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銀河円盤内で地震のように垂直に運動する振動波を検出! ガスの流入により活発に星を作る銀河のダイナミックな成長

2024年01月06日 | 銀河・銀河団
今回の研究では、南米チリにある“アルマ望遠鏡”を用いて、宇宙が現在の年齢のわずか10%だった頃に存在する活発に星を作っている銀河“BRI1355-0417”を観測。
銀河“BRI1355-0417”内の細かなガスの動きを調べ、銀河の平坦な円盤構造に地震のように垂直に運動する振動波(銀震)が形成されていることを明らかにしています。

この振動運動は、外部から新たなガスが銀河に流入するか、他の小さな銀河との衝突によって生じると考えられます。

どちらの場合もガスが円盤に流れ込み、星形成の原材料になります。
この発見が示しているのは、ガスの流入により活発に星を作り、姿を変えている銀河のダイナミックな成長。
宇宙初期の銀河成長の理解の手掛かりになります。
この研究は、オーストラリア国立大学の津久井崇史さんが率いる国際研究チームが進め、研究成果は2023年12月22日にオーストラリア国立大学他からプレスリリースされたものです。
詳しくは、オーストラリア国立大学のプレスリリース(英語)をご覧ください。
https://reporter.anu.edu.au/all-stories/astronomers-detect-seismic-ripples-in-ancient-galactic-disk
この研究成果は、Takafumi Tsukui et al. “Detecting a disk bending wave in a barred-spiral galaxy at redshift 4.4”として、2023年12月22日に英国の査読付き論文誌“Monthly Notices of the Royal Astronomical Society”に掲載されました。


星の材料は銀河にどのようにして供給されているのか

宇宙初期の銀河は、現在の銀河と比べて星を形成する速度がはるかに高いことが知られています。
なかでも、天の川銀河と同程度の質量を持つ銀河“BRI1335-0417”は、星形成毒度が数百倍にも達しています。

この高い星形成率を実現するために、星の材料であるガスはどのように銀河に供給されているのでしょうか?

このプロセスを理解するためのカギは、銀河内のガスの動きや分布を解明することにあります。

電波観測では、光のドップラー効果によって、私たちの方へ動いているガスが発する電波(光の一種)の波長は短く(青く)なり、遠ざかるガスからの電波の波長は長く(赤く)なります。
なので、この波長の変化量を測定することで、銀河の中でのガスの動きを知ることができます。


銀河円盤を伝わる地震波現象

これまで、望遠鏡の感度の限界により、宇宙初期の遠方銀河でのガスの運動を詳細に測定することは、一部の銀河でしか出来ていませんでした。

そこで、今回の観測では、高感度、高分解能のアルマ望遠鏡(※1)を使用。
赤外線で非常に明るい遠方銀河の一つである“BRI1335-0417”において、近傍の銀河と同程度の詳細さで(銀河内のおよそ70の異なる場所で)ガスの運動を調べることに成功しています。
※1.日本を含む22の国と地域が協力して、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。人間の目には見えない波長数ミリメートルの“ミリ波”やそれより波長の短い“サブミリ波”の電波を観測する。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡として観測することができる。
研究では、“BRI1335-0417”の極めて質の高いガスの運動速度データから、銀河円盤の大局的な回転運動を差し引くことで、細かいスケールでの微弱な運動を分析。
その結果、細かいスケールでのガスの速度が渦巻状のパターンを示し、ガスの分析が示す渦巻状のパターンと一致しました。(図1)

これらの特徴は、数値シミュレーションで調べられた銀河円盤を伝わる地震波現象と一致していて、ガスや、他の小さな銀河が円盤に激しく衝突していることを示唆していました。

回転速度は速度差が大きく、空間スケールが大きいので比較的測定が容易です。
でも、地震波のような速度差が小さく、空間スケールが小さい運動の測定は困難になります。
今回、遠方銀河で測定されたのは初めてのことでした。
図1.(左)“BRI1335-0417”のガス分布、(中)円盤に伝わる地震波による小さいスケールのガス運動。青い領域は私たちの方向に近づく運動、赤い領域は遠ざかる運動を示している。黒線は渦巻状のパターンを示している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Tsukui et al.)<br>
(右)似た分布と運動が地震波を再現した数値シミュレーションで見られる。赤い領域は観測領域と同じサイズを示している。(Credit: Bland-Hawthorn and Tepper-Garcia 2021)
図1.(左)“BRI1335-0417”のガス分布、(中)円盤に伝わる地震波による小さいスケールのガス運動。青い領域は私たちの方向に近づく運動、赤い領域は遠ざかる運動を示している。黒線は渦巻状のパターンを示している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Tsukui et al.)
(右)似た分布と運動が地震波を再現した数値シミュレーションで見られる。赤い領域は観測領域と同じサイズを示している。(Credit: Bland-Hawthorn and Tepper-Garcia 2021)


銀河円盤に存在する棒構造

さらに、ガス分布を調べてみると、円盤に棒状の構造が存在することが判明しました。

星形成が活発な銀河の半数以上に円盤構造があり、そのような銀河は円盤銀河と呼ばれています。
円盤銀河には2種類あり、それが渦巻銀河と棒渦巻銀河になります。

渦巻銀河は、図1(左)のように、文字通り渦を巻いた構造(渦巻腕と呼ばれる)が見られる銀河。
棒渦巻銀河は、渦巻銀河と似ていますが図1(右)のように、中心を貫く棒構造が見られるのが特徴です。
図2.(左)渦巻銀河“M51”と(右)棒渦巻銀河“NGC 1300”。(Credit: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Knezek (WIYN))
図2.(左)渦巻銀河“M51”と(右)棒渦巻銀河“NGC 1300”。(Credit: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Knezek (WIYN))
棒状の構造は、私たちの天の川銀河など一部の銀河に見られ、銀河内のガスを撹乱し中心へと運ぶ役割を果たします。

“BRI1335-0417”で発見された棒状構造は、これまで知られている中で最も遠いもの。
また、この銀河は、知られている中で最も遠い渦巻銀河でもあります。

全銀河に占める棒渦巻銀河の割合は、近い宇宙では約65%と多数派ですが、遠い宇宙では約20%まで低下しています。

宇宙は遠くを観測するほど古い時代を観測するのに等しいので、棒渦巻銀河は時間をかけて複雑な構造が形成されたことを示唆しています。


銀河における棒状構造と渦巻構造の起源

宇宙初期における渦巻銀河は珍しく、その正確な形成シナリオは未だに不明です。

でも、今回の研究成果が強く示唆しているのは、この渦巻構造が円盤内の垂直地震波と一致し、同じガスや他の銀河の降着イベントが、この渦巻構造を作り出したことです。
これらの結果は、初期銀河における渦巻構造の形成シナリオに関する新たな手掛かりとなります。

銀河における棒状構造と渦巻構造の起源は、宇宙の謎の一つであり、最近打ち上げられたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡もその解明に向けた探求を行っています。

星の分布や運動を取得できるジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(※2)は、星の材料となるガスを調べることが出来るアルマ望遠鏡のデータと組み合わせることで、“BRI1335-0417”のような初期の渦巻銀河の形成過程のさらなる理解の一助となるかもしれません。
※2.ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが中心になって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用宇宙望遠鏡。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、2021年12月25日に打ち上げられ、地球から見て太陽とは反対側150万キロの位置にある太陽―地球間のラグランジュ点の1つの投入され、ヨーロッパ宇宙機関と共同で運用されている。名称はNASAの第2代長官ジェームズ・E・ウェッブにちなんで命名された。
銀河円盤内で地震波が形成される現象の理解には、今後も多くの研究が必要になります。

私たちの住む天の川銀河内の18億個もの星の正確な位置と動きを測定することが出来るヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”(※3)は、最近天の川銀河円盤の垂直方向の震度を明らかにしました。
※3.“ガイア”は、ヨーロッパ宇宙機関が2013年12月に打ち上げ運用する位置天文衛星。可視光線の波長帯で観測を行い、10憶個以上の天の川銀河の恒星の位置と速度を三角測量の原理に基づいて測定する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡。測定精度は10マイクロ秒角(1度の1/60の1/60の1/10マンの角度)であり、これは地球から月面の1円玉を数えられる精度。
この観測結果を理解するために行われたシミュレーション(図2)は、円盤垂直波とそれに伴う渦巻構造を示しています。

このシミュレーションモデルは今回の研究の観測の特徴とよく似ていて、観測データの解釈において重要な役割を果たしました。

銀河の時間進化を観測することは不可能ですが、物理法則と観測の両方に基づくコンピュータシミュレーションは、これらの現象の正確な起源と進化の解明に役立つかもしれません。
図3.Bland-Hawthorn and Tepper-Garciaによる円盤銀河のコンピュータシミュレーション。円盤が近くにある小さな銀河によって乱され、銀河円盤が垂直に振動する“銀震”が伝わる様子が見られる。(Credit: Bland-Hawthorn and Tepper-Garcia, University of Sydney)
図3.Bland-Hawthorn and Tepper-Garciaによる円盤銀河のコンピュータシミュレーション。円盤が近くにある小さな銀河によって乱され、銀河円盤が垂直に振動する“銀震”が伝わる様子が見られる。(Credit: Bland-Hawthorn and Tepper-Garcia, University of Sydney)


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天の川銀河を公転している銀河の中で最も暗い矮小銀河を発見! この小さな銀河には大量の暗黒物質が含まれているようです

2024年01月02日 | 銀河・銀河団
銀河全体の恒星の数や質量などを正確に測定するには、暗くて見えにくい恒星の集団も見つける必要があります。
このような恒星の集団の多くは、本体の銀河を中心に公転している“伴銀河”の中に存在しています。

今回の研究では、紫外近赤外光学北方サーベイ(UNIONS; Ultraviolet Near Infrared Optical Northern Survey)のデータから、天の川銀河の伴銀河“おおぐま座矮小銀河III”を発見しています。

分かってきた“おおぐま座矮小銀河III”の明るさは絶対等級で2.2等級。
これは知られている中で最も暗い天の川銀河の伴銀河になるようです。
この研究は、ビクトリア大学のSimon E. T. Smithさんたちの研究チームが進めています。
図1.“おおぐま座矮小銀河III”を中心とした恒星の分布図。点線の楕円は、全体の明るさの50%で定義される銀河の半径の2倍、4倍、6倍の範囲を示している。“おおぐま座矮小銀河III”は、一番小さな楕円の範囲内、青い点が密集しているエリアになる。(Credit: Simon E. T. Smith, et al.)
図1.“おおぐま座矮小銀河III”を中心とした恒星の分布図。点線の楕円は、全体の明るさの50%で定義される銀河の半径の2倍、4倍、6倍の範囲を示している。“おおぐま座矮小銀河III”は、一番小さな楕円の範囲内、青い点が密集しているエリアになる。(Credit: Simon E. T. Smith, et al.)


天の川銀河の周囲を公転するたくさんの銀河

銀河というと、多数の恒星が属する1つの集団を思い浮かべますよね。
でも、実際の銀河の周囲には、大小2つのマゼラン雲のように、銀河本体から離れた場所にも恒星の集団が多数存在しています。

このような恒星の集団は伴銀河(衛星銀河ともいう)と呼ばれ、重力の相互作用により、より大きな銀河の周囲を公転する銀河になります。
サイズが小さいことから、伴銀河のほとんどは矮小銀河に分類されます。

伴銀河の1つ1つは、本体の銀河と比べると質量も恒星の数も少ない矮小銀河です。
でも、伴銀河の数はたくさんあるので、それらを合計した場合の影響をを無視することはできないんですねー

これまでに天の川銀河で見つかっている伴銀河の数は50個以上もあります。
ただ、その数は理論的な予想よりも一桁以上少なく、またその空間分布は等方的ではなく偏りがありました。

一方、伴銀河の問題が普遍的なものなのか、それとも天の川銀河に特有の問題なのかは明らかになっていません。
なので、この問題を明らかにするには、天の川銀河の伴銀河をたくさん調べることが重要といえます。

でも、伴銀河の1つ1つは暗いうえに、明るい銀河のすぐ近くにあるので観測は困難になります。


知られている中で最も暗い伴銀河を発見

今回の研究では、北半球の掃天観測データをまとめた“UNIONS”のデータを分析しています。

“UNIONS”は、“カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(Canada-France-Hawaii Telescope:CFHT)”と“パンスターズ(Pan-STARRS)”といった、アメリカのハワイ州に設置された望遠鏡のデータをまとめていて、主に天の川銀河の構造を調査する目的で使用されています。

研究では、おおぐま座の方向に恒星が密集したエリアを発見。
ただ、これが真に重力的に結合した恒星の集団なのか、それともたまたま見た目の恒星密度が高いだけなのかが分かりませんでした。

そこで、同じくハワイ州に設置された“W・M・ケック天文台”の望遠鏡やヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”の観測データから、恒星の運動方向や速度を推定。
その結果、恒星の運動方向や速度が一致していることが分かり、これが真に重力的に結合した恒星の集団であることが明らかになりました。
図2.スローン・デジタル・スカイサーベイの画像における“おおぐま座矮小銀河III”の位置。この画像の通り視覚的に分かるような存在ではなかったので、恒星の運動方向など別の手段を使うことで恒星の集団を見つけることができた。(Credit: SDSS)
図2.スローン・デジタル・スカイサーベイの画像における“おおぐま座矮小銀河III”の位置。この画像の通り視覚的に分かるような存在ではなかったので、恒星の運動方向など別の手段を使うことで恒星の集団を見つけることができた。(Credit: SDSS)
この恒星の集団は、おおぐま座の方向で発見された3番目の矮小銀河なので“おおぐま座矮小銀河III”と命名され、またUNIONSのデータから発見された初めての伴銀河ということもあり“UNIONS 1”とも呼ばれています。

“おおぐま座矮小銀河III”は非常に小さな伴銀河であり、直径は約20光年(全体の明るさの50%の範囲)、恒星の数はわずか50~60個程度(57 +21 -19個)、総質量は太陽の約16倍と推定されています。

このため、“おおぐま座矮小銀河III”の絶対等級は2.2等級となり、知られている中で最も暗い伴銀河になります。
太陽から“おおぐま座矮小銀河III”までの距離は約3万3000光年と推定されているので、見かけの等級は17.2等級と極めて暗い天体ということになります。

“おおぐま座矮小銀河III”が公転しているのは、天の川銀河の中心から最も近いときで約4万2000光年、最も遠いときで約8万5000光年離れた楕円軌道。
中心から約5万5000光年の位置で銀河円盤を通過していると推定されています。

また、“おおぐま座矮小銀河III”は形成から少なくとも110億年経っていて、所属する恒星は金属量(重い元素)が少ないと推定されます。

この性質は、“おおぐま座矮小銀河III”が天の川銀河の外側を薄く広く取り巻く“ハロー”を起源とすることを示唆しています。


“おおぐま座矮小銀河III”には大量の暗黒物質が含まれている

“おおぐま座矮小銀河III”のような見えにくい矮小銀河の発見は、見えない物質である暗黒物質“ダークマター”の量を推定する研究にも制約を課します。

暗黒物質は、光などの電磁波では観測することができず、重力を介してのみ間接的に存在を知ることができる正体不明の物質です。

研究チームによる別の論文では、“おおぐま座矮小銀河III”に暗黒物質が無いとすると、天の川銀河からの潮汐力で分解されてしまうので、わずか4億年程度で消えてしまうと推定していました。

この推定は、少なくとも110億年という“おおぐま座矮小銀河III”の推定年齢とは大幅にズレているものです。
このことから、“おおぐま座矮小銀河III”には大量の暗黒物質が含まれていることになります。

暗黒物質は今でも正体不明の謎の物質です。
でも、候補の1つとして、非常に重い粒子でできているという可能性が考えられています。

その場合、その粒子の崩壊によるガンマ線が放出されている可能性があります。

そこで、ストックホルム大学のMilena CrnogorčevićさんとTim Lindenさんの研究チームは、NASAのガンマ線天文衛星“フェルミ”による15年分のデータを調査。
そのような重い粒子の崩壊で生じたガンマ線が無いかを調べています。

調査の結果、過剰なガンマ線放射は見つからず…
このデータが示唆していたのは、暗黒物質の正体が運動エネルギーが高く、かつ重い粒子であるとしても(熱いWINP)、粒子の質量は1~4TeV(1~4兆電子ボルト/1~7×10のマイナス24乗kg)ではないことでした。

これは暗黒物質の正体を探る上で、候補を除外するデータの1つになります。

“おおぐま座矮小銀河III”は発見されたばかりの伴銀河です。
このため、発見報告やそれを元にした研究のいずれの論文も査読前のプレプリントの状態です。

“おおぐま座矮小銀河III”に関する各種データが正しいかどうかを確かめたり、より精度の高いデータを取得するには、さらなる追加観測が必要になりますね。


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誕生から約21億年しか経っていない時代の宇宙に棒渦巻銀河を発見! 銀河には考えられていたより数倍も速い形成過程があるのかも

2023年12月30日 | 銀河・銀河団
天の川銀河の中心部は、恒星が棒状に集まった構造をしています。
このような構造を持つ銀河は“棒渦巻銀河”と呼ばれています。

シミュレーションによると、棒渦巻銀河の形成には数十億年かかると考えらています。

ただ、今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測データから、誕生から約21億年しか経っていない時代の宇宙に、棒渦巻銀河“ceers-2112”を発見しているんですねー

分析から分かってきたのは、“ceers-2112”が10億年以内に棒渦巻銀河になった可能性があることでした。
これは棒渦巻銀河に留まらず、様々な銀河の構造形成過程の理論を書き換える可能性のある発見になるようです。
この研究は、スペイン宇宙生物学センター(CAB)のLuca Costantinさんたちの研究チームが進めています。
図1.天の川銀河との類似性を連想させる“ceers-2112”のイメージ図。(Credit: Luca Costantin (CAB & CSIC-INTA))
図1.天の川銀河との類似性を連想させる“ceers-2112”のイメージ図。(Credit: Luca Costantin (CAB & CSIC-INTA))


棒渦巻銀河の複雑な構造は時間をかけて形成されている

星形成が活発な銀河の半数以上に円盤構造があり、そのような銀河は円盤銀河と呼ばれています。

さらに、円盤銀河には2種類あり、それが渦巻銀河と棒渦巻銀河になります。

渦巻銀河は、図1(左)のように、文字通り渦を巻いた構造(渦巻腕と呼ばれる)が見られる銀河。
棒渦巻銀河は、渦巻銀河と似ていますが図1(右)のように、中心を貫く棒構造が見られるのが特徴です。

私たちが住んでいる地球のある天の川銀河も棒渦巻銀河と考えられています。
図2.(左)渦巻銀河“M51”と(右)棒渦巻銀河“NGC 1300”。(Credit: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Knezek (WIYN))
図2.(左)渦巻銀河“M51”と(右)棒渦巻銀河“NGC 1300”。(Credit: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Knezek (WIYN))
全銀河に占める棒渦巻銀河の割合は、近い宇宙では約65%と多数派ですが、遠い宇宙では約20%まで低下しています。

宇宙は遠くを観測するほど古い時代を観測するのに等しいので、棒渦巻銀河は時間をかけて複雑な構造が形成されたことを示唆しています。

棒渦巻銀河がどのように形成されるのかについては、長年のシミュレーション研究で少しずつ明らかにされています。

過去のシミュレーション研究によれば、中心部の棒状構造はどんなに速くても40億年かかると推定されていました。

棒状構造は、恒星を生み出す星形成を促進すると考えられているので、棒状構造がどのくらいのスピードで構築されたのかは重要な情報になります。


初期宇宙に存在していた棒渦巻銀河

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の深宇宙探査プログラムの1つ“CEERS(Cosmic Evolution Early Release Science)”のデータから、“ceers-2112”とカタログ名が付けられた銀河の分析を行っています。

当初、“ceers-2112”は目立った特徴を示すデータが無かったので、特に注目されていませんでした。
でも、研究チームが7つの別々の観測データを元に多角的に分析をしてみると、“ceers-2112”の中心部には棒状の構造がある可能性が高いことが分かってきます。

さらに、驚くべきは“ceers-2112”が存在している時代でした。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡のそれぞれの観測データに基づくと、“ceers-2112”の赤方偏移(※1)の値はz=3.03。
この値は、地球から約213億光年離れた位置に当たり、今から約117億年前の宇宙になります。
※1.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
117億年前というと、宇宙誕生から約21億年しか経っていない時代。
“ceers-2112”は、初期宇宙に存在していた棒渦巻銀河になり、最も遠い場所で発見された棒渦巻銀河になりました。
図2.“ceers-2112”の観測データを様々な方法で分析し画像化したもの。図bの黒線で囲まれた赤い部分が中心部の棒状構造を直接観測したものと思われる。これを確かめるための計算や分析を行った結果、図cの赤い楕円で囲まれた棒状構造が現れた。(Credit: Luca Costantin, et al.)
図2.“ceers-2112”の観測データを様々な方法で分析し画像化したもの。図bの黒線で囲まれた赤い部分が中心部の棒状構造を直接観測したものと思われる。これを確かめるための計算や分析を行った結果、図cの赤い楕円で囲まれた棒状構造が現れた。(Credit: Luca Costantin, et al.)
さらなる観測データの分析により、“ceers-2112”では宇宙誕生から約12億年後に円盤の形成が始まり、そこから4億年後には中心部の棒状構造が完成したことが分かります。

このことは、棒渦巻銀河が10億年以内のスピードで形成されるという、これまでのシミュレーションより数倍も速い形成過程があることを意味することに…
今回の研究結果は、様々な銀河の形成過程に影響を与える発見なのかもしれません。

現状では、“ceers-2112”が存在した時代までに棒渦巻銀河を形成するプロセスは不明のままです。

ただ、棒渦巻銀河に限らず、様々な銀河の構造の形成や維持には重力が重要なことが分かっています。
さらに、その重力源として、光をはじめとする電磁波と相互作用せず直接観測することができない正体不明の物質“暗黒物質(ダークマター)”が、大量に存在することも分かっています。

今回の研究結果は、初期の宇宙における暗黒物質の量や分布を制限し、棒渦巻銀河に限らず様々な銀河の構造形成過程に影響を与える可能性もあります。

いずれにしても、棒渦巻銀河の棒状構造は、時代を遡るごとにサイズが小さくなり、また見た目の大きさも小さくなります。

高い赤外線感度と高性能な分光器を持つジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が無ければ、このような発見はなかったはず。
“ceers-2112”に留まらず、他の棒渦巻銀河も“CEERS”の観測データに隠れている可能性があることを、今回の研究結果は示しているのかもしれませんね。


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120億光年も彼方の初期宇宙で赤ちゃん銀河同士の合体を発見! 秘訣は重力レンズ効果とジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の組み合わせ

2023年12月06日 | 銀河・銀河団
国際プロジェクト“CAnadian NIRISS Unbiased Cluster Survey(CANUCS)”では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(※1)を用いた観測により、初期宇宙において“赤ちゃん銀河”同士が合体、急成長している現場を発見しています。

この成果は、京都大学大学院 理学研究科の浅田喜久大学院生、アメリカ・セントメアリーズ大学大学院理学研究科のSawicki Marcin教授たちの国際共同研究チームによるもの。
京都大学により9月28日に発表されています。

詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌“Monthly Notices of the Royal Astronomical Society Letters”に掲載されました。
※1.ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが中心になって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用宇宙望遠鏡。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、2021年12月25日に打ち上げられ、地球から見て太陽とは反対側150万キロの位置にある太陽―地球間のラグランジュ点の1つの投入され、ヨーロッパ宇宙機関と共同で運用されている。名称はNASAの第2代長官ジェームズ・E・ウェッブにちなんで命名された。


銀河の宇宙論的進化の様子を調べるプロジェクト

CANUCSは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、銀河の宇宙論的進化の様子を調べることを目的の一つとした大規模観測プロジェクトです。

120億光年以上も遠方の銀河の様子を詳細に調べるには、可視光線の情報が重要になります。

ただ、そのような遠方の銀河からの可視光線は、宇宙の膨張により2μmよりも長波長に伸びてしまうので、ハッブル宇宙望遠鏡では観測は不可能でした。
でも、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の赤外線の波長による観測なら、そのような波長でも観測することが可能なんですねー

さらに、CANUCSプロジェクトが目指しているのは、重力レンズ効果(※2)を用いてより遠くの暗い天体の様子を調べること。
重力レンズ効果を受けた恒星や銀河などが発する光は、途中にある天体などの重力によって曲げられ、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えます。
※2.重力レンズとは、恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力によって曲げられたり、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えたりする現象。
光源と重力源との位置関係によっては、複数の像が見えたり、弓状に変形した像が見えたりする。その効果を重力レンズ効果と呼んでいる。
つまり、重力レンズ効果とジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測を組み合わせることで、CANUCSプロジェクトでは、これまでよりも遥かに暗く、成長初期段階にある遠方銀河の進化の様子を詳しく知ることができる訳です。
今回発見された“赤ちゃん銀河”同士の合体の様子。本来は2つの銀河だが、両銀河は巨大な銀河団の後方に位置しているので、銀河団の重力により光の経路が曲げられた結果、両銀河が二重に観測されている(像Aと像B)。右上図はこの重力レンズ効果の概念図。左下図は実際のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測画像を用いた疑似カラー画像。左上と右下に、2つの銀河のペアが二重に観測されている様子の拡大図が示されている(それぞれ像Aと像B)。(Credit: Marcin Sawicki, Yoshihisa Asada, and the CANUCS collaboration)
今回発見された“赤ちゃん銀河”同士の合体の様子。本来は2つの銀河だが、両銀河は巨大な銀河団の後方に位置しているので、銀河団の重力により光の経路が曲げられた結果、両銀河が二重に観測されている(像Aと像B)。右上図はこの重力レンズ効果の概念図。左下図は実際のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測画像を用いた疑似カラー画像。左上と右下に、2つの銀河のペアが二重に観測されている様子の拡大図が示されている(それぞれ像Aと像B)。(Credit: Marcin Sawicki, Yoshihisa Asada, and the CANUCS collaboration)


遠方で見つかった銀河同士の衝突現象

今回の研究では、CANUCSプロジェクトで観測された銀河団領域“MACSJ0417.5-1154”の背後に位置する、赤方偏移(※3)5以上(宇宙年齢で約10億歳未満)にある形成初期の銀河の成長について調査を実施。
すると、赤方偏移5.1付近にある2つの超低質量銀河が衝突している様子が発見されたんですねー
※3.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
“ELG1”と“ELG2”と名付けられたこの2つの銀河は、どちらも天の川銀河の1万分の1以下という超低質量で、形成されて間もない銀河だと考えられています。

このような遠方にある超低質量の銀河は極めて暗いので、本来ならジェームズウェッブ宇宙望遠鏡でも詳細な観測は困難です。
でも、重力レンズ効果によって本来の明るさよりも15倍程度明るく見えるので、詳細な観測ができました。

今回の観測では、複数のカラーフィルタによる撮像観測が行われ、その結果、両銀河とも超低質量だけでなく、星形成活動が活発なことも明らかになっています。

特に両銀河の場合、その特徴的な色から、何らかの要因で最近唐突に星形成活動が活発になったことが示唆されました。

これまでの近傍銀河の観測的研究から、銀河同士の衝突現象は星形成活動を誘発する場合があることが分かっています。
このことから、活発な星形成活動は銀河衝突に由来すると考えられ、両銀河は今まさに銀河同士の衝突を経験しているようです。

今回の研究では、両銀河の進化の大部分が、銀河の衝突によって行われるのではないかと考えています。

これまで細々と星を作ってきた両銀河ですが、今回の衝突により急激な星形成活動が誘発され、大量の星が作られています。
今後、両銀河が合体し、1つの銀河になる時には、星の質量にして元々の銀河の4倍以上の銀河へと成長する可能性があるそうです。

両銀河は、重力レンズ効果によって約15倍の増光を受けた極めて稀な天体であり、初期宇宙における形成初期の銀河の進化の様子を調べる上で、絶好の観測対象だと言えます。

今回の研究結果は、複数のカラーフィルタによる撮像観測に基づいたもの。
さらなる調査のためには、分光観測による銀河のスペクトル解析が必要不可欠となります。

実際、CANUCSプロジェクトによる観測の一環として、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いた分光観測がすでに実施済みで、現在は解析を行っているところです。

さらに、ミリ波サブミリ波などの電波領域での観測を行うことで、両銀河に含まれる分子ガスの様子が明らかになると期待されています。

分子ガスは、星形成の素となる重要な構成要素です。
両銀河中に残されている分子ガスの様子を調べることで、「なぜ銀河衝突によって星形成が促進されたのか」っという、より根源的な謎を解き明かすことに繋がるはずです。


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ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡の最強タッグで最遠方の原始銀河団をとらえることに成功

2023年11月06日 | 銀河・銀河団
今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡を用いた観測により、最も遠い131.4億光年彼方に位置する原始銀河団を観測。
その中でも、特に銀河が密集している大都市圏に相当する“コア領域”をとらえることに成功したんですねー

これにより明らかになったのは、多くの銀河が狭い領域に集まることで、銀河の成長が急速に進んでいることでした。

さらに、研究チームはシミュレーションを活用して将来の大都市圏の姿を予測。
すると、数千万年以内に大都市圏が1つのより大きな銀河になることが分かりました。

この研究成果は、銀河の生まれと育ちに関わる重要な手掛かりになることが期待されています。
この研究を進めているのは、日本の橋本拓也助教(筑波大学)とスペインのJavier Alvarez-Márquez研究員(スペイン宇宙生物センター)を中心とする国際研究チームです。
図1.(左)ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡で調べた原始銀河団“A27440Dz7p90D”の中でも銀河の密集した“大都市圏”のイメージ図。(右)“大都市圏”の数千万年後の姿(イメージ図)。(Credit: 国立天文台)
図1.(左)ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡で調べた原始銀河団“A27440Dz7p90D”の中でも銀河の密集した“大都市圏”のイメージ図。(右)“大都市圏”の数千万年後の姿(イメージ図)。(Credit: 国立天文台)

銀河同士が密集した環境での星の生死のサイクル

星の集団である銀河の中で、個々の星がどのようにして生まれ、死に、その残骸からまた新しい星が生まれていくのか?
そして、その集団としての銀河は、どうやって成長していくのでしょうか?

このことを知ることは、宇宙における私たちのルーツを知ることでもあり、天文学の重要なテーマです。

100個以上もの銀河がお互いの重力で集まった集団は銀河団と呼ばれ、これは宇宙におけるもっとも大きな構造の一つになります。

地球に比較的近い銀河の観測からは、銀河同士が密集した環境の方が、個々の星の生死のサイクルが急速に進むことが知られていて、これは“環境効果”と呼ばれています。

でも、宇宙の歴史において、この環境効果はいつ頃から存在したのかは、よく分かっていません。
これを知るには、宇宙が誕生して間もない頃の銀河団の祖先を観測する必要がありました。

昔の宇宙の姿を観測する

銀河団の祖先は原始銀河団と呼ばれ、およそ100億光年以上彼方にある10個程度の銀河の集団です。

幸い、天文学では遠くの宇宙を観測することで、昔の宇宙の姿を観測することができます。

例えば、130億光年彼方の銀河からの光や電波は、130億年の時間ををかけて地球に届くことになります。
なので、いま私たちが観測するのは、130億年前のその銀河の姿になります。

ただ、130億光年もの距離を旅して届く光や電波は、その間に弱ってしまうので、観測する望遠鏡には高い感度と空間分解能が求められます。

そこで、今回の研究で用いているのは、高い感度と空間分解能を持つジェームズウェッブ望遠鏡(可視光・赤外線を観測)とアルマ望遠鏡(電波を観測)。
これらを用いて、原始銀河団“A2744z90D”の“コア領域”を調べています。

原始銀河団のコア領域の観測

原始銀河団“A2744z7p90D”は、欧米の研究グループによるジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測により、最も遠い131.4億光年(※1)彼方の原始銀河団だと発表されていました(※2)
※1.※2.今回の天体の赤方偏移はz=7.88だった。これをもとに最新の宇宙論パラメータ(H0 = 67.7 km/s/Mpc, Ωm = 0.3111, ΩΛ =0.6899)で距離を計算すると、131.4億光年となった。
原始銀河団“A2744z7p90D”は、欧米の研究グループを率いる森下貴弘研究員(カリフォルニア工科大学)らによって最初に距離が決定された。
でも、この原始銀河団の中で最も銀河候補が多い“大都市圏”に当たる“コア領域”を隈なく観測できていなかったので、銀河の環境効果が始まっているかどうかは不明でした。
このような理由で、今回の研究ではコア領域に注目した訳です。

まず、今回の研究で挑んでいるのは、この原始銀河団のコア領域のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測でした。

可視光から近赤外線までの波長をスペクトル(※3)観測する近赤外線分光装置“NIRSpec”の面分光モードを用いることで、視野内のすべての場所のスペクトルを同時に取得することができます。
※3.分光観測を行うことでスペクトルを得ることができる。スペクトルは、光の波長ごとの強度分布。スペクトルに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。個々の元素は決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質がある。その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線としてスペクトルに現れる。光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
得られた面分光の解析手法を改良しながら、高い空間分解能でコア領域を調査。
その結果、天の川銀河の半径のさらに半分相当の38,000光年を一辺とする四角形領域の中で、電離した酸素イオンの光([OIII] 5008Å)を4つの銀河から検出することに成功しています。(図2左)

この光の赤方偏移(※4)から、4つの銀河の地球からの距離は131.4億光年と同定。
これにより、コア領域の“銀河候補”は確かに原始銀河団のメンバーだったことが分かりました。
※4.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
図2.背景のカラー画像はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡に搭載されたカメラで取得された。原始銀河団“A27440Dz7p90D”のコア領域の光の強度(青→緑→黄→赤の順に強くなる)のマップ。光が強い箇所に銀河の候補が存在することを示している。四角形領域の一辺は、天の川銀河の半径のさらに半分程度の大きさに相当する。(左)等高線はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された近赤外線分光装置“NIRSpec”で取得した電離酸素の放つ光の分布を表している。これにより4つの銀河が131.4億光年彼方に同定された。(右)等高線はアルマ望遠鏡で取得したチリの放つ電波の分布を表している。4つの銀河のうち3つからチリからの放射が認められる。図中左下の白丸は、アルマ望遠鏡データのビームサイズを表す。(Credit: JWST (NASA, ESA, CSA), ALMA (ESO/NOAJ/NRAO), T. Hashimoto et al.)
図2.背景のカラー画像はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡に搭載されたカメラで取得された。原始銀河団“A27440Dz7p90D”のコア領域の光の強度(青→緑→黄→赤の順に強くなる)のマップ。光が強い箇所に銀河の候補が存在することを示している。四角形領域の一辺は、天の川銀河の半径のさらに半分程度の大きさに相当する。(左)等高線はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された近赤外線分光装置“NIRSpec”で取得した電離酸素の放つ光の分布を表している。これにより4つの銀河が131.4億光年彼方に同定された。(右)等高線はアルマ望遠鏡で取得したチリの放つ電波の分布を表している。4つの銀河のうち3つからチリからの放射が認められる。図中左下の白丸は、アルマ望遠鏡データのビームサイズを表す。(Credit: JWST (NASA, ESA, CSA), ALMA (ESO/NOAJ/NRAO), T. Hashimoto et al.)
さらに、研究チームが注目したのは、この領域についてすでに取得されていた、アルマ望遠鏡によるチリの出す電波の観測データでした。

このデータの解析の結果、4つの銀河のうち3つから、チリの出す電波を検出(図2右)。
これほど過去の時代にある原始銀河団から、チリが検出されたのは初めてのことでした。

銀河のなかのチリは、銀河を構成している重い星々が、その進化段階の終末期に引き起こす超新星爆発により供給され、それが新しい星の材料になると考えられています。

このため、銀河に多量のチリがあることは、銀河内の第一世代の星の多くがすでに一生を終えていて、銀河の成長が進んでいることを示しています。
また、同じ原始銀河団のうち、コア領域以外の密集していない銀河では、チリは検出されませんでした。

このことが示しているのは、多くの銀河が狭い領域に集まることで銀河の成長が急速に進んでいること。
138億年前の宇宙誕生からわずか7億年余りの時代に、環境効果が存在していたことが考えられます。

銀河形成シミュレーション

さらに研究チームでは、このコア領域に密集した4つの銀河が、どのように形成され、進化するのかを理論的に検証するため、銀河形成シミュレーションを実施。
その結果、観測された天体と同じく宇宙が誕生してから6.8億年の頃に、図3(a)のようなガスの粒子が密集した領域が存在し、図3(b)のように拡大をすると狭い領域に密集した4つの銀河が形成されることが示されました。

この4つの銀河の進化を追うため、シミュレーションでは、銀河を構成する星やガスの運動、化学反応、星の形成や爆発現象といった物理過程を計算。
すると、数千万年という宇宙の進化のタイムスケールとしては短い時間で4つの銀河は合体し、より大きな銀河に進化することが示されました。

今回の観測銀河の再現が可能になったのは、シミュレーションが高い空間分解能と多数の銀河サンプルを有していたからでした。
今後、コア領域の形成メカニズムやその力学的性質を詳細に探っていくことになるようです。
図3.銀河形成シミュレーションによる本天体の成長の予想。(a)宇宙年齢6.89億年における原始銀河団“A27440Dz7p90D”に似た領域のガスの密度の様子。(b)は(a)のコア領域の拡大図で、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された領域相当。図の濃淡は、酸素イオンの光の分布を示す。(b)から(d)は、シミュレーション天体の進化の様子。4つの銀河が次第に合体を繰り返して、より大きな天体へと進化する様子。(Credit: T. Hashimoto et al.)
図3.銀河形成シミュレーションによる本天体の成長の予想。(a)宇宙年齢6.89億年における原始銀河団“A27440Dz7p90D”に似た領域のガスの密度の様子。(b)は(a)のコア領域の拡大図で、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された領域相当。図の濃淡は、酸素イオンの光の分布を示す。(b)から(d)は、シミュレーション天体の進化の様子。4つの銀河が次第に合体を繰り返して、より大きな天体へと進化する様子。(Credit: T. Hashimoto et al.)
一方、原始銀河団“A2744z7p90D”については、アルマ望遠鏡でさらに高感度の観測を実施し、これまでの感度では見えなかった銀河の存在を調べるそうです。

また、その威力が実証されたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡のタッグによる観測を、より多くの原始銀河団に適用し、銀河の成長メカニズムを明らかにしていくことで、宇宙における私たちのルーツにも迫るようです。
この観測成果は、T. Hashimoto et al.“Reionization and the ISM/Stellar Origins with JWST and ALMA (RIOJA): The core of the highest redshift galaxy overdensity confirmed by NIRSpec/JWST”として天文学専門誌“The Astrophysical Journal Letters”に2023年8月30日付で受理され、今後掲載予定です。
研究成果は、日本天文学会2023年秋季年会で9月20日に発表予定です。


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