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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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太陽風の玉突き事故? 大規模な磁気嵐が発生するメカニズム

2015年08月18日 | 太陽の観測
今年の3月17日に発生した大規模な磁気嵐が、
どのような状況で起こったのか? が分かってきたんですねー

どうやら、太陽から噴き出した“コロナ質量放出”が、
地球へ到達するまでに、後方から高速太陽風の追い風を受け、
さらに前方に渋滞していた低速太陽風が巻き込まれるという、
「玉突き事故」のような状況が原因のようです。


小さなフレアが起こした最大規模の“磁気嵐”の謎

今年の3月17日のこと、過去10年で最大規模の磁気嵐が発生し、
北海道では、オーロラが11年ぶりに観測され話題になりました。

太陽で、高速プラズマ雲の放出“コロナ質量放出”が起こると、
数日後に、その“コロナ質量放出”が地球に到達して、
地磁気が一時的に弱まる現象“磁気嵐”が発生することがあります。

その“磁気嵐”の規模が大きくなると、
極域で見られるオーロラが活発になるだけでなく、
低緯度の地域でもオーロラが見られることがあります。

でも、3月17日の“コロナ質量放出”を起こした太陽フレアは、規模が小さなもの…

なので、“磁気嵐”の規模が巨大化した原因の解明が、待たれていたんですねー


“磁気嵐”を大きくしたのは太陽風による「玉突き事故」

今回の研究では、探査機によって直接観測された、
“コロナ質量放出”の磁場、速度、密度、温度を詳しく調べています。

その結果、この“コロナ質量放出”は平均的なものと比べて、
密度が濃く、温度が高いという特徴を持っていることが分かります。

これは、“コロナ質量放出”の後ろ側から、
追い風のように吹き付けている高速太陽風によって、
“コロナ質量放出”の膨張が妨げられていたためだと考えられています。

太陽風の玉突き事故(右:2015年3月17日)。
玉突きにならなかった場合(左:2006年12月13日)と比べて、
後方から高速風の追い風を受け、前方の渋滞した低速風を巻き込んでいる。

そして、磁気流体力学シミュレーションにより、
“コロナ質量放出”が太陽から地球まで伝わる様子を再現してみると、
高速と低速の太陽風に挟まれた“コロナ質量放出”の立体的な全体像が、
明らかになります。

さらに、観測された太陽風のデータを元にしたモデル計算からは、
玉突き事故のようにして、全体的に太陽風の密度が濃くなったので、
“磁気嵐”の規模が約5割増強されたことも明らかになりました。
次期流体シミュレーションによる太陽風スピードの赤道断面図と、南北断面図の動画。
中心が太陽、X=1のところにある白い点が地球、色はスピードを、矢印は磁場の方向を表す。
右図での南(下)のほうへ広く噴き出す高速風(赤い部分)の追い風を受けながら、
地球の周りの低速風(青と水色の接触面)を押し潰していく様子が分かる。

大規模な“磁気嵐”は、地上の送電設備や人工衛星へ障害を与えるなど、
私たちの生活とも密接に関連してきます。

なので、小さな太陽フレアでも、
大きな“磁気嵐”が起こるという今回の教訓は、
ひじょうに重要なことになるんですねー

この研究によって、
実際に“磁気嵐”が巨大化する具体的な仕組みも明らかにすることができ、
これまでのように、大きな太陽フレアの発生時に、
太陽面の観測から“コロナ質量放出”の磁場のねじれを計算するだけでは、
“磁気嵐”の規模の予測には不十分だと分かりました。

磁気流体力学シミュレーションによって、
高速風、低速風、“コロナ質量放出”の全体像を把握し、
それらのダイナミックな変化を正確に追跡すること。

これにより、大規模な“磁気嵐”を逃さずに予測することが可能になるんですね。


こちらの記事もどうぞ
  “アイリス”がとらえた、迫力のコロナ大量放出
  太陽がもたらした強度“G4”の磁気嵐

電波で観測しても暗い、太陽の黒点

2015年07月09日 | 太陽の観測
野辺山45メートル電波望遠鏡を使った太陽観測で、
ミリ波で見た太陽黒点の中心部が、周囲より暗い“黒い点”であること分かったんですねー

太陽観測衛星“SDO”で観測した紫外線での太陽像に、
野辺山45メートル電波望遠鏡で観測した電波の明るさを、
等高線で重ねた図。
紫から赤になるにつれて電波で明るくなり、
緑の領域が太陽の平均的な明るさを示す。

太陽の大気状態

太陽表面の黒点には、地球の1万倍も強い磁場が存在しています。

その磁気圧の影響で太陽表面の対流層が妨げられて、
温度が低くなってしまうことに… 黒点が黒く見えるのはこのためです。

このことは当然のように思えるのですが、
当然なのは可視光線で見える光球だけのことなんですねー

いっぽう太陽を電波の一種であるミリ波で観測してみると、
彩層と呼ばれる光球面より上空の大気が見えてきます。

彩層における磁場の広がりや、
その影響を受ける大気の温度、密度構造は、
まだ、よく分かっていません。

でも、明るさが大気の構造に左右されるミリ波で観測すれば、
大気状態を推測する重要な指標になります。

ただ、ミリ波で黒点を空間的に分解できるような高感度の大型電波望遠鏡は、
太陽の強い電波を観測するのに向いていないんですねー

なので、これまで電波望遠鏡による太陽観測例は、
あまり行われてきませんでした。


ミリ波で太陽を見る

そこで国立天文台を中心とする共同研究グループは、
電波の特性を変えずに強度だけを減衰させる、特殊な装置を独自で開発。

これを長野県にある野辺山45メートル電波望遠鏡に取り付け、
ミリ波での太陽黒点観測を試みます。

黒点は、プラージュと呼ばれる明るい領域に囲まれていて、
電波でもプラージュに対応する領域は明るく見ます。

一方、今回の観測によって、
黒点中心は明るいプラージュ領域よりは暗く、
周辺の静穏領域と同程度の明るさであることが分かったんですねー
太陽黒点の中心は、ミリ波でも暗い領域ということです。
黒点領域の拡大図。


太陽黒点は暗かった

これまでに提案された数々の太陽黒点モデルでは、
黒点領域はミリ波だと、明るく見えると予測されてきました。

でも、今回の成果は正反対になり、
ミリ波が放射される彩層のモデルが、
間違っている可能性を示すことになりました。

従来の彩層モデルは、
紫外線や可視光線の観測データに基づき構築されてきたのですが、
彩層の大気の状態は不安定なため、高度な観測と理論が必要でした。

電波は、彩層大気の状態の影響を受けにくい性質があります。

なので観測さえできれば、
彩層大気の状態を、より安定的に導くことが出来るんですねー

「太陽の彩層大気を診断する、新しい手法をもたらした」
という点では、今回の成果は注目すべきものらしいですよ。


こちらの記事もどうぞ ⇒ 地球を脅かす太陽の巨大黒点

NASAの太陽探査機は、重くはないけどデルタIVヘビーで打ち上げ

2015年05月06日 | 太陽の観測
NASAの太陽探査機“ソーラー・プローブ・プラス”を打ち上げるロケットとして、
ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社のデルタIVヘビーが選定されました。

打ち上げは2018年の予定で、
“ソーラー・プローブ・プラス”が太陽へ最接近したときの速度は、
秒速200キロに… これは人類史上最速のスピードになるんですねー

“ソーラー・プローブ・プラス”は、
NASAとジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所が、
開発を進めている太陽探査機。
太陽の観測を行うことを目的にしています。

太陽の熱に耐えるため、
また太陽コロナの中を突っ切ることになるので、
そのガスとの衝突にも耐える必要があるんですねー

なので機体の前面には、
炭素繊維強化炭素複合材料を用いた太陽シールドが装備されています。

投入される軌道は、太陽の光球に最も近い点が約600万キロ、
遠い点が約1億キロの楕円軌道で、最大速度は秒速200キロにも達し、
人類史上最速の機械になります。

ミッション期間は7年が予定されていて、
その間に太陽の周りを24周することになります。


一方、デルタIVヘビーは、
地球低軌道に約20トン、静止トランスファー軌道へ約13トンの衛星を運ぶことが可能。
現在世界で運用されているロケットの中で、最も強力な打ち上げ能力を持ちます。

その外見も、デルタIVロケットの第1段を、その両脇にさらに1基ずつ装備させ、
計3基の第1段が並んで飛んでいくという、見た目からして豪快なものなんですねー
デルタIVヘビーは、
主に国家偵察局が運用する「大型で重い偵察衛星」などの打ち上げに使われているのですが、
“ソーラー・プローブ・プラス”の重さは、わずか610キロほど…

にもかかわらず、デルタIVヘビーが使われるのは、
太陽に向かうためには、莫大なエネルギーが必要になるからです。

ロケットの第3段に装備された、
スター48という固体ロケットが太陽までの旅を支援するのですが、
“ソーラー・プローブ・プラス”自身も、
7回も金星フライバイを行って、やっと太陽へ到着することが可能になります。

打ち上げは、2018年7月31日に予定されていて、
打ち上げに可能な期間は20日が確保されています。
最初に太陽に接近するのは、2024年12月19日になるそうですよ。

太陽がもたらした強度“G4”の磁気嵐

2015年04月18日 | 太陽の観測
2013年にアラスカで観測されたオーロラ。
17日に太陽嵐の影響で中緯度地域でもオーロラが出現。

3月17日に強力な太陽嵐が発生しました。

きっかけは、コロナ質量放出と呼ばれる、
太陽から荷電粒子が外へ噴き出す爆発現象が、2度にわたって起きたこと。

その爆発が猛烈な磁気嵐を発生させたんですねー


太陽嵐は“太陽の津波”とも言える現象です。

今回は2度の爆発が1つの巨大な塊となって、太陽から地球まで1億5000万キロの距離を移動。
そして日本時間の18日午後1時30分に、地球を取り囲む磁気圏に入りました。

磁気圏が乱れて発生した磁気嵐は、アメリカ海洋大気庁のNOAAスケールレベル“G4”とされ、
2013年秋の太陽嵐以来、最も強いものになったんですねー

NOAAによると、
磁気嵐の強度は、G1(小さな)からG5(極端に大きな)までのレベルがあり、
今回のG4は、G5に次ぐ強さになります。

このような現象は、
太陽活動の周期11年の間に、100回ほど発生するとされています。
太陽は膨大なエネルギーや荷電粒子を宇宙空間へ放出するが、
地球は磁場により太陽嵐の影響から守られている。

影響としては、
まず、電力網に障害をもたらす可能性があります。

実際、過去にはそうした障害が生じたことも…
1989年3月、強力な磁気嵐によりカナダのケベック全州の電力網が遮断され、
市民が12時間にわたる停電を経験しています。

地球の電離圏は太陽嵐の影響を強く受け、
嵐のピーク時には、イオン密度が高くなります。

なので電離圏を移動する低軌道衛星に、重大な支障が出る可能性もあります。

ただ、国際宇宙ステーションの宇宙飛行士には、危険はないんだとか。

テレビ信号にも影響はないのですが、
強度によってはGPSデータの受信が阻害されたり、
GPS機能の精度やスマートフォンの使用に問題が生じる場合もあり、
アマチュア無線の信号は、電離層で反射させて遠距離通信を行うので、
影響を受ける場合もあるようです。

そして磁気嵐の発生時には、
通常よりも低い緯度にオーロラが出現することが多いんですねー

今回は、
17日の夜明け前にアラスカ州、ワシントン州、ミネソタ州、ウィスコンシン州、
ノースダコタ州およびサウスダコタ州でオーロラが観測されたそうですよ。
日本時間18日午後10時58分から観測された強い磁気嵐により、
オーロラの発生が期待された。
図はオーロラの観測が予測される場所。



こちらの記事もどうぞ ⇒ 一度打ち切られた計画が復活? 衛星“DSCOVR”の打ち上げが成功。

太陽の磁力線の可視化に成功。

2015年01月29日 | 太陽の観測
太陽の上層大気(コロナ)の中では、
プラズマ粒子と磁場との相互作用で、フレアなどの爆発現象が発生しています。

でも、コロナの磁場は弱く大気も不安定なので観測が難しく、
その計測については、太陽表面の磁場からの推定に留まっていました。

今回の研究では、
国立天文台野辺山の電波へリオグラフを用いた観測で、コロナの磁場を直接導き出すことを試みたんですねー

コロナ中のプラズマ粒子は、
磁力線を中心に円運動し、
それが電波の通りやすさのムラ(波の振動方向の偏り)を作ります。

電波へリオグラフでは、
太陽の爆発現象にともなう磁場ループ(ポストフレアループ)を観測し、
その円偏波データから、視線方向の磁場を求めています。

地球近傍にいる衛星“SDO”が、EUVで観測したポストフレアループの磁場。
赤の等高線は、電波へリオグラフで見た視線方向の磁場。

さらに、NASAの太陽観測衛星“SDO”や“STEREO”による極端紫外線(EUV)観測で、
同一のループの立体的な形状や向きを把握。

これらのデータを照らし合わせることで、コロナの磁場と方向の両方を導き出しました。

電波観測からコロナの磁場や、
その向きが同時に得られたのは今回が初めて。

今後、磁場の情報が不可欠なフレアなどの研究に役立つと期待されているんですねー

衛星“STEREO”が地球軌道上の異なる位置から違う角度で見た、
同上のポストフレアループ。