
2011年3月から2015年4月まで水星の周回探査を行っています。
その際にとらえたデータを計測に用いているんですねー

データには水星の動きの微妙な変化が含まれています。この変化の値から逆算することで、
太陽の物理パラメータが水星の軌道に与える影響を調べることが出来るということです。
○○○
水星の動きのわずかな変化を分析して、
太陽そのものや、そのダイナミクスが惑星の軌道に及ぼす影響を調べている。


重力定数の安定性向上へ

この研究により、
いくつかの太陽パラメータを相対論的な効果から分離することが実現されています。
これは、位置推算データに基づいたこれまでの研究では達成できなかったことです。

探査機と水星の軌道を併行して扱うことで、
太陽内部の進化や相対論的効果などにまつわる不明点を、
一挙に解決する新しい手法を編み出しているんですねー

これまでの理論研究では、
100億年につき太陽質量の0.1%が失われると予測されていました。

これは惑星の軌道が1天文単位(約1.5億キロ)あたり、
年間で約1.5センチ太陽から遠ざかっていることを意味します。

一方、太陽質量が失われるスピードを、
理論でなく観測から見積もった今回の研究で求められたのは、
従来の理論よりも少し低い値でした。

太陽質量損失率の精度向上は重力定数の安定性向上にも貢献します。

  ただ、重力定数は決まった数値でだと考えられているのですが、
  本当に不変なのかどうかは物理学における根本的な問題になっている。


さらに重要な成果は、月の動きの研究から得られた値と比較して、
重力定数の安定性が10倍良くなっていること。

今回の研究成果を用いて、太陽系全体における惑星の軌道変化を測定すれば、
太陽と惑星の性質、宇宙の基本的な作用に関する発見が可能になるのかもしれませんね。

太陽から奇妙な放射線… 原因は裏側にあった

2017年03月15日 | 太陽の観測
地球からは見えない太陽の裏側で発生したフレア。

このフレアに伴うガンマ線が、NASAの宇宙望遠鏡の連携により、
太陽のこちら側で初めて観測されたんですねー

太陽フレアに伴って放出された物質が地球に飛来すると、
壮麗なオーロラが見られる一方で、人工衛星を損傷させたり、
電力網に大きな被害を与えたりすることもあります。

今回の観測結果からは、
太陽から大量の物質が噴出する現象の解明に役立つことが、
期待されるようです。


ガンマ線は太陽フレアでも発生する

太陽表面の活発な領域に蓄えられた磁気エネルギーが、
爆発的に放出される現象が太陽フレアです。

この爆発により加速された粒子は信じられないほど高速になり、
ごくわずかな間、太陽自体よりも強烈に輝きます。

そして、太陽フレアの発生に伴い、
ガンマ線が太陽の活動領域に近いところで生成すると考えられています。

ところが天文衛星“フェルミ”は、
観測できる範囲でフレアが発生していないときにも、
太陽からガンマ線が飛んでくるのをとらえていたんですねー
  ガンマ線は光の中で最もエネルギーが高く、
  ブラックホールや死にゆく星の爆発など、激しい天文現象に伴って放出されます。
  “フェルミ”は2008年に打ち上げられたガンマ線を観測するための天文衛星。


なぜ、このような事が起こるのでしょうか?

この疑問を解くため、
“フェルミ”と太陽観測衛星“STEREO”とを連携させた観測を実施。
  NASAが22か月ぶりに行方不明の太陽観測衛星を発見
    

2013年10月11日、2014年1月6日、
2014年9月1日の3回にわたり太陽表面の活動を観測し、
太陽の裏側で発生した太陽フレアが、
表側でガンマ線の放射を引き起こしていることを発見しています。

“フェルミ”は地球の周りを回っているので、
地球上の私たちと同じ方向から太陽を見ています。

一方、2機の“STEREO”は太陽の周りを回っているので、
その表面全体をはっきりと見ることができたのが理由でした。

この観測により、
太陽の裏側で発生したフレアに伴って放出された粒子が、
磁力線に沿って何十万キロも移動し、
太陽の表側でガンマ線の放射を急増させていることが分かりました。


太陽の裏側を観測する理由

太陽は自転しているので、
裏側にあった活動領域が、いずれは地球側に向くことになります。

また、太陽フレアでは、高速の荷電粒子の雲が宇宙空間に噴出する、
“コロナ質量放出”という現象が観測されることもあります。
  太陽風の玉突き事故? 大規模な磁気嵐が発生するメカニズム
    

この雲が広がって宇宙船や宇宙飛行士、惑星の表面に到達すると、
大きな被害が生じることもあるんですねー

なので、コロナ質量放出が地球を襲う時期を、
あらかじめ知ることができれば、地球上の人々が被害に備えることもできます。

それに、美しいオーロラが見られる時期も予測できるかもしれません。

太陽の観測は“フェルミ”の本来の目的ではないのですが、
この分野で大きな貢献が出来たのはすばらしいことです。

今回のミッションの価値と、宇宙望遠鏡の重要性が証明できたということですね。


こちらの記事もどうぞ
  太陽がもたらした強度“G4”の磁気嵐
    

NASAが22か月ぶりに行方不明の太陽観測衛星を発見

2016年09月10日 | 太陽の観測
2014年10月1日から行方不明になっていた太陽観測衛星“STEREO-B”が発見されたんですねー

宇宙では一度はぐれてしまうと二度と戻れないイメージがありますが、
どうやったんでしょうね。
観測を行う“STEREO-B”(イメージ図)

発見したのは、NASAの宇宙探査ミッション追跡ツール“ディープ・スペース・ネットワーク”。
24日の夜に22か月ぶりに“STEREO-B”からのシグナルをキャッチしました。


双子の衛星

“STEREO-B”は、太陽から地球へのエネルギーの流れを計測するため、
2006年10月に双子の相棒“STEREO-A”と2年間の探査ミッションに旅立ちました。

A(Ahead:前)とB(Behind:後)の名前が表すように、
“STEREO-A”は地球に先行するような位置で、“STEREO-B”は地球を追いかけるような位置から観測。
太陽フレアやコロナ質量放出などの現象を立体的にとらえてきました。

また、太陽の裏側を初めて観測できると期待されていたのですが、
途中で問題が発生してしまいます。
地球公転軌道から見た位置関係


行方不明になった原因は?

“STEREO-B”が地球から見て太陽の裏側に回り込むと、
その間の3か月は通信が途絶えてしまうことが分かりました。

このような現象が発生るのは、太陽から放出されるあらゆる周波数のシグナルが、
通信を邪魔する騒音源になってしまうからでした。

  通常の宇宙探査ミッションでは、太陽による電波障害は1日程度で終わる。

衛星は宇宙空間で2年間運用することだけを考えた設計になっていたので、
打ち上げの時にはその点をすっかり見落としていたんですねー


復旧の試み

“STEREO”は通信が途絶えると72時間後にリセットされます。

なので“STEREO”の運用チームは、
リセットの時間帯に地球との交信を確立するためのテストを行っています。

すると最初のリセット後、弱いシグナルが届くのですが、
それを最後に“STEREO-B”からの交信は途絶えてしまいます。

NASAの発表によると、このテストが失敗した原因は、
機体の回転速度を伝えるセンサーが壊れたことにあるようです。

制御不能になってしまった“STEREO-B”は、ソーラーパネルによる発電が十分に行えず、
起動に必要なエネルギーの確保が出来できない状態にあったというわけです。


どうやって発見したのか

通信が途絶えて以降、運用チームでは“ディープ・スペース・ネットワーク”を使って週3回、
それぞれ3時間のペースで“STEREO-B”の行方を探してきました。

なんせ、どこを探せばいいのか分からないので大変な作業だったようです。

やっとシグナルを探知したあと運用チームがまず行ったのは、
基幹機能のテストをしてからバッテリー節約のために電源を切っること。

今後はさらに回復範囲を広げ、計器が正常に作動するか確かめる予定なんですが、
回復までにはヘタをすると数年かかるかもしれないんですねー

ただ、2019年にはハッブル宇宙望遠鏡で観測し、回転速度をテストできるようになるそうですよ。


こちらの記事もどうぞ ⇒ 史上最速のコロナ


太陽表面の爆発やジェット噴出は、黒点の合体で発生していた

2015年10月18日 | 太陽の観測
太陽で黒点が作られる際に見られる小規模な爆発現象やジェット噴出。

これらの仕組みが、
太陽観測衛星のデータとコンピュータシミュレーションを合わせた研究から、
調べられました。

すると、明るく細長い構造“ライトブリッジ”と周辺の磁場構造が、
現象を引き起こしていることが分かってきたんですねー


黒点の合体

太陽の表面に見られる黒点は、
ときに大規模な爆発現象“太陽フレア”を起こすことがあり、
地球環境にも多大な影響を与えることがあります。

その形成・成長時に磁場が関わっているのですが、
どのような働きをするかについては謎が多いんですねー

また、複数の小さな黒点が合体して、
大きな黒点に成長することもあります。

その際、黒点の間に現れるのが“ライトブリッジ”と呼ばれる、
明るく細長い構造です。

この“ライトブリッジ”が現れると、太陽表面より上空で、
爆発現象やジェット噴出が繰り返し発生することがあります。

今回の研究では、
日本の太陽観測衛星“ひので”とNASAの太陽観測衛星“IRIS”を用いて、
太陽黒点の共同観測を実施。

さらに、スーパーコンピュータによる詳細なシミュレーションと組み合わせて、
  どのように小黒点が合体して黒点が作られるのか?
  なぜ小黒点の間で爆発やジェットが起こるのか?
という謎に迫っています。


衛星による太陽観測

“ひので”による高精度の太陽表面磁場観測から分かったことは、
接近する2つの小黒点には垂直に立った強い磁場が存在すること。

そして、この磁場に挟まれた“ライトブリッジ”には、
水平な弱い磁場が存在していることでした。

また、“IRIS”による“ライトブリッジ”の上空観測データからは、
突発的な爆発やジェット噴出が、磁力線のつなぎ替え“磁気リコネクション”により、
繰り返し発生していることも分かりました。
(左)“ひので”による形成中の黒点の観測。
合体しつつある小黒点(暗い部分)の間に“ライトブリッジ”が現れている。
(右)黒点形成シミュレーションの結果。
観測とよく似た“ライトブリッジ”が小黒点の間に形成されている。


シミュレーションによる解析

一方、シミュレーション結果の詳しい解析からは、
太陽表面で小黒点を形成する2つの垂直な磁束が、
黒点形成に伴って太陽内部で互いに接近していく際、
弱い水平磁場を持ったプラズマのかたまりを挟み込んでいる様子が、
明らかになります。

このプラズマのかたまりこそが“ライトブリッジ”になります。

つまり、黒点形成の際に見られる“ライトブリッジ”は、
強い垂直磁場を持った小黒点(太陽内部から浮上してきた磁束)が、
合体する時に、弱い水平磁場を持ったプラズマを挟み込むことによって、
作られる構造だったんですねー

小黒点が合体する際に“ライトブリッジ”が作られ、
“ライトブリッジ”の水平磁場と小黒点の強い垂直磁場とが繰り返し、
“磁気リコネクション”を起こすことにより、
“ライトブリッジ”の上空で爆発現象やジェット噴出が発生する。

今回の研究は、
太陽内部における磁場の発達、太陽表面における黒点の形成、
太陽上空における活動現象(爆発やジェットなど)の密接な関わりを、
観測とシミュレーションの両面から、
初めて3次元的に解明した画期的な成果になります。

近年では、太陽以外の恒星の黒点についても研究が盛んになっているので、
太陽黒点を理解する必要性は、ますます高まっています。

観測機器やコンピュータシミュレーションの向上と共に、
今後さらに黒点形成や活動現象のメカニズム解明が進むといいですね。


こちらの記事もどうぞ ⇒ “ひので”と“IRIS”がとらえた太陽コロナ加熱メカニズム

“ひので”と“IRIS”がとらえた太陽コロナ加熱メカニズム

2015年09月15日 | 太陽の観測
太陽コロナの中で、
波のエネルギーが熱エネルギーへと変換される過程が、
世界で初めてとらえられました。

この成果は、太陽観測衛星“ひので”と“IRIS”両機による共同観測と、
スーパーコンピュータ“アテルイ”による数値シミュレーションを、
組み合わせた研究によるもの。

コロナ加熱問題を解決する糸口となる過程で、
問題の解決に弾みがつくと期待されているんですねー


太陽の磁場がコロナを高温にする

太陽の表面温度は約6000度なんですが、
外側に広がる太陽大気コロナは、約100万度の高温ガスでできています。

どのようなメカニズムでコロナの高温が維持されているのか?

この疑問は“コロナ加熱問題”と呼ばれていて、
まだ解決できていないんですねー

ただ、磁場の強い場所から、
特に強いX線が放射されているという観測結果があるので、
“コロナ加熱問題”の謎を解くカギは、
太陽の磁場にあると推測されています。
3種類の太陽全面像。
黒点がある場所は磁場が強く、X線強度も高いことが分かる。


波のエネルギーから熱エネルギーへの変換

日本の太陽観測衛星“ひので”のこれまでの観測で、
磁力線を伝播する波動“アルベン波”がとらえられています。

そして、この波動“アルベン波”が、
太陽大気中に満ち溢れていることが明らかになっています。

“アルベン波”は、
コロナを高温に保つエネルギーを十分に持っているのですが、
高温を維持するには、
波のエネルギーが熱エネルギーに変換される必要があるんですねー

今回の研究では、エネルギーの変換過程を明らかにするため、
“ひので”とNASAの太陽観測衛星“IRIS”で観測したプロミネンスのデータを解析。

その結果、プロミネンスの温度が、
1万度から少なくとも10万度へ上がる様子が明らかになりました。

プロミネンスの多くが波動を伴っているので、
波動が加熱に寄与していることが示されたことになります。

また、“ひので”がとらえたプロミネンスを構成する磁力線の上下振動と、
“IRIS”がとらえた奥行き方向の運動を比較。

すると、振動の最上点と最下点で速度が最大になり、
中心では速度がゼロに…

「最上点と最下点で速度ゼロ、中心で速度最大」というような、
通常想定される振動パターンとは異なることも分かってきました。
“ひので”がとらえたプロミネンス。
囲み内はプロミネンスの動きで、
プロミネンスが最上点・最下点に達した時に奥行き速度が最大、
中心位置にあるときは速度ゼロであることが分かる。


共鳴吸収

この特異な動きの原因を明らかにするため、
国立天文台のスーパーコンピュータ“アテルイ”が用いられます。

そして、“アテルイ”による数値シミュレーションで再現されたのが、
“共鳴吸収”と呼ばれるメカニズム。

プロミネンスの振動エネルギーが、
プロミネンス表面の運動に変換される様子だったんですねー

プロミネンスの上下振動と、
表面の運動によって生じる乱流(無数の小さな渦)は、
波のエネルギーを熱エネルギーに変換させる上で、
非常に重要なものになります。

今回の研究では、共鳴吸収とそれに関する現象により、
プロミネンスの加熱や特異な振動パターンなど、
観測された特徴が矛盾なく説明できたと言えます。

“ひので”と“IRIS”の観測、
および“アテルイ”によるシミュレーションから、
波動の熱化現場を太陽コロナ中でとらえることに、
世界で始めて成功しました。

波のエネルギーから熱エネルギーへの変換過程を、
実証的に調べることが可能だと示した意義は大きく、
今後、波動によるコロナ加熱問題解明への研究が進むと期待されます。


こちらの記事もどうぞ。 ⇒ 電波で観測しても暗い、太陽の黒点