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宇宙が年老いるにしたがって生命が誕生する確率は低下していく? 生命の出現に好条件な金属量が少ない恒星を公転する惑星の存在

2023年06月11日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
夏が近づいてくると、紫外線による日焼けを気にする人が多くなりますよね。

それは、紫外線が生命にとって有害であり、日焼けは紫外線が皮膚の細胞にダメージを与えたことの現れと言えるからです。

さらに、紫外線は細胞の奥深くへと達してDNAを損傷する可能性もあります。

太陽からの紫外線の多くは大気中のオゾン層に遮られているので、地球上の生命はオゾン層に守られていると言われています。

このため、地球のような岩石惑星を対象とした系外惑星探査では、大気中に存在するオゾンの含有量が、複雑な生命の居住可能性を判断するうえで重要な条件になっているんですねー

紫外線は地球大気中のオゾンの「生成と破壊」の両方に関わっている

惑星がオゾン層を形成するために、主星である恒星はどのような性質(化学組成)を持つ必要があるのでしょうか?

この疑問を解くため、今回の研究では系外惑星大気中のオゾン含有量に焦点を当てた数値シミュレーションを実施、その成果を発表しています。
研究を進めたのは、マックス・プランク太陽系研究所の科学者Anna Shapiro(アンナ・シャピロ)さんの率いる研究チームです。
太陽などの恒星は様々な電磁波を放射しています。

その電磁波の一部である紫外線は、可視光線の中でも波長が短い“紫”よりも外側の波長域(波長の短い領域)に位置していることから、そう呼ばれています。

紫外線は可視光線よりも波長が短いので、人間の目では感知することはできません。
モンシロチョウなど一部の生物は、紫外線を感知できると考えられている。
さらに、紫外線はその波長によりUV-A(315~400nm)、UV-B(280~315nm)、UV-C(100~280nm)の3種類に分類されています。

UV-Cは、上空のオゾンと酸素分子によってすべて吸収されるので、地表には到達しません。
地表に到達するUV-AとUV-Bのうち、特にUV-Bが生物に大きな影響を与えることになります。

オゾンは酸素原子3個からなる分子で、太陽から放射された紫外線は地球大気中のオゾンの生成と破壊の両方に関わっているんですねー

紫外線のうちUV-Cは、中層大気中でオゾンを生成する役割を担っています。
でも、UV-Bは個々の酸素原子や酸素分子との反応プロセスを通してオゾンを破壊していきます。

このことから、系外惑星の大気でも地球と同じように紫外線が複雑な反応を起こし、影響を与えていると考えることができます。

表面温度が約5000℃から6000℃の範囲にある恒星

惑星が確認されている恒星のうち約半数の表面温度は約5000℃から6000℃の範囲にあり、太陽もその一つに数えられています。

このグループに注目して研究は進められることになります。

研究チームでは、最初に恒星が放射する紫外線の波長を正確に計算。
この計算では、恒星の金属量に左右される影響も初めて考慮されていました。

この特性は、恒星に含まれる水素と重元素の比率を表していて、研究では鉄の含有量が多い星と少ない星についても検討されています。
例えば、太陽の場合だと鉄原子1個に対して水素原子は3万1000個存在しています。
天文学では、水素とヘリウムよりも重い元素のことを“重元素”と呼び、水素に対する重元素の割合は重元素量と呼ぶ。重元素は恒星内部の核融合反応により合成され、恒星の死に伴い星間空間へと放出される。なので、星の生と死のサイクルが十分に繰り返されていない初期の宇宙では、現在の宇宙に比べて重元素量が低かったと考えられている。
次に研究チームが考えたのは、恒星から放射される紫外線がハビタブルゾーン内に位置する惑星の大気にどのような影響を与え、どのように変化させていくのかということ。
これには、オゾンや酸素などの気体と紫外線の相互作用をシミュレーションする化学気候モデルを用いて分析しています。
“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたる。
このモデルを用いることで、研究チームは系外惑星の様々な状況と地球大気の過去5億年にわたる歴史を比較。
地球大気の歴史には、系外惑星の生命進化に関する手掛かりが隠されているかもしれないからです。

金属に乏しい星は紫外線を多く放射する

シミュレーションの結果示されたのは、全体として金属に乏しい星は金属に富む星よりも紫外線を多く放射すること。
さらに、オゾンを生成するUV-Cとオゾンを破壊するUV-Bの比率は、星の金属量に大きく依存することも示されることになります。

UV-BとUV-Cの比率は非常に大きな意味を持ちます。

金属に乏しい星ではUV-Cの比率が大きいので、惑星の大気では厚いオゾン層が形成されます。
一方、金属に富む星ではUV-Bの比率が大きいので、惑星の大気で形成されるオゾン層ははるかに希薄になってしまいます。

結果的に、金属に富む星は金属に乏しい星よりも紫外線放射が大幅に少ないにもかかわらず、その周りを公転する惑星ではオゾン層が希薄になるので、惑星表面はより強い紫外線にさらされることになります。

研究チームの予測に反して、「金属に乏しい星は生命の誕生にとってより有利な条件を提供する」という研究成果が示されたわけです。
金属に富む恒星(上段)と金属に乏しい恒星(下段)が、オゾン層形成に与える影響を比較した図。金属に富む恒星は金属に乏しい恒星よりも紫外線放射は少ないが、オゾン層の形成を助けるUV-C(ピンク色)の比率がオゾン層を破壊するUV-B(紫色)よりも小さいので、形成されるオゾン層は希薄になり、惑星表面に生命の出現は望めない。一方、金属に乏しい恒星は逆の状況を作り出し、生命の出現にとって好条件になる。(Credit: MPS/hormesdesign.de)
金属に富む恒星(上段)と金属に乏しい恒星(下段)が、オゾン層形成に与える影響を比較した図。金属に富む恒星は金属に乏しい恒星よりも紫外線放射は少ないが、オゾン層の形成を助けるUV-C(ピンク色)の比率がオゾン層を破壊するUV-B(紫色)よりも小さいので、形成されるオゾン層は希薄になり、惑星表面に生命の出現は望めない。一方、金属に乏しい恒星は逆の状況を作り出し、生命の出現にとって好条件になる。(Credit: MPS/hormesdesign.de)

宇宙が年老いるにしたがって生命が誕生する確率は低下していく?

金属(重元素)は、恒星内部の核融合反応によって数十億年かけて合成された後、恒星から流れ出る恒星風や超新星爆発を通して宇宙空間に放出されていき、次の世代の恒星や惑星の材料になります。

そのため、新しい世代の星は、その前の世代の星が作り出した金属を含む材料から形成されることに…
つまり、星に含まれる金属の量は、星が世代を重ねるごとに増えていくことになります。

そう、宇宙全体で見れば金属に富む星ばかりが増えていき、恒星系で生命が誕生する確率は宇宙が年老いるにしたがって低下していく可能性を、今回の研究は示しているんですねー

とはいえ、今回の成果は必ずしも地球外生命探査にとって絶望的な報せというわけでもないようです。

系外惑星が公転する主星の多くは太陽と同じような年齢の恒星であり、そのような恒星を公転する惑星のうち少なくとも1つは複雑で興味深い生命体を宿しています。
そう、私たちも良く知っている地球の存在があるからです。


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100光年彼方の赤色矮星を公転する系外惑星“TOI 700 e”を発見! 今回は楽観的なハビタブルゾーン内にあった

2023年03月03日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
今回、アメリカ天文学会の第241回会合で発表されたのは、
かじき座の方向約100光年彼方に位置する13等級の赤色矮星“TOI 700”を公転している4つ目の太陽系外惑星を発見したとする研究成果でした。
 今回の研究を進めているのは、NASA・ジェット推進研究所の博士研究員Emily Gilbertさんを筆頭とする研究チームです。
地球サイズの太陽系外惑星“TOI 700 e”のイメージ図。左奥には同じ星系の“TOI 700 d”も描かれている。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Robert Hurt)
地球サイズの太陽系外惑星“TOI 700 e”のイメージ図。左奥には同じ星系の“TOI 700 d”も描かれている。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Robert Hurt)

主星からの距離が程良く惑星の表面に液体の水が存在できる領域ハビタブルゾーン

主星“TOI 700”は、大きさと質量が太陽の4割ほどのM型矮星で、表面温度は約3500Kほどなので恒星として低温な部類になります。

これまで、“TOI 700”の周りで見つかっているのは、系外惑星“TOI 700 b”、“TOI 700 c”、“TOI 700 d”の3つでした。

もっとも内側の“TOI 700 b”は、地球とほぼ同じサイズの岩石惑星とみられていて公転周期は10日。
真ん中の“TOI 700 c”は公転周期が16日ほどで、地球の2.6倍ほど大きいガス惑星だと考えられています。

そして、最も外側を公転している惑星“TOI 700 d”は、地球の約1.2倍の大きさの岩石惑星で表面温度は摂氏-約4度ほど。
主星までの距離は約2400万キロ、37.4日周期で公転しているようです。

主星との距離が太陽から地球の約6分の1になるので、“TOI 700 d”は主星に近い軌道を公転していることになります。
ただ、主星が太陽より暗いこの惑星系では、この距離がハビタブルゾーンに当たるんですねー
 “ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く惑星の表面に液体の水が存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。
表面温度が摂氏-約4度ほどと考えらていますが、これは大気の影響を考慮しないもの。
もし、“TOI 700 d”に大気があれば、表面に液体の水が存在する可能性もあるようです。

“TOI 700”の楽観的なハビタブルゾーン内を約27.8日周期で公転

今回、研究チームが発表したのは、この惑星系で4つ目の系外惑星“TOI 700 e”を見つけたことでした。

“TOI 700 e”の直径は地球の約95%で、主星を約27.8日周期で公転。
“TOI 700”の“楽観的なハビタブルゾーン”内を公転しています。
“TOI 700”のハビタブルゾーンと惑星の公転軌道を示した図。一番外側の“TOI 700 d”は保守的なハビタブルゾーン(濃い緑)内を、その内側の“TOI 700 e”は楽観的なハビタブルゾーン(薄い緑)内を公転している。(Credit: Gilbert et al.)
“TOI 700”のハビタブルゾーンと惑星の公転軌道を示した図。一番外側の“TOI 700 d”は保守的なハビタブルゾーン(濃い緑)内を、その内側の“TOI 700 e”は楽観的なハビタブルゾーン(薄い緑)内を公転している。(Credit: Gilbert et al.)

ジェット推進研究所によれば、楽観的なハビタブルゾーンとは惑星の歴史で一時的にでも表面に液体の水が存在し得る領域とのこと。
惑星の歴史の大半の期間を通して、表面に液体の水が存在し得る領域“保守的なハビタブルゾーン”の内側と外側に広がっています。

また、先に発見された“TOI 700 d”は、“TOI 700”の保守的なハビタブルゾーン内を公転していると見られています。

“TOI 700”を公転する系外惑星が見つかったのは、NASAの系外惑星探査衛星“TESS”の観測によって。
2018年4月に打ち上げられた“TESS”は、太陽系の近くにある地球サイズの惑星を発見することを主な目的としています。

“TESS”が狙うのは、地球からおよそ300光年以内にあり、恒星の明るさによって大気が照らされている惑星。
調査する恒星の多くはM型矮星という銀河系に最も多いタイプで、私たちの太陽よりも小さくて暗い恒星になります。
 “TESS”は、地球から見て系外惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”という手法により惑星を発見し、その性質を明らかにする。
現在、宇宙と地上からの観測による追跡調査が進められています。
なので、“TOI 700”星系に関する知見がさらに得られる可能性がありそうです。

なお、系外惑星の名前は、“主星の名前”に“小文字のアルファベット”を付与したものになります。

このアルファベットは、主星からの距離や発見された順番に応じて“b”から順に“c”、“d”と付与されていきます。

同じ星系で別の惑星が見つかっても、すでに命名済みの名前は変更されないので、アルファベットの順番と主星からの距離の順番が一致するとは限らないんですねー

今回発表された“TOI 700 e”は、“TOI 700”で4番目に見つかった系外惑星なので“e”が付与されています。

でも、先に見つかった“TOI 700 c”と“TOI 700 d”の間を公転しているので、“TOI 700”に近いものから惑星を並べると“b”、“c”、“e”、“d”の順番になってしまいます。

“TOI 700”を公転する4つの惑星の直径と公転周期。円の大きさの比率は実際の主星や惑星の大きさを反映していない。(Credit: sorae)
“TOI 700”を公転する4つの惑星の直径と公転周期。円の大きさの比率は実際の主星や惑星の大きさを反映していない。(Credit: sorae)

さらに、一部の系外惑星には国際天文学連合“IAU”が世界各国から募集した名前が付けられていますよ。


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土星の衛星ミマスの地下にも海がある? 海はまだ若いけど現在進行形で拡大している可能性が示されました

2023年02月19日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
土星の主要衛星の中では最も小さい“ミマス”は、密度が低く、大部分は氷と岩石で構成されていると考えられています。
約23時間の周期で土星を公転しているのですが、その周回中にリズミカルな揺れが検出されているんですねー

地下に海があるという仮説は、このリズミカルな揺れという現象からきているのですが、“ミマス”のコアが球体でないという点も、有力な原因として考えられています。
“ミマス”は氷で覆われた外層は球体なのですが、岩石のコアは、ラグビーボールのような楕円体なのかもしれません。

どのような理由であれ、土星探査機“カッシーニ”の画像を丹念に調べて発見した揺れは予想外のものでした。
地球の衛星の月を含め多くの衛星は、公転中にわずかに揺れているので、その事自体は珍しくありません。
でも、その幅は直径400キロ程度の衛星にしてはかなり大きく、1回の公転で3キロ程度と予想していたのが、実際にはその2倍もあったんですねー

どうすればミマスの揺れをうまく説明することができるのでしょうか?
そして、ミマスの地下に海は存在するのでしょうか?

“カッシーニ”が観測したミマスの振動

土星の衛星ミマスは、かつては地質活動のない天体だと考えられていました。

それは、ミマスの直径が約400キロと小さく、他の衛星との位置関係から潮汐力もあまり受けないので、内部で熱は生じていないと考えられていたためです。

そのうえ、ミマスの表面に火山や谷のような構造は見られず、表面を覆うクレーターには埋められた形跡も無いんですねー
なので、ミマスの内部は氷と岩石がほぼ均一に混ざり合っていて、明確な構造を持たないと考えられていました。

ところが、NASAの土星探査機“カッシーニ”のミッションが終わりに近づいた頃に状況が変わります。
ミマスに接近した“カッシーニ”が自転周期を厳密に測定すると、わずかながら振動していることが分かりました。

この現象は“秤動(ひょうどう)”と呼ばれていて、地球の月をはじめ多くの天体で一般的に起こる現象でした。
 秤動とは、ある天体からその周囲を公転する衛星を見たときに、その衛星が見かけ上行うように見える、または実際に行うゆっくりとした周期的な振動運動。単に秤動という場合には、地球を周回する月の秤動を指すことが多い。
秤動に大きな影響を与えるのは公転軌道の特性です。
でも、ミマスの場合は公転軌道の値だけでは秤動を説明できないことが分かっています。
図1.“ハーシェル・クレーター”が目を引く土星の衛星ミマス。その内部構造はよく分かっておらず、地殻の下に海があるという説と、非対称な形状を持つ核をがあるという説が提唱されている。(Credit: Denton & Rhoden)
図1.“ハーシェル・クレーター”が目を引く土星の衛星ミマス。その内部構造はよく分かっておらず、地殻の下に海があるという説と、非対称な形状を持つ核をがあるという説が提唱されている。(Credit: Denton & Rhoden)

なぜミマスは振動しているのか

秤動の測定からミマスの内部は均一ではなく、分厚い地殻と大きな核に分かれた明確な構造を持っていることも判明しました。

このことにより、ミマスの大まかな構造は判明。
でも、これだけでは秤動を完全には説明できませんでした。

どうすればミマスの秤動をうまく説明することができるのでしょうか?

それには、地殻と核の間に液体の水の層があると仮定すると、最も簡単に説明できそうです。

ただ、この場合だと地殻の厚さは24キロから31キロあり、その下には深さ40キロ未満の海が存在することになります。

それに、海と呼べるほど大量の水が凍らずに液体のままで存在するには熱源が必要になってきます。

潮汐加熱によって氷衛星の内部に広大な海が存在する可能性は、ミマスと同じ土星の衛星エンケラドスをはじめ、木星の衛星エウロパや海王星の衛星トリトンなどで指摘されています。
これらの衛星は外殻から間欠泉“プルーム”が噴出するなど活動が盛んで、衛星の表面は地質学的に短いタイムスケールで更新されていると考えられています。

でもミマスでは、この地質活動の証拠が見当たらないんですねー

なので、内部に液体の水の層は存在せず、核が球形ではなくラグビーボール型に大きく変形していることで、対象型ではない核の構造が秤動に影響を及ぼしている、とする説も有力視されていました。
衛星の軌道が円形でないとき、惑星から遠いときはほぼ球体の衛星も、接近するにしたがって惑星の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により衛星内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。
木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、潮汐作用による惑星内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られている。

クレーターを対象とした研究へ

この謎を別のアプローチから検証したのは、パデュー大学のC.A.Dentonさんとサウスウエスト研究所のA.R.Rhodenさんの研究チームでした。

研究の対象としたのは、ミマスで最も目立つ“ハーシェル・クレーター”。
このクレーターは直径が約140キロと、ミマスの直径の3分の1ほどもある大きなクレータです。

でも、より興味深いのはその構造でした。

クレーターの深さは約10キロで、高さ約6キロの中央丘が存在しています。
このような明確なクレーター構造は、地殻が固くなければ形成されないんですねー

仮に、内部に海があって地殻が薄いとすれば、クレーターの形成時に地殻を破って海水が表面に現れるので、このような構造は形成されないはずです。
図2.衝突クレーターのシミュレーションの結果の一例。地殻の厚さが30キロの場合、内部の海が表面に現れてしまい、現在のクレーターの形状と一致しない。よく一致するのは、地殻の厚さが55キロ以上の場合になる。(Credit: Denton & Rhoden)
図2.衝突クレーターのシミュレーションの結果の一例。地殻の厚さが30キロの場合、内部の海が表面に現れてしまい、現在のクレーターの形状と一致しない。よく一致するのは、地殻の厚さが55キロ以上の場合になる。(Credit: Denton & Rhoden)
そこで研究チームが繰り返し行ったのは、予想されるミマスの地殻の厚さを最も薄い予測値である25キロから、すべて凍結している場合の予測値である70キロまで様々な値に設定して、“ハーシェル・クレーター”形成時の衝突のシミュレーションでした。

地殻の厚さを内部に海が存在するモデルにおける値である30キロ未満に設定したシミュレーションでは、予想通り地殻は衝突によって破れてしまう結果になりました。

地殻の厚さが55キロ以上の場合だと実際の状況と結果が最も一致。
でも、現在のクレーターの形状がよく再現されたのは、内部で十分な熱が生じている場合のみでした。

以上の結果から導かれたのは、“ハーシェル・クレーター”形成時のミマスの地殻の厚さは55キロ以上あったこと。
さらに、地殻は現在に至るまでの間に、約30キロまで薄くなっている可能性があるそうです。

つまり、ミマスには地質活動があり、徐々に内部が融けることで形成された若い海が存在する可能性が示されたわけです。

このシナリオの場合、ミマスの地殻は現在進行形で徐々に薄くなっているけど、地質活動が表面に現れるほど薄くはなっていないという現状と一致しています。

それでも熱源やその保持には、まだ多くの謎が残っています。

液体の水が豊富に存在する場合は、内部が完全に凍結している場合と比較して、熱の保持に関するパラメータが大きく変更されるので、この謎は新たなモデルを構築することで解明できる可能性はあります。

ミマスの軌道要素は特殊であり、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスのように、内部に海を持つと考えられるほかの氷衛星のモデルをそのまま適用することはできません。

そう、ミマスの場合は新たなモデルを一から構築しなければいけないんですねー
この点からも、今回の研究結果の検証にはしばらく時間がかかりそうだといえますね。


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土星の衛星エンケラドス表面の水柱から“生物の細胞”を検出できる可能性はあるのか?

2023年02月15日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
厚い氷の層に覆われた海を持つ土星の小さい衛星“エンケラドス”。
エンケラドスには間欠泉があり、地表にある割れ目から宇宙空間に向けて海水を噴き上げているんですねー

興味深いことに海水に含まれているのは、水、塩、シリカ(二酸化ケイ素)、炭素を含む単純な化合物。
そう、これらは生命の材料になり得る物質なんですねー

なので、エンケラドスから宇宙空間に放出されるプルームには、もしかすると生物の細胞が含まれているかもしれません。
エンケラドスを周回してプルームを採取することができれば…
将来の探査機が、生物の細胞を検出してくれるのかもしれませんね。
図1.エンケラドスの間欠泉を観測する土星探査機“カッシーニ”(イメージ図)。プルームを初めて観測しただけでなく、ミッションの後期にはプルームを複数回通過し、貴重なデータを提供してくれた。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
図1.エンケラドスの間欠泉を観測する土星探査機“カッシーニ”(イメージ図)。プルームを初めて観測しただけでなく、ミッションの後期にはプルームを複数回通過し、貴重なデータを提供してくれた。(Credit: NASA/JPL-Caltech)

エンケラドスの地下に存在する海に生命は存在するのか

土星の衛星エンケラドスは、2005年の土星探査機“カッシーニ”による観測以来、注目され続けている天体です。

それは、エンケラドスの南極付近には間欠泉があり、水のプルーム(水柱)が時々宇宙空間へと放出されているからです。

観測で得られた数々の証拠は、エンケラドスの内部が潮汐力によって加熱されて融けていて、表面を覆う分厚い氷の下に液体の海が存在するという強力な証拠を示しているんですねー
 衛星の軌道が円形でないとき、惑星から遠いときはほぼ球体の衛星も、接近するにしたがって惑星の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により衛星内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。
 木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、潮汐作用による惑星内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られている。
また、プルームにはある程度複雑な有機分子、それに塩化物イオンやナトリウムイオンなどが含まれているので、この海は生命を育む条件が整っているとも考えられています。

もし、エンケラドスの海に生命が存在するとしたら…

それは、地球の深海底に存在する生命に似ているのかもしれません。
このような環境では届かない日光のかわりに、地熱活動で噴出する熱水噴出孔からの無機物を代謝するメタン菌などの化学合成生物が生息しています。

なので、エンケラドスにも生命がいるとすれば、そのような代謝経路を持つ生命であるはずだという予測が成り立ちます。

どうやって生命の探査を行うのか

エンケラドスは、地球外生命がいるかもしれない天体の最有力候補の1つといえます。
でも、その証拠を見つけるのは簡単なことではないんですねー

エンケラドス表面の氷の下に海があるとしても、それは厚さ30~40キロと推定される氷殻の下になり、海の深さ自体も10キロあると見られています。

これほど深い穴は地球ですら掘られたことはありませんし、生物圏があったとしてもその規模は極めて小さいとされているので、仮に潜水艇を送り込めたとしても捜索は困難を極めるでしょう。

このことから、直接の探査によって生命を見つけられるかどうかは、まだ当分先の話になりそうです。
図2.エンケラドス内部活動のグラフィカルな説明図。氷の地殻の下には液体の海があり、そこには地熱活動に由来する熱水噴出孔があると推定されている。また、氷の薄い部分からは海水が間欠泉として噴出されている。“カッシーニ”の観測により判明したプルームは液体の海と地熱活動の強力な証拠になった。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Southwest Research Institute)
図2.エンケラドス内部活動のグラフィカルな説明図。氷の地殻の下には液体の海があり、そこには地熱活動に由来する熱水噴出孔があると推定されている。また、氷の薄い部分からは海水が間欠泉として噴出されている。“カッシーニ”の観測により判明したプルームは液体の海と地熱活動の強力な証拠になった。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Southwest Research Institute)

でも、エンケラドスから宇宙空間に放出されるプルームには、もしかすると生物の細胞が含まれているかもしれません。

ただ、放出された生物は瞬く間に低温と真空に晒されてしまいます。
生きたものを見ることは不可能ですが、氷漬けにされた細胞を見る機会はあるかもしれません。
本当に技術的に検出可能なレベルの量で細胞が含まれていればの話ですが…

プルームの採取を目指す探査ミッション

今回の研究では、アリゾナ大学のAntonin Affholderさんたちのチームが、エンケラドスを周回してプルームを採取する将来の探査機が、生物の細胞を検出可能かどうかの検証を行っています。

まず、研究チームが行ったのは、想定されるエンケラドスの生物圏の大きさをもとに、海水の上部に含まれる細胞数の推定でした。

そして、細胞がプルームに乗って噴き出す数と、1回のプルーム通過で探査機が採取可能な細胞の量、細胞が真空に晒されて壊れてしまう比率。
さらに、測定機の性能限界により誤って検出できないエラーが生じる確率を調べ、現実的に細胞が検出可能かどうかを算出しました。

その結果分かったのは、プルームに含まれる細胞の数が1ミリリットル当たり最大1000万個、1回の通過で採取できる量が0.00001ミリリットル、細胞の損傷率が94%だと仮定した場合、100回のプルーム通過で細胞を検出できる可能性があることでした。

100回と聞くとハードルが高いように思えますよね。
でも、2050年代の到達を目指している探査ミッション“エンケラドス・オービランダー”の場合、プルーム通過を1000回としているので、十分達成可能な回数といえます。

また、細胞の直接検出が叶わなかったとしても、代わりにアミノ酸を検出する代替案も併せて検討されています。

アミノ酸は生命以外の自然環境でも生成される物資です。
でも、生命が介在しない場合の存在量には限界があると考えられているんですねー

もし、プルームに含まれるアミノ酸などの複雑な有機分子の量が多い場合、生命以外の生成理由を考えることが難しくなるわけです。

なので、仮に細胞という直接の証拠が検出できなかったとしても、その代わりに有機分子の量を測定することで、生命が存在しない可能性が高いか低いかを考えることが可能になります。

プルームの採取だけで生命を見つけられると期待するのは、かなり甘い考えなのかもしれません。

でも、比較的簡単に生命存在の可能性を絞り込める手段の応用は考えられます。
エンケラドスと同様に生命の存在が予想される天体… 木星の衛星エウロパなど他の天体での観測に用いる可能性もありますね。


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観測を始めたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で初めて系外惑星を発見! 41光年彼方の赤色矮星を公転する地球サイズの惑星

2023年02月04日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
今回、アメリカ天文学会第241回号で発表されたのは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を使って地球とほぼ同じ大きさの太陽系外惑星を確認したという研究でした。
系外惑星の存在が、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測で確認されたのは、今回が初めてのこと。
2022年の夏から本格的に稼働を開始したばかりなので、今後はもっと多くの地球に似た岩石惑星が見つかるはずです。
 今回の研究を進めているのは、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所のJacob Lustig-YaegerさんとKevin Stevensonさんが率いる研究チームです。
赤色矮星“LHS 475”(奥)を公転する太陽系外惑星“LHS 475 b”(手前)のイメージ図。(Credit: Illustration: NASA, ESA, CSA, Leah Hustak (STScI))
赤色矮星“LHS 475”(奥)を公転する太陽系外惑星“LHS 475 b”(手前)のイメージ図。(Credit: Illustration: NASA, ESA, CSA, Leah Hustak (STScI))

系外惑星が主星の手前を通過する現象で分かること

今回、研究チームが発表した系外惑星は、南天の“はちぶんぎ座”の方向約41光年彼方に位置する惑星“LHS 475 b”。
“LHS 475 b”の直径は地球の99%で、主星である赤色矮星“LHS 475 b”を約2日間周期で公転していることが確認されています。

地球から見て、惑星“LHS 475 b”は主星“LHS 475 ”の手前を通過“トランジット”を定期的に起こしています。

“トランジット”の間は惑星が主星の一部を隠すので、主星の明るさはほんの少しだけ暗くなるんですねー
このときに見られる、わずかな減光や光のスペクトル(光の波長ごとの強さ)を詳しく調べることで、系外惑星の直径や公転周期、大気の有無や化学組成といった情報を得ることができます。

研究チームでは、“トランジット”を利用して系外惑星を検出するNASAの系外惑星探査衛星“TESS”の観測データを慎重に検討。
 系外惑星探査衛星“TESS”が狙うのは、地球からおよそ300光年以内にあり、恒星の明るさによって大気が照らされている惑星。調査する恒星の多くはM型矮星という銀河系に最も多いタイプで、私たちの太陽よりも小さくて暗い恒星。
その結果、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測の対象として選んだのが“LHS 475”でした。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器“NIRSpec”で検出された“LHS 475 b”によるトラジッととその前後の光度曲線。紫の点は観測データ、オレンジの線は最も適合したモデルを示す。(Credit: Illustration: NASA, ESA, CSA, Leah Hustak (STScI); Science: Kevin B. Stevenson (APL), Jacob A. Lustig-Yaeger (APL), Erin M. May (APL), Guangwei Fu (JHU), Sarah E. Moran (University of Arizona))
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器“NIRSpec”で検出された“LHS 475 b”によるトラジッととその前後の光度曲線。紫の点は観測データ、オレンジの線は最も適合したモデルを示す。(Credit: Illustration: NASA, ESA, CSA, Leah Hustak (STScI); Science: Kevin B. Stevenson (APL), Jacob A. Lustig-Yaeger (APL), Erin M. May (APL), Guangwei Fu (JHU), Sarah E. Moran (University of Arizona))
上の画像に示されているのは、“LHS 475 b”がトランジットを起こした時の“LHS 475”の明るさの変化を明確にとらえたもの。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器“NTRSpec”の観測データ(紫色)で、2022年8月31日に行われた観測の際に取得されたものです。
このデータから、系外惑星の直径や公転周期を知ることができます。

また、系外惑星が主星の手前を通過している時に主星のスペクトルを得る分光観測を行うことで、惑星の大気にどのような物質が存在するのかを知ることができます。
 個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるので、その波長での光の強度が弱まり吸収線として観測される。このスペクトルに見られる吸収線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
下の画像には、“LHS 475 b”の透過スペクトル(系外惑星の大気を通過してきた主星の光のスペクトル)の取得結果が示されています。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器“NIRSpec”で検出された“LHS 475 b”の透過スペクトル。白の点は観測データを示し、線は緑がメタンの大気を想定したモデル、オレンジは大気ない場合を想定したモデル、紫は二酸化炭素の大気を想定したモデルを示す。(Credit: Illustration: NASA, ESA, CSA, Leah Hustak (STScI); Science: Kevin B. Stevenson (APL), Jacob A. Lustig-Yaeger (APL), Erin M. May (APL), Guangwei Fu (JHU), Sarah E. Moran (University of Arizona))
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器“NIRSpec”で検出された“LHS 475 b”の透過スペクトル。白の点は観測データを示し、線は緑がメタンの大気を想定したモデル、オレンジは大気ない場合を想定したモデル、紫は二酸化炭素の大気を想定したモデルを示す。(Credit: Illustration: NASA, ESA, CSA, Leah Hustak (STScI); Science: Kevin B. Stevenson (APL), Jacob A. Lustig-Yaeger (APL), Erin M. May (APL), Guangwei Fu (JHU), Sarah E. Moran (University of Arizona))
発表の時点で“LHS 475 b”の大気の有無や化学組成について結論は出ていません。
少なくとも土星の衛星“タイタン”のようにメタンを主成分とする厚い大気は存在しないと見られています。

ただ、火星のように二酸化炭素を主成分とする大気は薄いので検出するのが難しくなり、大気が存在しない場合と区別しにくくなるんですねー
研究チームでは、さらに詳しいデータを得るため2023年夏に追加観測を行う予定です。

さらに、これまでに得られたデータから示されているのは、“LHS 475 b”の表面温度が地球と比べて摂氏200~300度ほど高いこと。
もし、二酸化炭素の大気と雲の存在が検出されれば、金星に似た惑星だと結論付けられる可能性もあります。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを元にした“LHS 475 b”の観測は、まだほんの始まりにすぎません。

これまでは観測手法の制約もあって、主な研究の対象になっていたのは巨大ガス惑星でした。
でも、今回の成果が示していたのは、より小さな系外惑星を特定できるジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の高い精度と解像度でした。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を使った観測により、今後はもっと多くの岩石惑星が見つかるはずですよ。


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