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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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若い星の代表格“セファイド変光星”を観測して分かった! 天の川銀河の星に含まれる重元素量は中心にいくほど高くなる

2023年11月04日 | 銀河・銀河団
今回の研究では、天の川銀河の中心から1~2光年にある、約2~50日周期で明暗の脈動現象を起こす“セファイド変光星”の金属量を計測しています。

これにより、銀河円盤の金属量勾配がほぼ一直線で表せることを明らかにしているんですねー

この研究成果は、東京大学大学院 理学系研究科の松永典之助教、京都産業大学 神山天文台の大坪翔悟研究員たちの共同研究チームによるもの。
詳細は、アメリカ天体物理学専門誌“The Astrophysical Journal”に掲載されました。
この研究成果は9月8日に東京大学と京都産業大学から共同で発表されました。

銀河における重元素量の増加

宇宙には最初、水素、ヘリウム、リチウムなどの軽い元素しか存在していませんでした。

そこから、恒星の核融合や超新星爆発、中性子星合体などのプロセスを経て、それぞれの銀河における重元素量(※1)が増加する進化が起こっていきました。
※1.天文学では、水素とヘリウムよりも重い元素のことを“重元素”と呼び、水素に対する重元素の割合は重元素量と呼ぶ。重元素は恒星内部の核融合反応により合成され、恒星の死に伴い星間空間へと放出される。なので、星の生と死のサイクルが十分に繰り返されていない初期の宇宙では、現在の宇宙に比べて重元素量が低かったと考えられている。
多くの星が誕生し、多くの重元素が生成・放出されるほど、その進化は早く進むことになります。

そのため、現在の重元素量は銀河ごとに異なり、さらに同じ銀河内でも場所によって差ができています。

その中でも銀河の中心に近い星ほど重元素を多く含むことになります。
これは、中心領域ほど多くの星が誕生し、多くの超新星爆発なども生じて重元素を含むガスが撒き散らされてきたからです。

星はその一生において、銀河中心部からの距離が大きく変わることは珍しくありません。
内側で生まれた重元素量の高い星が外側にあったり、逆に重元素量の少ない星が内側で観測されています。

若い星の代表格“セファイド変光星”の重元素量勾配

星が銀河内を移動するということは、生まれてから移動する時間がまだ短い若い星を観測した方が、はっきりとした重元素量勾配を示すことになります。

“セファイド変光星”はそのような若い星の代表格で、内側から外側へと重元素量が下がることが分かっていました。

ただ、これまでの観測で用いていた可視光は、星間物質による減光の影響を受けてしまうんですねー
このため、中心からの距離が2万光年以遠のものしか分光観測ができていませんでした。

そこで、今回の研究で用いているのは減光の影響が比較的小さい赤外線。
観測には、南米チリ・ラスカンパナス天文台のマゼラン望遠鏡(口径6.5メートル)に設置された近赤外線高分散分光器“WINERED(ワインレッド)”を用いています。

この分光器は、東京大学と京都産業大学の共同プロジェクト“赤外線高分散ラボ”で開発が続けられていて、900~1350nmの近赤外波長域において、他の分光器よりも効率よく信号を検出し、高感度で分光スペクトルを得ることが可能です。

観測は2023年6月に行われ、中心から1~2万光年にある16個のセファイド変光星のスペクトルを取得。
これらの星は、可視光なら1万分の1以下から1000億分の1以下になるような強い減光を受けていて、赤外線でなければ今回の研究に必要なスペクトルは得られなかったそうです。
近赤外線高分散分光器“WINERED”で観測を行い、重元素量が測定された16個のセファイド変光星。半径10秒角の黄丸の中央がセファイド変光星。赤みが強い星ほど強い星間減光を受けている。NASA/IPAC赤外線科学アーカイブより得た2μm全天サーベイ(2MASS)の近赤外線画像を用いて作成された。(出所:東大Webサイト)
近赤外線高分散分光器“WINERED”で観測を行い、重元素量が測定された16個のセファイド変光星。半径10秒角の黄丸の中央がセファイド変光星。赤みが強い星ほど強い星間減光を受けている。NASA/IPAC赤外線科学アーカイブより得た2μm全天サーベイ(2MASS)の近赤外線画像を用いて作成された。(出所:東大Webサイト)
分光観測が行われたセファイド変光星の分布。丸はセファイド変光星、赤丸が今回観測された16個、黄丸は先行研究で重元素量が測定済のもの。赤の+マークが太陽系の位置、黒の×マークが銀河中心。背景はNASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC/Caltech)による画像。(出所:東大Webサイト)
分光観測が行われたセファイド変光星の分布。丸はセファイド変光星、赤丸が今回観測された16個、黄丸は先行研究で重元素量が測定済のもの。赤の+マークが太陽系の位置、黒の×マークが銀河中心。背景はNASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC/Caltech)による画像。(出所:東大Webサイト)

銀河中心に近いセファイド変光星ほど重元素量が高い

観測で取得されたスペクトルでは多くの元素の吸収線が確認され、今回は30本の鉄の吸収線を利用して重元素量を測定。
すると、ほぼすべての星が太陽の1~2倍の重元素量を持つことが判明します。

さらに、銀河中心に近いセファイド変光星ほど重元素量が高いという勾配も確認できました。

得られた重元素量の傾向は、これまでにスペクトルが取得されていた中心から2万光年以遠のセファイド変光星の重元素量勾配を、そのまま直線状に内側に伸ばしたようなシンプルなもの。
中心に近い領域ほど化学進化が進みやすいので、中心部に向かって重元素量の高い勾配が現れることは、それほど予想外の結果ではありませんでした。

でも、実際には重元素の増えたガスが超新星爆発などで吹き飛ばされたり、円盤の外から重元素の低いガスが落ちてきたり、外部とのやり取りが起こりながら化学進化は進みます。

それでは、円盤の広い範囲で単純な重元素量勾配を持つに至った天の川銀河の進化はどのようなものだったのでしょうか?
今回の観測成果は、今後の理論的研究における重要な課題を与えてくれものになりました。

なお、研究チームの過去の赤外線撮像探査で発見された中心近くの4個のセファイド変光星は、今回の重元素量勾配とは外れていることも確認されています。

これらの星は、中心から1000光年以内に局在する恒星系“銀河中心核円盤”に付随しています。
この中心領域と1万光年よりも外側では異なる化学進化が起こってきたと考えられ、今回の研究では中心核円盤の進化については、新たな知見は得られませんでした。
表面温度が異なる5個の星について、“WINERED”で得られた900~1350nmのスペクトルの一部。吸収線の無い波長部分を1に規格化した上で、見やすさを考慮して上下にズラされている。代表的な強い吸収線について、どの元素が吸収を起こしているかが示されている。ローマ数字のIは中性元素、IIは一階電離元素を表す(例:“Fe I”は中性の鉄)。(出所:東大Webサイト)
表面温度が異なる5個の星について、“WINERED”で得られた900~1350nmのスペクトルの一部。吸収線の無い波長部分を1に規格化した上で、見やすさを考慮して上下にズラされている。代表的な強い吸収線について、どの元素が吸収を起こしているかが示されている。ローマ数字のIは中性元素、IIは一階電離元素を表す(例:“Fe I”は中性の鉄)。(出所:東大Webサイト)
天の川銀河中心からの距離に応じて変化する重元素量の傾向。セファイド変光星の重元素量を銀河中心からの距離に対してプロットした図。赤丸が今回の研究で観測された16個のセファイド変光星。黄丸と×マークは先行研究で重元素量が測定されていたセファイド変光星。赤丸と黄丸は灰色の直線で表されるようなシンプルな重元素量勾配を示すことが確認された。×マークの4個は、中心から1000光年以内の銀河中心核円盤に付随し、1万光年以遠の銀河円盤のセファイド変光星とは別の進化を辿っている。(出所:東大Webサイト)
天の川銀河中心からの距離に応じて変化する重元素量の傾向。セファイド変光星の重元素量を銀河中心からの距離に対してプロットした図。赤丸が今回の研究で観測された16個のセファイド変光星。黄丸と×マークは先行研究で重元素量が測定されていたセファイド変光星。赤丸と黄丸は灰色の直線で表されるようなシンプルな重元素量勾配を示すことが確認された。×マークの4個は、中心から1000光年以内の銀河中心核円盤に付随し、1万光年以遠の銀河円盤のセファイド変光星とは別の進化を辿っている。(出所:東大Webサイト)
また、最近の10年ほどで大きく進んだ変光星探査では、差し渡し10万光年超の銀河円盤の広範囲にある数千個のセファイド変光星が発見されています。

今後、“WINERED”分光器などを用いて、それらの重元素量を測定することで、天の川銀河全体の進化を調べることが可能になるはずです。

さらに、鉄以外の重元素の組成も詳しく調べることで、どのような天体現象(恒星質量の異なる各種の超新星爆発や中性子星合体など)が、重元素合成に寄与してきたかを推定できます。

それにより、化学進化の理論モデルの精度を高め、銀河円盤全体での重元素量勾配を説明できるような、銀河進化のシナリオを描き出すことが期待されます。


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東アジアの遠く離れた複数の電波望遠鏡が協力! 銀河中心に潜む大質量ブラックホールに水分子ガスが落ち込む様子を観測

2023年09月28日 | 銀河・銀河団
今回の研究では、東アジアVLBI観測網を用いて電波銀河“NGC4261”を観測しています。
すると、“NGC4261”の中心から1光年未満の範囲に、メーザー輝線を放射する水分子ガスが密集して分布するのが見つかったそうです。
どうやら、これらの水分子は銀河中心の大質量ブラックホールに落下しているようです。
この研究成果は、大阪公立大学の澤田(佐藤)聡子特任研究員たちの研究チームによるものです。
電波銀河“NGC4261”の中心から1光年未満の範囲で検出された水分子ガス。(a)水分子からのメーザー放射の強度分布がカラーで表示されたもの。(b)水分子ガスを遠ざかる運動が赤で、近付く運動が青で表されていて、ガスの大部分が遠ざかっていることが分かる。(c・d)水分子ガスの分布と電波ジェット(白い高等線)の位置関係。(c)と(d)内の黄色い四角枠で囲まれた個所を拡大したものが、それぞれ(a)と(b)になる。(Credit: 2023- Sawada-Satoh et al. (2023) PASJ, Vol.75, Issue 4, p.722(出所:VERA Webサイト))
電波銀河“NGC4261”の中心から1光年未満の範囲で検出された水分子ガス。(a)水分子からのメーザー放射の強度分布がカラーで表示されたもの。(b)水分子ガスを遠ざかる運動が赤で、近付く運動が青で表されていて、ガスの大部分が遠ざかっていることが分かる。(c・d)水分子ガスの分布と電波ジェット(白い高等線)の位置関係。(c)と(d)内の黄色い四角枠で囲まれた個所を拡大したものが、それぞれ(a)と(b)になる。(Credit: 2023- Sawada-Satoh et al. (2023) PASJ, Vol.75, Issue 4, p.722(出所:VERA Webサイト))

明るいジェットを持つ電波銀河

銀河の中心に潜む大質量ブラックホールに大量の星間ガスが落ち込み続けると、結果として膨大なエネルギーが放出されます。

その大質量ブラックホールをエンジンとする銀河の1つが電波銀河です。
その中心からは、数万光年の規模で活発に噴出する明るい電波ジェットを放っていて、星間ガスの持つ重力エネルギーが電波ジェットの噴出エネルギーに変換されていると考えられています。

“NGC4261”も明るいジェットを持つ電波銀河の1つなので、その中心には大質量ブラックホールが存在していると考えられています。

さらに、“NGC4261”の極めて中心の領域では、高密度のガスが円盤のように取り巻いていることがすでに知られていました。

これらのガスがブラックホールに落下すれば、ジェットに噴出エネルギーを投入できる可能性があります。

でも、本当にこれらの高密度なガスが大質量ブラックホールに落下しているのかは不明なんですねー
これまで、数光年というブラックホール近傍からガスが落下しているという観測的証拠はなく、“NGC4261”で中心部のガスがジェットのエネルギー源になっているかどうかは推測の域を出ませんでした。

遠く離れた複数の電波望遠鏡が協力して観測

その謎を解き明かすため、今回の研究では東アジアVLBI観測網を用いて“NGC4261”を観測しています。

東アジアVLBI観測網(EAVN :East Asia VLBI Network)とは、国立天文台や韓国天文研究院、中国科学院上海天文台、中国科学院新疆天文台が連携して、各国の電波望遠鏡群をネットワークさせたVLBI観測網のこと。
遠く離れた複数の電波望遠鏡が協力して同時に観測すると、口径の大きい電波望遠鏡を使うのと同様の性能を得ることができる。このような観測を行うことを“VLBI(Very Long Baseline Interferometry : 超長基線干渉計)”という。
今回の観測では、東アジアVLBI観測網のうち、国立天文台VERAネットワークの水沢局(岩手県)、入来局(鹿児島県)、小笠原局(東京都小笠原)、石垣島局(沖縄県)の4か所、茨城の高萩32メートル望遠鏡、韓国のVLBIネットワークKVNの3局が用いられています。

水分子ガスの分布

観測の結果判明したのは、“NGC4261”の中心から1光年未満の範囲に、メーザー輝線を放射する水分子ガスが密集して分布すること。

水分子ガスの分布は、“NGC4261”の高密度な電離ガス円盤の分布と空間的に一致しているので、水分子ガスも“NGC4261”の中心を取り巻く円盤の一部を構成していることが考えられました。

なお、メーザーとは光のレーザーと同じ原理でマイクロ波で発生する物理現象のこと。
水分子のメーザー輝線のドップラー効果からは、円盤内の水分子ガスが中心に向かって運動している瞬間をとらえています。
観測される光の波長ごとの強度分布“スペクトル”に現れる線は、光のドップラー効果によって私たちの方へ動いている物質からの光は波長が短く(青く)なり、遠ざかっている物質の光は波長が長く(赤く)なる。この周波数の変化量を測定することで、天体の視線速度を知ることができる。周波数で表されたスペクトル線幅を視線速度に換算したものを“速度幅”という。
つまり、ブラックホールを取り巻くガス円盤(降着円盤)を構成する物質が、中心のブラックホールに落下しジェット噴出のエネルギー源になる っというシナリオが、“NGC4261”で観測的に示されたことになるんですねー

今回の電波ジェットと水メーザーの観測を受け、過去の電離ガス、中性水素ガス、分子ガスの観測結果も含めて、“NGC4261”の中心部の構造が以下のように提案されています。
“NGC4261”中心部のガスの分布(イメージ図)。(Credit: 2023- Sawada-Satoh et al. (2023) PASJ, Vol.75, Issue 4, p.722(出所:VERA Webサイト)
“NGC4261”中心部のガスの分布(イメージ図)。(Credit: 2023- Sawada-Satoh et al. (2023) PASJ, Vol.75, Issue 4, p.722(出所:VERA Webサイト)
ガス円盤が中心の大質量ブラックホールを取り巻き、電波ジェット方向に垂直の向きに広がっている。
これは、ジェットが大質量ブラックホールの南北の双極方向に噴き出すもので、赤道に円盤があることを意味します。

そして、水分子ガスは円盤の半径1光年より内側に分布し、円盤の中で乱流を起こしながら中心のブラックホールに落下していると予想されます。

今回の観測では、電波銀河の大質量ブラックホールを取り巻くガス円盤の手前側にある水メーザーが検出されました。
電波望遠鏡から見て水分子ガスの背景にジェットが存在するとき、水分子からのメーザー放射が明るく観測されるようです。

今回、8局の電波望遠鏡によるVLBIネットワークの安定した性能と高角分解能が、“NGC4261”の大質量ブラックホール最近傍のガスの構造と運動の検出を可能にしています。

現在、国立天文台のVERAネットワークでは、新しい高感度受信機の開発を進めていて、その新型受信機を用いると観測の感度を向上させることができます。

さらに、韓国に設置された3基の電波望遠鏡ネットワーク“KVN: Korean VLBI Network”では、現在4基目の電波望遠鏡を平昌に建設中。
これまでより感度と撮像性能の高い観測が期待できます。

今後のアップデートされた東アジアVLBI観測網が、“NGC4261”のブラックホールへのガス降着機構をさらに詳しく解明してくれるはずですよ。


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銀河を構成する星がバラバラになるはずなのに… なぜレンズ状銀河“NGC 1277”には暗黒物質がほとんど存在していないのか?

2023年09月15日 | 銀河・銀河団
ペルセウス座の方向約2憶4000万光年彼方に“NGC 1277”というレンズ状銀河が存在しています。

レンズ状銀河というのは、渦巻銀河と楕円銀河の中間にあたる形態の銀河。
渦巻き銀河と同じように中央部分の膨らみや円盤構造を持っているのですが、目立つ渦巻腕(渦状腕)はありません。
レンズ状銀河を構成する星々は楕円銀河と同じように古いものが多く、星形成活動もほとんど見られません。

そんな“NGC 1277”は、約120億年前に急速に形成された後、他の銀河と相互作用することなく時を過ごしてきたと考えられています。

このことから、“NGC 1277”は初期宇宙で誕生した大質量かつコンパクトで星形成活動が見られないタイプの銀河“遺物銀河(relic galaxy)”の典型例になります。

そんな“NGC 1277”で思いがけない特徴が見つかりました。
ハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたレンズ状銀河“NGC 1277”(中央)とその周辺。(Credit: NASA, ESA, and M. Beasley (Instituto de Astrofísica de Canarias))
ハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたレンズ状銀河“NGC 1277”(中央)とその周辺。(Credit: NASA, ESA, and M. Beasley (Instituto de Astrofísica de Canarias))
今回発表されたのは、“NGC 1277”には暗黒物質(ダークマター)がほぼ存在しないとする研究成果でした。

暗黒物質を欠いた銀河は、超淡銀河のように質量の小さな銀河では見つかったことがありました。
でも、質量の大きな銀河での観測例は今回が初めてのことでした。
この研究は、カナリア天体物理学研究所(IAC)/ラ・ラグーナ大学(ULL)のSebastién Comerónさんを中心とする研究チームが進めています。

暗黒物質を5%しか持たない銀河

今回の研究では、アメリカ・テキサス州のマクドナルド天文台にある面分光器で取得された観測データを元に、“NGC 1277”の中心から半径約2万光年の質量分布を調査。
すると、暗黒物質の質量は、この範囲内における総質量の5%未満ということが分かりました。

現在の宇宙論モデルに従うと、“NGC 1277”と同じ質量を持つ銀河では質量全体のうち10~70%を暗黒物質が占めると予測されています。
このことからも、観測データから割り出された“NGC 1277”の暗黒物質がいかに少ないかが分かります。

銀河を構成する星がバラバラにならず形をとどめている原因

宇宙は正体不明の“ダークマター(26.8%)”と“ダークエネルギー(68.3%)”で満たされていて、身近な物質である“バリオン(陽子や中性子などの粒子で構成された普通の物質)”は、宇宙の中にわずか4.9%しか存在しないことが分かってきています。

暗黒物質が発見されるきっかけになったのは、銀河の回転速度でした。

銀河内を公転している星々は、遠心力と重力が釣り合っているから飛び出すことなく公転できるはずです。

でも、実際の観測結果をもとに銀河の質量と回転速度を算出してみると、銀河を構成する星々やガスなどの総質量だけでは釣り合いが取れないほどの速度で回転していることが分かりました。

そこで、銀河を構成する星がバラバラにならず形をとどめている原因を、光をはじめとする電磁波と相互作用せず直接観測することができない物質の重力効果に求めたのが“ダークマター説”の始まりになっています。 
銀河の回転とダークマター。(Credit: 創造情報研究所)
銀河の回転とダークマター。(Credit: 創造情報研究所)

暗黒物質は銀河にとって欠かせない存在

銀河が暗黒物質のハローに包まれていることを、銀河の回転速度の観測を通して証明したのは、アメリカの天文学者ヴェラ・ルービンでした。

現在では、誕生したばかりの宇宙では、まずミクロな密度のゆらぎをもとに暗黒物質が集まって暗黒ハロー(ダークハロー)が形成され、暗黒ハローに引き寄せられた通常の物質から星々が誕生し、やがて銀河に成長していったと考えられています。

このように暗黒物質は銀河にとって欠かせない存在のはずなのに、どうして“NGC 1277”にはほとんど存在していないのでしょうか?

その理由について研究チームは、過去の研究成果を参照しつつ2つの仮説を立てています。

1つ目の説は、銀河団での相互作用によって失われたというもの。
“NGC 1277”は1000以上の銀河で構成されるペルセウス銀河団の一員ですが、銀河団へ加わるときに生じた周囲との相互作用によって、暗黒物質が剥ぎ取られた可能性があるようです。

2つ目の説は、“NGC 1277”の形成時に失われたというもの。
ガスを豊富に含む原始的な銀河の断片同士が高速で衝突して“NGC 1277”が形成されたときに、暗黒物質が追い出された可能性です。

ただ、どちらの説も完全ではなく謎は残されたまま…
なので、研究チームはカナリア諸島のロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台にあるウィリアム・ハーシェル望遠鏡の多天体分光器を用いた新たな観測を計画しているそうです。
新たな観測により、この謎が解ければいいですね。


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ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた宇宙空間に浮かぶ“はてな(?)マーク”の正体は何か 2つの銀河の相互作用が原因かも

2023年08月23日 | 銀河・銀河団
NASAのジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が、宇宙空間で光輝く“はてな(?)マーク”形の物体をとらえました。
“はてな(?)マーク”は2つの銀河の相互作用によるものの可能性がある。(Credit: NASA/ESA/CSA/Joseph DePasquale (STScI))
“はてな(?)マーク”は2つの銀河の相互作用によるものの可能性がある。(Credit: NASA/ESA/CSA/Joseph DePasquale (STScI))
7月26日に公開された近赤外線分光画像に写っているのは、“ハービック・ハロー天体46/47”と命名された2つの若い恒星。
この天体は銀河系の“ほ座”から1470光年離れていて、まだ形成期にあり、互いの周りを回っていました。

この2つの恒星は、1950年代から地上の望遠鏡や宇宙望遠鏡で観測されていたもの。
でも、その画像の背後にある“はてな(?)マーク”形については、まだ詳しい観測や研究が行われていませんでした。

どうやら、その形状や位置から“はてな(?)マーク”は恒星ではないことは明らかなようです。

おそらく、この現象は“ハービック・ハロー天体46/47”よりもはるかに遠く… 数十億光年離れた場所で、2つの銀河が融合してできたもの。

宇宙には数多くの銀河が存在していて、時間の経過とともに成長して進化する過程で近くの銀河と衝突することがあります。
その衝突で、銀河は歪んで様々な形になり、“はてな(?)マーク”が出来たのかもしれません。

こうした現象は、からす座にあるアンテナ銀河の逆向き“はてな(?)マーク”などを含め、過去にも観測されています。

ほとんどの銀河は、それぞれの歴史の中でこうした相互作用を何度も繰り返します。

私たちの天の川銀河も、およそ40億年以内にアンドロメダ銀河と合体すると予想されています。
でも、どんな形になるのかは分からないんですねー

2つの銀河が合体して相互の重力が作用しあっている姿が“はてな(?)マーク”だとしたら。
上部のかぎの部分は、恒星とガスの流れが引きちぎられて宇宙空間に流れ出す“潮汐(ちょうせき)尾”のように見えますね。


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129億年前の宇宙に存在する銀河を調べて分かった! 大質量ブラックホールと親銀河の関係は近傍宇宙と初期宇宙で大きく変わらない

2023年08月19日 | 銀河・銀河団
銀河とその中心にある大質量ブラックホールの関係性は、いつ始まり、お互いにどのように影響を与えて成長してきたのでしょうか?

このことを明らかにするには初期の宇宙に存在する銀河の観測が必要でした。
今回、研究チームは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、約129億年前の宇宙に存在する2つのクエーサーを観測。
その結果、中心に活発な大質量ブラックホールが潜む銀河の姿をとらえることに成功したそうです。

このことは、6月29日に東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、東京大学大学院 理学系研究科、愛媛大学、国立天文台(NAOJ)により発表されました。
この研究は、Kavli IPMUのシューヘン・ディン特任研究員、ジョン・シルバーマン教授、北京大学 カブリ天文天体物理研究所の尾上匡房カブリ天体物理学フェロー、東大大学院 理学系研究科 天文学専攻の柏川伸成教授、同・嶋作一大准教授、同・理学系研究科 天文学教育研究センターの河野孝太郎教授、愛媛大 宇宙進化研究センターの長尾透教授、同・松岡良樹准教授、NAOJ ハワイ観測所の青木賢太郎シニアサポートアストロノマーら40名以上の研究者が参加した国際共同研究チームが進めています。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡。(Credit: NASA/Chris Gunn(出所:愛媛大プレスリリースPDF))
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡。(Credit: NASA/Chris Gunn(出所:愛媛大プレスリリースPDF))

銀河とその中心にある大質量ブラックホールの関係性

大半の銀河の中心に位置する大質量ブラックホールは、初期宇宙でどのようにして形成されたのでしょうか?

さらに、現在の宇宙では、大質量ブラックホールとそれを抱える親銀河の大きさに10桁もの差があるのに、なぜ両者の重さに強い正の相関があるのでしょうか?

どちらも、その理由は分かっていません。

こうした銀河と大質量ブラックホールの関係性がいつ始まり、お互いにどのように影響を与えて成長してきたのかを明らかにするには、なるべく過去(遠くの)の宇宙に存在するクエーサーの親銀河の観測が不可欠になります。

クエーサーは、銀河中心にある大質量ブラックホールに物質が落ち込むことで生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体。
遠方にあるにもかかわらず明るく見えます。

なので、大質量ブラックホールを見つけるには、この明るく輝くクエーサーを探す方法が効率的なんですねー

でも、初期宇宙となると、銀河の見かけの大きさは小さく、明るさも暗くなってしまいます。
さらに、明るく輝くクエーサーの光が強く、親銀河の光は埋もれてしまうことに…
そう、親銀河の光だけを分離して観測することは極めて困難になります。

ターゲットに選んだのは暗いクエーサー

そこで、研究チームが観測に用いたのはジェームズウェッブ宇宙望遠鏡。
そして、ターゲットになったのは、赤方偏移z~6を超える129億年前の宇宙に存在するクエーサー2天体でした。
膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”を用いて、2022年10月26日にはクエーサー“HSCJ2255+0251”、さらに同年の11月6日にはクエーサー“HSCJ2236+0032”を観測しています。

2天体は約1時間ずつ観測され、波長1.50μm、3.56μmの2つの近赤外線画像が取得されています。

両クエーサーは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC(Hyper Suprime-cam)”による大規模撮像探査“すばるHSC戦略枠観測プログラム(HSC-SSP)”によって発見された天体でした。

研究チームでは、これまでにHSC-SSPを使うことで160個超のクエーサーを初期宇宙に発見しています。

その多くが、同時代の他のクエーサーと比べて10倍ほど暗く、当時の宇宙の代表的な明るさのもの。
今回のターゲットを選んだのも、これらの暗いクエーサーであれば、その光に邪魔されることなく親銀河の星の光をとらえられると考えたからでした。

近傍宇宙と初期宇宙で大きく変わらない銀河と大質量ブラックホールの関係

大質量ブラックホールからの光は、本来微小な領域から放射されています。
でも、望遠鏡で得られた画像上では、複数の画素にわたって広がって観測されてしまいます。

その光をクエーサーの画像上から差し引くために、研究チームが利用したのは、ブラックホールと同様にコンパクトな星でした。

ターゲットのクエーサー周囲に映った星の画像を使って、微小領域からの光の広がり方をモデル化。
それを差し引くことで、空間的に広がった親銀河の光の成分のみを抽出しているんですねー

2つの波長での親銀河の明るさの情報から推定された質量は、“HSCJ2255+0251”の銀河は太陽の340億倍、“HSCJ2236+0032”の銀河は太陽の1300億倍。
これは、同世代の銀河の中でも最も重たい部類になります。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”を用いて波長3.56μmの赤外線で観測された“HSC J2236+0032”。(左)ズームアウトして小さく表示された画像、(中央)クエーサーの画像、(右)ブラックホールの光を差し引いた親銀河の画像。クエーサー画像の雪の結晶のような形状の光は、微小領域から放たれた光が望遠鏡の光学系によって広がって観測されているもので、実際の光の分布とは異なる。画像の色は天体の明るさが示されていて、実際に肉眼に見える色とは異なる。(Credit: Ding, Onoue, Silverman et al.(出所:愛媛大プレスリリースPDF))
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”を用いて波長3.56μmの赤外線で観測された“HSC J2236+0032”。(左)ズームアウトして小さく表示された画像、(中央)クエーサーの画像、(右)ブラックホールの光を差し引いた親銀河の画像。クエーサー画像の雪の結晶のような形状の光は、微小領域から放たれた光が望遠鏡の光学系によって広がって観測されているもので、実際の光の分布とは異なる。画像の色は天体の明るさが示されていて、実際に肉眼に見える色とは異なる。(Credit: Ding, Onoue, Silverman et al.(出所:愛媛大プレスリリースPDF))
さらに、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光装置“NIRSpec”で、大質量ブラックホール周囲を高速で回転する物質の運動を調査してみると、それぞれの銀河の大質量ブラックホールは、質量が太陽の2億倍と14億倍と求められました。

これらの観測結果から分かったことは、銀河と大質量ブラックホールの関係が、近傍宇宙と初期宇宙で大きく変わらないこと。

研究チームが考えているのは、今後予定されているジェームズウェッブ宇宙望遠鏡のサイクル1の観測データを利用し、より多くのクエーサーで今回と同様の研究を継続すること。
これにより、銀河と大質量ブラックホールのどちらが先に成長したのか? っという問題の解決に挑むそうです。

さらに、研究チームには、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測時間として、今秋開始予定のサイクル2でも割り当てられることが決まっています。

そこでは、クエーサー“HSC J2236+0032”の親銀河がどのような星で構成されているのか、このクエーサーの周りに銀河がどれくらい群れているのか、といったより詳細な調査を行う計画です。

それに加え、アルマ望遠鏡を使った親銀河中のガスとチリの観測も現在進行中です。
今後の研究の進展により、大質量ブラックホールの形成過程の謎や親銀河との関係性、進化の過程に迫ることが大いに期待されます。


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