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生命が居住可能な領域に惑星を発見! 太陽よりも小さく表面温度が低い恒星を8.46日で公転

2022年10月04日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
太陽系から約100光年の彼方に位置する恒星“LP 890-9”。
この低温の恒星の周りに2つのスーパーアースが発見されました。

さらに分かってきたのは、外側のスーパーアース“LP 890-9c”が“ハビタブルゾーン”内を公転していること。

“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。
太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたり、この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられているんですねー

今回の発見は、NASAの系外惑星探査衛星“TESS”と、ベルギー・リエージュ大学の研究者のSPECULOOSプロジェクトによるもの。
さらに、観測の成功には、東京大学とアストロバイオロジーセンターの研究者らによる多色同時撮像カメラ“MuSCAT3”、すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置“IRD”の連携があったそうです。
今回の研究のイメージ図。(Credit: アストロバイオロジーセンター/ MuSCATチーム)
今回の研究のイメージ図。(Credit: アストロバイオロジーセンター/ MuSCATチーム)

太陽よりも暗い恒星を回る惑星を探す

2022年現在、惑星が恒星の手前を通過する“トランジット”という現象を利用した系外惑星の探索が、トランジット惑星探査衛星“TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)”によって行われています。

“TESS”はマサチューセッツ工科大学が中心となって実施しているNASAの衛星計画です。
2018年4月18日に打ち上げられ、2年間ほぼ全天のトランジット惑星を探索するという計画を実施してきました。

“TESS”が第1期延長計画までの4年間で発見したのは、5000個を超えるトランジット惑星候補。
観測は5年目に入っていて、現在は第2期延長計画を実施中なんですねー

“TESS”が狙うのは、地球からおよそ300光年以内にあり、恒星の明るさによって大気が照らされている惑星。
調査する恒星の多くはM型矮星という銀河系に最も多いタイプで、私たちの太陽よりも小さくて暗い恒星です。

地球から見て惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”は、“分光(光をスペクトルに分ける)”を行う“ドップラーシフト法”ほど多くの光子を必要としないので、“トランジット法”による“赤色矮星”周囲の惑星探査が近年進んでいます。

“TESS”は、4台の超広視野カメラを用いて空の24度×96度の領域を27.4日ずつ観測し、トランジットの際に起きる恒星の周期的な減光を探していました。

2つのチームが独立してトランジット惑星候補の観測を実施

今回、惑星が発見された赤色矮星“LP 890-9(別名:TOI-4306、SPECULOOS-2)”は、周期約2.73日の減光を“TESS”がとらえたものでした。
トランジット惑星候補“TOI-4306.01”という名で2021年7月21日に世界へ公開されています。
表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星と呼ぶ。
実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星。
太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがある。
さらに、“LP 890-9”に対しては追観測も行われています。

この観測を行ったのは、“TESS”の公式追観測プログラムであるTFOP(TESS Follow-up Observing Program)に参加している日本のMuSCATチームとベルギーの研究者からなるSPECULOOSチーム。
2021年8月以降それぞれ独立に、この惑星候補が本物かを確認するための追観測に取り組んでいます。

それぞれのチームが独立して観測を行っているのは、“TESS”で発見される周期的な減光が、2つの恒星(連星)がお互いを隠す場合にも起こりうる っということが理由でした。

MuSCATチームは、マウイ島のハレアカラ観測所に設置した4色同時撮像カメラ“MuSCAT”による多色同時観測と、すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置“IRD”による視線速度の観測から、2021年10月までに“TOI-4306.01”が惑星“LP 890-9 b”であることを確認しています。
“MuSCAT”シリーズは、岡山県の188センチ望遠鏡、スペイン・テネリフェ島の1.52メートル望遠鏡、アメリカ・マウイ島の2メートル望遠鏡に搭載された観測装置。
3つもしくは4つの波長帯で同時にトランジット観測が行える。
“MuSCAT”はMulticolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanetsの略で、岡山県の名産品にちなんでいる。
一方、SPECULOOSチームは2021年8月から“TOI-4306.01”のトランジット時刻以外も含めて“LP 890-9”の継続な観測を実施。
2021年10月と11月に“TOI-4306.01”とは別の周期の減光(別のトランジット惑星候補)を発見しています。
“SPECULOOS”は、ベルギーのリエージュ大学の研究者がリードする、赤色矮星周りのハビタブルゾーンを公転するトランジット惑星を探索するプロジェクト。
“SPECULOOS”はSearch for habitable planets EClipsing ULtra-c001 Starsの略で、ベルギーの伝統的なビスケットの名前にちなんでいる。
ただ、SPECULOOSチームのデータでは、惑星の公転周期を1つに絞り込むことができなかったんですねー

そこで、MuSCATチームはSPECULOOSチームと協力して“MuSCAT3”での追観測を実施。
この観測により、トランジット惑星候補が本物の惑星“LP 890-9 c”であり、公転周期が約8.46日であることを突き止めています。

すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置“IRD”による視線速度の測定は、惑星候補の質量に強い制限を与え、“LP 890-9”を公転する2天体が本物の惑星であることを示す決め手になったそうです。

ハビタブルゾーンに位置する地球よりやや大きな岩石惑星

発見された2つの系外惑星“LP 890-9 b”と“LP 890-9 c”の半径は、それぞれ地球半径の1.32倍と1.37倍。
この半径の惑星は、理論的には地球よりやや大きな岩石惑星“スーパーアース”と考えられます。
半径が地球の1~1.5倍程度の、地球よりやや大きな惑星のことを“スーパーアース”と呼ぶ。
理論上、この半径の惑星は水素大気を維持できないので、水素大気を持つ小さなガス惑星“サブネプチューン”である可能性が極めて低い。
このため岩石を主体とした惑星と考えられる。
この2つのうち外側にある“LP 890-9 c”は、主星“LP 890-9”からの距離が惑星表面に液体の水が存在可能な条件を満たした領域、いわゆるハビタブルゾーン(生命居住可能領域)内にあります。

なぜ、公転周期が10日に満たない、主星のすぐ近くにある惑星がハビタブルゾーンにあるのでしょうか?
それは、主星が太陽の15パーセントほどの半径の小さな恒星で、その表面温度が摂氏約2600度(太陽は摂氏約5500度)しかないからでした。
すばる望遠鏡に2018年から搭載された赤外線ドップラー装置“IRD”。低温の恒星をめぐる惑星の探査に活躍している。“IRD”の観測から、“LP 890-9 b”と“LP 890-9 c”の質量が、それぞれ13.2地球質量以下、25.3地球質量以下という制限が与えられた。(Credit: アストロバイオロジーセンター)
すばる望遠鏡に2018年から搭載された赤外線ドップラー装置“IRD”。低温の恒星をめぐる惑星の探査に活躍している。“IRD”の観測から、“LP 890-9 b”と“LP 890-9 c”の質量が、それぞれ13.2地球質量以下、25.3地球質量以下という制限が与えられた。(Credit: アストロバイオロジーセンター)

2020年8月に東京大学で完成した“MuSCAT3”。2020年9月からは、マウイ島のハレアカラ観測所にある2メートル望遠鏡に搭載されている。(Credit: MuSCATチーム)
2020年8月に東京大学で完成した“MuSCAT3”。2020年9月からは、マウイ島のハレアカラ観測所にある2メートル望遠鏡に搭載されている。(Credit: MuSCATチーム)
まだ発見されたばかりのスーパーアース“LP 890-9 c”。
この惑星がどんな環境で、果たして生命が生まれているのかどうかも現時点では分かっていません。

でも、“LP 890-9 c”はトランジット惑星であるため、将来のトランジットの追観測によって大気組成や雲の有無など大気の性質を詳しく調べることができるんですねー

その大気の性質は、地表に液体の水が安定的に存在できるかどうかに大きく影響します。

例えば将来の観測で、この惑星には生命が存在しそうにないと分かっても、ハビタブルゾーンにある岩石惑星がどのような大気を持つのかを研究することは、私たちの住む地球が宇宙の中でどんな存在なのかを位置づける上で重要なことになります。

その点においても、今回の発見は将来のさらなる研究へとつながる重要な研究対象をもたらしてくれたといえますね。


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