goo blog サービス終了のお知らせ 

薬屋のおやじのボヤキ

公的健康情報にはあまりにも嘘が多くて、それがためにストレスを抱え、ボヤキながら真の健康情報をつかみ取り、発信しています。

粗製塩が良いのか?「にがり」の功罪を考える。精製塩で良いし、にがりを意識的に摂るのは問題。

2012年08月04日 | 正しい栄養学

粗製塩が良いのか?「にがり」の功罪を考える。精製塩で良いし、にがりを意識的に摂るのは問題。

 このブログで何度か粗製塩について触れ、特に「“三白害”から脱却を」の記事の中で、“精製塩より粗製塩が良い”と主張しました。随分前から粗製塩がブームになって、近年になってからは「にがり」に注目され出し、「にがり」を健康食品として販売される今日情勢ですし、精製塩に「にがり」を添加した“健康塩”なるものまで登場しています。
 でも、“江戸時代には時間をかけて十二分に「にがり」を切った甘塩が好まれた”ということを聞いていましたので、わざわざ「にがり」を積極的に摂取することに疑問を持ち、「にがり」とは本質的にどんなものであり、現在世界で流通している食用塩に含まれる「にがり」の具合はどの程度のものであり、また、市場に出回っている「にがり」の成分はどんなものか、などなどを調べてみることにしました。
 先ずは手当たり次第にネット検索して、「にがり」の功罪について見てみることにし、次に(財)塩事業センター(元日本専売公社)とその関連機関などのサイトを覗いてみました。
 これは初耳だ、これは参考になる内容だ、といったものを40枚ほどプリントアウトして、それを元にしつつ、手持ちの資料と併せて、この記事を書くことにした次第です。
 ・2013.2.27 本文中に一部追記
 ・2017.2.16 本文中のふさわしくない表記を一部訂正。そして補記。

 最初に結論
(1)粗製塩である必要はなく、いわゆる精製塩(塩事業センターの“食塩”)で良いこと。
(2)「にがり」は毒であり、毒でありながら薬になることもあり。

 日本における塩の流通
 戦後しばらくして、塩は日本専売公社の独占事業となって、国内生産は海水からのイオン膜・立釜法での製塩となり、これだけでは需要を満たせず、天日塩をオーストラリア、メキシコから輸入し、原塩のまま、あるいは再溶解し精製したのち販売されていました。
 その後、製塩・販売が自由化された今日においても大勢に変化はないようです。
 なお、現在の国内生産量のうち、(財)塩事業センターがほとんどを占めると思われ、自由化に伴う粗製塩製造量は少ないようです。
 2011年 国内生産量978千トン 輸入量7066千トン 計8044千トン
        生活用(家庭、飲食店向け) 188千トン
        食品製造業用
        818千トン
        融氷雪用          680千トン
        ソーダ工業用       6053千トン
        その他の工業用       305千トン
 ただし、これ以外に特殊用塩71千トン、特殊製法塩222千トンがあり、後者には食用に供されるものとして、「にがり」を添加したもの、香辛料やゴマなどの食品を添加したものが含まれますが、その内訳数量は不明です。

 現在の日本人が食べている塩に「にがり」が含まれているか
 我々が口にする塩の多くは、イオン膜・立釜法での製塩のようですが、食品製造業では、輸入された天日塩の原塩も使っているようです。
 なお、塩事業センターの販売品“食塩”は海水からイオン膜・立釜法で、同販売品“精製塩”は天日塩を再溶解して作られているようです。
 それらの塩の分析データは次のようになっています。ただし、ロットごとにどれだけかの違いが出てきますので、一定した値ではありません。

 塩事業センターの分析データの例(塩類組成)                         (添加物)
     NaCl H20 石膏  CaCl2 MgSO4 MgCl2 KCl MgCO3 
     (g) (g)(mg)(mg)(mg)(mg)(mg)(mg)
  食塩  99.5 0.11  34   41   0     74   229 
 
精製塩 99.67 0.036  8   0   0   0     3  280
  原塩   98.02 1.79 136    0   5   20          25
(注)石膏はCaSO4です。また、精製塩の添加物は、正確には、塩基性炭酸マグネシウムmMgCO3・Mg(OH)2・nH2Oで、塩が固まるのを防ぐためのものです。

 ここで製塩法を紹介
 まず、イオン膜・立釜法ですが、幾層もの陽・陰イオン膜を交互にセットし、海水を入れて両サイドの電極に電流を流せば、陽イオン膜には陽イオンだけが、陰イオン膜には陰イオンだけが通過しますから、イオン膜一つおきに濃い海水と薄い海水になります。このとき、硫酸イオンや炭酸イオンは大きいですから膜を通過しにくく大半が薄い海水側に残ります。重金属イオンも同様です。これで約6倍に濃縮され、これを立釜で煮詰め、最初に出てくる石膏を除去するなど、その後の製造過程は天日塩の製造と類似しています。

 次に、オーストラリア、メキシコで行われている天日塩の製造は、次のようになります。
 海水を入れ込んだ濃縮池で約5倍濃縮させ、炭酸カルシウムの大半を沈殿させます。
 濃縮された海水(かん水)を調整池に移し、さらに濃縮して、残りの
炭酸カルシウムと析出し始めた石膏の大半を沈殿させます。
 石膏が80%程度析出したところで、飽和かん水となり、結晶池に移されます。さらに濃縮されると、塩(塩化ナトリウム)の結晶が沈殿していきます。その結晶に石膏が付着します。塩が85%程度結晶化したところで、硫酸マグネシウムが析出し始めますから、残液の「にがり」は結晶池から排出します。
 残液を排出後、塩結晶の層を掻き集めます。
 この塩結晶には「にがり」成分が約4%程度付着していますから、洗浄工程に移されます。洗浄は、最初にスクリューコンベアを通すときに飽和かん水をかけることによって、塩結晶に付着している石膏が擦り洗いされて除去されます。次に、ベルトコンベア上で飽和かん水をかけ、不溶解物を洗い落とし、仕上げに海水をかけます。
 洗浄された塩は、貯塩場に積み上げられ、水(海水)切りされた後、出荷されます。
 よって、先の表の原塩のように、「にがり」分は約0.2%の塩となるのです。

 さて、国内産のいわゆる「自然塩」や「天然塩」(この用語は使ってはならないことになっていますので、以下「粗製塩」と呼びます)で良質なもの、つまり昔ながらの製法で作られた塩はどうでしょうか。釜炊きによって海水がだんだん濃縮していく過程で、炭酸カルシウムや石膏をていねいに除去し、硫酸マグネシウムが析出し始める前に塩の析出を止めますから、天日塩の洗浄工程を行っていないものと同質の塩が得られると言えましょう。
 こうして作られた粗製塩は、「にがり」分がおおむね4%含まれていますから、江戸時代には、高級品の塩(甘塩)ともなると、カマスに入れた後、たっぷり時間をかけて「にがり」をなるべく多く切っていたのです。なお、「にがり」は、空気中の水蒸気を呼び込んで湿り気を帯びますから、液状になって滴り落ちるのです。
 ところで、粗製塩の純度(塩化ナトリウム)となると、85%程度に落ちることもあるようです。これは、塩以外のものとして、「にがり」約4%のほかに、付着した海水なり呼び込んだ水(湿り気)が約10%程度含まれることによるものです。

 岩塩との違いは
 欧米で使われている食用塩のほとんどは岩塩を原塩とします。
 岩塩は、天日塩が出来上がるのと類似していますが、通常、千年、万年単位でゆっくり出来上がったものですから、炭酸カルシウムや石膏は別の層として分離され、塩の結晶は極めて純度の高いものとなり、硫酸マグネシウムもほとんど含まないのが普通です。
 ただし、岩塩が出来上がる段階で、あるいは出来上がった後の地殻変動で、様々な物質が混ざりこんだり、「にがり」が閉じ込められたものがあったりして、その組成はバラエティーに富んでいるようで、そのまま食用に供することができる岩塩は少ないようです。
 よって、岩塩を再溶解して精製されます。岩塩には通常「にがり」がほとんど含まれていませんから、精製された塩は極めて純度が高いものとなります。
 なお、
融氷雪用や家畜用には、岩塩を粉砕したものが利用されるようです。

 「にがり」の成分は何でしょうか
 一口に「にがり」といっても、その成分は大きく異なります。塩結晶に付着した「にがり」分と製造過程で残った残液の「にがり」とでは丸っきり違います。
 まず、塩結晶に付着した「にがり」分ですが、先の製造工程で説明しましたように、大半は、毒にも薬にもならない難溶解性の石膏CaSO4(存在形態としてはCaSO4・2H2O)
です。もっとも漢方薬としてまれに配合されることはありますが。
 これが、成分分析を行った結果となると、分析表にCa(カルシウム)として計上されますから、さも体にいいように誤解されます。
 残りは、塩結晶に付着した濃厚な海水と考えてよく、多い順に、塩素イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、硫酸イオン、カルシウムイオン、カリウムイオン、その他微量元素イオンといったところです。なお、塩素イオンとナトリウムイオンは、塩結晶とまとめて成分表示されますから、残りの物が「にがり」成分として計上されることになります。
 ところで、国内産の粗製塩で、カルシウムが異常に多いものがあったりしますが、これは、製塩工程で最初に析出してくる炭酸カルシウム(歯磨き粉の研磨剤)や、その後で析出する石膏を十分に除去していないからと思われます。
 これらを除去することなく、わざと“かさ増やし”して、“ミネラルたっぷり”とか“カルシウムたっぷり”とかを謳い文句にしているのではないかと疑われます。
 次に、マグネシウムが多いものがありますが、これは、過度に煮詰めて硫酸マグネシウムを析出させたとしか考えられません。
 こうした意図的に不純物を残すことによって、“「にがり」たっぷり”とか、“ミネラルたっぷり”とか、はたまた“体にいい”とか、消費者をごまかす商品が出回っています。
 
昔の製法でも、これらの不純物は極力除去しようとしていたのですから、それと反対の製法で作られた、こうした粗製塩は、“人工塩”と言った方がいいでしょうね。
 なお、こうした事業者は、塩事業センターの“食塩”はイオン膜で濃縮していることを捉えて、これは“化学塩”だから体に悪いなどど言ったりすることがあります。

 もう一つの「にがり」が、製塩で残った残液です。
 成分構成は塩結晶に付着したものと同じですが、カルシウムは炭酸カルシウムや石膏として、そのほとんどが析出していますから、わずかしか残っていません。
 その代わりに、海水が極度に濃縮された状態にありますから、その他微量元素イオンが無視できない量含まれることになります。
 海水組成表により、
多く含まれるものから順に並べてみますと、臭素、ストロンチウム、ホウ素、ケイ素、フッ素(ここまでが、海水1Kgに1mg以上含まれる元素)、アルゴン、リチュウム、ルビジウム(同0.1mg以上含まれる元素)と続きます。
 製塩の場合、約40倍濃縮したところで硫酸マグネシウムが析出し始め、ここで濃縮を止めますから、残液の「にがり」には、これらの微量元素イオンが海水の約40倍の濃度になって存在することになります。
 これらの微量元素イオンあるいは「にがり」液に濃厚に含まれるマグネシウムイオンや硫酸イオンが、人体にどんな影響を与えるのか。
 このことについては、後ほど検討することにします。

 ミネラルバランスは
 さて、市場に出回っている塩で、これは良さそうだなと思わせられた塩の成分分析値を表にしてみました。比較のために塩事業センターの食塩の成分も示し、また、参考までに1日所要量(または目安量、推奨量)<50歳男>を掲げました。
                     (単位:mg/100g)
                  
      カルシウム  マグネシウム  カリウム
 塩事業センターの食塩    25     19    120
 伯方の塩          90    110     50
 能登の大谷塩       190    420    120
 モンゴルの天外天塩    170     20     10
 ヒマラヤ岩塩       164     91     64
 (1日所要量:50歳男) 700    350    2500

 製造方法の違いや天然物かどうかで、含有量にかなりの差があります。
 ミネラル不足が叫ばれる今日ですから、塩に各種ミネラルが含まれていた方が、一般論としては望まれるところですが、意識的に選択して摂取できる塩は、1日に高々数グラムにしかなりません。なぜならば、塩分摂取の8割は味噌・醤油などの食品に含まれるものであるからです。となると、3種類のミネラル量を1日所要量と比較してみますと、能登の大谷塩であってもマグネシウムが高々6%充足されるに過ぎず、塩からマグネシウム摂取を期待することは全く出来ないのです。カルシウムとなると1%程度にしかならず、それも大半が石膏ですし、カリウムとなると0、2%でゼロに等しいです。
 ところで、摂取量が不足気味なのがマグネシウムで、これを謳い文句にし、能登の大谷塩以上に高含有な塩も出回っています。でも、マグネシウムが増えると“苦味”が増しますから、食用塩としては不向きでしょう。

 粗製塩が良いと主張する論者は、精製された塩というものはミネラルとしてナトリウムと塩素しか摂取できないから、ミネラルバランスを大きく崩すという言い方をなさいます。
 これについては、今、述べましたように、どんな塩であっても全く同じです。もっとも、飛びっきり苦い塩だとか、塩っ辛くない塩(石膏を高含有または塩化カリウム高配合)は別でしょうが、でも、そうしたものは本来の塩ではなく、また、塩とは呼べない代物です。

 「にがり」の主成分、硫酸マグネシウムの功罪
 一方で
、粗製塩が悪いと主張する論者は、例えば、「にがり」分が多い塩、特に硫酸マグネシウムが多い塩は、健康を害する恐れがあるというものです。
 その論拠として、豆腐は「にがり」によってたんぱく質を凝固するように、「にがり」を摂取し続けていると、少しずつ体内のたんぱく質を凝固させていき、やがて各種臓器疾患を引き起こすとされます。
 
はたして、これは正しいでしょうか。小生の思いを述べさせていただくことにします。
 まず、豆腐を凝固させるのは、硫酸マグネシウムが水に溶けて生ずるマグネシウムイオンの働きによるものですが、豆腐の凝固はカルシウムイオンや酸でも生じ、これらも使われています。マグネシウムイオンのみならず体中にはカルシウムイオンも酸も存在しますから、これらのイオンが体内のたんぱく質を凝固させるとするのには理解に苦しみます。
 いずれにしても、「にがり」を含んだ塩を摂取すると、胃に入ってから大半が綺麗に解けます。つまり、イオンの状態になります。当然にして、ナトリウムイオンと塩素イオンが抜きん出て多いですが、塩素イオンは胃酸(HCl)からも出てきますから胃に馴染みますし、ナトリウムイオンも細胞外液に海水の3分の1程度に濃厚に存在しますから多少多く摂取しても何ら問題はありません。過剰であれば、塩っ辛くて受け付けませんしね。

 では、マグネシウムイオンや硫酸イオンはどうなんでしょうか。
 少々心配になります。と言いますのは、海水を煮炊きに使ったり飲んだりする食文化は、世界広しと言えども1、2の例外を除き見あたりません。ヒトがマグネシウムイオンや硫酸イオンをダイレクトに摂取することは基本的にないのです。でも、動物は、塩分補給のために塩分を含んだ土を舐めたり、塩分を含んだ湧き水を飲むことがあります。そうしたものにマグネシウムイオンや硫酸イオンがどの程度含まれているのか不明ですが、動物が海水を舐めることはありませんから、たぶん岩塩由来の塩分ではないでしょうか。

 そこで、まず、マグネシウムイオン。
 ヒトの場合、個人差があるようですが、ある程度のマグネシウムイオンを摂取すると消化管における水分吸収が阻害されるようで、下痢することが多くなるようです。
 こうしたことから、マグネシウムの無機化合物(酸化物、水酸化物、硫酸塩)は、グラム単位の投与によって頑固な便秘に下剤として使われます。胃に入ってから溶け出し、濃厚なマグネシウムイオンが腸に送られるからでしょう。 
 一方で、ヒトはマグネシウムを毎日かなりの量を摂取せねばならないのですが、それは専ら食材からでして、例えば植物の葉緑素なり、穀類や豆類の胚芽に有機化合物として不活性な状態で濃厚に存在するものの、ラジカルなイオンの状態で存在するものではないですから、何ら問題を起こさないのです。
 なお、吸収されるときには、わずかずつがイオン化されて吸収されるようです。
 そして、体内では、カルシウムイオンと対になって働き、細胞外にカルシウムイオンが多く、細胞内にマグネシウムイオンが多いという形でバランスを取り、両イオンの細胞内外への出し入れで生命活動が行われます。例えば、筋肉の収縮、弛緩です。
 よって、体内にマグネシウムイオンが過剰な状態になると、尿として排出されます。

 次に、硫酸イオン。ヒトの体液には塩素イオンの100分の1程度存在するようです。
 硫酸イオンは、膝の軟骨成分であるコンドロイチン硫酸の合成などに不可欠な物質ですし、有害物質の解毒機構にも使われ、欠くことができない重要なイオンです。
 しかし、硫酸イオンは基本的に外から摂取するものではなく、含硫アミノ酸(硫黄を含むアミノ酸)などの代謝産物として体内で作られるものです。よって、過剰に生産されたり、外から入ったものは腎臓で濾過されてほとんどが排出されてしまうでしょう。
 その硫酸イオンを一定量以上摂取したらどうなるか。これについては、小生の調査能力不足で、どうなるか分かりませんでした。
 もっとも、硫酸イオンはマグネシウムイオンと対になって、つまり「にがり」の主成分である硫酸マグネシウムとして摂取することになり、先に述べましたとおり、便秘薬としてはマグネシウムイオンが働くだけで、硫酸イオンは何ら作用しませんから、硫酸イオンは便秘薬として使う程度の量であれば全く問題ないと言えましょう。

 なお、硫酸マグネシウムの含有量が極端に多い塩であっても1日に数グラムしか摂取しないでしょうから、硫酸マグネシウムとしては高々数百mg程度に止まり、下痢を起こさせることはないでしょうが、便を緩くすることは有り得ると思われます。
 そして、便が緩くなるほどにマグネシウムイオンが働けば、そのマグネシウムイオンは、便と一緒に不用物として、その大半が排泄されてしまうことになりましょう。

 粗製塩、精製塩どちらが良いか
 以上のことから、結論としては、「にがり」を含んだ粗製塩であっても、ミネラルバランスは大きく崩れており、各種ミネラル補給には全く役立たないし、硫酸マグネシウムという便秘薬を効かない程度に少量飲んでいるに過ぎないということになります。
 そして、湿り気があって使いにくく、少々苦い塩を摂っていることになりますから、塩事業センターの“食塩”なり”精製塩”や純度の高い岩塩の方に軍配を上げざるを得ないです。
 もっとも、料理によっては、「にがり」を含んだ塩の方が味付けに適していることもあるでしょうから、グルメを追及される方にとっては、塩の使い分けのために用意しておくということになりましょう。
 なお、塩(塩化ナトリウム)そのものの味というものは、製法や破砕法の違いによって塩結晶の形が大きく異なり、それによって味に違いが生ずるようでもあります。

 問題が多そうな製塩残液の「にがり」
 次に、製塩の残液である「にがり」については、どうなんでしょうか。
 イオン膜・立釜法の場合、
硫酸イオンや炭酸イオンそして重金属イオンは大半がイオン膜を通らず組成が大きく違うことになり、ここでは天日塩製塩の残液を取り上げます。
 残液には、塩素イオンが最も多く、
マグネシウムイオンと硫酸イオンがナトリウムイオンと同量程度残っており、カリウムイオンやカルシウムイオンはぐんと少なくなります。
 そして、海水が約40倍に濃縮されていますから、先に例示しました微量元素イオンが無視できない量含まれることになります。それ以外にも様々な元素イオンが存在します。
 この「にがり」液なり、その水分を飛ばして固形化し粉砕した「にがり」を一定量以上摂取するとどうなるでしょうか。

 “「にがり」は、癌(がん)効く。胃ガン、食道ガン、子宮ガンなどなど。アトピーや難病が治る。盲腸炎、胃腸病、口中のただれなどにも有効。”といった事例が紹介されており、「にがり」でもって病気の治療に当たっておられる医師もおられるそうです。
 ということは、人によっては「にがり」が病気に効くということになります。
 でも、これは、決して万人向けではないと思われます
。(ただし、アトピーに関しては、薄めて外用剤として使用する場合、皮膚へマグネシウムが補給されて効果的です。)
(2013.2.27 カッコ内を追記:当日記事にしました「アトピー性皮膚炎の本質に迫る」の中で、「にがり」を入れた風呂に入ると各種ミネラルが皮膚から吸収されて効果的であると、紹介しました。)

 主要なミネラルイオンの功罪については先に述べたとおりで、ミネラル摂取は期待できないですし、便秘以外には決して病気治療につながるものではありません。
 考えられるのは微量元素の働きしかないでしょう。
 例えば、フランスの「ルルドの泉」は難病が治る(ただし、実際はまれ)として有名ですが、その水にゲルマニウムが含まれ、ゲルマニウム欠乏の人に効くからと思われます。
 なお、ゲルマニウムは田七人参に高含有で、酸素供給力を高めるとの報告もあり、また、田七人参は高貴薬として重宝されており、これはうなずけます。
 海水中にもゲルマニウムは当然含まれており、また、まだ働きの分からない元素も数多く存在しますから、どれかの元素が単独で、あるいは複合して、それらの元素欠乏の人に効いてくる可能性があります。

 しかしながら、こうした微量元素欠乏は、ごく一部の人にしか生じないと思われます。
 と言うのは、もし万人向けであれば、とっくの昔に、製塩残液の「にがり」を常飲するなり、海水を調理に使ったり、食品製造に海水を使うことが一般化していたことでしょう。
 “「にがり」を毎日舐めると体の調子が良くなる”と。
 でも、そのような食文化はどこの世界にもありません。

 ところで、微量元素の中で多くの人に欠乏症が現れるのはヨウ素で、欧米大陸に多いです。ヨウ素欠乏は、甲状腺異常を引き起こします。
 そのヨウ素は、海水に0.058mg/Kg含まれており、所要量は約0.1mgですから、例えば半量不足しているとした場合、海水を1リットル毎日飲ねばヨウ素は充足しますが、これはどだい無理な話です。でも、海水1リットルに相当する製塩残液の「にがり」を25mlなり、その水分を飛ばしたものを毎日飲むことは不可能ではないでしょうが、欧米などヨウ素欠乏の地域に製塩残液の「にがり」を飲む文化はありません。
 これは、岩塩が容易に入手可能で、天日塩を作ることがほとんどなく、「にがり」は馴染みがないものであったことも一因していましょうが、けだし、それだけの量の「にがり」を毎日飲むことは、やはり難しいと言わざるを得ません。
 よって、欧米の多くの国は、その食文化からして食品からヨウ素を必要量摂取することは不可能ですから、一部の国そして中国では、食用塩には、精製したヨウ素を微量添加したものを販売するよう義務化しています。誰もが何らかの形で毎日摂取する塩ですから、塩にヨウ素を添加するのが一番手っ取り早い方法だからです。
 なお、
海藻類には十分なヨウ素が含有されていて、これを食べる民族、その代表が日本人ですが、ヨウ素欠乏が生ずることはありません。

 さて、海水には、地球上に存在する元素が何もかも溶けていると考えてよく、その中には重金属をはじめ毒になるものがたくさんありますし、未解明の元素も多いです。
 それらを濃縮した製塩残液の「にがり」を常飲するとなると、毒が体内蓄積する恐れが多分にあるでしょうから、こちらの方が恐いです。
 “生命誕生の海、母なる海”という観念を我々は持っており、“海はかけがえのないものであるから決して海を汚してはならない”と、声高に叫ばれています。
 しかし、海はいったい何であるのかを客観的に捉えた名言があります。
 “海は巨大なドブである”
 西丸震哉氏の著「食生態学入門」(昭和56年発刊:角川選書)の第1章の冒頭にいきなり飛び出してくる言葉です。
 海は、地球という“生き物”がその体内から火山噴火で噴き出させた“膿(うみ)”という排泄物である塩類が溜まりに溜まったところのドブ以外の何物でもない。塩類は浄化されることは決してないし、絶え間なく水分蒸発し続け、生命誕生時からは考えられないほどに塩類が濃くなっている海である。その海に暮らす生物は、様々な塩類が細胞内に過剰に入り込まないよう耐え忍び、それに対応する機能を獲得してきた歴史を持つ。
 以上が要旨ですが、“膿(うみ)”は小生が付け加えました。

 こうした客観論からして、海水中の様々な塩類を本質的に避けようとするのが海生生物です。その後、生物は陸に揚がり、極めて薄い塩類から必要な塩類を取り込み、逃がさないように進化した反面、不要な塩類を取り込まないようにする機能は喪失ぎみで、マグネシウムイオンが大量に入ったときにせいぜい下痢させるぐらいのことでしょう。
 そして、毒性の強い微量元素イオンとなると、濃縮された製塩残液の「にがり」であっても絶対量はわずかですから、その取り込みを阻止する能力はありそうになく、全部を体内に取り込んでしまうことになるのではないでしょうか。
 となると、製塩残液の「にがり」を恒常的に摂取するとなると、それが蓄積して生命維持に支障をきたす恐れがあると考えざるを得なくなります。
 もっとも、毒性のある元素イオンであっても、その絶対量は余りにも微量であり、製塩残液の「にがり」を、毎日少々口にする程度であれば、どれだけも健康を害するに至らないとも言えます。ただし、長期にわたる場合は、蓄積が恐いことを承知しておくべきでしょう。
 例えば、ポンペイの悲劇。ベスビオス火山の噴火による火砕流で全滅したことで有名ですが、隠された悲劇として、それ以前のポンペイ住民は皆、慢性的な鉛中毒にかかっていたと思われるのです。これは、水道管に鉛を使っていたことによるもので、毎日、微量の鉛が体内に入っても急性毒性は示しませんが、長期にわたれば必ず蓄積し、慢性中毒を起こすのは必至です。このことについての詳細は、水銀の体内蓄積の危険性と併せて過去記事 元祖「公害」は奈良の大仏 の中で述べていますので、ご覧になってください。

 こうしたことから、“製塩残液の「にがり」を毎日舐めると体の調子が良くなる”と感じられる一部の方は、いずれかの微量元素が欠乏しているからということになりそうです。
 この場合、他の微量元素の毒性を上回る効能が得られているのですから、暫くの間は飲み続けてみてもよいでしょう。しかし、毒性のある微量元素によって慢性中毒を引き起こす恐れがあるでしょうから、十分に体調をチェックし、長期連用は避けていただきたいものです。

 おわりに
 “粗製塩が良いのか?「にがり」の功罪を考える”と題して長々と私見を述べてまいりましたが、最後までお付き合いいただきまして有り難うございます。
 小生の見解は推論が多くて、これが正論とは決して言えませんが、日本列島はあらゆる食料資源が非常に豊富な、世界にまれに見る恵まれた食環境にあって、昔人の「生活の知恵」から、理想的な素晴らしい食文化が育ってきたのは事実です。
 そして、
それらの一つ一つが理にかなったものであることが順次明らかにされてきていますから、“塩は十二分に「にがり」を切って甘塩にしてから使う”…つまり、限りなく精製されたものを使う…という「生活の知恵」も、いつぞや理にかなったものとして証明されることになることでしょう。
 また、古来、豆腐を製造するときに使っていた製塩残液の「にがり」の功罪も、いずれは明らかになるのではないでしょうか。なお、出来上がった豆腐には、通常は「にがり」がどれだけも残留することなく、残ったとしてもわずかな量ですから、豆腐そのものには「にがり」の問題は関与しませんから、ご安心ください。
 いずれにしましても、製塩残液の「にがり」というものは、「“ドブ”から再生産された“膿(うみ)”そのものである。」と、小生は観念的に捉えざるを得ないものですから、そのような「にがり」は、とても口にする気にはなれないです。

(2017.2.15 補記)
 最近、食塩について気になる表記をよく見かけますので、それを整理してみましょう。
 
まず、「食塩」の定義ですが、化学においても塩化ナトリウム(NaCl)を食塩と言うことがあり、純度100%の塩化ナトリウムを指すことがあります。
 そして、その昔は「日本専売公社」が独占的に食用塩を製造販売しており、今は「塩事業センター」となりましたが、圧倒的なシェアーを占め、その商品名が“食塩”ですから、これを「食塩」と呼んだり、その純度が99.6%(乾物基準)と高いですから、これを「精製塩」と呼んだりして、他の製造法で作られたものと区別することがあります。
 本稿でも、「粗製塩」と対比させるために、“食塩”を「精製塩」と表記しました。
 ところで、同センターが“食塩”とは違う製法で塩化ナトリウム純度をより高くしたものを作り、これに固結防止剤を添加したものを商品名“精製塩”としていますから、“食塩”と混同する例が多々見られます。申し訳ありませんが、本稿もそのそしりを免れません。
 なお、塩化ナトリウム含有率については、水分を除外した乾物基準で示される場合と、水分を含めた上での表記が混在しており、どちらかと言うと乾物基準で示される場合は少なく、ために、「にがり」の含有率が分かりにくい場合が多いですし、場合によっては「にがり」が多いように見せかけるために水分も含めているケースも見られます。
 例えば、次のような記述です。
 日本では、かつて塩は塩田を用いて作られ、その頃の塩は塩化ナトリウムの含有量が80%を超えるものはわずがしかありませんでした。
 この記述によると、残りの20%が「にがり」と思ってしまいますが、本文中で説明しましたように、うち10数%は水分なのです。

 「食塩」とはなんぞや、ということになると、人の口に供するものですから、食用塩公正取引協議会という業界団体があるように本来なら「食用塩」と言うべきかもしれません。
 しかし、同協議会では公正競争規約
同左ポイント解説で「食用塩」を定義していますが、販売表示名は「塩」または「食塩」としているものの、低ナトリウム塩(塩化カリウム:KClを高配合)を含み、逆に、他の食品が混合された塩(ごましお,抹茶塩,塩こしょうなど)は規約対象の食用塩から除外しているなど、この規程は別目的で定められた特殊なものであって、これを採用することは難しいでしょう。
 他の定義としてはコーデックス規格(国際食品規格)というものがあり、食用塩をNaCl純度(乾物基準、添加物除く)97%以上と定めていますから、これを「食塩」と呼ぶのが一番ふさわしいでしょうが、日本では一般人の認知度が低いようです。
 「NaCl純度(乾物基準、添加物除く)97%以上」ということは、「にがり」が3%未満を意味しています。これでほとんどの食用塩がクリアすることになりましょうが、フランスでは天日塩生産者組合の要請により、NaCl純度(乾物基準、添加物除く)94%以上とされているようです。つまり、フランスでは「にがり」が6%未満なら食用塩としてよいというものです。日本ではどうかというと、
その実態は小生にも分かりかねます。
 なお、コーデックス規格では、含有有害重金属の濃度規制や固結防止剤などの添加規準を定めています。

 近年になって、塩の専売制度が廃止され、民間企業も塩の製造販売ができるようになりました。そこで、登場したのが、「自然塩」「自然海塩」「天然塩」といった名称です。
 これらの名称は誤解を招きやすいことなどから、2008年4月に食用塩公正取引協議会が公正競争規約を策定し、使ってはならないこととしました。そして、海塩、岩塩、湖塩、天日塩、焼塩、藻塩、フレーク塩という名称について、一定の要件を満たした場合に表示できるとしたものです。
 本稿においても、「自然塩」「天然塩」という名称を使ってしまい、
申し訳ありませんでした。この補記を契機に「粗製塩」という言葉に訂正することにしました。

 さて、食塩に関して大きな間違いに出くわすこともたびたびです。
 それは、塩事業センターが製造している商品名“精製塩”やそれと同質の“食卓塩”に添加されている固結防止剤「塩基性炭酸マグネシウム(mMgCO3・Mg(OH)2・nH2O)」についてです。以下、間違いを2つ取り上げます。
*これを摂取すると乳酸菌が正常に活動できなくなる可能性があります。
 これには驚きました。難溶性の塩基性炭酸マグネシウムですが、摂取すれば胃酸によって溶け、Mgはイオン化され、CO3はCO2ガスになります。十二指腸に入ってアルカリ環境にさらされても、元の姿に戻ることはないのです。
*これの存在で乳酸菌がうまく働くことが出来ず、美味しい漬物ができない。
 これについては、乳酸菌発酵で塩基性炭酸マグネシウムが使用された例が今までになく、理論的推測からすると次のようになります。
 漬物は乳酸菌発酵で酸性側に傾いて、より発酵するだろうから、そのとき塩基性炭酸マグネシウムが存在するとアルカリ側に引っ張るから酸性度が弱まり、発酵にブレーキがかかると考えられる。
 しかし、これは実験してみないことには分かりません。
 現実にそれをやってみて、なんと逆の結果が得られたことによって特許をとった例があります。それを紹介しましょう。
 (2004.2.26 わかもと製薬 公開特許広報 抜粋)
 乳酸菌の培養において…高菌数を得るため…添加物として…炭酸マグネシウム…を含む培養液中で培養することで、高菌数の乳酸菌を得る方法。
 炭酸マグネシウムは、乳酸菌の液体培養地成分として使用した例が全く報告されていない。この理由は、炭酸マグネシウムを液体培養地に少しでも添加すると、培地pHが乳酸菌の通常増殖培地pH7~6よりも容易にアルカリ化し…菌の増殖阻害が見込まれる為と考えられる。
 本発明は、乳酸菌数の増大化液体培養方法を提供する目的で古くから用いられてきたペプトン、グルコース、酵母エキスなどの培地成分…に加え、無機塩の最適化を図る目的で炭酸カルシウムに着目し、鋭意検討してきた。そして、炭酸カルシウムに上回る効果を発揮する物質として炭酸マグネシウムを見出し、本発明を完成するに至った。
 炭酸マグネシウム…を単独で添加する場合は1重量%以上…で効果が出る。炭酸マグネシウムの本質は、含水塩基性炭酸マグネシウムまたは含水正炭酸マグネシウムであり、…その分子式は(
MgCO3)4・Mg(OH)2・5H2Oである。
 乳酸菌の液体培養系において培地に分泌された乳酸により培地pHが低下するなどの理由で乳酸菌の成育が抑制され易いことに着目し、…乳酸産生を抑制する要因(引用者注:静止状態ではなく震動する)も加えて培養する…。この方法を創案することによって、現実に高菌数化出来た…(引用ここまで)
 この特許では、塩基性炭酸マグネシウムを培地に対し1重量%以上加えているのですが、塩事業センターの“精製塩”には塩基性炭酸マグネシウムが0.28%しか含まれておらず、漬物全体では無視できるほどの量となって、漬物の乳酸発酵にとって毒にも薬にもならないということができましょう。

 本文、補記を含めて、随分と長文になりましたが、最後までお付き合いいただき、有り難うございました。
 たかが塩、されど塩、です。塩は奥深いものがあります。健康面でも注目される塩ですが、粗製塩と精製塩に対する捉え方は両極端なものがあったりし、惑わされます。
 どちらが正しいか、本稿がその判断材料になれば幸いです。


コメント (1)    この記事についてブログを書く
« 今月の笑い話ベスト5<チャ... | トップ | 塩を取りすぎると胃がんにな... »

1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
塩選びの参考になりました! (のぞみ)
2012-09-08 02:26:00
はじめまして。

凄い知識量と考察に驚きながら拝読いたしました。
途中の化学の部分は読み飛ばしですが(汗)

海は地球のドブ説、目から鱗です!
ニガリは不要、塩はまぁそんなにこだわらなくても大丈夫、という事がわかって安心しました。
ありがとうございます。
ブックマークして、少しづつ過去ログを読んで行きます。
返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。

正しい栄養学」カテゴリの最新記事