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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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地球に比べて密度が低い“ケプラー138c”と“ケプラー138d”は、体積の大部分が水で構成された海洋惑星かもしれない

2023年01月20日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
恒星“ケプラー138”を公転する2つの系外惑星が、厚い水の層に覆われている可能性があるようです。
この2つの系外惑星は“ケプラー138”に近すぎるので表面の水は蒸発、高圧の深層では液体になっているのかもしれません。
私たちが知る地球の海とは全く違う環境のようです。

体積の大部分が水で構成された惑星は存在するのか

地球はよく「水の惑星」と呼ばれます。
それは、太陽系の他の惑星と比べると、地球は広大な海という際立った特徴を持っているからです。

でも、水が地球全体の体積に占める割合は0.1%余り。
しかも、海の深さは平均で4キロ弱、一番深いところで10キロしかありません。

それでは宇宙のどこかに、もっと多くの水をたたえる惑星は存在しているのでしょうか?

太陽系外の惑星に注目する研究者たちが予測しているのは、体積の大部分が水で、深さ数百~数千キロの海に覆われた“海洋惑星(Water World, Ocean World)”の存在です。

こと座の方向約218光年彼方に位置する太陽より小さな恒星“ケプラー138”。
この恒星を公転する2つの惑星“ケプラー138c”と“ケプラー138d”は、まさにそうした海洋惑星かもしれません。
赤色矮星“ケプラー138”を公転する3つの惑星(イメージ図)。右手前の“ケプラー138d”と恒星の左下に描かれた“ケプラー138c”は海洋惑星の候補。中心星を通過するシルエットは“ケプラー138b”。(Credit: NASA, ESA, and Leah Hustak (STScI))
赤色矮星“ケプラー138”を公転する3つの惑星(イメージ図)。右手前の“ケプラー138d”と恒星の左下に描かれた“ケプラー138c”は海洋惑星の候補。中心星を通過するシルエットは“ケプラー138b”。(Credit: NASA, ESA, and Leah Hustak (STScI))
今回の研究では、NASAのハッブル宇宙望遠鏡と赤外線天文衛星“スピッツァー”で2つの惑星を観測し、それぞれの質量と体積を計算。
すると、“ケプラー138c”と“ケプラー138d”の質量はともに地球の約2倍であるのに対し、体積は3倍以上であることが分かりました。
 今回の研究を進めているのは、カナダ・モントリオール大学のCaroline Piauletさんたちの研究チームです。
つまり、岩石惑星である地球と比べて、“ケプラー138c”と“ケプラー138d”は平均密度が低いことになります。

この平均密度が低いことを説明するには、岩石の一部をもう少し軽い物質で置き換えればいいことになります。
そう、この軽い物質として一番有力なのが水になるんですねー
 “ケプラー138”または“KOI-314”は、地球から見て“こと座”の方向約219光年彼方に位置する赤色矮星。2022年12月時点で、周囲に3つの系外惑星が存在していることが知られていて、さらに低質量の惑星候補の存在が示されている。

中心星に近すぎる海洋惑星

実は、もっと小さなものにも注目すれば、こうした天体は太陽系にも存在しています。

それは、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスなど、氷衛星と呼ばれる天体。
いずれの衛星も地球より密度が低く、岩石の中心核が厚い氷の層で覆われた構造をしていると考えられています。

大雑把に言えば、このような氷衛星をそのまま大きくして、中心星に近づければ、海洋惑星が出来上がります。

これまで私たちは、地球より少し大きな惑星は、金属と岩でできた球体だと考えていました。
それは、地球をそのまま大きくしたような天体なので“スーパーアース”と呼んできました。

ところが、今回の“ケプラー138c”と“ケプラー138d”は、スーパーアースとは性質が大きく異なり、体積のかなりの割合がおそらく水で構成されているようです。

このことは、天文学者たちが長きにわたって予測してきた海洋惑星というタイプの惑星が実在する。
っという、最も有力な証拠になるのかもしれません。

ただ、海洋惑星といっても、“ケプラー138c”と“ケプラー138d”の表面は、私たちが知る海とは全く違うはずです。

その理由は、どちらの惑星も中心星“ケプラー138”に近すぎて、温度が水の沸点を超えてしまうからです。

そのため、表面は厚い水蒸気の層で覆われていて、高い圧力がかかる深層の水は液体、または高温高圧下で気体と液体両方の性質を示す超臨界流体になっていると考えられます。
地球と“ケプラー138d”の内部。“ケプラー138d”には体積の50%以上を占める水の層があり、その深さは約2000キロに及ぶかもしれない。(Credit: Benoit Gougeon (University of Montreal)
地球と“ケプラー138d”の内部。“ケプラー138d”には体積の50%以上を占める水の層があり、その深さは約2000キロに及ぶかもしれない。(Credit: Benoit Gougeon (University of Montreal)
なので、“ケプラー138c”も“ケプラー138d”も海洋惑星かもしれませんが、その海に生命が存在できる可能性は低そうです。

その一方で、今回の研究では“ケプラー138”に生命の居場所が残っている可能性も示しています。

それは、4つ目の惑星“ケプラー138e”の発見にありました。

この惑星について得られているデータは少なく、分かっているのは比較的小さく、他の3つの惑星よりも中心星から遠く、38日かけて中心星を公転していること。

中心星の温度を考慮すると、この距離なら表面に液体の水が存在できるはずです。
もしかすると、“ケプラー138e”こそ、地球と同じ意味で「水の惑星」になっているのかもしれません。
今回の研究成果の紹介動画“Two Exoplanets May Be Water Worlds”(Credit: NASA Goddard Space Flight Center, Lead Producer: Paul Morris)


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赤色矮星を回るハビタブル惑星に朗報! 恒星に近くても大気を保持するメカニズムは存在するかもしれない

2023年01月18日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
今回の研究で用いられているのは、強い紫外線環境下における地球類似惑星を想定した大気シミュレーション。
このシミュレーションを検討することにより、強い紫外線環境では原子輝線放射冷却が重要な冷却過程になることを明らかにしています。
 今回の研究を進めているのは、立教大学理学研究科の中山陽史特任准教授を中心とする研究グループです。
その結果、示されたのは、地球のような惑星は強い紫外線環境でも、数十億年にわたって大気の保持が可能であることでした。

この研究の成果は、地球を含む地球型惑星の大気保持と温暖環境の保持に対して重要な示唆となるもの。
地球のようなハビタブル惑星の存在可能性の理解につながるものになるはずです。

太陽よりも表面温度が低く暗い恒星を公転する惑星

1995年の初検出以降、太陽以外の星を周回する惑星“系外惑星”は、すでに5000個以上検出されていて、多くの大規模観測計画が推進・立案されるなど、活発な研究分野になっています。

見つかっている系外惑星の中には、地球によく似た特性を持つ可能性がある惑星“ハビタブル惑星”も報告されています。
そういった惑星が地球のような温暖環境を保持し、生命を宿しうる惑星なのかは、人類にとって大きな謎のひとつになっているんですねー

ただ、温暖環境の保持に対して重要になる惑星大気は、恒星から届くX線と極端紫外線で構成される短波長(
 大気散逸とは、XUVの吸収によって高温化された高層大気が惑星重力による束縛から抜け出し、惑星外に散逸してしまうこと。現在の地球においては、軽いH(水素)原子やHe(ヘリウム)原子のみが大気散逸を引き起こしているが、強いXUV環境であれば地球類似惑星の大気主成分であるN(窒素)原子、O(酸素)原子の大気散逸が引き起こされ、大気の消失をもたらす。
特に、将来的な観測対象として期待されている、太陽系の近傍に多数存在する“赤色矮星”または“M型星”と呼ばれる、太陽よりも質量が小さく低温の星“低温度星”を公転する地球型惑星です。

でも、このような惑星は、数十億年といった長期間にわたって中心星からの強いXUV照射を受け続けることが示唆されているんですねー

赤色矮星は表面温度が低く光度も暗いので、“ハビタブルゾーン”は主星(恒星)から近くなってしまいます。
 “ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたる。
惑星は強いXUV照射を受けてしまうことになり、地球のような温暖な環境を保持することは、理論的に難しいと考えられてきました。
低温度星で見つかった系外惑星“Kepler-1649c”のイメージ図。液体の水が存在する条件は満たしているが、大気の存在については否定的な声もある。(Credit: NASA/Ames Research Center/Daniel Rutter)
低温度星で見つかった系外惑星“Kepler-1649c”のイメージ図。液体の水が存在する条件は満たしているが、大気の存在については否定的な声もある。(Credit: NASA/Ames Research Center/Daniel Rutter)

加熱された大気を冷却するメカニズム

そこで今回の研究では、地球類似型惑星を想定した大気シミュレーションを用いて、強いXUV照射による影響を調査。
すると、強いXUV照射によって加熱された上層大気では、原子輝線放射冷却が重要な冷却過程になる事が明らかになります。(図1)
 原子輝線冷却とは、原子・イオンの周りを回転する電子のエネルギー状態の遷移に伴う放射過程。電子が持つエネルギー準位は原始・イオン種毎に固有であり、そのエネルギー分布は他気体種との衝突に伴う衝突遷移と、光子の吸収と放射を伴う放射遷移によって決定される。光を放出して低エネルギー状態に遷移する放射遷移は、大気中から宇宙空間にエネルギーを放射、つまり大気を冷却する役割を持つ。
原子輝線放射冷却は温度が上がるほど効率的に働くので、大気の高温化が抑制されます。
その結果、高い熱エネルギーを持つ大気粒子が惑星重力を振り切って脱出する大気散逸が抑制されることが確かめられました。

これまでの研究で考えられてきたのは、大気で吸収されたエネルギーの大部分が大気散逸に用いられること。
これに対して、今回の研究で推定されたのは、大気散逸率が10000分の1程度になることでした。

結果として、地球大気と同量の1bar大気の散逸時間は、強いXUV環境でも20億年程度と地質学的な時間スケールまで伸びうることが明らかになります。(図2)

このような強いXUV環境は、初期地球や低温度星を公転する系外惑星に相当し、そのような惑星でも長期的な大気の保持が可能だということが予測されます。

今回の研究成果は、初期地球における温暖環境の保持や、地球以外の温暖な環境を持つハビタブル惑星が存在する可能性に対して重要な示唆となりました。
今後の理論的・観測的な展開が期待されますね。
図1.1~5倍の現在の地球のXUVフラックスFXUVを仮定した場合に推定された温度構造。実線が原子輝線冷却を考慮した場合の計算結果。点線は原子輝線放射冷却を考慮していないこれまでの研究を模擬した計算結果。(Credit: 立教大学リリース)
図1.1~5倍の現在の地球のXUVフラックスFXUVを仮定した場合に推定された温度構造。実線が原子輝線冷却を考慮した場合の計算結果。点線は原子輝線放射冷却を考慮していないこれまでの研究を模擬した計算結果。(Credit: 立教大学リリース)
図2.異なるXUV強度における1bar大気の散逸時間。(Credit: 立教大学リリース)
図2.異なるXUV強度における1bar大気の散逸時間。(Credit: 立教大学リリース)


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ハビタブルゾーン内を公転していても大気や水は存在しない? 太陽よりも低温で暗い恒星に左右される系外惑星の環境

2023年01月09日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
図1.“プロキシマ・ケンタウリ”を公転する“プロキシマ・ケンタウリb”(イメージ図)。(Credit: ESO)
図1.“プロキシマ・ケンタウリ”を公転する“プロキシマ・ケンタウリb”(イメージ図)。(Credit: ESO)

本当にハビタブルなの? 恒星の活動にも右される系外惑星の環境

地球に住む私たちから見て太陽の次に近い恒星は、地球から約4.3光年の距離にある“プロキシンマ・ケンタウリ”です。
 恒星の中でも太陽系に近い約4.2光年の距離にある赤色矮星“プロキシマ・ケンタウリ”。この“プロキシマ・ケンタウリ”を公転している地球サイズの“プロキシマ・ケンタウリb”は、2016年に発見された系外惑星。“プロキシマ・ケンタウリb”は11.2日周期で公転し、その重力に引っ張られて中央の“プロキシマ・ケンタウリ”も11.2日の周期でぶれている。主星の周りを公転している惑星の重力で、主星が引っ張られると地球からわずかに遠ざかったり近づくことになる。この動く速度(視線速度)に応じて変化する恒星のスペクトルを読み取ることで検出されたのが、惑星“プロキシマ・ケンタウリb”の存在だった。
“プロキシマ・ケンタウリ”で発見された太陽系外惑星“プロキシマ・ケンタウリb”は、ハビタブルゾーンにある地球型惑星として注目されています。
 “ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたる。
ただ、ハビタブルゾーンを公転する惑星の表面に、必ずしも液体の水があるとは限らないんですねー
特に重要になるのが大気の存在です。

水は蒸発しやすい物質であり、表面で液体の水が維持されるにはある程度の厚い大気が必要になります。

そして、大気が維持されるかどうかは、ある程度の重力とともに、恒星の活動にも左右されます。
恒星の放射圧が強ければ、惑星から大気が逃げてしまう可能性があるからです。

“プロキシマ・ケンタウリb”は、地球以上の質量を持つと推定されているので、大気を維持するのに十分な重力はあるはず。
ただ、周回する“プロキシマ・ケンタウリ”が赤色矮星という小さな恒星であることが問題になってきます。
 スペイン・カナリア天体物理研究所のチームにより、“プロキシマ・ケンタウリb”の質量は地球の1.17倍前後(下限値)という値が得られている。
一般に、恒星は質量が小さいほど放射量が少なくなるので、ハビタブルゾーンは恒星に近くなってしまいます。
“プロキシマ・ケンタウリb”の場合だと、中心星“プロキシマ・ケンタウリ”までの距離は地球から太陽までの約20分の1しかありません。

一方で、恒星は質量が小さいほど半径も小さくなり、表面から中心核(コア)までの距離は短くなります。
そう、中心核の激しい活動が表面に現れやすくなるんですねー

恒星の中心核では激しい磁気活動があり、強い磁場は電気を帯びた粒子を加速させ、恒星の表面から噴き出させます。
これが恒星風で、太陽の場合は太陽風と呼ばれています。

このような粒子が惑星の大気にぶつかると、大気を構成する分子が加速され、惑星の重力を振り切って逃げだす原動力になります。

大きい恒星のハビタブルゾーン内では、そのような現象に遭遇することは滅多にありません。
でも、小さい恒星のハビタブルゾーン内では、惑星は激しい恒星風に常時さらされてしまいます。

このため、本当にハビタブル(生命が居住可能)かどうかは議論の余地があります。

地球と比べて最大1000倍の恒星風にさらされている“プロキシマ・ケンタウリb”に大気は存在しない…

ほとんどの場合、特定の恒星の磁気活動を知ることはできません。

それでも、一部の観測可能な恒星の磁気活動を元に、他の恒星の磁気活動を推定することはできます。
ただ、これが正しいかどうかは分かりませんでした。

近年、“プロキシマ・ケンタウリ”の観測値が積み重ねられたことで、磁気活動を直接モデル化できる“ZDI(ゼーマン・ドップラー・イメージング)”を“プロキシマ・ケンタウリ”の研究に利用できるようになったんですねー

ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのCecilia Garraffoさんの研究チームは、“プロキシマ・ケンタウリ”の観測データを元に、“ZDI”を用いた磁気活動のモデル化を検証しています。
図2.今回の研究で構築された“プロキシマ・ケンタウリ”の磁気圏。左からZDIモデル、代替モデル、両者の組み合わせによるもの。(Credit: Garraffo, et.al.)
図2.今回の研究で構築された“プロキシマ・ケンタウリ”の磁気圏。左からZDIモデル、代替モデル、両者の組み合わせによるもの。(Credit: Garraffo, et.al.)
その結果、“プロキシマ・ケンタウリ”の磁気活動について詳細なモデルが構築され、“プロキシマ・ケンタウリb”は地球と比較して平均値でも100~300倍、“プロキシマ・ケンタウリ”の活動サイクル(7年周期)のピーク時には、地球の1000倍もの恒星風にさらされると推定されました。

この値では、惑星の表面にある大気や水は短期間で蒸発しきってしまうことに…
なので、“プロキシマ・ケンタウリb”はハビタブルゾーン内を公転しているにもかかわらず、不毛の惑星である可能性が高いことが分かりました。

“プロキシマ・ケンタウリ”のように小さな恒星は、大きな恒星よりも数多く存在すると考えられています。
その中には、ハビタブルゾーン内にあると推定される系外惑星がいくつも見つかっています。

でも、それら系外惑星の居住可能性については、再考する必要があるのかもしれません。
太陽よりも表面温度が低く光度も暗い“赤色矮星”の場合だと、まずは大気を維持するメカニズムが重要なんですね。


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赤色矮星の周りにも、地球のような温暖な気候を持つ海惑星が存在しているのかも

2022年10月23日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
近年の系外惑星探査で関心が集まっているのは、地球のような温暖な岩石惑星… いわゆるハビタブル惑星の発見なんですねー

こうした惑星の探査の多くは、見つけ易さから太陽系の近傍に多数存在する“赤色矮星”または“M型星”と呼ばれる、太陽よりも低温の星をターゲットとしています。

さらに、惑星が温暖な気候を維持するためには、適度な日射量だけでなく、適量な海水が必要なことが知られています。

でも、これまでの惑星形成モデルで予測されていたのは、“M型星”の周りにそのような条件を満たす惑星が存在する確率は非常に小さいことでした。

そこで、今回の研究で着目しているのは、惑星の形成場である原始惑星系円盤のガス成分の獲得によって形成される大気とマグマオーシャンとの反応で生成される水でした。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がる水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。
形成期の惑星には、材料となる岩石が頻繁に衝突するため、地表面はその衝突の際の過熱で溶融した状態になる。さらに、この時期の大気の主成分である水素ガスは強い保温効果を持っているため、溶けた岩石は冷えず、全球がマグマに覆われた状態にあると考えられ、これをマグマオーシャンという。
さらに、新しい惑星形成モデルを独自に開発し、改めて系外惑星の持つ海水量を理論的に予測していきます。

すると、“M型星”の周りにおいても、地球程度の半径と日射量を持つ惑星のうち数%が適度な海水量を持っていると見積もられたんですねー

このことが示唆していること、それは今後十年以内の探査で温暖な気候を持つ惑星の発見が十分期待できることでした。

水は気候に重要な役割を果たしている

1995年の初検出以降、太陽以外の星を周回する惑星“系外惑星”は、すでに5000個以上検出されています。

こうした多数の系外惑星の検出によって分かってきたのは、惑星系が宇宙に普遍的に存在すること。
一方、その大きさや成分、中心星からの距離、日射量について、系外惑星が実に多様であることも明らかになりました。

これまでに検出された惑星には、地球に近い大きさの惑星も多数存在しています。

それらの中に地球のような温暖な気候を持つ惑星“ハビタブルな惑星”はあるのでしょうか?
このことは、大きな関心ごとのひとつになっているんですねー

地球の生命体には水が必要ですが、実は気候にも水は重要な役割を果たしています。

恒星から受ける日射量が適度であることに加えて、惑星が温暖な気候を維持するために必要なのが、適度な水量の海洋であることが知られています。

現在の地球は、プレートテクトニクスと大陸風化を伴う炭素循環が機能することで、温暖な気候を維持できています。

でも、海水量が地球よりも数十倍以上多くなると、炭素循環が制限されてしまい、極端に熱い、もしくは寒冷な気候になると考えられています。

惑星が水を獲得する方法

太陽系では、水を含む岩石または氷天体の飛来によって、地球は現在の海を獲得できたとする考えが有力視されています。

この考えを“M型星”を公転する惑星に適用した過去の研究では、適度な水量を持つ惑星は非常に稀であることが予測されていました。

今後のハビタブル惑星探査の主な対象となっている“M型星”ですが、地球のような温暖な気候を持つ惑星が発見される可能性は極めて低い っという、いわばネガティブな示唆が得られていました。

一方、別の水獲得過程として、惑星の形成期に惑星内部で水を生成する過程と条件が生駒大学の研究で提案されていました。

一般に惑星は原始惑星系円盤の中で成長するので、その円盤のガスを重力的に獲得し、水素を主成分とする大気“原始大気”を形成します。

また、形成途中の惑星の地表面は天体の衝突による熱などによって、溶融したマグマの状態“マグマオーシャン”にあります。
形成期の岩石惑星において、原始大気とマグマオーシャンとの反応で水(水蒸気)が生成される状態(イメージ図)。(Credit: 木村真博)
形成期の岩石惑星において、原始大気とマグマオーシャンとの反応で水(水蒸気)が生成される状態(イメージ図)。(Credit: 木村真博)
この時、水素ガスとマグマに含まれる酸化物が化学反応することによって生成されるのが水です。

この水生成反応の効果を考慮すると、これまでの理論モデルよりも水に富んだ惑星を形成できる可能性は上がることになります。

太陽系外の海惑星の存在頻度

惑星が獲得する含水岩石の量や水生成反応から得られる水量は、惑星形成過程に大きく左右されることになります。

そこで、今回の研究では、太陽系外の海惑星の存在頻度を改めて求めるために“惑星種族モデル”を開発。
このモデルでは、最新の惑星形成理論に基づいて惑星の質量成長や軌道進化を追い、その過程で獲得した水の量を計算することができます。
さらに、これまで考えられていた含水岩石の獲得に加えて、原始大気中の水生成の効果も新たに取り入れています。

そして、このモデルを用いた数値シミュレーションで分かってきたのが、様々な位置に大きさや大気量の異なる多彩な惑星が生成されることでした。
1万個の“M型星(0.3太陽質量)”の周りで形成された惑星の軌道長半径と質量の分布。各点の色は惑星の原始大気の質量分率を表す。破線の枠はハビタブルゾーンにある地球に近い質量の惑星の領域を示している。(Credit: 木村真博)
1万個の“M型星(0.3太陽質量)”の周りで形成された惑星の軌道長半径と質量の分布。各点の色は惑星の原始大気の質量分率を表す。破線の枠はハビタブルゾーンにある地球に近い質量の惑星の領域を示している。(Credit: 木村真博)
その中から、ハビタブルゾーンに存在する惑星を取り出して、獲得した海水量を調べた結果が下の図です。
“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたる。
図のように、原始大気中の水生成が働く場合には、“M型星”を公転する系外惑星は非常に多様な水量を保持できることが分かりました。

その中には、地球と同程度の海水量を持つ惑星も形成されています。

これらの惑星の海水は、ほとんどが大気中の水生成によって得られたものでした。

計算データの解析結果から得られたのは、惑星半径が地球の0.7倍~1.3倍の惑星の数%が温暖な気候を維持するために適切な水量(地球海水量の0.1~100倍)を保持しているという予測だったんですねー
“M型星(0.3太陽質量)”の周りのハビタブルゾーンに位置する地球程度の質量(0.3-3倍の地球質量)の惑星の海水量分率の頻度分布。緑色がこれまでのモデルに従い含水岩石の獲得のみを考慮した計算の結果。橙色が今回の研究のモデルを用い原始大気中の水生成の効果を考慮した場合の結果。点線は現在の地球の海水量分率。(Credit: 木村真博)
“M型星(0.3太陽質量)”の周りのハビタブルゾーンに位置する地球程度の質量(0.3-3倍の地球質量)の惑星の海水量分率の頻度分布。緑色がこれまでのモデルに従い含水岩石の獲得のみを考慮した計算の結果。橙色が今回の研究のモデルを用い原始大気中の水生成の効果を考慮した場合の結果。点線は現在の地球の海水量分率。(Credit: 木村真博)
国立天文台すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置“IRD”を用いた惑星探査計画や現在稼働中のNASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”、打ち上げが予定されているヨーロッパ宇宙機関の宇宙望遠鏡“PLATO”などによる探査から試算されているのは、“M型星”周辺のハビタブルゾーンの中に地球程度のサイズの惑星が100個程度発見されるということ。
“PLATO”は、ハビタブルゾーン内にある地球型惑星の検出を目指し、2026年に打ち上げが予定されているヨーロッパ宇宙機関の宇宙望遠鏡。
その中の数個が、地球のような温暖な気候を持つ海惑星であると、今回の研究結果は予測しています。

また、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や2026年に打ち上げが予定されているヨーロッパ宇宙機関の宇宙望遠鏡“ARIEL”による系外惑星の大気スペクトルの観測から、大気中の水分子などの存在についても明らかになってくるはずです。
“ARIEL”は、既知の系外惑星の大気の化学組成や熱構造を観測することを目指し、2028年に打ち上げが予定されているヨーロッパ宇宙機関の宇宙望遠鏡。
こうした観測によって今回の研究の理論予測が検証され、地球のような海惑星の形成過程の解明につながっていくといいですね。


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生命が居住可能な領域に惑星を発見! 太陽よりも小さく表面温度が低い恒星を8.46日で公転

2022年10月04日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
太陽系から約100光年の彼方に位置する恒星“LP 890-9”。
この低温の恒星の周りに2つのスーパーアースが発見されました。

さらに分かってきたのは、外側のスーパーアース“LP 890-9c”が“ハビタブルゾーン”内を公転していること。

“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。
太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたり、この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられているんですねー

今回の発見は、NASAの系外惑星探査衛星“TESS”と、ベルギー・リエージュ大学の研究者のSPECULOOSプロジェクトによるもの。
さらに、観測の成功には、東京大学とアストロバイオロジーセンターの研究者らによる多色同時撮像カメラ“MuSCAT3”、すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置“IRD”の連携があったそうです。
今回の研究のイメージ図。(Credit: アストロバイオロジーセンター/ MuSCATチーム)
今回の研究のイメージ図。(Credit: アストロバイオロジーセンター/ MuSCATチーム)

太陽よりも暗い恒星を回る惑星を探す

2022年現在、惑星が恒星の手前を通過する“トランジット”という現象を利用した系外惑星の探索が、トランジット惑星探査衛星“TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)”によって行われています。

“TESS”はマサチューセッツ工科大学が中心となって実施しているNASAの衛星計画です。
2018年4月18日に打ち上げられ、2年間ほぼ全天のトランジット惑星を探索するという計画を実施してきました。

“TESS”が第1期延長計画までの4年間で発見したのは、5000個を超えるトランジット惑星候補。
観測は5年目に入っていて、現在は第2期延長計画を実施中なんですねー

“TESS”が狙うのは、地球からおよそ300光年以内にあり、恒星の明るさによって大気が照らされている惑星。
調査する恒星の多くはM型矮星という銀河系に最も多いタイプで、私たちの太陽よりも小さくて暗い恒星です。

地球から見て惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”は、“分光(光をスペクトルに分ける)”を行う“ドップラーシフト法”ほど多くの光子を必要としないので、“トランジット法”による“赤色矮星”周囲の惑星探査が近年進んでいます。

“TESS”は、4台の超広視野カメラを用いて空の24度×96度の領域を27.4日ずつ観測し、トランジットの際に起きる恒星の周期的な減光を探していました。

2つのチームが独立してトランジット惑星候補の観測を実施

今回、惑星が発見された赤色矮星“LP 890-9(別名:TOI-4306、SPECULOOS-2)”は、周期約2.73日の減光を“TESS”がとらえたものでした。
トランジット惑星候補“TOI-4306.01”という名で2021年7月21日に世界へ公開されています。
表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星と呼ぶ。
実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星。
太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがある。
さらに、“LP 890-9”に対しては追観測も行われています。

この観測を行ったのは、“TESS”の公式追観測プログラムであるTFOP(TESS Follow-up Observing Program)に参加している日本のMuSCATチームとベルギーの研究者からなるSPECULOOSチーム。
2021年8月以降それぞれ独立に、この惑星候補が本物かを確認するための追観測に取り組んでいます。

それぞれのチームが独立して観測を行っているのは、“TESS”で発見される周期的な減光が、2つの恒星(連星)がお互いを隠す場合にも起こりうる っということが理由でした。

MuSCATチームは、マウイ島のハレアカラ観測所に設置した4色同時撮像カメラ“MuSCAT”による多色同時観測と、すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置“IRD”による視線速度の観測から、2021年10月までに“TOI-4306.01”が惑星“LP 890-9 b”であることを確認しています。
“MuSCAT”シリーズは、岡山県の188センチ望遠鏡、スペイン・テネリフェ島の1.52メートル望遠鏡、アメリカ・マウイ島の2メートル望遠鏡に搭載された観測装置。
3つもしくは4つの波長帯で同時にトランジット観測が行える。
“MuSCAT”はMulticolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanetsの略で、岡山県の名産品にちなんでいる。
一方、SPECULOOSチームは2021年8月から“TOI-4306.01”のトランジット時刻以外も含めて“LP 890-9”の継続な観測を実施。
2021年10月と11月に“TOI-4306.01”とは別の周期の減光(別のトランジット惑星候補)を発見しています。
“SPECULOOS”は、ベルギーのリエージュ大学の研究者がリードする、赤色矮星周りのハビタブルゾーンを公転するトランジット惑星を探索するプロジェクト。
“SPECULOOS”はSearch for habitable planets EClipsing ULtra-c001 Starsの略で、ベルギーの伝統的なビスケットの名前にちなんでいる。
ただ、SPECULOOSチームのデータでは、惑星の公転周期を1つに絞り込むことができなかったんですねー

そこで、MuSCATチームはSPECULOOSチームと協力して“MuSCAT3”での追観測を実施。
この観測により、トランジット惑星候補が本物の惑星“LP 890-9 c”であり、公転周期が約8.46日であることを突き止めています。

すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置“IRD”による視線速度の測定は、惑星候補の質量に強い制限を与え、“LP 890-9”を公転する2天体が本物の惑星であることを示す決め手になったそうです。

ハビタブルゾーンに位置する地球よりやや大きな岩石惑星

発見された2つの系外惑星“LP 890-9 b”と“LP 890-9 c”の半径は、それぞれ地球半径の1.32倍と1.37倍。
この半径の惑星は、理論的には地球よりやや大きな岩石惑星“スーパーアース”と考えられます。
半径が地球の1~1.5倍程度の、地球よりやや大きな惑星のことを“スーパーアース”と呼ぶ。
理論上、この半径の惑星は水素大気を維持できないので、水素大気を持つ小さなガス惑星“サブネプチューン”である可能性が極めて低い。
このため岩石を主体とした惑星と考えられる。
この2つのうち外側にある“LP 890-9 c”は、主星“LP 890-9”からの距離が惑星表面に液体の水が存在可能な条件を満たした領域、いわゆるハビタブルゾーン(生命居住可能領域)内にあります。

なぜ、公転周期が10日に満たない、主星のすぐ近くにある惑星がハビタブルゾーンにあるのでしょうか?
それは、主星が太陽の15パーセントほどの半径の小さな恒星で、その表面温度が摂氏約2600度(太陽は摂氏約5500度)しかないからでした。
すばる望遠鏡に2018年から搭載された赤外線ドップラー装置“IRD”。低温の恒星をめぐる惑星の探査に活躍している。“IRD”の観測から、“LP 890-9 b”と“LP 890-9 c”の質量が、それぞれ13.2地球質量以下、25.3地球質量以下という制限が与えられた。(Credit: アストロバイオロジーセンター)
すばる望遠鏡に2018年から搭載された赤外線ドップラー装置“IRD”。低温の恒星をめぐる惑星の探査に活躍している。“IRD”の観測から、“LP 890-9 b”と“LP 890-9 c”の質量が、それぞれ13.2地球質量以下、25.3地球質量以下という制限が与えられた。(Credit: アストロバイオロジーセンター)

2020年8月に東京大学で完成した“MuSCAT3”。2020年9月からは、マウイ島のハレアカラ観測所にある2メートル望遠鏡に搭載されている。(Credit: MuSCATチーム)
2020年8月に東京大学で完成した“MuSCAT3”。2020年9月からは、マウイ島のハレアカラ観測所にある2メートル望遠鏡に搭載されている。(Credit: MuSCATチーム)
まだ発見されたばかりのスーパーアース“LP 890-9 c”。
この惑星がどんな環境で、果たして生命が生まれているのかどうかも現時点では分かっていません。

でも、“LP 890-9 c”はトランジット惑星であるため、将来のトランジットの追観測によって大気組成や雲の有無など大気の性質を詳しく調べることができるんですねー

その大気の性質は、地表に液体の水が安定的に存在できるかどうかに大きく影響します。

例えば将来の観測で、この惑星には生命が存在しそうにないと分かっても、ハビタブルゾーンにある岩石惑星がどのような大気を持つのかを研究することは、私たちの住む地球が宇宙の中でどんな存在なのかを位置づける上で重要なことになります。

その点においても、今回の発見は将来のさらなる研究へとつながる重要な研究対象をもたらしてくれたといえますね。


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