薬屋のおやじのボヤキ

公的健康情報にはあまりにも嘘が多くて、それがためにストレスを抱え、ボヤキながら真の健康情報をつかみ取り、発信しています。

玄米菜食がゆえに明治初期の日本人は健脚であった

2021年04月06日 | 正しい栄養学

玄米菜食がゆえに明治初期の日本人は健脚であった

 江戸時代もそうであったと思われるのですが、明治初期の日本人の健康度は格段に良かったと思われます。これは史実にあるのですが、開国によって日本を訪れた外国人が皆、日本人の元気さ、健康さに驚いています。
 そうしたことから、ある外国人は、東京から日光へ行くのに、馬に乗っていった方が速いか、人力車が速いかを競争(実際には競させてはいないようですが)させたら、何と人力車の方が勝ってしまったというから驚きです。その外国人は、人力車夫は普段は肉を食べていないから、彼に肉を食わせればもっと速く走るだろうと考え、車夫に肉を食わせたところ、車夫は“肉を食うと力が出ないから肉は止めにして欲しい”と訴えた、とあります。
 以上のようなことを、このブログで複数の記事に書きました。

 このことについて、より詳しく解説なさっておられる方を先日知りました。
 和食大使/医学博士 服部幸應
 学校法人服部学園理事長・服部栄養専門学校校長
 テレビでもおなじみの食の探求者
 長年にわたり“食育”の必要性を説き、実践している

 この方の講演録要旨が、先日「日本講演新聞」(発行 ㈱宮崎中央新聞社)に4回シリーズで掲載され、一部割愛してA4判2枚(裏表印刷)にまとめ、当店お客様向けの4月DMに入れ込んだところです。

 それをこのブログの読者の皆様にも紹介することにしましょう。

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発酵食品「納豆」に多く含まれるビタミンKの功罪、そしてナットウキナーゼの話題などなど

2020年02月16日 | 正しい栄養学

発酵食品「納豆」に多く含まれるビタミンKの功罪、そしてナットウキナーゼの話題などなど
2020.2.16 最新更新)

 先日(12月15日)「酵素は誇大広告、でも発酵生成物は体にいい」と題して記事にしました。その中で、納豆については一例として品名を上げただけでしたから、本稿で少し詳しく説明したいと思います。
 岐阜で生まれ育った小生が子供の頃は、納豆といえば甘納豆のことで、糸引き納豆なるものの存在を知ったのは、中学か高校のときだったことでしょう。でも、当地ではそうした食文化は全くなく、見たこともありませんでした。納豆とは、糸を引く煮豆の発酵物で、関東では朝食のおかずの定番になっている、という知識があっただけです。
 その納豆なるものを小生が最初に口にしたのは、上京して大学の寮で朝食に出されたときです。大豆の煮物かと思いきや、箸を付けると糸を引く。“ああ、これが関東で言うところの納豆というものか。” そのまま一口。 “まずー! こんなもん食えんわ。”
 すると、隣に座っていたのが関東の出身者であろう、“醤油とカラシを入れてかき混ぜるのだ。”と教えられ、そうしたところ何とか食べられましたが、“こんな臭くてまずいものを関東の連中は毎朝よくも食べているものだ。”と感心させられました。
 今ではこの納豆は小生の好物になっていますが、刻みネギをたっぷり入れないことにはうまくないですし、できることなら鶉の卵を1個落とし込みたいものです。そして、時折変化を付けるために、たまにはシラス干しなり青海苔をたっぷり加えたいです。
 また、かき混ぜるのも面倒ですし、糸引きが煩わしいものになりますから、大根おろしがあればそれを少し加えます。これで糸は引かなくなり、臭いも弱まり、食べやすくなりますから、納豆嫌いの方におすすめの方法です。

 さて、納豆が体にいいと言われて久しいです。
 
「納豆を食べると骨が丈夫になる」と言います。これは、納豆にビタミンKが多く含まれ、造骨に必須の補酵素として働くから、そう言われるのでしょうが、足りていればスムーズに造骨は進み、ビタミンKを多く摂ったからといって造骨が増進するものではありません。
 ちなみに、納豆に含まれるビタミンKはダントツに多く、グラム当たりで比較すると、これを多く含む青物野菜である春菊、小松菜、ホウレンソウの2、3倍になっています。
 でも、通常の食生活であればビタミンKは充足しており、あえて納豆を毎日食べて補給するまでの必要性はありません。
(2010.2.16挿入追記)
 ここで上記(ビタミンKは足りている)を訂正します。ビタミンKはK1とK2からなり、摂取量はK1が圧倒的に多く、体内でK1→K2変換され、腸内細菌もK2を作ってくれるとされていますが、現実には「菜種油など数種類の植物性油脂によりビタミンK2の働きが阻害される」ことにより、ビタミンK2不足になっています。
 ビタミンK2不足は骨づくりに支障が生ずるのみならず、動脈の石灰化(動脈硬化)、インスリンの出を悪くし、またインスリンの活性を落とす、肺の組織をがん化させる、など様々な障害を引き起こすのです。
 よって、積極的なビタミンK2の補給、つまり納豆を頻繁に食べることがたいへん重要なこととなります。これについては下記ページで書きました。
 発酵食品「納豆」は日本人の救世主(ビタミンK2-オステオカルシン・リンクからの考察) 
(挿入追記ここまで)
 なお、大豆にはカルシウムが多いから骨が丈夫になるとも言いますが、これはピント外れです。そもそもカルシウムは通常の食で十分事足りている(厚労省が言っていることは間違い)のですし、骨に関してミネラルを持ち出すのであれば、不足しがちなマグネシウムの方が重要です。その点、大豆にはマグネシウムも十分含まれていますから、骨へのミネラル補給としては理想的でしょう。
 参考までに、骨を丈夫にするのはミネラルではなく、たんぱく質のコラーゲンです。
 骨は鉄筋コンクリートに例えられ、鉄筋に相当するのがコラーゲン、コンクリートに相当するのがミネラル(カルシウム、マグネシウム、リン)ですからね。コンクリートだけだと硬くて折れやすいですが、鉄筋が十分に入れば、しなうようになって簡単には折れません。
 そこで、コラーゲンの生成が重要なものになり、その点、大豆はたんぱく質が多いですから、コラーゲン生成の原料に事欠かないことになります。
 こうしたことを総合的に勘案すると、「納豆を食べると骨が丈夫になる」と言えますが、どちらかというと「大豆を食べると骨が丈夫になる」でしょうね。

 ここで、ビタミンKに関して補足しておきましょう。
 「ビタミンKを摂りすぎると血液が固まってしまう」と言って、脳梗塞や心筋梗塞が心配な方は納豆を食べるのを控えておられることが多いです。
 そのように指導されるお医者さんや栄養士さんもあります。でも、これは間違い。
 もし、これが正しいようであれば、春菊、小松菜、ホウレンソウといった青物野菜も食べてはいけないことになります。でも、そうした指導は聞いたことがありません。
 間違いの発生源は、ワルファリン(商品名の一つがワーファリン)の投与です。
 血液が固まりやすくなっては血管が詰まってしまう恐れがあるという重大な疾患を持っている方にワルファリンが投与されます。なお、これの長期投与は問題がありそうです。なんせワルファリンは殺鼠剤の主要成分でネズミを殺す毒薬ですから、人体に良いわけがありません。
 ビタミンKは血液凝固因子を作るための補酵素として働き、出血を防いでくれます。その働きを阻害するのがワルファリンですから、ビタミンKが大量に摂取されると、ワルファリンのビタミンK阻害効果が減少してしまうのです。ですから、ワルファリンを効かせるには、体内のビタミンKが少ないほうがよく、これを多く含む納豆を食うな、ということになるのです。併せて青物野菜も控えなさい、というのが正しい指導でしょうね。
 でも、ワルファリンの投与を受けていない方には無関係です。造骨の場合と同様に、ビタミンKが多くても血液凝固因子がたくさん作られるということにはならないからです。
 人体には生体維持機能がちゃんと働いていて、適正な造骨なり適正な血液凝固がなされるよう、うまくバランスされているのです。ただし、そのバランスが保てないほどにビタミンKが不足したときには、破骨が進み、血液が凝固しにくくなるというだけのことです。
(2019.12.20挿入追記)
 「ワルファリンは殺鼠剤の主要成分でネズミを殺す毒薬ですから、人体に良いわけがありません。」と上に書きましたが、人体においては、ワルファリンは「ビタミンK2-オステオカルシン・リンクを阻害」し、糖尿病などを発症させる危険性があることが判明しています。つまり、ビタミンK2の働きを阻害するというものです。
 詳細については、次の記事の中で解説しています。
 水素添加植物油脂はトランス型脂肪酸以外の毒物により食用に不適です
(挿入追記ここまで)

 今度は真逆の話を紹介しましょう。
 「納豆を食べると血液がサラサラになり、血栓を溶かす」というものです。
 これは動物実験で確かめられ、さも正しいように言われていますが、これも間違い。
 たしかに、納豆菌が吐き出す酵素「ナットウキナーゼ」を実験動物に静脈注射すると、血液をサラサラにし、血栓を溶かすという効果が生ずるようです。これと類似したものにウロキナーゼがあり、これは医療現場で人に対して静脈注射の方法で使われています。
 もし、ナットウキナーゼにウロキナーゼ以上の効果があれば、ウロキナーゼに代わって医療現場で使われることになりますが、いまだ使われていませんから、どれほどの効果があるのかは疑問です。
 さて、ナットウキナーゼを経口摂取した場合、つまり納豆を食べたときにどうなるかというと、ナットウキナーゼはたんぱく質ですから、まず強い酸性を示す胃酸で変性し、その機能を失う恐れがあります。次に、胃や腸で分泌されるたんぱく質消化酵素によって分解される恐れもあります。ウロキナーゼはこうして分解されてしまうことが分かっていますから、経口摂取ではなく静脈注射するのです。
 さらに、それらを免れたとしても、たんぱく質がどうやって腸壁をすり抜けられるかです。腸壁が荒れていれば、これはアレルギー体質の方がそうですが、その一部はすり抜けます(これがアレルゲンになり、アレルギー反応を起こす)が、大半がすり抜けるなんてことはとても考えられません。
 現実には、ウロキナーゼと同様に胃酸でかなりやられてしまうのではないでしょうか。
 ですから、「納豆を食べると、ナットウキナーゼで血液がサラサラになり、血栓を溶かす」というのはインチキです。
 血液サラサラは容易に血流実験できることでして、梅肉エキスなどについては経口摂取で実証済みですから、納豆でやってみて、その結果を公表していただきたいものです。
 なお、その類の実験が一部で公表されており、どれだけかの効果があるように思われるものの、梅肉エキスの足元にも及びつかない感がしますし、どうせ実験をするなら、被験者の血中のナットウキナーゼ濃度を測定し、その濃度と血液サラサラ度合いの違いを見せてほしいものです。

 ここまで納豆について悪口ばかりを紹介してきましたが、良いこともたくさんあります。
 まず、
「納豆食う人 色白美人」と言われます。
 たしかに納豆にはビタミンB1(疲労回復)、ビタミンB2(皮膚の健全化)が多く含まれますが、これで直接的に色白になるものではありません。
 またまた悪口で始まってしまいましたが、
これは総合的な食生活の違いによるもの、として考えれば、随分と遠回りになりますが、そのとおりだということになりましょう。
 特に朝食で大きな違いが出てきます。納豆を食べない人は、たいていは食パン、マーガリン、ハム、牛乳といった洋食になり、これらは体に悪いものばかりです。それに比べて納豆を食べる人は、納豆に良く合うご飯に味噌汁と漬物という和食になり、これらは体にいいものばかりで、そうした方は昼食や夕食も和食が多くなる傾向にありますからね。
 やはり日本人は日本人に合った食生活の毎日でなきゃ色白にはなれません。食生活を洋風にして動物性食品を多食すれば、まずは腸内環境が悪くなって毒素が発生しますし、高タンパク食は全身の細胞に知らず知らず炎症を起こしてしまうなど、体に悪いことばかりで、結果的に肌がどす黒くなりますからね。

 次に「納豆は天然の酵素食」というのがあります。納豆菌が吐き出すナットウキナーゼはじめ各種消化酵素など様々な酵素がたっぷり入っているというものです。
 しかし、ここでもまた悪口で始まってしまいますが、酵素自体は先に説明したナットウキナーゼと同様に、口に入れれば胃酸や消化酵素で、多くは変性し、分解されてしまい、摂取した酵素が人の体の中でそのまま働いてくれることは期待できそうにありません。
 肝腎なのは、先日、発酵食品に関して記事にしましたとおり、発酵によって生産された発酵生成物の数々です。様々な栄養素の中で人の体が一番に求め、かつ、体に最もやさしいのが発酵生成物であるからです。
 そして、発酵生成物は、麹菌(酵母菌)が主体となる味噌、乳酸菌など発酵細菌が主体として加わる漬物、発酵細菌の1種ではあるものの一風変わった枯草菌である納豆菌が主体となる納豆、と大きく3分類されましょう。
 よって、発酵生成物も、発酵にかかわる菌種によって、どれだけか違ったものになり、特定の菌でしか作れないものも数多くできることでしょう。
 こうしたことを鑑みると、納豆には様々な発酵生成物がけっこう含まれている上に、納豆にしかない発酵生成物もどれだけかは含まれていると思われます。
 発酵生成物については未解明な部分が多いですから、何とも言えない面がありますが、異なった種類の発酵食品を幅広く毎日摂取するのが、人の体に一番いいことであり、また、最も体にやさしいものであることは、はっきり言えます。

 こうしたことから、日本人の1日の食生活は、先ほど述べましたように、先ずは納豆を乗せたご飯、味噌汁、漬物の朝食から始め、ここでまたまた悪口になりますが、1日3食は体を害しますから朝食はお預けにして、これをお昼に軽く食べ、夕食は例えば塩辛を乗せたご飯、味噌鍋、キムチといった発酵食品をふんだんに取り入れたメニューで食卓を飾っていただきたいものです。そして、デザートとして少量ならかまいませんからヨーグルトを食べるのもいいでしょうね。
 なお、これでは塩分過多になると心配される向きもありましょうが、これも前に「減塩は大間違い!塩味を楽しんでイキイキ元気!」の記事で申しましたとおり、塩分は塩味を楽しむ程度に摂って全く支障はないですし、逆に減塩は体を壊しかねません。どの程度に塩分を摂っていいかの基準は、食後に喉が渇いてお茶を飲みたくなる、これは塩分過多、これを目安にしていただければいいです。
 1日1食生活の小生、晩酌が終ったら、仕上げは、納豆に塩辛とキムチを加えてかき混ぜ、これを熱々のご飯に乗せて食べる、これにはまっています。
 もっとも、毎日これが食べられることはなく、今は、お歳暮でいただいた大量の佃煮を片付けるしかなくて、食後にお茶が飲みたくなることがないような程度に抑え、ご飯のおかずに
少量ずつの佃煮と漬物で我慢しています。

 ところで、漢方では、冬は腎の季節。腎は精気を養い、塩を欲す。
 また、温冷食品表では、塩は強い温。
 よって、特に冬場は塩分を気にすることなく、日本古来の発酵食品、佃煮、そして梅干をお召し上がりください。
 1日1食の小生ではありますが、精気を養い、体を温めんがために、朝は1粒の梅干しを白湯でいただくようにしております。
 なお、梅干はクエン酸を多く含んでおり、エネルギー回路を円滑に回してくれる効果に優れ、鎌倉武士が出陣に当たっての兵糧(梅干以外は食べず)でした。
 小生の朝食抜き・1粒の梅干は、鎌倉武士に倣ったものでして、これによって一日活動的に動き回ることができるようになりました。
 皆さんにもぜひおすすめしたい「朝は、朝食抜き・1粒の梅干」の食生活です。
 参考までに、朝食を抜いたほうがいいことは、「朝食有害論の歴史的推移」で詳述していますので、よろしかったらご覧ください。   

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それでもまだ減塩を続けますか

2020年01月27日 | 正しい栄養学

それでもまだ減塩を続けますか

 日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」一般向け解説冊子には、高血圧に関して生活習慣で気を付けることとして、減塩について次のように書かれています。
 減塩は血圧を下げるだけでなく、脳卒中や心疾患、腎臓病と直接関係がある可能性もあります。とくに食塩摂取量の多い日本人では減塩による降圧効果が大きいと考えられます。高血圧の人は1日6g未満が目標です。…1日1g減らすことで平均1㎜Hg強の収縮期血圧の低下を期待できます。…なお、日本高血圧学会減塩委員会のウエブサイトでは多数の優良で美味しい減塩食品を紹介しています。

 ついでながら、5年前の同解説冊子では“高血圧の人は、食塩を5g/日ほど減らせば、血圧は5~6㎜Hg下がるといわれています。”と書かれています。

 先に結論を申せば、“たったの5~6、あっ、そう。”と、軽く受け流せばいいです。
 だって、医者から“血圧が150もあるから、少なくとも10、できれば20下げなさい。理想は30下げることだ。”と言われているのですから、5~6下がっても全然意味がないじゃないですか。皆さん、冷静になって計算してみてください。
 加えて、食塩摂取量を5g/日も減らすなんて並大抵の努力でできるものではなく、その努力をしたところで血圧は誤差範囲の数値しか下がらない
。労多くして功少なし、です。
 5g/日減らすとは、半減させることなんですよ。
平成27年国民健康・栄養調査における食塩摂取量の平均値は1日あたり男性11.0g、女性 9.2gなんですからね。
 なお、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」における食塩摂取量の目標値は「高血圧予防の観点から1日当たり男性で8g未満、女性で7g未満」とされています。これに従うと、血圧は2~3下がり、これでもって万々歳とでもいうのでしょうかねえ。算数を知っている小学生から、“大人はアホか?”と言われてしまいますよ。

 ところで、上の解説引用の中に「とくに食塩摂取量の多い日本人」との記述がありますが、これは全くの根拠レスです。現在、日本の厚労省のようなチマチマした調査は世界各国とも全然やっていないようで、食塩摂取量に関しては世界中どこも全く無関心のようです。小生の手元にある、数少ない食塩摂取量データの寄せ集めによれば、少々古い調査ですが、欧州各国は(男)10~11g台、(女)7~9g台、米国は男女平均で8g前後とあり、別の調査によると欧州各国は男女平均で9~12g台、米国は同14.5gと出ていますが、これらは信頼が置ける数値とはとても言えません。
 小生の欧州への旅行経験からすれば、日本列島と同様に「北に行けば塩っ辛く、南に行けば薄味」と感じました。ひどかったのはスウェーデンのストックホルムでして魚の塩漬はビールをがばがば飲まねばなりませんでしたし、オーストリアのウイーンの生ハムはやたら塩っ辛かったです。日本の東北地方の
料理より上を行き、小生の周りの人の経験もほぼ同様です。皆さんご自身の経験なり周りの人の感想をお聞きになれば、きっと同じでしょう。食塩摂取量の比較調査は人間の舌が一番正しいのではないでしょうか。

 さてさて、日本の減塩運動は、厚労省や日本高血圧学会に止まりません。「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」(日本脳卒中学会・日本循環器学会 2016年)では、減塩に関して「2gの減塩」を掲げています。このように厚労省、各種学会あげて、減塩、減塩また減塩の大合唱が性懲りもなく続けられ、国民に対して減塩を無理強いしています。それどころか、日本高血圧学会は「減塩委員会」まで設けたりし、2017年には毎月17日を「減塩の日」に定めたりと、悪乗りまでするようになりました。

 ここまですさまじい減塩運動が行われているのは日本だけなんですが、そうなってしまった本元は、奇をてらった、たった一つの調査報告です。世界で最初に食塩と高血圧の関係が示されたのが1954年のことで、米国のダールという学者が世界5地域の食塩摂取量と高血圧者率を示した簡単な報告です。なお、この調査は標本数が少なく、かなり恣意的なもので、統計学的有意性はなく、非科学的代物なのです。よって、紹介しても意味のないものですが、これが“経典”にされてしまっていますから、お示しします。
 (図からの読み取りにつき数値は概数)
                  食塩摂取量    高血圧者率
  日本・東北地方        27 g/日       40 %
  日本・九州地方        17           22
  アメリカ・北部        11           7
  太平洋・マーシャル諸島     8           6
  北極・エスキモー        4           0

 その後、この種の疫学調査が幾つも行われたのですが、統計学的に不備なものが多く、そこで、1982年に国際心臓学会連合が、統計学的に意味のある手法を用いて国際的な統一調査をすることにし、1988年にインターソルト・スタディーを発表しました。
 世界32か国の52地域、10,079人を対象としたもので、1地域の男女(20~59歳)各100人以上としています。なお、食塩摂取量は、これと因果関係が深い尿からの排泄量を元に推定。
 その結果は、ダールの報告どおりのものが期待されたのですが、たしかに文明から隔絶された地域(狩猟採集民)では、食塩摂取量、高血圧者率ともにゼロか極めて小さな数値であることが分かったものの、文明化された地域(食塩が流通している地域)にあっては、ほとんど相関関係が見い出せない結果となってしまったのです。

 本来なら、ここで、ダールの研究報告なるものを、科学者たる医学・栄養学者は否定せねばならないのですが、日本ではこのときすでに厚生省が動き出していて減塩運動が盛り上がっており、それを強力に推進しようとする学者(御用学者)も多く、もう引くに引けなくなって、食塩摂取量と高血圧の相関性を捻り出し(本来なら血圧は10単位<例えば140とか150>で物を言わねばならぬのに、高血圧学会ガイドラインにあるように「食塩1日1g減で、血圧1㎜Hg強の低下」という、1桁下の誤差範囲の数値)でもって、減塩運動を続けさせるという暴挙に打って出たのです。
 これは学者ばかりでなく、厚生省という役所もいったん動き出させた政策というものは、よほどのことがないかぎり引っ込めないという頑強な体質を持ち備えていますから、官学が強力に連携し、やってはならない減塩運動を絶対に止めることはしないのです。
 かててくわえて質が悪いのは、脆弱な根拠しか持ち合わせなくなった場合には、あの手この手でごり押しし、大手マスメディアをも取り込んで国民を洗脳し、誰にも文句を言わせない“空気”を作り出し、もって彼らは“赤信号、皆で渡れば怖くない”とばかりに思考停止し、言いだしっぺの御仁たちとそれに追従する官学サポーターどもの、何でもいいから我が身を守ろうとする、人間の悲しい性がそこにはあるのです。特にその気質が強いのが日本人ですから、もうどうにもしようがなくなってしまった、それが日本
の現実です。
 ただし、全部が全部の学者が御用学者になってしまっているわけではなく、日本脂質栄養学会に所属(または賛同)する多くの学者らはそうではないです。著名な方では例えば、奥山治美、浜崎智仁 、大櫛陽一、浜六郎氏らがそうで、次項のコホート研究の紹介も奥山治美氏らによるものです。
 なお、世界保健機関(WHO)もインターソルト・スタディーの発表後も減塩指針を崩さなかったのですが、その当時、日本はWHOの分担金比率も高く、機関トップの事務局長が日本人であったことも背景にありましょう。よって、今日でもWHOは厳しい減塩指針(1日5g)を示しています。また、WHO発表の高血圧基準なども御用学者の意図する数値となっており、WHOという機関も信頼がおけるものではありません。

 さて、最近、といっても2014年のことですが、興味ある研究報告がなされました。カナダ・マックマスター大学のMartin O’Donnell氏らがまとめたコホート研究で、食塩摂取量と血圧・心血管疾患死亡率の関連を調査したものです。
 標本数は世界18か国101,945人(ただし地域的に偏りがあり中国人が42%)、平均追跡期間は3.7年。食塩摂取量はインターソルト・スタディーと同様に尿中ナトリウム排泄量を元にする推定値。なお、コホート研究とは、特定の要因と疾患の発生の関連を長期にわたり観察する研究のこと。
 その結果がどういうものであったかというと、血圧については「食塩摂取量を13g/日から6g/日に半減させても血圧は2㎜Hgしか下がらない」というものです。
 そして、食塩(塩化ナトリウム)摂取量と心血管疾患死亡の相関に関しては、初めての大がかりな調査と思われるのですが、次の図のような結果が出たのです。
 出典:2019.9.8 発刊「日本人は絶滅危惧民族 ー誤った脂質栄養が拍車ー 」(編著者:奥山治美)
 なお、同時にカリウム摂取量についても同時に調査され、心血管疾患死亡との相関が示されました。これは定性的に言われていたことですが、定量的には今回初めて示されたようです。

 図中の*印はp<0.05の状態を示し、通常、統計学的に有意水準を満たすとされます。(語弊がありますが、ざっくり言えば「p<0.05とは、これが正しくない可能性は5%未満である」というものです。)
 この図から、「食塩7.6g/日未満の集団と17.8g/日以上の集団で、心血管疾患死亡の危険度が有意に上がる」と統計学上から言えるということになります。
 また、塩化カリウムについては「5.7g/日以上の集団で、心血管疾患死亡の危険度が有意に下がる」と統計学上から言えるということになります。

 さあ皆さん、2014年に発表された、このコホート研究の結果(ビックニュースなのですが、日本の大手マスメディアも、厚労省や医師会などとつるんでいて、口をつぐんだようでして全然ニュースにならず、小生もつい先日知っただけですし、残念ながらネット検索してもほんのわずかしか見つかりませんでした)を、どう解釈されますか。
 厚労省が国民に対して目標とさせている「男性で8g未満、女性で7g未満」、日本高血圧学会が高血圧の人に目標とさせる「1日6g未満」、これらに従っていたら、“減塩して心血管疾患や脳卒中から身を守ろうとしたのに、真逆じゃないか!”となっちゃいます。
 にわかに信じられないかもしれませんが、以上、これが現実なのです。
 なんとも弱った世の中です。自分の身は自分で守るしかなく、何が真実かを自分で調べるしかない世の中にますますなっていく令和の時代。
 このブログがそうしたことに少しでもお役に立てば幸いです。

(備考)ここに紹介したO’Donnell氏らのコホート研究の結果は、ただし絶対的なものではないです。
 というのは、各種疫学調査全般に言えることですが、標本の偏り(貧富の差による各種栄養に大きな違いがあったり、運動習慣の大きな差があったり、年齢構成が一定でないなど)がありますし、かつ追跡年数が平均3.7年と短いですから心血管疾患死亡者数は十分な数にのぼらず、どうしても統計学的正確性を欠くからです。この調査が世界各国で継続され、追跡年数が10年を超えるようになれば、だいぶ正確性が増す(*(アスタリスク)がたぶん2つ付いたp<0.01になる)でしょうから、それを期待したいです。
 しかしながら、このコホート研究の継続は、減塩派学者や減塩推進公的機関にとっては実に脅威ですから、様々な圧力で潰されてしまう恐れが大です。2014年発表からもう6年経とうとしており、もうそろそろ継続追跡結果がまとめられていい時期ですが、すでにあらかた追跡打ち切りになっているかもしれません。

関連記事(このブログの塩分摂取に関する過去記事)
2017.7.31 年中減塩、ただし夏は熱中症予防に塩分補給って正しい?
2014.1.20 減塩ではなく、1か月に1日「塩断ち」して「塩持ちの良い体質」に改善
2012.8.17 減塩は大間違い!塩味を楽しんでイキイキ元気!
2012.8.15 減塩しすぎるとどうなる?やる気が失せて元気がなくなります。 
2012.8.14 塩を摂りすぎると高血圧になる?心配ご無用!でも、食塩感受性が高い人は注意すべきでしょう
2012.8.13 塩を取りすぎると胃がんになる?そんなことは有り得ません。 

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菜種油、水素添加植物油など数種類の植物油脂は有害作用を示す(各種研究報告編)

2019年12月30日 | 正しい栄養学

菜種油、水素添加植物油など数種類の植物油脂は有害作用を示す(各種研究報告編)

 2019.12.19に投稿した「脂肪摂取基準P/S比は真逆。動物脂肪を増やし、植物油を減らすべし。」のなかで、「菜種油、水素添加植物油など数種類の植物油が、VK2-オステオカルシン・リンクを阻害して、糖尿病などを増やす」、「いまだ原因物質は特定されていませんが、その未知微量因子の毒性は極めて強いものがあり…」と紹介し、2019.12.12に投稿した「水素添加植物油脂はトランス型脂肪酸以外の毒物により食用に不適です」のなかで、「(水素添加植物油脂にあって)VK2-オステオカルシン・リンクを阻害する原因物質としては、植物油の水素添加の過程で副生するジヒドロビタミンK1が特定されており…」と紹介しました。
 そして、「菜種油、水素添加植物油など数種類の植物油」とは具体的にどんな油なのか、については2019.12.30に投稿した「菜種油、水素添加植物油など数種類の植物油脂は有害作用を示す(総論及び用語解説」で紹介しました。
 本稿では、こうした植物油がどのように有害作用を示すのか、について、引き続き下記の参考文献から幾例かを紹介することとします。
(備考)本稿で、幾つも専門的な用語が出てきますが、その用語解説は前稿の後段で示しましたので、参照なさってください。

参考文献:2019.9.8 発刊「日本人は絶滅危惧民族 ー誤った脂質栄養が拍車ー 」
<裏表紙:糖尿病 慢性性腎炎 骨折 脳・心血管病 認知症 少子化の予防を目指して>
(日本脂質栄養学会 食品油脂安全性委員会 糖尿病生活習慣病予防委員会 編著者:奥山治美)
※この「日本脂質栄養学会」は信用が置けるか否かですが、これについては下記の記事で小生の受け止め方を書いています。ポイントとなるのは「利益相反開示」です。
 久しぶりに本を買い、食の見識を新たにする

(参考:本書の巻頭における「書評」富山大学名誉教授浜崎智仁より抜粋) 
「植物だから安心・安全・体に優しい」とは単なる迷信だ。植物にはありとあらゆる毒があり、食べられる物は限られており、「野菜(あるいは果物)」と称し区別されているくらいだ。ちなみに「野動物」という言葉はない。動物の肉が安全なためだ。また和漢薬の大部分は植物由来で、いわばその毒性を利用して薬としている。(2019年7月)

 これより、菜種油、水素添加植物油など数種類の植物油がどのように有害作用を示すのか、について、数多くの研究報告の中から小生の独断と偏見で数項目を抜粋し、それを紹介することにします。

(P.33)脳卒中易発症性ラットに対する寿命短縮作用
 この分野は、油脂の長期投与の結果を評価する研究から始まった。…このラットの系統に種々の油脂を10%含む普通飼料(油脂含量は24%E(エネルギー%)であり、日本人の平均的な油脂摂取量27%Eより少ない)を離乳期から自由摂取させると、生存期間(寿命)に大きな差が認められた。…大豆油や菜種油を部分水素添加するとトランス脂肪酸とジヒドロビタミンK1が作られるが、このジヒドロビタミンK1はVK2-オステオカルシン・リンクを阻害するので…、これが寿命短縮活性の本体の一つであると解釈できる。

(P.40)脳卒中易発症性ラットの寿命を短縮する因子ーージヒドロビタミンK1および未同定の有害因子
 菜種粕は家畜や養鶏、養殖漁業などのタンパク源として重要である。しかしその毒性のため、有害物質の含量を大幅に下げたといわれるダブルロー型菜種(カノーラ菜種)の場合でも、家畜などに与えうる菜種粕の量には上限が定められている。
…(有害作用を示す物質の候補は幾つかあるが)これらのどれが…作用を示しているのか、あるいは複数の成分が相乗的・相加的に働いている結果かもしれない。多くの生薬・天然物の場合は、成分を分けてゆくと活性がみられなくなることがある。有効成分が確定していない場合の毒性学的な扱いは、単純ではないかもしれない。しかし、多年にわたって異なる企業で、また異なる国で生産された菜種油に共通の毒性が認められる以上、菜種油を一つの物質としてその栄養評価を行うことができる。

(P.34)カノーラ菜種油が大豆油にくらべ、オメガ6/オメガ3比が低いにもかかわらず種々の有害作用を示すという動物実験の結果は、国内の複数の研究室、カナダ保健省の研究所(Health Canada)のほか、韓国やブラジルなど複数の研究室から報告されている…。報告されている主な有害作用として、脳卒中、腎障害、血小板数の減少、男性ホルモン低下、糖尿病発症、骨粗しょう症促進、脳機能(行動パターン)の変化などがある。…(コレステロール低下剤の)スタチンの副作用と驚くほど似ているが、スタチンとこれら数種の植物油脂に共通の作用メカニズムが存在するからである…。

(P.37)カノーラ菜種油と水素添加大豆油の有害作用は、VK2-オステオカルシン・リンクの重要な役割ーー数種の植物油は、このリンクを阻害して多くの有害作用を示す
 ビタミンK2(VK2)を補酵素とする酵素は、オステオカルシン(骨髄)やマトリックスGlaタンパク(軟組織)をγ-カルボキシル化して組織に蓄積する。これらのタンパクは、十分に活性化されるとカルシウムやリン酸を保持し、組織の石灰化(異所骨形成)を抑える。
 マウスをあらかじめ異なる油脂を含む餌で飼育し、脚部(異所)に骨形成タンパク(BMP)を含む徐放性カプセルを移入した(資料19)。VK2-オステオカルシン・リンクが働いている大豆油群では異所骨形成は抑えられているが、カノーラ菜種油と水素添加大豆油ではそのリンクが阻害されており、異所骨形成が4倍ほどに増えていた。実際、オステオカルシンの活性型/不活性型の比は、大豆油群に比べカノーラ菜種油と水素添加大豆油で有意に低かった。

(P.41)カノーラ菜種油の毒性とそのインパクトーー毒性学的評価
 カノーラ菜種油の毒性成分は未同定である。また水素添加大豆油の中の有害物質はジヒドロビタミンK1のほかにも存在する可能性がある。このような場合、カノーラ菜種油として、また水素添加大豆油として毒性評価をすることになる。すなわち動物に与える用量を下げてゆき、脳卒中易発症性ラットの寿命を短縮しない無毒性量から耐容一日摂取量(TDI値)を求め、現在、日本人が平均的に摂取している量がTDI値の何倍にあたるかを求めることにした。
 最近、植物油脂の精製過程で副生する3-MCPD(3-モノクロロプロパンジオール)という物質の毒性(腎臓、精巣)について、国際的な専門家会議(FAO(国連食糧農業機関)/WHO世界保健機関))で議論され、わが国の省庁もそれに参加している(資料22)。動物実験における無毒性量から不確定係数を乗じ、耐容一日摂取量(TDI値)が求められ、現在の摂取量(暴露量)がTDIの何倍になっているかという比が、安全性・毒性の指標として使われる。

(P.36)高オレイン酸植物油脂の脳卒中促進作用と精巣毒性
 …脳卒中易発症性ラットのモデルでは予想に反し、高リノール酸(多価不飽和脂肪酸)型の紅花油やひまわり油に比べ、高オレイン酸(一価不飽和脂肪酸)型の紅花油やひまわり油が、寿命を大幅に短縮した(Okuyama H,2007)。一方、オレイン酸含有量の高いカノーラ菜種油に比べ、バターやラードのようなオレイン酸含有量が高い動物性脂肪には寿命短縮作用がみられないことから、これら植物油の高オレイン酸型への転換(変異原物質による処理後の選別による)に付随して、脳卒中促進因子が生成した可能性が高い。この点で、遺伝子組み換え(農薬耐性)により得られた高オレイン酸大豆油の動物に対する安全性については興味がもたれていた。
 最近、El-Kholyら(2015)が成熟雄SDラットへの65日の給餌試験の結果を報告した。実験条件が明確に記述されておらず疑問点がいくつかあるが(資料18)、高オレイン酸大豆油の精巣毒性が明確に示されている点で興味深い。遺伝子組み換え高オレイン酸大豆は安全性が確保されたという国の判断から、わが国では流通が承認されている。食用油としては流通しているかどうかわからないが、安全性に関する基礎研究(動物への給餌実験)がほとんどなされていない。この報告(El-Kholy 2015)でオリーブ油の栄養効果は、他の研究結果から予測されるものと合わず、産業界から独立している研究者による再現性のチェックが必要と考える。残念ながら、高オレイン酸大豆油は安全性研究用にも入手できていない。現在の法律では、加工食品に混ぜられた高オレイン酸大豆油はその旨の表示が必要とされないので、日本人がこれをどの程度摂取しているかは、わからない。

(P.74)数種の植物油脂による精巣機能障害
 カノーラ菜種油や水素添加植物油は…脳卒中易発症性ラットでは精巣テストステロン含量を半減させ、血漿テストステロンレベルを有意に下げた(資料56)。仔(二世代目)の生存率にも影響することが明らかになり(Tatematu K,2004)、カノーラ菜種油や水素添加植物油が環境ホルモン作用を持っていた。その影響(摂取量/許容一日量の比)は、いわゆる最強の環境ホルモンといわれているダイオキシン(四塩化物体)より、二桁ほど高いと計算されているが(資料22)、関連する企業・行政・学会はこれらの報告を無視したままである。

(P.77)血中テストステロンレベルと病気との関係
 カノーラ菜種油や水素添加植物油は、VK2-オステオカルシン・リンクを阻害して血漿や精巣のテストステロンレベルを大幅に低下させた(資料56)。この阻害が人でも起こっている可能性は、血清テストステロンレベルと癌死亡、心血管病死および総死亡との間に負の相関があることからも明らかである(資料60)。…
 米国退役軍人の追跡調査では、血清テストステロンのレベルが下がるにつれて、生存率が低下することが示されている(Shores MM,2006)。かつて男性のほうが心血管病は多いので、テストステロンの高値は心血管病の危険因子であると考えられたことがある。しかし、逆であった。数種の植物油脂やコレステロール低下剤のスタチン、血液凝固抑制剤のワルファリンなどによるVK2-オステオカルシン・リンクの阻害が、テストステロン産生を抑制し、多くの病気の発症を促進していると解釈しても矛盾はない(資料20)。

(P.113)オリーブ油の毒性について
 …オリーブ油に関してはさらに壁(国際オリーブ協会)が厚く、安全性の問題がマスクされています。脳卒中促進作用がカノーラ菜種油と同程度に強い(Ratnayake WM,2000a;2000b:Tatematu K,unpublished)、発癌促進効果が異常に強い(Onogi N,1996、資料88)などの有害作用が報告されており、そのメカニズムもVK2-オステオカルシン・リンクの阻害と関連付けられます。
…オリーブ油学者がこれら既報の有害作用を無視し、本書で否定しているコレステロール低下作用を標榜することは、科学的ではありません。そして、オリーブ油消費の高い国・地域に、人口減少が激しく…、認知症有病率が高く…、低体重出生児が多いのです…。ただし、これらは菜種油消費国の日本にも共通しており、これまでの誤った脂質栄養指導が主因の一つです。

(P.98)有害作用を示す数種の植物油脂に対する対策
 …一時も早く、日本脂質栄養学会の推奨する脂質栄養への方向転換が必要であることを理解されるよう切望する。企業や油糧種子輸出国の利益追求の強大な圧力があると推測されるが、すでに欧米では着実に対策が進んでいるように見える。
 化石燃料を再生可能エネルギーに変える努力が世界的になされている。脳卒中促進・環境ホルモン作用などを示す数種の植物油脂をバイオ燃料やプラスチックなど工業用に転用する。先進国ドイツやフランスでは、消費菜種油の63%がバイオディーゼル用に使われている(Wikipedia,2018)。そして米国では、菜種油をプラスチック原料とする工場の規模拡大を目指している(Arnason R,2019
)…。日本の場合、飼料としての粕が必須であれば、独、仏でみられるような有害な植物油脂を食用ではなく非食用へ展開することが、人口減少国に転落しない一つの要因であると解釈できる。
(引用ここまで)

 いかがでしょうか。随分と恐ろしい「数種類の植物油脂」(市場流通規模からすると過半の油脂が、となります)です。
 ところで、本書は、その表題が「日本人は絶滅危惧民族 ー誤った脂質栄養が拍車ー」となっており、研究報告の資料解析に、その多くを「少子化、不妊、自殺率上昇など」に費やしています。これについては本書を購入してご覧いただくとして、本書のまとめの最後で次のようにくくっています。前稿と重複しますが、ここに再掲し、本書の紹介をこれにて閉じることとします。

 …本書では、「植物油脂/動物性脂肪の摂取比率を上げ、コレステロール摂取量を減らす」という過去半世紀に国際的に権威のある機関から発信されている誤った脂質栄養指導が、“こころ”と“からだ”を障害する結果となり、少子化、人口減少の一因となっているとする医療仮説を提起した。…われわれの医療仮説は、因果関係を示す多くのメカニズム研究とそれに合う観察医療(臨床)に基づいているが、ランダム化比較試験のデータがないことから仮説とした。しかしこの医療仮説以外に、少子化、人口減少をもたらしうる自然科学的要因は報告されていない。ストレス仮説があるとしても、その定量性と実験的根拠に乏しい。
 …本書で提唱する脂質栄養の実践においては、おおきなコスト増を伴うわけではない。①有害作用のメカニズムが分かった数種の植物油脂を食用ではなく工業用に転用し、②安全性の高いことが明らかにされている植物油の供給を増やし、③誤った脂質栄養学で食環境から避けられるようになった動物性脂肪を、過剰摂取(肥満)にならない範囲で食用に利用することである。…

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菜種油、水素添加植物油など数種類の植物油脂は有害作用を示す(総論及び用語解説)

2019年12月30日 | 正しい栄養学

菜種油、水素添加植物油など数種類の植物油脂は有害作用を示す(総論及び用語解説)

 2019.12.19に投稿した「脂肪摂取基準P/S比は真逆。動物脂肪を増やし、植物油を減らすべし。」のなかで、「菜種油、水素添加植物油など数種類の植物油が、VK2-オステオカルシン・リンクを阻害して、糖尿病などを増やす」、「いまだ原因物質は特定されていませんが、その未知微量因子の毒性は極めて強いものがあり…」と紹介し、2019.12.12に投稿した「水素添加植物油脂はトランス型脂肪酸以外の毒物により食用に不適です」のなかで、「(水素添加植物油脂にあって)VK2-オステオカルシン・リンクを阻害する原因物質としては、植物油の水素添加の過程で副生するジヒドロビタミンK1が特定されており…」と紹介しました。
 本稿では、「菜種油、水素添加植物油など数種類の植物油」とは具体的にどんな油なのか、について、引き続き下記の参考文献から紹介することとします。また、どのように有害作用を示すのか、についての詳細はページを改めて各種の研究報告の主だったものを別途紹介することとします。(→2019.12.30投稿「菜種油、水素添加植物油など数種類の植物油脂は有害作用を示す(各種研究報告編)」)
 なお、本稿や次稿で、幾つも専門的な用語が出てきますが、その用語解説を本稿の後段で示しました。

参考文献:2019.9.8 発刊「日本人は絶滅危惧民族 ー誤った脂質栄養が拍車ー 」
<裏表紙:糖尿病 慢性性腎炎 骨折 脳・心血管病 認知症 少子化の予防を目指して>
(日本脂質栄養学会 食品油脂安全性委員会 糖尿病生活習慣病予防委員会 編著者:奥山治美)
※この「日本脂質栄養学会」は信用が置けるか否かですが、これについては下記の記事で小生の受け止め方を書いています。ポイントとなるのは「利益相反開示」です。
 久しぶりに本を買い、食の見識を新たにする

(参考:本書の巻頭における「書評」富山大学名誉教授浜崎智仁より抜粋) 
「植物だから安心・安全・体に優しい」とは単なる迷信だ。植物にはありとあらゆる毒があり、食べられる物は限られており、「野菜(あるいは果物)」と称し区別されているくらいだ。ちなみに「野動物」という言葉はない。動物の肉が安全なためだ。また和漢薬の大部分は植物由来で、いわばその毒性を利用して薬としている。(2019年7月)
 

(以下、本書からの引用)
<各種油脂の安全性区分>
(P.34)わが国とカナダ保健省(Ratnayake YM,2000)から報告された動物実験に基づき、大豆油(高リノール酸油(※下記))を対照として各種の油脂を3群に分けた。
(ア)脳卒中易発症性ラットの生存率比較で安全なもの
   シソ・エゴマ油、アマニ油、魚油、
   高リノール酸紅花油、高リノール酸ひまわり油、
   バター、ラードなど。
 大豆油は高リノール酸油に属するが、シソ・エゴマ油に比べると1割ほど寿命が短い。この差は、リノール酸/α-リノレン酸の比の差で説明でき、普通ラット(Donryu)でも同程度の寿命の差が認められている。
(注)高リノール酸油はアレルギー・炎症性疾患、発癌などの動物モデルでは…動物性脂肪や高オレイン酸油に比べて有害作用を示す…。

(イ)寿命短縮作用を示したもの(数種類の植物油脂)
   菜種油(カノーラ型および在来型)、
   オリーブ油、
   コーン油、パーム油、
   月見草油、
   高オレイン酸紅花油、高オレイン酸ひまわり油、
   水素添加菜種油、水素添加大豆油

(ウ)安全性が不明なもの
  その他の多くの油脂は調べられていない

(※)<引用を中断し、大豆油について本書及び主に他機関の資料から補足>
 従来の大豆油は高リノール酸油に属しますが、使い勝手が悪く、高オレイン酸型の大豆が米国で遺伝子組換えによって開発され、市場規模を大きく増やしているようです。しかし、この高オレイン酸大豆油が安全であるかどうか研究しようにも、一切の表示がなくて入手できず、安全性の追試験は出来ないのが現状とのことです。
(以下、
厚生労働省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会資料などから引用)
 大豆油は食用油として安価であり、サラダ油等の原料としてよく利用されているが、多価不飽和脂肪酸(リノール酸、リノレン酸等)が多く含まれるため、熱によって変性しやすく安定性が低いという欠点がある。このため、一般に揚げ物用など高い熱安定性が要求される場合には、水素を添加することにより熱安定性の向上を図っている。
 高オレイン酸遺伝子組換え大豆は、大豆の脂肪酸組成において、多価不飽和脂肪酸の含有量を減らし、代わりに一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸含有量を増やしたものである。このため、遺伝子組換え大豆から得られた油は、熱安定性が高い。 
 遺伝子組換え食品の表示(大豆油については対象外)
 組み換えられたDNA及びこれによって生じたタンパク質が、ひろく認められた最新の技術によっても検出できない加工食品については、表示の対象外としている。具体的には、醤油、大豆油、コーンフレー ク、コーン油、異性化液糖などが表示の対象外となる。
 水素添加植物油(トランス脂肪酸)の表示(大豆油のみならず一切不要)
 米国などでは表示義務があったり、トランス脂肪酸ゼロ製品しか製造していなかったりするが、日本では表示の義務や濃度に関する基準値はなく、市販品の大豆油の組成は不明である。
( 他の資料からの引用ここまで)

(以下、再び本書からの引用)

<主な油脂の脂肪酸組成と脳卒中促進作用> 

(注)表中の大豆油、ひまわり油、紅花油は高リノール酸型のもの



(注)菜種油(高エルカ酸型)は在来の国産品が該当するようですが、現在ではほとんど栽培されていないようです。(ウイキペディアによる)

(P.98)有害作用を示す数種の植物油脂に対する対策
 …一時も早く、日本脂質栄養学会の推奨する脂質栄養への方向転換が必要であることを理解されるよう切望する。企業や油糧種子輸出国の利益追求の強大な圧力があると推測されるが、すでに欧米では着実に対策が進んでいるように見える。
 化石燃料を再生可能エネルギーに変える努力が世界的になされている。脳卒中促進・環境ホルモン作用などを示す数種の植物油脂をバイオ燃料やプラスチックなど工業用に転用する。先進国ドイツやフランスでは、消費菜種油の63%がバイオディーゼル用に使われている(Wikipedia,2018)。そして米国では、菜種油をプラスチック原料とする工場の規模拡大を目指している(Arnason R,2019
)…。日本の場合、飼料としての粕が必須であれば、独、仏でみられるような有害な植物油脂を食用ではなく非食用へ展開することが、人口減少国に転落しない一つの要因であると解釈できる。

(P.116)(本書のまとめ)
 …本書では、「植物油脂/動物性脂肪の摂取比率を上げ、コレステロール摂取量を減らす」という過去半世紀に国際的に権威のある機関から発信されている誤った脂質栄養指導が、“こころ”と“からだ”を障害する結果となり、少子化、人口減少の一因となっているとする医療仮説を提起した。…われわれの医療仮説は、因果関係を示す多くのメカニズム研究とそれに合う観察医療(臨床)に基づいているが、ランダム化比較試験のデータがないことから仮説とした。しかしこの医療仮説以外に、少子化、人口減少をもたらしうる自然科学的要因は報告されていない。ストレス仮説があるとしても、その定量性と実験的根拠に乏しい。
 …本書で提唱する脂質栄養の実践においては、おおきなコスト増を伴うわけではない。①有害作用のメカニズムが分かった数種の植物油脂を食用ではなく工業用に転用し、②安全性の高いことが明らかにされている植物油の供給を増やし、③誤った脂質栄養学で食環境から避けられるようになった動物性脂肪を、過剰摂取(肥満)にならない範囲で食用に利用することである。…
(本書からの引用ここまで)

 いかがでしょうか。
 我々が日常的に口にしている植物油ですが、家庭で最も多く使うのは揚げ物&炒め物共用の油ではないでしょうか。一番は菜種油ですが、これは上表に「脳卒中促進・環境ホルモン作用のため、食用に不適」とあります。
 二番手は大豆油となりましょう。でも、大豆油については従前のもの(高リノール酸型)は「脳卒中促進作用あり」ですし、「ω6/ω3比が高く、過剰摂取症に注意」とあります。また、現在出回っている大豆油は他の資料からの補足で示しましたように、水素添加(これは「ジヒドロVK1を含むため、食用に不適」)が混じっていたり、「安全性に疑問あり」とされる高オレイン酸遺伝子組換え大豆であったりしますから、安心できません。
 三番手は、紅花油ですが、高リノール酸型(これは「ω6/ω3比が高く、過剰摂取症に注意」)が市場からほとんど姿を消し、高オレイン酸型(これは「脳卒中促進作用あり、多量摂取をさける」)しか入手できず、不安が残ります。
 四番手は滅多に使われていない「ごま油」ということになります。ごま油は一般に使う香りが高い焙煎ごま油のほかに、焙煎しないで作られる太白ごま油があり、これは香りがなく、どんな料理にも使える万能オイルで、揚げ物・炒め物に使えます。でも、本書によると、ごま油は「脳卒中促進作用がない」ことしか記述がない(さほど研究されていない)ようですし、ごま油にはα-リノレン酸が微量しか含まれず、n-6系とn-3系(ω6とω3)の比率が際立って極端ですから、「過剰摂取症に注意」となりましょう。
 こうなると、揚げ物&炒め物共用の油は、どれもこれも安心して使えるものは何もないことになってしまいます。
 次に炒め物専用となると、動物性のバター・ラードなら安全ですから、これを使うしかなさそうです。もっとも、これで調理した料理のその味となると、疑問符が付きますが。
 さて、本書でも、体にいいとされるエゴマ油ですが、ある程度は過熱に耐えるも、加熱すると魚臭いにおいになって食べづらくなるとのことですし、シソ油とアマニ油は過熱不可です。よって、残念ながらこれらはドレッシング利用のみとなります。
 ところで、油脂にあって、不足がちのn-3系多価不飽和脂肪酸は、魚油に多く含まれますから、魚を食べていれば、あえてエゴマ油、シソ油、アマニ油を摂る必要はないです。なお、大豆そのものにn-3系多価不飽和脂肪酸のα-リノレン酸がけっこう含まれていますから、大豆の煮物や納豆を食べていれば摂取不足にならないでしょう。また、穀類にも当然にどれだけか含まれています。 
 こうしてみると、油脂を使う調理法は随分と変えなくてはならなくなります。つまるところ、油脂を滅多に使わなかった戦前の調理法に戻すしかなさそうで、何とも主婦泣かせの油脂問題、ということになります。

 なお、我々が知らず知らず口にさせられている水素添加植物油脂の害、これはジヒドロビタミンK1によるものであることが判明し、また、菜種油などに含まれる未知微量因子も同様な作用をすることが判明しています。これらの害毒は少なくともビタミンK2を欠乏させることになりますから、自衛手段としてビタミンK2を多く含む食品(本書から引用の下図を参照)を意識して摂取する必要がありましょう。ただし、これでもってジヒドロビタミンK1や未知微量因子の毒性から十分に逃れられるものではありません。

 

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用語解説

<油脂(脂質・脂肪)と脂肪酸>
 人が利用するサイドからは油脂といい、動植物の生体内の存在に着目すると脂質(あるいは脂肪)と呼ばれるのが一般的です。油脂は、その多くは3本の脂肪酸とグリセリン(3本の手を持つ)が結合(脱水縮合)した状態で存在し、生体内においてはエネルギーの貯蔵が主目的になっています。
 油脂を摂取すると、脂肪分解酵素等の働きにより、油脂を加水分解し、最終的に3本の脂肪酸とグリセリンに分かれ、脂肪酸はその種類によってそれぞれ活用され、余ったものは再びグリセリンと結合させて脂肪として蓄えられます。
 脂肪酸は炭素が鎖状に配列した分子構造を持っています。炭素の鎖の長さで分類した場合、短鎖、中鎖、長鎖脂肪酸に分類されます。食品中の油脂の多くは長鎖脂肪酸に属するものです。中鎖脂肪酸としては、バターや牛乳中そして熱帯油脂(トロピカルオイル:パーム油など)に含まれており、生体内における分解が容易でエネルギー源として活用されます。短鎖脂肪酸はグリセリンと結合せず、単体で存在し、水溶性で、働きは全く違いますから、油脂には含めません。短鎖脂肪酸は反芻動物において細菌によって大量に作られ、そのままでエネルギー源になり、ヒトの腸内細菌によってもどれだけか作られています。

<長鎖脂肪酸(一般に言う脂肪酸):飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸>
 脂肪酸は、炭素同士の結合方式によって大きく飽和と不飽和に大別することができます。動物性油脂に多く含まれる飽和脂肪酸は化学式の炭素の結合手が全部水素で満たされているもので、化学的には安定な構造です。一方、不飽和脂肪酸は炭素の結合の中で、水素の不足した二重結合と呼ばれるつながり方を部分的に持っているもので、酸素によって過酸化を起こしやすい不安定な構造です。さらに、不飽和脂肪酸は二重結合の数によって分類されます。その分子中に二重結合を1つだけ持つものを一価不飽和脂肪酸、2つ以上持つものを多価不飽和脂肪酸と呼んでいます。オレイン酸は二重結合を1つ持つことから一価不飽和脂肪酸、リノール酸は二重結合を2つ、α-リノレン酸は3つ、アラキドン酸は4つ持つことから多価不飽和脂肪酸の仲間となります。魚の油に多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)は二重結合を5つ、DHA(ドコサヘキサエン酸)は6つも持った多価不飽和脂肪酸です。 
 油脂はこれらの脂肪酸によって構成されるわけですが、天然に存在する油脂は単独の脂肪酸で構成されるのではなく、いくつかの脂肪酸が一定の割合で混ざり合って構成されています。さらに、油脂の種類によって脂肪酸組成は大きく異なっています。例えば、豚肉の脂には一価不飽和脂肪酸のオレイン酸、飽和脂肪酸のパルミチン酸などが、植物油には多価不飽和脂肪酸のリノール酸、一価不飽和脂肪酸のオレイン酸などが、魚にはEPAやDHAなどの多価不飽和脂肪酸が多く含まれます。また、同じ植物油でも原料によって脂肪酸組成に特徴がみられます。一般的に調理などに使用する調合サラダ油(菜種と大豆の混合油)には多価不飽和脂肪酸のリノール酸が、地中海料理でよく使用するオリーブ油には一価不飽和脂肪酸のオレイン酸が、紫蘇油や亜麻仁油には多価不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富に含まれています。 
 これら食用油を構成する脂肪酸の多くは、私達の体内ではエネルギー源として利用されます。さらに、一部の脂肪酸はリン脂質に取り込まれて細胞膜の成分となったり、脳などの神経組織の重要な成分になったりします。また、生理的活性物質(体の代謝を調節する物質のこと)に体内で変換されて、特殊な役割を持つようになる脂肪酸もあります。
 なお、体内で余剰となった糖質、タンパク質は順次飽和脂肪酸への合成が進み、そして一価不飽和脂肪酸のオレイン酸が生成されたりします。

<n-6系とn-3系(オメガ(ω)6系とω3系)>
 脂肪酸の中には私達が生体内で作ることができない、しかし、体にとって重要な役割を持つものがあり、この脂肪酸を必須脂肪酸と呼びます。必須脂肪酸にはリノール酸、α-リノレン酸、アラキドン酸があります。 
 必須脂肪酸はいずれも多価不飽和脂肪酸であるため、構造中に二重結合を持ちますが、その位置によってn-6系とn-3系の2種類に分類することができます。n-6系多価不飽和脂肪酸は必須脂肪酸のうちリノール酸と生体内でそれから代謝されてできるアラキドン酸などが属します。一方、n-3系多価不飽和脂肪酸は必須脂肪酸であるα-リノレン酸と生体内でそれから代謝されてできるEPA、DHAなどが属します。食事からリノール酸を取り込めばアラキドン酸が、食事からα-リノレン酸を摂取すればEPA、DHAを作ることも可能です。しかし、n-6系とn-3系は相互変換することはできないです。 
 さて、これらの必須脂肪酸は体内でどのような働きをするのでしょうか? これらの必須脂肪酸は体の中で、エイコサノイド(下記※)としての生理機能やそれ以外にも特殊な生理機能を持ちます。また、n-6系とn-3系ではそれぞれ異なった働きをします。そのため、どちらの系の脂肪酸をどのような割合で摂取するかによって、健康に与える影響が大きく異なってきます。日本脂質栄養学会においても、健康を維持するためのn-6系とn-3系の脂肪酸の食事からの摂取割合について、研究者たちによって検討されつつあります。
(※
エイコサノイド)
 必須脂肪酸の1つであるアラキドン酸は細胞膜リン脂質の構成成分であり、細胞が刺激を受けると必須脂肪酸は膜から離れ、さまざまな生理的活性物質を生成します。また、n-3系であるEPAからも同様の生理的活性物質が生成され、これらを一括してエイコサノイドといいます。エイコサノイドには代表的なものとしてプロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンなどがあります。これらは血小板の凝集、動脈壁や気管支の収縮、弛緩、血液の粘度などに対してさまざまな調節を行います。

<水素添加植物油脂とトランス脂肪酸>
 多価不飽和脂肪酸(水素の不足した二重結合と呼ばれるつながり方を部分的に持っているもの)の多い植物油に化学的に水素添加して飽和脂肪酸に改変したもの。この化学反応のときに元々の構造であるシス型が一部改変してトランス型と呼ばれる異型の脂肪酸が数%から十数%生成されます。このトランス(型)脂肪酸に毒性が強いと言われていましたが、その後の研究により、さほどの毒性はなさそうなことが判明するも、副生するジヒドロビタミンK1(ビタミンK1の変性物)に強い毒性があることが分かりました。

<ジヒドロビタミンK1>
 ビタミンK2-オステオカルシン・リンクを阻害して糖尿病を発生させるなど、動物の生体内において様々な害毒として働きます。

<ビタミンK2(VK2)
 ビタミンK2はオステオカルシンを活性化するという重要な働きがあり、これが抑えられるとなれば、糖尿病の発症などが危惧される。

<オステオカルシン>
 骨の非コラーゲンタンパク質で、ホルモン様作用を持ち、インスリンの分泌を促進するなど多様な作用を有します。また、ビタミンK2依存反応によりカルシウムやリン酸を保持できる(Hashimoto Y;El Asmar,2014)ことにより、大動脈や腎臓での石灰化を抑えています。

VK2-オステオカルシン・リンク>
 ビタミンK2とオステオカルシンは密接にリンク(連携)して働きます。

<マトリックスGlaタンパク質>
 軟骨や血管平滑筋の細胞から分泌される、γ-カルボキシグルタミン酸を含むビタミンK依存性タンパク質。石灰化を抑制する作用を持ちます。

コメント

脂肪摂取基準P/S比は真逆。動物脂肪を増やし、植物油を減らすべし。

2019年12月19日 | 正しい栄養学

脂肪摂取基準P/S比は真逆。動物脂肪(飽和脂肪酸が多い)を増やし、植物油(多価不飽和脂肪酸:主にリノール酸が多い)を減らすべし。              

 P/S比とは(日本脂質栄養学会のサイトでの用語解説より)
 Pは多価不飽和脂肪酸(Polyunsaturated fatty acids)、Sは飽和脂肪酸(Saturated fatty acids)の略で、P/S比とは多価不飽和脂肪酸量(主にリノール酸)を飽和脂肪酸量で割ったものです。食事中のP/S比を高めると血清コレステロール値を低下させ、低くすると血清コレステロール値を増加させることから、食事中の油脂の質をあらわすための指標として用いられてきました。しかし、脂質栄養の研究が進むにつれて、Pのなかでも健康に対して異なった影響を及ぼすさまざまな脂肪酸があることがわかり、リノール酸だけをPの代表としてあらわすことができなくなってしまったこと、また、血中脂質レベルを調整することだけで、簡単に心疾患や脳血管疾患発症の軽減をはかることはできない、などといったことが明らかとなってきたのです。以上のような理由から、最近ではこの指標はあまり使用されなくなっています。
(引用ここまで)
(注)血清コレステロール値が高くても血管性疾患を悪化させないことを、日本脂質栄養学会は主張しています。これについては既投稿の次の記事の中で解説しました。
 コレステロールの薬は百害あって一利なし、絶対飲まないことです

 上の「P/S比」用語解説では、日本脂質栄養学会はわりと控え目な表現をしていますが、最近発刊された同会の下記文献(本書)によれば、表題のごとき、逆の摂取が強く勧められています。その理由を本書から抜粋・引用しながら説明することとしましょう。

参考文献:2019.9.8 発刊「日本人は絶滅危惧民族 ー誤った脂質栄養が拍車ー 」
<裏表紙:糖尿病 慢性性腎炎 骨折 脳・心血管病 認知症 少子化の予防を目指して>
(日本脂質栄養学会 食品油脂安全性委員会 糖尿病生活習慣病予防委員会 編著者:奥山治美)
※この「日本脂質栄養学会」は信用が置けるか否かですが、これについては下記の記事で小生の受け止め方を書いています。ポイントとなるのは「利益相反開示」です。
 久しぶりに本を買い、食の見識を新たにする

(本書の前書き:編著者 名古屋市大名誉教授 奥山治美)
 はじめに
 脂質栄養はおもに生活習慣病・慢性疾患に関わっており、多くの学会がこの課題に取り組んでいる。1992年、すでにいくつかの栄養関係学会が存在するとき、あえて脂質栄養を専門とする日本脂質栄養学会を発足させたのは、「リノール酸の摂りすぎの害やオメガ3脂肪酸の有効性が既存の学会で軽視されていること」に起因していた。その後、魚油EPAやDHAの有効性については医療分野で広く認識されるようになったが、植物油脂と動物油脂の摂取については、今も推奨内容が真っ二つに割れている。
 世界保健機構(WHO)やその傘下…は、今でも動物性脂肪を植物油で置き換えることを強く勧めている。これに対し、日本脂質栄養学会や世界の限られた数の関連学会、グループはこれを誤りとしている。そして筆者らは、「数種類の植物油脂が驚くほど多様な生活習慣病の発症に関わっている」とし、そのメカニズムを明らかにし、数種類の植物油脂の摂取を極力減らすよう提言してきた。ところが、国内においても、産業界・医療界・行政・一部学者はわれわれの提言を無視し続けており、WHOや米国発のガイドラインを国民におしつけている。…
 医療界や国の施策にもかかわらず生活習慣病予防の成果が上がっておらず、むしろ悪化の道を進んでいる原因として、誤った脂質栄養指導にあると筆者らは主張してきた。…
 WHOの予算の7割は企業からの寄付によっているといわれ、米国の省庁・学会・学者は、油糧種子輸出国の利益という面で、脂質栄養と深いつながりがある。すなわちこれらの機関から発信されるガイドラインには、利益相反問題が深くかかわっており、エビデンスに基づくガイドラインになっていないことを知る必要がある。
 …脂質摂取の質と量の変化が、“こころ”と“からだ”の病気に関わっているメカニズムが明らかになってきた。バター食文化が残っている欧米に比べ、植物油食文化がすすんだ日本や東アジアでは、…(問題はより深刻である)…。

「脂肪摂取基準P/S比は真逆。動物脂肪を増やし、植物油を減らすべし。」の根拠一例
<2010年厚労省コホート調査(JACCスタディ,JACC研究)>
(P.26)飽和脂肪酸の摂取量によって5群に分け、14.1年追跡すると、全脳卒中、出血性脳卒中(くも膜下出血を除く)、虚血性脳卒中ともに、動物性脂肪の摂取が多い群の死亡率が低かった(資料9:下図)。そして、動物性脂肪の摂取が多い群でも虚血性心疾患死亡率は高くなく、総心血管死亡率はむしろ低かった。内科医学界はこれらの結果を受け入れようとせず、(旧態依然のまま)“飽和脂肪酸やコレステロールの摂取を減らす”という栄養指導を続けている。…
 
(引用者:注)下図中のP値は、大ざっぱに言うと「このような値が偶然に出る確率」です。一番左の全脳卒中のハザード比(約0.7)という値が偶然に出る確率(P=0.004)は、た
ったの0.4%しかないということになり、統計学的に十分に有意ということが言える、となります。なお、くも膜下出血:ハザード比(約0.9)のP値は0.47ですから、偶然に出る確率は47%となり、これには有意性はないということになります。
 一般にP=0.05ないし
P=0.01で有意性ありと判定されるようです。

(P.112)沖縄県の長者番付の低下について
 沖縄の施政権が日本に返還された1972年当時、…沖縄は長者番付のトップ…でした。…豚肉文化…すなわち動物性脂肪の摂取が多く、このため脳卒中死亡率が本土に比べて低く、これが最長寿の主因になっていたと考えられます(Okuyaka H,1996;柴田博,2018)。そのころ本土に働きに出た多くの沖縄の若者がU-ターンしたそうです。当時は本土のほうが植物油摂取は多かったので、また、世界的な趨勢から沖縄医師会では「動物性脂肪を減らして植物油摂取を増やす方向に舵を切った」といわれます(沖縄医師会メンバー談,Okuyama H,1996)。その結果、動物性脂肪の摂取に代わり植物油の摂取が増えました。それに伴い沖縄県民の長寿番付の急速な低下が始まりました。筆者らは摂取油脂の植物性/動物性の比の上昇をその原因であると解釈しました(Okuyama H,1996)。
 それは、欧米で行われた「動物性脂肪を減らして植物油摂取を増やす」という介入試験の結果、予想に反して癌や心臓病、総死亡が増え、若者の不慮死が増えたことによります(Strandberg TE,1991;Muldoon MF,1990)。
 当時、リノール酸摂取が極めて多いイスラエル人に心血管疾患や癌が多く、この現象をイスラエルパラドックスと呼び、インドではギ―(羊脂バター)から植物油に転換して同様な変化が見られ(インドパラドックス)、筆者らは沖縄の例を沖縄パラドックスと呼びました(Okuyama H,1996)。
 これらから得られた「動物性脂肪を植物油に置きかえることは極めて危険である」という教訓は、油糧種子の関連産業界の利益と相反し、一般消費者に届きにくい状況になっています。一部の御用学者は今も、高リノール酸油の摂取増を勧めています。

(P.50)間違った脂質栄養指導が先行した久山町研究に学ぶ
 久山町(福岡県)は、九州大学との協調の下に古くから健康増進に取り組んできた実績がある。ところが、この町で糖尿病有病率が全国平均より高いことが指摘された。九大関係者は、「診断基準の差」によると反論し、インターネット上でホットな議論が展開された。…筆者らは久山町の栄養摂取量を調べ、各種疾患の有病率、死亡率などを比較し、糖尿病に関しては次のような結論を得た(奥山治美、2017)。
①久山町は全国平均に比べ、糖尿病有病率は2倍近く高いが、これは診断法の差ではなかった。(引用者:注)図の下の解説文にあるとおり男性のみの比較
 

②久山町民の糖質摂取量は全国平均と大差ないが、植物油の摂取量が多く、動物性タンパクの摂取量が少なかった(ともに脳卒中の発症を促進する要因である)。摂取油脂の植物性/動物性の比は、全国でほぼ1:1、久山町では2:1となっていた。…久山町民に対する九州大学の脂質栄養指導は、WHOや国のガイドラインに沿っており、脂肪酸の多価不飽和/飽和の比を上げること、日本人のトランス脂肪酸の摂取量は少なく、とくに留意する必要はないこと、などの解釈に基づいていた…。
③(略)
④菜種油、水素添加植物油など数種類の植物油が、VK2-オステオカルシン・リンクを阻害して、糖尿病などを増やすメカニズムを明らかにした(Okuyama H,2016)。…

(P.53)…糖尿病の主因は糖質摂取過剰ではなく菜種油など数種の植物油脂の摂取過剰であった…。国や専門学会のガイドラインに忠実に、植物油脂/動物性脂肪の摂取比率を上げる栄養指導を強力に勧められたことが、久山町民の最初の悲劇であろう。筆者(H.O.)はこの誤りを指摘する文書を久山町研究の指導に当たっている人たちに送ったが、彼らは国や専門学会の指導のほうを採択したようであり、共同研究…の申し出には応じなかった。

(P.53)久山町では、脳卒中、認知症の増加でも先行している
 菜種油やパーム油などの摂取増は糖尿病のみならず、脳卒中など他の病気も増やしていると考えられる。動物実験では、人の摂取量で脳出血発症を促進し、寿命を短縮した。久山町では、くも膜下出血の頻度が異常に高い…。そして、久山町研究の脳卒中発症率は他の報告より高く見える…。ただし、…データの背景、診断基準などに多くのバイアスがあると考えられ、数値の直接の比較はできない。専門家の解析を待ちたい。
 …OECD引用の認知症有病率は久山町研究に基づいており、久山町の認知症有病率は極めて高いといえる。…
 健康寿命は生活習慣病予防における客観的指標の一つとなる。福岡県の健康寿命は都道府県の中で長いほうではない。ところが、久山町の健康寿命が異常に長いという記述があった(久山町研究のリーダーの一人)。しかし、よく調べてみると、「要介護2~5の認定者を除外して健康寿命を算定してもらった」と書かれている。この算定法は国と異なり、他府県の健康寿命と比較することは出来ない。このリーダーの「久山町の健康寿命は長い」という記述は虚偽であり、町民を欺くものであると解釈できる。
 このような解釈から、植物油脂/動物性脂肪の摂取比率を国や栄養関連専門学会のガイドラインにそって、長期にわたって上げてきた久山町民の健康状態が、全国平均に比べて良好であるはずがない。実際、何代か前の町長は、ある久山研究記念式典で、「こんなに努力してきたのに、最近ではむしろ病人が増えてきている」と記述し、「自分の健康は自分で守るもの」という表題の記事を発表されている…。
 わが国の行政・医療界・栄養専門学会などがWHOや米国医学界から発信された誤ったガイドラインを鵜のみにし、知識弱者を惑わせる記述をしてきた。久山町では権威筋の情報を選び、その誤りを指摘されても受け入れようとしないリーダーを推載したことが、町民の重なる悲劇を生もうとしている。

(P.116)まとめ(本稿の関係部分についての抜粋)
…本書では、「植物油脂/動物性脂肪の摂取比率を上げ、コレステロール摂取量を減らす」という過去半世紀に国際的に権威のある機関から発信されている誤った脂質栄養指導が、“こころ”と“からだ”を障害する結果となり、少子化、人口減少の一因となっているとする医療仮説を提起した。…われわれの医療仮説は、因果関係を示す多くのメカニズム研究とそれに合う観察医療(臨床)に基づいているが、ランダム化比較試験のデータがないことから仮説とした。しかしこの医療仮説以外に、少子化、人口減少をもたらしうる自然科学的要因は報告されていない。ストレス仮説があるとしても、その定量性と実験的根拠に乏しい。
 …本書で提唱する脂質栄養の実践においては、おおきなコスト増を伴うわけではない。①有害作用のメカニズムが分かった数種の植物油脂を食用ではなく工業用(※EUにおいては菜種油の総消費量939万トンの63%がバイオディーゼル用途(2011年))に転用し、②安全性の高いことが明らかにされている植物油の供給を増やし、③誤った脂質栄養学で食環境から避けられるようになった動物性脂肪を、過剰摂取(肥満)にならない範囲で食用に利用することである。…
(以上、引用ここまで)

 いかがでしょうか。本書では幾つものエビデンスに基づいて、「脂肪摂取基準P/S比は真逆。動物脂肪を増やし、植物油を減らすべし。」と強く主張されているのですが、これは引用文中に出てきました「数種類の植物油がVK2-オステオカルシン・リンクを阻害」することと深い関わりがあります。「数種類の植物油」といっても、たいていの植物油がこれに該当し、いまだ原因物質は特定されていませんが、その未知微量因子の毒性は極めて強いものがあり、これに関しては改めて別途記事にすることとします。
 なお、VK2-オステオカルシン・リンクを阻害する原因物質としては、植物油の水素添加の過程で副生するジヒドロビタミンK1が特定されており、これについては既投稿の下記記事で本書の解説を紹介しています。
 水素添加植物油脂はトランス型脂肪酸以外の毒物により食用に不適です

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水素添加植物油脂はトランス型脂肪酸以外の毒物により食用に不適です

2019年12月12日 | 正しい栄養学

水素添加植物油脂はトランス型脂肪酸以外の毒物により食用に不適です

 従前、強く主張されていた「水素添加植物油脂は、その製造過程でトランス型脂肪酸ができてしまい、これに毒性があり、よってマーガリンは食べてはだめだ。」という話は、最近では通らなくなりました。というのは、今、出回っているマーガリンは、原料を水素添加植物油脂から熱帯油脂(トロピカルオイル=パーム油など)に切り替えられたからです。
 でも、水素添加植物油脂は、ショートニング(マーガリンの純度を高めたのもの。さっくり感やパリッとした食感を出すのに好都合で、菓子類製造に利用されることが多い)としてその後も使われています。しかし、それに含まれるトランス型脂肪酸(数%から十数%含有)そのものの毒性は弱く、天然に存在するトランス型脂肪酸(反芻動物の胃で微生物によって作られ、牛肉や牛乳に必ずどれだけか含有)と変わらないようでもあります。
 では、水素添加植物油脂は安全かというと、さにあらずで、近年判明したのですが、その製造過程でかなり毒性の強いジヒドロビタミンK1(ビタミンK1の変性物)が副生され、これが各種の健康被害を生じさせる元であることがはっきりしてきました。
 そして、最近のマーガリンの代替原料となってきた熱帯油脂(パーム油など)には何かと問題がありそうなことも次第に分かってきています。
 そのあたりのことを下記参考文献(各種研究報告100本以上の要旨を整理して掲載されたもの)から引用して紹介することとします。

参考文献:2019.9.8 発刊「日本人は絶滅危惧民族 ー誤った脂質栄養が拍車ー 」
<裏表紙:糖尿病 慢性性腎炎 骨折 脳・心血管病 認知症 少子化の予防を目指して>
(日本脂質栄養学会 食品油脂安全性委員会 糖尿病生活習慣病予防委員会 編著者:奥山治美)
※この「日本脂質栄養学会」は信用が置けるか否かですが、これについては下記の記事で小生の受け止め方を書いています。ポイントとなるのは「利益相反開示」です。
 久しぶりに本を買い、食の見識を新たにする

 引用文中に小々専門的な用語がいくつも出てきますが、それは読み飛ばしていただいていいです。ただ、予備知識として下に示したビタミンK2とビタミンD3の働き、それらと密接にリンク(連携)して働くオステオカルシンの重要性を頭に置いといてください。
<ビタミンK2>
 ビタミンK2はオステオカルシンを活性化するという重要な働きがあり、これが抑えられるとなれば、糖尿病の発症などが危惧される。
<オステオカルシン>
 骨の非コラーゲンタンパク質で、ホルモン様作用を持ち、インスリンの分泌を促進するなど多様な作用を有する。また、ビタミンK2依存反応によりカルシウムやリン酸を保持できる(Hashimoto Y;El Asmar,2014)ことにより、大動脈や腎臓での石灰化を抑えている。
<ビタミンD3>
 ビタミンD3不足は骨粗鬆症を引き起こすが、ビタミンD3は全身の臓器で必要とされる重要なもので、不足すれば様々な生活習慣病を引き起こす元にもなる。なお、ビタミンD3はオステオカルシンの遺伝子発現を調節し、ビタミンK2と相加的に働く。

 それでは、まず、植物油の水素添加の過程で副生したジヒドロビタミンK1の毒性等に関する研究報告の主だったものを紹介しましょう。(所々抜粋しての引用)

 植物油の水素添加の過程で副生したジヒドロビタミンK1が、ビタミンK2-オステオカルシン・リンクを阻害して糖尿病を発生させる、というメカニズムを明らかにしている(Okuyama H,2016)。水素添加植物油の影響(害)はトランス脂肪酸そのものの影響ではなく、上記リンクの阻害物質が原因である。

 脳卒中易発症性ラット(オス)を使った、水素添加大豆油、マーガリン(主成分が水素添加植物油脂)、ラード、バターほかの油脂を食餌した場合の生存期間比較で、図のとおり大きな差が生ずる。これは植物油の水素添加の過程で副生したジヒドロビタミンK1の毒性によると考えられる。

             

 オステオカルシンは骨ホルモンであり、血液中に放出されて脳をはじめ多くの組織に取り込まれ、その機能維持に必要な役割を担っている。ジヒドロビタミンK1はこの過程を傷害し、脳・血管病をはじめ種々の疾病を発症させる。すなわち、トランス脂肪酸そのものではなく、ジヒドロビタミンK1が水素添加植物油中の主な有害成分であるといえる。

 最近、骨折が増えているが(年齢未調整)、トランス脂肪酸が直接骨細胞に働いてオステオカルシンなどの発現を抑えているというメカニズム(Hamazaki K,2016)、水素添加植物油に含まれるジヒドロビタミンK1によるビタミンK2-オステオカルシン・リンクの阻害によるメカニズム(Hashimoto T,2014)とが提唱されている。

 トランス脂肪酸(牛由来の天然物、水素添加植物油脂に含まれる工業トランス脂肪酸)の摂取が脳機能に及ぼす影響が幾つか報告されているが、明確な結論は得られていない。一方、工業トランス脂肪酸の場合は、ジヒドロビタミンK1が脳に達し、オステオカルシン類も脳に取り込まれるので、この経路により脳機能に影響を与えうる。

 水素添加大豆油はHMG-CoA還元酵素の遺伝子発現を抑え、ビタミンD3前駆体の供給が抑えられると推測される(Hashimoto Y,2017)。

 このように、水素添加植物油脂はトランス型脂肪酸以外の毒物(副生したジヒドロビタミンK1の毒性等)により「食用に不適である」と日本脂質栄養学会は結論づけています。
 数多くの研究報告をまとめると、ジヒドロビタミンK1等の毒性は下図のとおりとなります。この図には「菜種油など数種の植物油脂に含まれる未知微量因子」を併せて記載されていますが、その詳細については後日、別途、整理して紹介します。
 なお、この図には、同類の「コレステロール降下剤:スタチン」の害、「血栓塞栓症予防の抗凝固剤ワルファリン(商品名ワーファリン)」の害なども併記されています。

 

 さて、知らず知らず口にさせられている水素添加植物油脂の害、これは少なくともビタミンK2を欠乏させることになりますから、自衛手段としてビタミンK2を多く含む食品(下図を参照)を意識して摂取する必要がありましょう。ただし、これでもってジヒドロビタミンK1の毒性から十分に逃れられるものではありません。
(備考)ワルファリンはビタミンK類似構造のクマリン誘導体で、ビタミンKに拮抗し、肝臓においてビタミンKが関与する血液の凝固因子がつくられるのを抑えて血を固まりにくくし、ワルファリンを服用中は、ビタミンKの活性が抑えられた状態にあります。このときにビタミンKを多量に摂るとワルファリンの作用は減弱してしまいますから、ビタミンKを多く含む納豆等は食べるなと指導されます。ワルファリンの副作用はジヒドロビタミンK1毒性と同じですから、これには大きな問題があります。

 


 次に、熱帯油脂(トロピカルオイル=パーム油など)の毒性に関する研究報告等の主だったものは次のとおりです。(所々抜粋しての引用)

 欧米で先行しているように、行政的に水素添加植物油脂の摂取を制限することは極めて重要なことである。しかし、その代替品として熱帯油脂(トロピカルオイル=パーム油など)が盛んに使われだしたが、脳卒中促進・環境ホルモン作用の報告があり、安全性は確立していない。動物実験ではパーム油は発がん促進作用、脳卒中促進作用、寿命短縮作用が報告されている。

 最近になって、パーム油に含まれる3-MCPD(3-モノクロロ-プロパンジオール)の毒性(腎臓、精巣)について国際的(国際連合食糧農業機関FAO、世界保健機関WHO)に議論され、我が国の省庁も参画している。
 そのなかで、2016年、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議において、3-MCPDの耐容1日摂取量に対する現在の摂取量の比は、成人で1.0倍、乳幼児で2.5倍くらいと評価された。乳幼児に高いのは、粉ミルクに3-MCPDを多く含むパーム油などが使われているからである。

 以上のとおり、水素添加植物油脂はトランス型脂肪酸以外の毒物により食用に不適であること、その代替品である熱帯油脂(トロピカルオイル=パーム油など)の安全性は確立していないこと、これを上記参考文献のなかで強く主張されています。

 じゃあ、消費者はどうすればいいのか。小生思うに、つまるところは油脂全般を極力控える、つまり戦前の食生活に戻すしかないようです。そうしたことを先日、別記事(当店新聞:下記)で書きましたので、ご覧になってください。
 そして、赤ちゃんには熱帯油脂を与えたくないですから、母乳で極力長く育てるしかなさそうです。なかなか難しいことですが。

 やっぱり「油断」しなきゃ(三宅薬品・生涯現役新聞N0.298)

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関連記事(油脂一般についての過去記事)
 油まみれの食生活、「油」断しませんか。戦前の19倍も油脂類を使っていますよ。
 マグロのトロ&霜降り牛肉、どちらも戦前はただ同然に安かったのに、なぜ高級食品に?

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ヒトも野菜も本来の栄養を取っていない、この事実に驚愕!

2017年07月24日 | 正しい栄養学

ヒトも野菜も本来の栄養を取っていない、この事実に驚愕!

 薬屋半分、百姓半分、つまり半商半農生活の小生です。かっこ付けて言えば、“ファーマー・ファーマシー”(順番は逆ですが)の二足のわらじをエンジョイしています。別立てブログ「ファーマー・ファーマシーの日記」では百姓仕事がメインとなっていますが、気軽に日々の仕事なり自分が患った疾患を綴っていますし、このブログでも「24節気の健康と食養」では毎回うちの自家栽培野菜などの状況を紹介したりしています。
 ファーマー・ファーマシー生活というものは、人の健康を考え、美味しい野菜作りを考え、それでもって食っていけるということになりますから、こんな有り難い仕事はありません。
 こうした恵まれた生活をさせていただけることに日々“感謝、感謝、感謝”です。

 さて、人の健康を様々な面から考えてたどり着いた、理想的な食生活とは、実にとんでもない食事内容になってしまいました。“まさか、こんな食事が…?”と、なかなか腑に落ちなかったです。それはどんなものかと言いますと、2014.1.13投稿の次の記事で書きました完全生菜食で「葉菜類・根菜類だけで、豆・芋・穀類さえ食べない」というものです。
 
生菜食の是非について考える。完全生菜食で信じられない健康体に!
 これは、小生としては、人類進化の歴史を研究するなかから、論理的な面からは納得のいくものでして、それはゴリラの食とほぼ同じものです。
 牛は前胃で細菌の働きにより草を発酵(前胃発酵)してもらっているのですが、ゴリラは馬と同様に大腸で細菌の働きにより草を発酵(後腸発酵)してもらい、たんぱく質を合成するための各種アミノ酸やエネルギー源とするための短鎖脂肪酸を得ています。
 ゴリラはオスが200kg、メスも100kg超の巨体で、腸が大きく、盲腸が発達していますから、盲腸の中で草を発酵させることができるのですが、これは、ゴリラが、ヒトそしてチンパンジーとの共通の祖先から分かれた後に獲得していった形質と思われます。
 一方のヒトそしてチンパンジーの共通の祖先は、主として果物食を通したようで、体型は大きくならず、現生のチンパンジーと同程度の体型であったと思われます。その後、ヒトとチンパンジーは分かれ、ヒトはチンパンジーより若干大きくなった
のですが、これは大腸の発達によるものです。なお、現生のチンパンジーは雨季と乾季がはっきりした地域に住んでいることが多く、乾季には硬い豆を代替食とすることが多いです。
 では、ヒトはチンパンジーと分かれた後、どんな環境でどんな生活をしていたかとなると、まだこれは謎ですが、ヒトが直立二足歩行する裸のサルとなったことからして、エレイン・モーガン女史の「人類水生進化説」が正しいと思われ、その食性については女史と見解を異にしますが、小生はヒトの祖先は「水生環境で草を食べていた」と考えています。
 その詳細については、別立てブログ『永築當果の「男と女の不思議」』のなかで、「人類水生進化説」及び「人類の誕生と犬歯の退化」で語っていますので、お時間がありましたらお読みになってください。
 なお、ヒトはその後、半陸生生活を余儀なくされ、陸において見出した芋を代替食とするようになり、デンプン消化酵素をより多く出せるようになったと考えられます。そして、1万年前からは人口増加により新たな代替食糧を必要とし、穀類を食べるようになったと考えられます。また、それより前から植物が貧相な地域にあっては動物性食品を代替食として取り入れていったのも間違いないことでしょう。
 こうして現生人類は、だんだん後腸発酵に頼ることがなくなって、必要な三大栄養素(炭水化物、脂肪、たんぱく質)をダイレクトに摂取するように変化していったと思われます。
 しかし、代替食はあくまで代替であって本来のものではないですから、体に無理が掛かり、それに慣れ切るには100万年単位の年月が必要となりましょう。
 そうしたことから、難病患者の体質改善には、体に無理の掛からないヒト本来の食性に適合した完全生菜食が最適なものとなっていると考えられるのです。
 三大栄養素(炭水化物、脂肪、たんぱく質)の摂取で、どんな無理が掛かるかと言いますと、膨大な量の消化酵素を必要とし、また、消化し切るのにかなりのエネルギー量を必要とするからです。
 ヒトのエネルギー消費は、通常、基礎代謝:約60~70%、生活活動代謝:約20~30%、食事誘発性熱産生:約10%とされています。
 このなかで、食事誘発性熱産生とは、三大栄養素が消化されたときに発生する分解熱のことで、食後に体が温まるのはこのせいですが、これをヒトのエネルギー消費とすることには違和感を感じます。もっとも、ヒトは体温維持のために体内熱を作り出さねばなりませんから、食事誘発性熱産生でもってこれを充てるということになりましょうが、これは後から申しますが、完全生菜食にすると後腸発酵による熱産生が伴いますから、恒常的に体温維持に大きく貢献し、摂取カロリーを大きく減ずることが可能になり
ます。
 それはそれとして、注目すべきは基礎代謝(生命活動をする上において必要最小限のエネルギー)であり、その割合は次のようだと言われています。<
骨格筋:22%、脂肪組織:4%、肝臓:21%、脳:20%、心臓:9%、腎臓:8%、その他:16%>
 このなかで、三大栄養素の消化・分解・再合成に必要とする代謝(エネルギー消費)は、肝臓とその他(胃、膵臓、小腸その他臓器)における過半を占めるでしょうから、少なく見積もっても30%にはなりましょう。
 つまり、ヒトの現代の食事(ほとんどが代替食で占める)では、消化酵素産生をはじめとする食物代謝のためにかなりの労力を強いられている、ということになるのです。

 一方、ヒトの本来の食性である完全生菜食(葉菜類・根菜類だけ)にあっては、食物代謝に要するエネルギー消費は、噛むことと胃の蠕動だけでほとんど済んでしまいます。
 完全生菜食には三大栄養素はほぼ皆無の状態で、食物繊維の塊と言っていいでしょう。よって、消化酵素の出番はないのです。
 完全生菜食に慣れきった体になれば、腸内細菌がそれに適したものに変わり、生まれ変わった腸内細菌叢(腸内フローラ)が発酵を始めてくれるのです。そして、各種アミノ酸や生活活動代謝に必要なエネルギー源となる短鎖脂肪酸(ブドウ糖と同質)を彼らが作り出してくれるのです。出来上がった栄養素は、皆さんよく聞いたことがお有りの黒酢とどれだけも違わないものです。これら栄養素は、大腸壁から体内への水分吸収と一緒に流れ込んでくれ、これらはダイレクトに体細胞内で利用できますから、実に合理的です。
 こうしたことから、完全生菜食の場合はカロリー計算が全く無意味なものとなるのですし、消化器官はまれに口から入ってくる少量のでんぷん質や植物性たんぱく質のほんのわずかな消化活動をするだけで、開店休業状態となってしまいます。
 もっとも、葉菜類・根菜類を口で咀嚼するだけでは食物繊維がどれだけも細密にはならず、腸内細菌も発酵させるのに苦労するでしょうが、現代においては、ミキサーで泥状態に細密化できますから、腸内発酵もスムーズに進むというものです。

 こうした食生活は、難病を患った方の治療や完治後の健康維持のための食であって、一般人にはとても真似できません。現代の飽食時代にあっては、美食の誘惑に食欲煩悩が勝てるわけないですからね。加えて、強固な意志でもって完全生菜食に慣れきった体に体質変換を果たしたとしても、その後に宴席などの付き合いで美食を取ると、消化器官はビックリして消化不良を起こしますし、腸内細菌叢に大打撃を与えて以後の発酵が著しく滞る危険性も生ずるようです。

 このようにヒト本来の食性と現代人の食生活にはあまりにも大きな隔たりがあり、面食らうことが多いのですが、難病が完全生菜食による後腸発酵でもって治癒する例が非常に多いことを鑑みるに、現生人類が今日の食を取り始めたのは、ごくごく最近ではなかろうかと思われます。
 なお、ヒトは霊長類の一員で、霊長類には後腸発酵に止まらず前胃発酵の能力まで獲得した種も多く存在します。また、現代人が通常食を取る場合においても、野菜中心で肉や魚が少量であれば、けっこう後腸発酵してくれもするようです。少なくともミネラル吸収においては、後腸発酵が少しでもあれば吸収効率はアップし、戦前の1日400mgのカルシウム摂取であっても全然カルシウム不足が生じなかったのは、これによるところが大きいのではないかと思われます。

 ヒトは、摂取した栄養素でもって生命維持活動をしようとせずとも、必要な栄養素はヒトと共生する腸内細菌が作り出してくれ、完全生菜食にして腸内細菌に全面的に頼れば、それでもって必要な栄養が全部得られ、たっぷり体内熱産生してくれますし、日々の活動が十分にできるということをご理解いただきたいと思います。

 さて、ここからはガラリと話を変えます。
 表題のとおり、我々が食べている野菜も本来の栄養を取っていないというものです。
 植物の三大栄養素は「窒素、リン酸、カリ」と言います。窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)です。この三大栄養素をバランスよく肥料として野菜に与えてやると、野菜は良く育ち、美味しい野菜が採れるとされています。手っ取り早い施肥は化成肥料で「8・8・8」とか「12・8・8」と表示されていますが、これはN・P・Kの比率です。これ以外に、苦土石灰(マグネシウムとカルシウム)が補助的に使われます。
 化学肥料だけでは美味しい野菜ができないからと、最近はこだわりの有機肥料を使うケースも多くなってきていて、うちの畑も苦土石灰は使いますが化成肥料なしで、専ら有機肥料を多用しています。でも、有機肥料も主成分は三大栄養素のN・P・Kで、野菜は有機肥料に含まれるN・P・Kをダイレクトに吸収し、育っているのです。

 ところが、化成肥料も有機肥料も何も投入しなくても植物はスクスクと育つのです。
 耕作放棄された田畑では雑草がびっしりと繁茂し、皆、いきいき元気です。自然林では樹木がスクスク育ち、大木に生長します。
 だったら、野菜や果樹とて同じでしょう、というものです。
 世界で初めて無農薬・無施肥でリンゴ栽培に成功された青森のリンゴ農家の方(木村秋則さん)が有名ですが、適正な自然栽培条件を整えてやれば、無農薬・無施肥で、より美味しいリンゴが採れるのです。
 これは何も珍しいことではなく、うちにも有りますが農家の庭先には柿の木が必ず1本はあり、無農薬・無施肥の放任栽培であっても、いやそうすることによって、毎年美味しい柿を生らせてくれるのです。
 果樹であれば周りの土を耕すこともないですし、雑草が生えたって果樹が負けることはないですから、こうした自然栽培がけっこう可能となります。
 そうした果樹に、もっと多く実を付けないか、もっと甘味が出ないかと、下手に肥料を与えたりすると、逆に果樹が弱ってしまい、実を付けなかったり、枯れたりします。
 小生はミカンとブルーベリーで痛い経験をしました。有機肥料の過剰投入によって、ミカンは枯れそうになって実を付けず、ブルーベリーはここ2年全く実を付けてくれません。
 よって、今年から再び無農薬・無施肥の放任栽培に戻すこととした次第です。
 もっとも、甘夏は有機肥料の積極投入によって酸っぱさが減じて甘味を増しましたから、一筋縄ではいかないのが果樹栽培だと、ますます分からなくもなります。
 さて、問題は野菜です。
 野菜となると、ヒトが農業を始めて以来、無施肥では収穫量がだんだん落ちてしまい、有機肥料を多用するのが当然のこととなり、近代になって使いやすく鋭利に利き、安価な化学肥料にとって代わったのです。それに伴って野菜がますます虚弱となり、農薬が必須となりました。でも、近年になって、化学肥料の使いすぎは土壌を著しく劣化させることから、有機肥料への揺り戻しが一部で始まったのは皆さんご存知のとおりです。
 しかし、野菜作りにおいて果樹のように無農薬・無施肥の放任栽培への取り組みは、ごく一部で実施されているも、おいそれとは成功するものではなく、試行錯誤しながらやっと成功する人が少しずつ出始めたといったところのようです。
 そういう小生も、試行錯誤している一人なのですが、なかなかうまく行かず、今年から新たな手法での再挑戦を試みることにしているといった状態です。

 自然栽培の方法は幾人もの方が提唱されていますが、無農薬・無施肥・放任を基本とするも、放任のありように若干の違いがあり、手法も様々なものとなります。
 そのなかで、論理性があり、成功例が多いのが「炭素循環農法」のようです。
(これは2001年にブラジル在住の林幸美氏がホームページ「百姓モドキの有機農法講座」で公開され、頻繁に補追、訂正が行われています。これには先駆者がおられ、同じくブラジル在住の「Sr.アヒル殺し」(日本人?日系人?)で、その方の実践や理論を引き継いでおられるようです。)
 そのポイントとなる事項について、小生の私見をまじえて、別立てブログ「ファーマー・ファーマシーの日記」で、「たんじゅん農」=炭素循環農法を理解するにあたって思ったこと(土づくりその2)と題して記事にしましたが、その要点は次のとおりです。

 炭素循環農法に入る前に、「土」の性状について広く知られている今までの知見で大いに参考になる事例をあげておこう。まず誰でも知っている森林限界という言葉。
 富士山や北アルプスの山岳地帯では概ね2500mで植物は生えなくなる。気温が低くなるから木が生えないというのではない。糸状菌(カビや茸)、これは通常の土壌微生物の中で最も多いものであるが、糸状菌は高山では繁殖できず、糸状菌が全くいないから木は生育できないのであり、樹木は糸状菌との共生なくして生きていけないのである。
 糸状菌の種類は非常に多く、菌から伸びた糸が複雑に植物の根と絡み合って糸状菌が作り出した様々な物質が植物の根に供給され、植物は生育できるのである。
 ところが、人は、植物を育てるために土壌に手を加える。苦土石灰や化成肥料などの化学肥料に止まらず有機肥料(本来は土壌中で枯れた植物を糸状菌が分解すべきもの)を投与して、それを植物に直接吸収させるのだから、糸状菌の出番はなくなる。糸状菌が働こうとしても、これらの肥料が糸状菌の成育を妨げ殺すことになるから、慣行農法が行われている土壌の糸状菌叢は本来の姿とは全く異なった貧弱なものに変わってしまっているのである。
 よって、植物を病害虫被害なしで元気よく育てようとする場合、土壌を本来あるべき姿の糸状菌叢にもっていくために何かの臨時措置を施し、それが成功したら、一切の肥料なし(ただし枯草などが必要)で素晴らしい野菜が採れるようになるというものである。
 このように、土づくりは、土壌の糸状菌叢を正常化させるのが第一に重要な方策として考えねばならぬ事項となる。
 しかし、土壌は糸状菌叢だけで出来上がっているものではないから、ややこしくなる。
 土壌中で有機物や無機物の分解合成を行う生物は、大きく分けて3つのドメインに分類され、菌類(糸状菌など)・細菌・古細菌(好熱菌、好塩菌、メタン菌など)である。
 これら3つのドメイン間でも共生関係が生まれ、糸状菌叢の正常化だけでは本来あるべき姿の土壌とはならず、細菌叢、古細菌叢が整い、かつ3つのドメイン間の個々の微生物種のバランスも整わねばならないのである。
 こうなると、理想的な土づくりをするのが至難の技となってしまうが、何もかも人の手でバランスを取らせたり、正常な叢づくりに手を出したりしなくても、一定の条件を与えてやれば、その後は彼らが思いのままに働いてくれ、うまくバランスを取り、正常な叢に近づけてくれようというものである。(要約引用ここまで)
 ここから先は、いまだ勉強中で、ブログ記事にできていませんが、大雑把なつかみとして次のことが言えます。
 土壌中の微生物群が求めているのは高炭素資材であり、「C/N比の高いもの」を投入することによって微生物群を正常化できる。慣行農法で窒素肥料(有機肥料であっても窒素分は多い)を投入してあると、ほとんど全部の微生物群は窒素分を嫌うから、貧相な微生物群となっており、また、そのバランスも悪い。過剰な窒素分が抜けるまでは微生物群が正常化せず、自然栽培に適した土壌とはならない。

 いかがでしょうか。
 施肥栽培による野菜はダイレクトに栄養を吸収させるものであって、これはヒトの三大栄養素と同質のものとなります。
 一方、自然栽培は土壌中の微生物群が求めている高炭素資材を微生物群のために投与してやるというもので、これはヒトの場合、腸内細菌が必要とする食物繊維の摂取ということになり、高炭素資材と食物繊維が同質のものとなります。
 そして、自然栽培に適した微生物群が土壌中に十分存在するようになったら、彼らが野菜に必要な各種栄養素を野菜に供給してくれるというもので、これはヒトの場合、後腸発酵に適する腸内細菌叢(腸内フローラ)が出来上がれば、発酵を始めてくれ、ヒトに必要な各種栄養素をヒトに供給してくれるというもので、ともに共生する微生物群が多大な貢献をしてくれることになるのです。

 これには驚かされます。ヒトも野菜も自ら栄養を取らなくても、共生する微生物群がちゃんと栄養を宿主に供給してくれるのですからね。
 そして、ヒトが三大栄養素(炭水化物、脂肪、たんぱく質)を取ることの無意味さと、野菜に三大栄養素「窒素、リン酸、カリ」を与える無意味さが、これまた同質のものであること。特に、ヒトが取るたんぱく質は窒素化合物であり、これの過剰摂取は単にエネルギー源として燃やされるだけであり、それによって生じた窒素酸化物は体中の細胞に炎症を起こさせてヒトの体を蝕むのです。一方、植物に窒素肥料を与えると、どうしても過剰となり、硝酸態窒素が植物に残留して植物の免疫力が落ち、農薬をかけないと病害虫を駆除できなくなるのです。こうしてヒトも野菜も窒素化合物は毒になるというのも一緒です。

 現代人の食生活と今日の野菜栽培は共通点があまりにも多く、表題を「ヒトも野菜も本来の栄養を取っていない、この事実に驚愕!」としましたが、本来のヒトの食性と野菜の自然栽培も、全く同様に共通点があまりにも多いです。
 そして、これ以外にも共通点があります。ヒトが現代の食生活をすることによって「早熟し、見た目の格好良さ=背が高くなる」が得られます。野菜に肥料を与えると「早く大きくなり、見た目の格好良さ=色が濃い」となり商品価値が高くなります。しかし、ヒトは虚弱になりますし、野菜は不味くなりますし早く腐ります。
 なお、自然栽培の野菜は若干生育が遅くなり、色は薄く、妙にアクっぽい(場合によっては、これが美味いと感ずる)ということは全くなく、自然の味がして、なかには最初は物足りないと感ずる人もいらっしゃるようですが、食べ続ければ誰もが“こんな美味しいものはない”と、はまってしまうようです。
 草むらで草を食む牛は、色の濃い草を避け、色の薄い草しか食べないと言います。なぜならば、色の濃い草は糞尿がかかった草で肥料を吸って育ったからです。牛は、そうした草は、不味いと思うのか毒があると思うのか、そのいずれか、あるいは両方でもって、“自然に育った草”を求めるのです。

 小生は、今さら完全生菜食に切り替えようとは全然考えませんが、野菜づくりにおいては何とかして自然栽培を成功させ、草むらの牛になりたいと願っています。
 というようなわけで、小生のこれからの人生は、半商半農から半農半商とウエイトの掛け方を農業重視に少し移して、文字どおりのファーマー・ファーマシー生活をエンジョイしたいと考えています。

 今回も随分と長文になってしまいましたが、最後までお付き合いいただきました読者の皆様に深く感謝申し上げます。

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新谷食事健康法のすすめ

2017年03月14日 | 正しい栄養学

新谷食事健康法のすすめ

 新谷弘実という著名な医師(内視鏡外科の先駆者であり、世界一の臨床例をお持ちの名医)がいらっしゃいます。このブログでも氏の著「病気にならない生き方」を紹介したところです。そして、そのブログ記事「ヨーグルトは体にいいのか悪いのか、その答えは明らかです」のなかで新谷食事健康法を折を見て紹介することとしました。
 その後、同著を元にして相次いで何本かのブログ記事を書き、ところどころで新谷食事健康法を部分的に紹介させていただいたところです。
 あれから約2年経ち、遅ればせながら2、3か月前に新谷食事健康法の全てが書かれた「新谷式病気にならない食べ方の習慣」(2012年2月発行)を購入し、早速紹介しようと思ったのですが、なんやかやで遅れ遅れになってしまいました。
 やっと、本日、何とか紹介できる状態になりましたが、まずは、過去記事で氏の著「病気にならない生き方」から部分的に取り上げた引用文を列記することとします。

ダイエットに王道なしと申しますが、しかし王道あり。でも…
 余分な体重を落としたければ、まずエンザイム(酵素)の多く含まれている食物 [ 引用者の注:新鮮な生の食材 ] を食べることが大切…です。
 本当にエンザイムがたくさん含まれているものだけを食べていれば、体というのは自然に、その人にとってもっとも適した体重になってくるようにできています。酸化した食物 [ 引用者の注:新鮮でない食物と概ね同義 ] 、加工してエンザイムの失われた食物を食べているから太ってしまうのです。
 別の言い方をすれば、太っている人が感じている「飢餓感」は、体が本当に必要なビタミンやミネラルなどの栄養やエンザイムを含まない食物ばかりをとっていることからうまれているのです。太っている人はおなかがすいているから食べるのではなく、ビタミンやミネラルといった微量栄養素やエンザイムを求めるからだの飢餓感にせきたてられて食べているのです。この飢餓感は、よい食物をとることによってしか打ち消すことはできません。逆に、食事内容をエンザイムの豊富な食物に切り替えるだけで、この飢餓感はウソのように消えていきます。
 エンザイムが足りていても、微量栄養素が不足しているために飢餓感を感じている人もいます。微量栄養素というのはおもにビタミンやミネラルですが、これらは「コエンザイム(補酵素)」といって、エンザイムが体内で充分に働くために必要不可欠な物質なのです。…こうしたコエンザイムの必要量は、じつはそれほど多くはありません。昔なら、バランスのよい食事をしていれば、それだけで充分に摂取することができました。しかし最近は、野菜や果物に含まれる微量栄養素の量が減ってきています。もしバランスを考えた食事に切り替えても飢餓感がなくならないときは、サプリメントなどで微量栄養素を補ってみてください。

健康には何よりも美肌の腸壁づくり
 私が提唱している食事法では、基本的には、エンザイムを多く含む食物をよい食物、エンザイムが少ない、またはなくなってしまっている食物を悪い食物と考えます。
 よい胃相・腸相 [ 引用者の注:内視鏡で見たとき綺麗な粘膜 ] の人たちに共通していたのは、エンザイムをたくさん含むフレッシュな食物を多くとっていたことでした。そしてこのことは、…腸内細菌が活発に働くような腸内環境をつくるのにも役立っていました。
 一方、胃相・腸相の悪い人たちに共通していたのは、エンザイムを消耗する生活習慣でした。お酒やたばこの常用、大食、食品添加物を含んだ食事、ストレスの多い生活習慣、医薬品の使用、これらはすべてエンザイムを消費する行為です。…
 このことからわかるのは、健康を維持するためには、体内のエンザイムを増やす食生活をするとともに、体内のエンザイムを消耗する生活習慣を改める必要があるということです。そしてこのことこそが、私が提唱する「新谷食事健康法」の根幹となっているものなのです。…
 そのためもっともよいのは、ミネラルをたくさん含んだ肥えた土地で、化学肥料や農薬を使わずに育てられたものを、収穫してすぐに食べるということになります。
 野菜でも果物でも肉でも魚でも、新鮮であれば新鮮であるほどエンザイムの量は多いと思って間違いありません。私たちが新鮮なものを食べたときに「おいしい」と感じるのは、エンザイムがいっぱい詰まっているからなのです。
 しかし人間は、他の動物と違って食材を調理して食べます。煮たり焼いたり、ときには油で揚げたりもします。エンザイムは熱に弱いので、調理すればするほど失われていくことになります。かといって、何もかも「生」で食べることもできません。
…食材の選び方、調理の仕方、そして食べ方というものがとても大切になってくるのです。
…健康によい食事を研究している人のなかには、人間も…(野生の動物のように)…すべて生の状態で食べるべきだという人もいます。
 でも私はそうは思いません。なぜなら、健康に生きるためには人が「幸福」であることがとても大切だからです。食事は人間にとってもっとも大きな喜びをもたらすものです。ムリしてまずいものを食べていたのでは健康にはなれないのです。 
 ですから新谷食事健康法では、自然に学びながらも、楽しみながらそれを続けることが何よりも大切だと考えています。
 新谷食事健康法を実践していただくと、約半年ほどでみごとなまでに胃相・腸相が改善され、ガスや便のいやな臭いも軽減されます。 
 そのためのポイントは、…
・植物食と動物食のバランスは、85(~90)対(10~)15とすること
・全体としては、穀物(雑穀、豆類を含む)を50%、野菜や果物を35~40%、動物食は 10~15%とすること
・全体の50%を占める穀物は、精製していないものを選ぶこと
・動物食は、できるだけ人間よりも体温が低い動物である魚でとるようにすること
・食物はどれも精製していないフレッシュなものを、なるべく自然な形のままとるようにすること
・牛乳・乳製品はできるだけとらないこと(乳糖不耐性やアレルギー体質の人、牛乳・乳製品が嫌いな人は、いっさいとらないようにする)
・マーガリンや揚げ物は避けること
・よくかんで小食を心がけること(一口30~50回)
 自然の摂理と人間の体の仕組みを知って、これらのポイントを守れば、健康に良い食事を楽しみながら続けることはそれほどむずかしいことではありません。…
 …分厚いステーキやチーズやお酒も、たまになら食べても飲んでも大丈夫です。…大切なのは、楽しみながら、正しい食事を長く続けていくことです。

がんは転移するものではなく、仕掛けられた時限爆弾が時間差を置いて爆発するだけ
 ガン患者の食歴を調べていくと、動物食(肉や魚、卵や牛乳など動物性の食物)をたくさんとっていたことがわかりました。しかも、早い年齢で発病している人ほど、早くから動物食(とくに肉、乳製品)を多く、そしてひんぱんにとっていたことがわかったのです。乳ガン、大腸ガン、前立腺ガン、肺ガンなど、発病したガンの種類はさまざまですが、この傾向だけは同じでした。
 私の治療法は、まずガンに侵された部分を切除し、目に見えるガンが一応取り除けたら、あとはその患者さんがガンになった原因と思われるものを排除していきます。まずたばこやアルコールの習慣を断つことはもちろん、肉類、牛乳、乳製品も4、5年は完全にやめてもらいます。そして動物食を少量に抑えた新谷食事健康法を実践していただくとともに、こうしてガンが再発しないように体の免疫力を高めていくのが、私の治療法です。
(引用列記ここまで)

 部分引用をこうして並べてみますと、「生菜食」に多大な効果があるということがうかがいしれます。ところで、「生菜食」健康法とならば、その右に出る者がいない甲田光雄氏がいらっしゃいます。幾多の難病を「生菜食」で治療し、奇跡的に完治させておられる実績を数知れずお持ちです。それを過去記事から紹介しましょう。

生菜食の是非について考える。完全生菜食で信じられない健康体に!
 (様々な難病に対して)
生菜食に劇的な効果があることが経験的に分かったのですが、甲田氏は、その科学的解析に関しては、次のようにおっしゃっておられます。
 …私たちの祖先は…全て生のものをそのまま食べていた…、私たちの体は元来、生のものを消化分解するのに都合のよいように適応してきたのです。…「生の食材」は、体内に入ってからその人の生命力を高めてくれる力を秘めている…。(甲田光雄監修<奇跡が起こる「超少食」>(マキノ出版)より引用)
 なお、甲田氏の幾冊かの著から、氏の知見として、次のことが言えるとのことです。
 完全な生菜食を続けていると、腸内細菌がそれに適した、ヒト本来の腸内細菌にだんだん変わっていくようで、その腸内細菌の働きによって、ヒトの消化酵素では消化できないものが、発酵という別の形でもって有機酸(酢酸、酪酸、吉草酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸=エネルギー源)やアミノ酸に分解生成され、これがヒトの栄養となる。
(引用ここまで)

 いかがでしょうか。ところで、新谷氏は、理論説明(引用は省略)を展開するなかで、仮説とのことわりをされていますが、“食べ物に含まれる酵素がすべて”と言わんばかりの物言いをされています。小生はこれに少々抵抗感を感じています。このことについては、「酵素は誇大広告、でも発酵生成物は体にいい。人に一番やさしい栄養です。」のなかで申したのですが、食べ物に含まれる酵素は胃酸で変性したり、ヒトの消化酵素で分解されたりして働かなくなるものが多いですし、酵素は一般的に複雑な構造のたんぱく質ですから、それがそのままヒトの酵素の代役にはなり得ない性質のものであるからです。加えて、新谷氏は“新鮮であれば新鮮であるほどエンザイムの量は多い”と言っておられますが、生野菜にあっても時間が経つほどに発酵が進んで酵素の量あるいは発酵生成物の量は増える傾向(例えば漬物)にあるのですから、これには疑問符が付きます。
 その点はさておいて、甲田氏は経験論から生の食材には計り知れない力があると言っておられますが、新谷氏も同様に言及されています。小生も全く同感です。ヒトはいつの頃からかは分かりませんがだんだん火食するようになり、多くの有機化合物、特にたんぱく質はほとんどが熱変性を起こして自然界にはない状態のものを多食するようになってしまっています。こんなものばかりを摂取していて、はたして健康でいられるのか、大いに疑問です。現代栄養学で解明されていない何か未知のもの(物質なりエネルギーなり)が熱によって失われてしまうと考えるしかないでしょう。
 いずれにしても新谷食事健康法は「酵素が第1」となっているものの、これは「生菜食」のすすめと真摯に受け止めて、これに従うこととしたいです。

 さて、ここからは新谷氏の著「新谷式病気にならない食べ方の習慣」からポイントを紹介しましょう。(以下、引用)
 私が構築した「4つの栄養グループ」
 …私が構築した新しい栄養学に基づき、自然免疫力(引用者注:ここでは体中の全細胞の個々の免疫力のことをいう)を高めるために必要な栄養素を解説します。…
 まず大前提になるのは、食品に含まれる栄養素を、次の4つのグループに分けて理解するということです。(引用者注:この順番で重要となる)
Aグループ……水、酵素
Bグループ……ミネラル、ビタミン
Cグループ……ファイトケミカル、食物繊維
Dグループ……糖質、たんぱく質、脂質
 このなかで積極的に栄養補給したいのが、A~Cグループです。
 …これらの栄養素を過不足なく含んでいるのが、植物性の食品なのです。
 野菜や果物を日ごろからたっぷりとることは、一般的にもすすめられていることですが、植物に宿っている生命そのものをとり入れているのだということに、私たちはもっと気づく必要があります。
(以下、各グループごとの解説 ただし、酵素、ビタミン、ファイトケミカルの記述は省略)
・水 よい水が体内で循環すれば、細胞内の汚れた体液もとりかえられるため、自然免疫力も高まっていきます。…こうした排出の問題を改善するためにも、よい水をきちんと補うことが必要です。
①よい水を1日あたり1~1.5リットルほど飲む。
②水以外の水分(清涼飲料など)は極力とらない。
③氷の入った冷水はとらず、20度前後のやや冷たい水を補給する。
④還元作用の高い水をとる。
・ミネラル 体がだるい、疲れが抜けない、意欲がわかない、すぐ風邪をひく。こうした体調不良には、ミネラル不足が深くかかわっています。これが今、深刻な問題となっている、現代人のミネラル不足です。…特定のミネラルだけでなく、どのミネラルも満遍なくとることが重要となります。この条件を満たしているのが、野菜や果物などの植物性食品です。
・食物繊維 腸内クリーニングにかかせない栄養素…。現代人のほとんどは…潜在的な便秘患者にほかなりません。それがいかに、自然免疫力の低下を招いているか、しっかり自覚する必要があります。…カギを握っているのが、玄米や未精製の穀類であり、これらと相性のいい豆類です。主食を白米から玄米にチェンジし、おかずに豆類をとると、山盛りのサラダや根菜をたっぷり食べるよりも、お通じの状態は格段によくなります。
・Dグループ たんぱく質は肉より魚、魚より豆でとる…動物性食品の摂取を少しずつ減らしていくのが賢明です。必要な油は、脂肪分を含有した食べ物を自然の形のままとる(ナッツや植物の種などをそのまま丸ごと食べる)ことで、必要な量を摂取することが可能です。…カロリーなんて考える必要はないのです。…カロリーを考える前に、それが腸をたすけ、自然免疫力を高める食品なのか、妨げてしまう食品なのかを考える発想を持たなければいけません。(引用ここまで)

 本書は、64の習慣からなり、6章に区分され、ここでは紹介しませんでしたが、朝食抜きのミニ断食や腸内デトックスなどについても書かれています。また、最後の章では運動や呼吸法など食事以外の健康法が紹介されています。全体的には、甲田氏(故人)がすすめておられた西式健康法と相通ずるところが多々あります。
 随分とイチャモンをつけてしまった新谷食事健康法ですが、本書のなかで18ページ(6つの習慣)にわたって正しい水の飲み方、取り方が解説されており、改めて水の重要性を思い知らされたところです。またまた水についても、このブログで紹介せねばならなくなりましたが、水というものはあまりに不可思議で奥が深すぎるものですから、なかなかまとまらず、起稿するのは随分と先になりそうです。

 今回も随分と長文の、とりとめないものとなってしまい、分かりにくくなったかと思いますが、お許しください。

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粗製塩と精製塩そして塩事業センターの“精製塩”に含まれる塩基性炭酸マグネシウム

2017年02月16日 | 正しい栄養学

粗製塩と精製塩そして塩事業センターの“精製塩”に含まれる塩基性炭酸マグネシウム

 2012年8月14日に投稿した 粗製塩が良いのか?「にがり」の功罪を考える。精製塩で良いし、にがりを意識的に摂るのは問題。に昨日付けで表記を内容とする長文の補記をつけました。
 投稿を終えて、改めて補記だけ読んでみますと、これはこれだけでも読者にそれなりに情報提供ができると思え、補記だけを別途投稿することとしました。
 皆様の参考になれば幸いです。

2017.2.15補記)
 最近、食塩について気になる表記をよく見かけますので、それを整理してみましょう。
 
まず、「食塩」の定義ですが、化学においても塩化ナトリウム(NaCl)を食塩と言うことがあり、純度100%の塩化ナトリウムを指すことがあります。
 そして、その昔は「日本専売公社」が独占的に食用塩を製造販売しており、今は「塩事業センター」となりましたが、圧倒的なシェアーを占め、その商品名が“食塩”ですから、これを「食塩」と呼んだり、その純度が99.6%(乾物基準)と高いですから、これを「精製塩」と呼んだりして、他の製造法で作られたものと区別することがあります。
 本稿でも、「粗製塩」と対比させるために、“食塩”を「精製塩」と表記しました。
 ところで、同センターが“食塩”とは違う製法で塩化ナトリウム純度をより高くしたものを作り、これに固結防止剤を添加したものを商品名“精製塩”としていますから、“食塩”と混同する例が多々見られます。申し訳ありませんが、本稿もそのそしりを免れません。
 なお、塩化ナトリウム含有率については、水分を除外した乾物基準で示される場合と、水分を含めた上での表記が混在しており、どちらかと言うと乾物基準で示される場合は少なく、ために、「にがり」の含有率が分かりにくい場合が多いですし、場合によっては「にがり」が多いように見せかけるために水分も含めているケースも見られます。
 例えば、次のような記述です。
 日本では、かつて塩は塩田を用いて作られ、その頃の塩は塩化ナトリウムの含有量が80%を超えるものはわずがしかありませんでした。
 この記述によると、残りの20%が「にがり」と思ってしまいますが、本文(※)中で説明しましたように、うち10数%は水分なのです。
 (※本文:粗製塩の純度(塩化ナトリウム)となると、85%程度に落ちることもあるようです。これは、塩以外のものとして、「にがり」約4%のほかに、付着した海水なり呼び込んだ水(湿り気)が約10%程度含まれることによるものです。)
 
 「食塩」とはなんぞや、ということになると、人の口に供するものですから、食用塩公正取引協議会という業界団体があるように本来なら「食用塩」と言うべきかもしれません。
 しかし、同協議会では公正競争規約
同左ポイント解説で「食用塩」を定義していますが、販売表示名は「塩」または「食塩」としているものの、低ナトリウム塩(塩化カリウム:KClを高配合)を含み、逆に、他の食品が混合された塩(ごましお,抹茶塩,塩こしょうなど)は規約対象の食用塩から除外しているなど、この規程は別目的で定められた特殊なものであって、これを採用することは難しいでしょう。
 他の定義としてはコーデックス規格(国際食品規格)というものがあり、食用塩をNaCl純度(乾物基準、添加物除く)97%以上と定めていますから、これを「食塩」と呼ぶのが一番ふさわしいでしょうが、日本では一般人の認知度が低いようです。
 「NaCl純度(乾物基準、添加物除く)97%以上」ということは、「にがり」が3%未満を意味しています。これでほとんどの食用塩がクリアすることになりましょうが、フランスでは天日塩生産者組合の要請により、NaCl純度(乾物基準、添加物除く)94%以上とされているようです。つまり、フランスでは「にがり」が6%未満なら食用塩としてよいというものです。日本ではどうかというと、
その実態は小生にも分かりかねます。
 なお、コーデックス規格では、含有有害重金属の濃度規制や固結防止剤などの添加規準を定めています。

 近年になって、塩の専売制度が廃止され、民間企業も塩の製造販売ができるようになりました。そこで、登場したのが、「自然塩」「自然海塩」「天然塩」といった名称です。
 これらの名称は誤解を招きやすいことなどから、2008年4月に食用塩公正取引協議会が公正競争規約を策定し、使ってはならないこととしました。そして、海塩、岩塩、湖塩、天日塩、焼塩、藻塩、フレーク塩という名称について、一定の要件を満たした場合に表示できるとしたものです。
 本稿においても、「自然塩」「天然塩」という名称を使ってしまい、
申し訳ありませんでした。この補記を契機に「粗製塩」という言葉に訂正することにしました。

 さて、食塩に関して大きな間違いに出くわすこともたびたびです。
 それは、塩事業センターが製造している商品名“精製塩”やそれと同質の“食卓塩”に添加されている固結防止剤「塩基性炭酸マグネシウム(mMgCO3・Mg(OH)2・nH2O)」についてです。以下、間違いを2つ取り上げます。
*これを摂取すると乳酸菌が正常に活動できなくなる可能性があります。
 これには驚きました。難溶性の塩基性炭酸マグネシウムですが、摂取すれば胃酸によって溶け、Mgはイオン化され、CO3はCO2ガスになります。十二指腸に入ってアルカリ環境にさらされても、元の姿に戻ることはないのです。
*これの存在で乳酸菌がうまく働くことが出来ず、美味しい漬物ができない。
 これについては、乳酸菌発酵で塩基性炭酸マグネシウムが使用された例が今までになく、理論的推測からすると次のようになります。
 漬物は乳酸菌発酵で酸性側に傾いて、より発酵するだろうから、そのとき塩基性炭酸マグネシウムが存在するとアルカリ側に引っ張るから酸性度が弱まり、発酵にブレーキがかかると考えられる。
 しかし、これは実験してみないことには分かりません。
 現実にそれをやってみて、なんと逆の結果が得られたことによって特許をとった例があります。それを紹介しましょう。
 (2004.2.26 わかもと製薬 公開特許広報 抜粋)
 乳酸菌の培養において…高菌数を得るため…添加物として…炭酸マグネシウム…を含む培養液中で培養することで、高菌数の乳酸菌を得る方法。
 炭酸マグネシウムは、乳酸菌の液体培養地成分として使用した例が全く報告されていない。この理由は、炭酸マグネシウムを液体培養地に少しでも添加すると、培地pHが乳酸菌の通常増殖培地pH7~6よりも容易にアルカリ化し…菌の増殖阻害が見込まれる為と考えられる。
 本発明は、乳酸菌数の増大化液体培養方法を提供する目的で古くから用いられてきたペプトン、グルコース、酵母エキスなどの培地成分…に加え、無機塩の最適化を図る目的で炭酸カルシウムに着目し、鋭意検討してきた。そして、炭酸カルシウムに上回る効果を発揮する物質として炭酸マグネシウムを見出し、本発明を完成するに至った。
 炭酸マグネシウム…を単独で添加する場合は1重量%以上…で効果が出る。炭酸マグネシウムの本質は、含水塩基性炭酸マグネシウムまたは含水正炭酸マグネシウムであり、…その分子式は(
MgCO3)4・Mg(OH)2・5H2Oである。
 乳酸菌の液体培養系において培地に分泌された乳酸により培地pHが低下するなどの理由で乳酸菌の成育が抑制され易いことに着目し、…乳酸産生を抑制する要因(引用者注:静止状態ではなく震動する)も加えて培養する…。この方法を創案することによって、現実に高菌数化出来た…(引用ここまで)
 この特許では、塩基性炭酸マグネシウムを培地に対し1重量%以上加えているのですが、塩事業センターの“精製塩”には塩基性炭酸マグネシウムが0.28%しか含まれておらず、漬物全体では無視できるほどの量となって、漬物の乳酸発酵にとって毒にも薬にもならないということができましょう。

 本文、補記を含めて、随分と長文になりましたが、最後までお付き合いいただき、有り難うございました。
 たかが塩、されど塩、です。塩は奥深いものがあります。健康面でも注目される塩ですが、粗製塩と精製塩に対する捉え方は両極端なものがあったりし、惑わされます。
 どちらが正しいか、本稿がその判断材料になれば幸いです。

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減塩ではなく、1か月に1日「塩断ち」して「塩持ちの良い体質」に改善

2014年01月20日 | 正しい栄養学

減塩ではなく、1か月に1日「塩断ち」して「塩持ちの良い体質」に改善
 (最新追記 2020.1.27)

 2012.8.17付けで「 減塩は大間違い!塩味を楽しんでイキイキ元気! 」と題して、食塩摂取のすすめを若杉友子さんの著を元にして書きました。
 その中で、食塩を1日に30gも摂って良いような記述があったり、毎日十二分に食塩を摂るべしと受け留められる内容になっていたりして、これを読まれた方は、塩分をかなり過剰に摂取しても問題がないと受け留められたかもしれません。記事の中で、過剰摂取の戒めは、せいぜい次の件(くだり)があるだけですからね。
  自分でおいしいという適塩にして食べることなんですよ。
  塩気は取りすぎても足らなくてもだめなんですよ。
  「塩梅(あんばい)」という言葉があるように、その人に合う「適塩」があります。

 なにしろ、この世は減塩一色で、そうしたことから無理して減塩し、体調を崩しておられる方がけっこう多いです。これは、胃がんや高血圧との関係が深いと取り沙汰されているからですが、これも間違いで、冒頭の投稿記事の直ぐ前に連続して記事にしました。
 また、漢方では、塩は腎(腎臓・副腎・生殖器)を養うとし、基本的には減塩をすすめてはいません。むしろ、冬期は体を温めるためにも塩の積極的な摂取をすすめています。もっとも、夏は過剰摂取に気を付けよ、となっていますし、海縁の地域では年間を通じて過剰摂取気味になるから注意せよ、とはなっていますが。
 こうしたことから、塩に様々な効能があることを知っていただくために、食塩摂取推進派の紹介が必要であろうと思い、記事にしたところです。
 ところで、<その人に合う「適塩」があります>という件について、著には何も書かれていませんでしたから、「適塩」とはどの程度のものなのか、これが気になっていました。
 あれから1年半近くが経った、つい最近のことですが、このことに関して新たな知見を得ましたので、遅ればせながらそれを説明させていただきたいと思います。
 出所は、故・甲田光雄氏の著「断食療法の科学」(春秋社)と「冷え症は生野菜で治る」(文理書院)でして、甲田氏は、食養の大家・石塚左玄やその流れを汲むマクロビオティックの提唱者・桜沢如一(その流れをくむ若杉友子さん)の理論を、ある面で批判的に捉えておられ、食塩の摂取についても同様です。
 甲田氏の理論は、自らの人体実験をもとに2度にわたる臨床実験や数多くの治験例から生み出されたものですから、信憑性が高いと考えられます。
 以下、その要旨を紹介することにしましょう。

 陰性体質の人が陽性食品(塩)を多く摂って陰陽調和を図るという食事法は、それなりの素晴らしい真価を持っています。事実、これによって治病効果は現れ、また、健康維持の役に立つことは認められますが、しかし、これでは本質的に陰性体質を陽性体質に改造することはできないのです。
 実は、陽性体質の人は塩持ちの良い体質です。少ない食塩でやっていけ、尿や汗からの損失が少ないです。それに対して、陰性体質の人は、量多く食塩を摂取して陽性化を図り、調和を図っているのでしょう。その結果、そうした人は、体から塩がより多く逃げていく、塩持ちの悪い体質になっています。
 例えば、陽性体質の人が1日5gの食塩でやっていけるとします。それに対して、陰性体質の人は1日20gの食塩摂取で調和を図っているとしましょう。陰性体質の人は、これによって、見かけ上は比較的陽性化が図られていますが、体質そのものは決して積極的陽性化ではなくて、むしろ比較的陰性化さえも惹き起こす傾向があります。
 そして、この陰性体質の人が、もう少し陽性化させようと、1日30gの食塩を摂取したとしますと、より多くの塩を逃がさざるを得ず、いっそう塩持ちの悪い体質になってしまいます。つまり、体質はより陰性化してしまうのです。そして、このような過剰な塩分摂取を続けると、寒さをより強く感ずるようになるのです。
 なお、このような急に10gもの食塩過剰摂取を行うと、体内塩分量の高まりから、むくみが出て、それがもとで肩こりや頭重が生じたりします。でも、1週間、10日すると、生体反応により、症状も和らぎ、より多くの塩を逃がす体質に容易に変わってしまいます。
 こうして、食塩は体を温めるからといって意識的に摂っていると、次第に塩持ちの悪い体質になり、味覚がより濃い塩味を求めるようになってしまいます。
 そこで、そうした人は、塩抜きをして塩持ちが良い体質に変換せねばなりません。
 極端な方法は水しか飲まない断食です。生体反応により、塩の再吸収能力が増します。これをしばしば繰り返して行うと、だんだん塩持ちが良い体質に変わってきます。
 なお、10日、2週間といった長期の水しか飲まない断食をすれば、1回で塩の再吸収能力はぐんと高まっており、回復食は努めて薄味にせねばなりません。
 このような断食は、体内塩分の極端な欠乏により、ひどい倦怠感に襲われたり、様々な体調不良をきたしますので、あまりおすすめできません。
 それに代わる方法として、野菜粥を食べる方法があります。米の中に各種野菜や芋類を入れて炊き上げるのですが、醤油や食塩はもとより、砂糖その他の調味料も一切加えてはいけません。食塩が食材にわずかばかり含まれるこの食事を1日だけ取るのです。できれば、朝食を抜いて昼と晩の2回の食事とし、少食にします。
 なお、最初からこうした丸一日の塩断ちに耐えられないようなら、夕食は普通食にするというふうに、徐々に体を慣らしてから、丸一日の塩断ちを行われるといいでしょう。
 そして、丸一日の塩断ちを1か月に1回、できたら3週間に1回行われると、だんだん塩持ちが良い体質に変わっていきます。これによって、体質を陰性から陽性の方向に向かわせることができるのです。
 次に、減塩生活に入り、塩味を我慢しておられる人がみえます。つまり、食塩の摂取不足の状態にある人です。こうした人にも、丸一日の塩断ちは効果的で、さらにだんだん塩持ちが良い体質に変わっていきます。そして、薄味を美味しく感ずるようになります。
 このように、極端な塩断ちを繰り返し行ってやると、生体はそれに対応する力を順々に付けてきて、少量の食塩でもって悠々と生活できるようにもなるのです。
 これは、腎臓病でむくみ気味の人の治療にも効果的で、その場合は1週間に1回の塩断ち日を設定して行うとよいです。

 以上、甲田氏の著からの要約ですが、しかし、今日は大寒、これから10日ほどが一番寒い時期になります。体の芯まで冷え切ってしまうことがあります。
 こうしたときには、やはり、陰性体質(体の芯の冷え)には陽性食品(塩)を多く摂って、陰陽調和を図るという食事法が求められますし、暖かい料理を食べたいものです。
 味噌鍋やすき焼きといった塩分の多い料理は、この時期、おすすめです。
 これによって、一時的に塩持ちの悪い体質へと向かうという欠点はありますが、暖かくなった春以降に味付けを少々薄味にし、かつ、塩断ちを定期的にやれば塩持ちの良い体質へ変換できるというものです。

 ところで、一般的に
外食やスーパーの惣菜は年間を通じて塩分が多い傾向にあります。これは、塩味を利かせて素材の悪さを隠し、さも美味しく感じさせるテクニックです。
 こうしたものに慣れている人は、知らす知らずのうちに食塩の摂取過剰になり、塩持ちの悪い体質になっています。
 皆で同じ食事をして、他の人が塩辛いと言っても、自分はそのように感じないとなると、それは塩持ちの悪い体質で、恒常的な食塩の摂取過剰にあると考えねばなりません。
 そうした人は定期的な塩断ちが必要になりましょう。
 食塩の過剰摂取によって塩持ちの悪い体質になることは、陰性体質つまり冷え症の傾向を高めることになり、健康上よくありませんからね。

 さて、小生はどうかと言うと、昨年に高齢者の仲間入りをし、少々冷え症気味になってきているのを実感しています。つまり体質は陰性の方向に向かっています。
 これを阻止し、陽性体質へ転ずるには、塩断ちを定期的に行うのも、どれだけかの助けになるとは思っています。
 しかし、味覚は比較的薄味が楽しめる状態にあり、外食の塩辛さに閉口することが度々ありますから、まずまず塩持ちのよい体質と思え、年に最低1回の複数日断食でもって、これに代えたいと思っています。

 この記事で明らかにしようと思いました<その人に合う「適塩」があります>について、十分な説明ができませんでしたが、皆様にどれだけかの参考になれば幸いです。

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酵素は誇大広告、でも発酵生成物は体にいい。人に一番やさしい栄養です。

2013年12月15日 | 正しい栄養学

酵素は誇大広告、でも発酵生成物は体にいい。人に一番やさしい栄養です。

”酵素は体にいい”との広告をよく目にします。して、その理由はとなると、たいていは、次のものが声高に叫ばれていますが、これは大きな間違いです。
 [理由] 食物酵素が多い食品を摂ると、それが食品の消化を助け、人の消化器官で生産する酵素の分泌が少なくて済み、もって、人の体内で生産される様々な酵素の消費を抑えることができる。人の酵素は、一生で使われる量に上限があり、これが消耗されすぎると病気の原因になり、寿命が縮む。加えて、酵素には生命エネルギーが含まれており、酵素が多く含まれる食品を摂ると病気の予防になる。
 [出どころ] 米国の医学者エドワード・ハウエルが1946年に主張したもので、1980年、1985年に一般向け著書を出し、よく知られるようになった“酵素栄養学”。
 なお、彼は、酵素は加熱で効果を失うので、ローフード(食品の生食)が望ましいとし、また、酵素を多く含んでいる発酵食品を積極的に摂取すべきであるとした。
(※ 類似した主張を本稿の末尾に掲載)

 まず、“食物酵素が多い食品を摂ると、それが食品の消化を助ける”とありますが、たしかにアミラーゼ(でんぷん消化酵素)とリパーゼ(脂肪消化酵素)は消化薬として配合されることがありますが、その効果は限定的で、消化薬に補助的に配合されるだけです。
 また、餅と一緒に大根おろしを摂ると胃もたれしないことが知られており、これは大根に含まれるアミラーゼの効果と言われますが、アミラーゼ単独の効果かどうか疑問で、食物繊維などが関与している可能性が大です。
 加えて、摂取した酵素の全てが効果的に作用するかとなると、これについては甚だ疑問です。と言いますのは、酵素
は複雑な立体構造を持つたんぱく質であり、たんぱく質を加熱すると肉の色が変わり硬くなることからも推し量られるように、酵素の立体構造が変化し、つまり変性し、ほとんどの酵素はその働きを完全に失うのですが、たんぱく質を変性させるのは、熱以外にもいろいろあります。その一つが強酸です。
 口に入ったたんぱく質がどうなるかと言うと、胃に入れば胃酸によってやがて強酸性環境に曝されますから、たんぱく質は立体構造が
変わり、これで変性してしまいます。こうして、アミラーゼがそうですが、酵素の多くがその働きを失うのではないかと思われます。
 こうしたことについての実証研究、つまり、食品中の酵素が胃を通過して小腸に入ってどれほどの酵素活性を維持し、どの程度消化の助けになり、人の消化酵素の分泌がどう減るのか、という研究
はほとんど行われておらず、疑問視せざるを得ません。
 次に、“人の消化器官で生産する酵素の分泌が少なくて済めば、人の体内で生産される様々な酵素の消費を抑えることができる”については、論
理的飛躍がすぎます。
 
「酵素とは何ぞや」と言うと、「それは触媒である」と言えます。ただし、無機触媒と違って、少しずつ消耗しますから、絶えず生産し続けねばなりません。
 消化酵素は、触媒の働きでもって、大きな化合物を粉々に切断して小さな化合物にします。また、消化酵素とは異なった構造を持ち役割も異なる体内酵素も、同様に触媒の働きでもって、吸収したものを体に必要な化合物に合成・分解したり、エネルギーを作り出したり、あるいは老廃物を分解・合成するのです。これを「代謝」と呼びます。
 動いて、考えて、といったことも含めて、生命活動の全てが酵素が持つ触媒の働きで行われていると言って過言ではありません。
 各種酵素は、体中の全細胞にその生産機能があり、それぞれの組織、細胞によって分泌される酵素の種類そして量が異なります。
 こうしたことから、“消化酵素が節約されれば体内酵素の消費が抑えられる”とは、とても言えたものではないです。体を動かせばそれに必要な筋肉内の特定の酵素が必要量分泌されて働き、重労働の毎日であれば、その酵素が突出して生産され消耗が激しいだけのことです。
 3つ目に、“体内の酵素は一生で使われる量に上限があり、これが消耗されすぎると病気の原因になり、寿命が縮む”ということについては、何ら実証研究がありません。
 飽食を続ければ消化酵素の消耗が激しく、重労働の毎日であれば筋肉内の特定の酵素の消耗が激しく、そうした生活でない人に比べてどれだけか寿命が縮む恐れもありましょうが、その寿命が酵素の分泌と、どういう因果関係にあるのでしょうか。
 4つ目に、“酵素には生命エネルギーが含まれている”については、非科学的論述ですから、論評しないことにします。
 5つ目に、“酵素が多く含まれる食品を摂ると病気の予防になる”については、酵素そのものに免疫力を高める機能はないですから、見当違いになりますが、往々にして酵素による発酵生成物を含めて酵素という場合がありますので、それを踏まえれば、経験的にではありますが、正しいと言えましょう。

 ここからは、酵素による発酵生成物について考えていくことにします。
 まず最初に
、生化学的に「発酵」とは何かというと、生物が生きていくためのエネルギーを得る代謝の一方法(他に呼吸と光合成の2つがある)です。
 その仕組みを大雑把に言えば、有機化合物を酸化させ、そのときに遊離するエネルギーでATP(エネルギーの缶詰)を合成し、この酸化反応で生じた水素を他の有機化合物に渡す一連の化学反応です。
 こうして発酵によってできた副産物の有機化合物そのもの、あるいはそれらがさらに合成・分解された有機化合物を発酵生成物と言います。
 なお、腐敗も発酵と同じ仕組みで起き、人に有用か否かで区別されるだけです。
 
発酵生成物として最初に思い浮かぶのはアルコールですが、通常の最終生成物は、多くがアミノ酸と有機酸です。例えば、完熟した黒酢がいい例ですが、米の炭水化物(食物繊維を含む)、脂肪、たんぱく質が完全に分解・再合成されて、ほとんどがアミノ酸と有機酸に変わっています。味噌の場合は主としてアミノ酸ができてうまみが出ますし、漬物の場合は少量のアミノ酸の他に有機酸もできて、うまみと酸っぱさが生まれます。

 発酵させるには、たいていは「酵母(酵母菌)」を使うことになり、パンを作るときのイースト菌がよく知られていますが、酵母菌は単細胞の真菌類(カビの仲間)の総称で、その仲間には腐敗に関与する菌も含まれるものの、一般的にはパン酵母、ビール酵母といった有用なものに限定して用いられます。酵母菌以外による発酵としては、乳酸菌、酢酸菌、枯草菌(納豆菌)といった細菌(発酵細菌とも言う)によるものも多いです。
(備考:納豆に関しては、「多く含まれるビタミンKの功罪そしてナットウキナーゼの話題 など」を参照してくだ
さい。)
 発酵に使う菌(酵母菌、発酵細菌)は、特定の菌だけの場合もあれば、複数あるいは種々雑多の菌で発酵させる場合も多いです。菌の種類が多く、その組成が異なれば味も変わってきます。特に自家製の味噌や糠漬けとなると、製造会社が使う以外の菌が入ったりして、その家々に独特の味となり、これまた美味なものとなります。
 発酵に使うものとして「麹(こうじ)」がありますが、これは一般的に麹菌(麹カビとも言い、酵母菌の一種)そのものというよりは、麹菌が分泌した酵素が多く含まれている場合が大半です。麹菌は各種消化酵素を大量に生体外に吐き出すという特性を持っており、これをうまく利用したものです。
 発酵と類似する特殊な形態として、自己融解があります。植物や動物は、生命活動を停止すると、その細胞内に存在する各種酵素によって自己消化を始めることが多く、肉は腐りかけがうまいと言われるのも自己融解によるものです。紅茶やウーロン茶、塩辛は、こうした作用を利用して作られます。これらも広い意味で発酵食品とされています。

 ところで、発酵は人の腸管内でも行われています。
 腸内細菌は、
発酵という方法によってエネルギーを得て生きていますから、その活動が活発になる…つまり腸内環境が良くなり、善玉菌が大増殖する…と、発酵生成物も多くなります。人では消化不能な食物繊維などを発酵させて、アミノ酸や有機酸を吐き出してくれるのです。これらは人の体内に吸収され、たんぱく質の合成やエネルギー源として利用されます。腸内環境がグーンと良くなれば、こうした形で人に有用な栄養が得られるのですが、動物性食品を多く取り過ぎると、善玉菌の勢力は弱まり、発酵と同じ仕組みの腐敗が悪玉菌によって始まり、毒素まで吐き出して人の体を蝕むことになります。

 さて、ここで生物進化の歴史を振り返ってみましょう。
 最初に現れた生物の多くは発酵によってエネルギーを得る細菌だったようで、これが地球上を支配し、数を増やし、様々な種類に分かれていきます。
 そうした中で、好気呼吸(酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す)
によってエネルギーを得る細菌が誕生し、その細菌が動物へと進化していきます。そして、好気呼吸をする生物は、その栄養を発酵細菌(その後に酵母菌も)が作ってくれた発酵生成物に頼るようになったことでしょう。また、動物のみならず植物においても、その表皮において発酵細菌や酵母菌との共生関係を築き上げていきます。野菜や果物の表面が白っぽいのは、これら微生物の存在を示しているのですし、動物の皮膚にも皮膚常在菌がびっしり繁殖しています。これら微生物は生体のバリアを形成して有害な雑菌の繁殖と侵入を防いでくれますし、彼らが作った発酵生成物が生体に利用されもします。なお、腸内細菌も、腸管という「生体の外側」に存在するものであり、表皮の微生物と全く同様に働いてくれています。
 ですから、原初の動物は、発酵生成物の取り込みとその利用に極めて優れた機能を有した仕組みを作り上げたものと考えられます。その後、動物が大型化すると、動植物も食べるようになって発酵生成物とは全く異質なものを口にするようになり、それの消化酵素を多く分泌できるようになって、栄養の大半を動植物から得るようになりました。
 でも、高度に進化した脊椎動物(人も)にあっても、基本的な生命維持機能は原初の動物とほとんど変わりませんから、いまだ発酵生成物の取り込みとその利用機能も失っていないのは確実です。わけても霊長類(猿の仲間)は、胃(2つに分かれた前胃)で牛と同様に発酵細菌により木の葉を発酵させている種が多くいますし、人に近い種のゴリラは、腸(特に盲腸)で発酵細菌により草をかなり発酵させています。そして、菜食しかしない人は、ゴリラに近い発酵細菌が卓越して多くなっているようです。
 こうしたことからも、人にあっても理想的な栄養源(体にやさしい栄養)は発酵生成物であると言えます。なぜ体にやさしいかと言えば、発酵生成物は体内に取り入れたら、そのまま使え、利用しやすいものばかりで、細胞内物質を構成したり、エネルギー源になったり、また、代謝を維持・促進してくれるからです。例えば、熟成させた黒酢の成分は、各種アミノ酸(必須アミノ酸を全て含む)、各種有機酸(エネルギー源になり、特に多く含まれるクエン酸はエネルギー代謝を促進)、各種ビタミン(多くは体内で働く補酵素)です。それに比べ、たんぱく質、脂肪、炭水化物は、これを消化吸収するのにかなりのエネルギーを必要とし、人の全エネルギー消費量の2、3割を消耗させますから、効率が悪いですし、消化器官に負担がかかります。

 ここまで、生化学の知見などから説明してきましたが、人に必要な“栄養素”は何か、ということについては未解明な部分が随分あると思われます。(注:現代栄養学で言う栄養素は、たんぱく質(消化してアミノ酸)、脂肪(消化して脂肪酸)、炭水化物(消化してブドウ糖)、ビタミン、ミネラル、食物繊維(栄養にはならないもの)ですが、本稿では、これとは違った概念で使うことにします。)
 また、必要な栄養素が得られなくても体内で合成したり代替品で間に合わせたりすることができるものがありますが、直接得られた方がずっと良いことでしょう。そのいい例が、人のエネルギー源となるブドウ糖で、これは有機酸の代替品ですし、過剰に摂取したたんぱく質や脂肪も本来の目的を外れてエネルギー源にしています。
 そして、夏には夏野菜がいい、冬には冬野菜がいい、と言われ、体を冷やす食品・温める食品というものが経験的に知られていますが、それはどういう栄養素が関与し、体内でどのように働いているかについては全く解明されていません。
 発酵生成物についても全容が解明されたわけではなく、極微量の未知の栄養素が思わぬ効果を発揮させてくれているかもしれないのです。
 そうしたことから、未知の部分については、冒頭で非科学的論述につき論評しないことにしましたが、“酵素には生命エネルギーが含まれている”とでも言いたくなるのでしょうね。もっとも、言うとすれば「発酵生成物には」でしょうけどね。

 いずれにしましても、発酵生成物は、本質的に、ヒトの体が最優先で欲している非常に重要な、体にやさしい栄養素であると言えましょう。
 その中でも、近世になって大きく普及してきた、日本人に馴染みの深い味噌、漬物は、多種類の酵母菌・発酵細菌の両方が発酵に関与していますから、その発酵生成物の種類は多義にわたり、何らかの形で健康増進に大きく関与していると思われます。
 そうしたことから、よく熟成した味噌、漬物を毎日召し上がっていただきたいものです。
 ところで、味噌、漬物ともに塩分が多いから害になるとお考えの方が多いですが、塩分は体が要求する程度に摂って何ら支障はありません。逆に減塩こそ体に悪いです。
 このことについては、「減塩しすぎるとどうなる?(2012.8.15投稿)」
をご覧ください。
 なお、本稿で黒酢が理想的なもののように書きましたが、これをがぶがぶ飲むのは禁物です。酸度が強いですから胃を荒らす恐れがあります。ここは、健全な腸内環境を作り上げて、善玉菌によってゆっくり発酵を進めてもらい、黒酢と同等の発酵生成物を少しずつ製造してもらうしかありません。
 また、健康食品として出回っている濃厚な「酵素飲料」(ほとんどが発酵生成物)には、どれだけかは乳酸菌などが含まれていて、その働きを止めるために高濃度の砂糖(防腐剤としても働く)を入れていますから、多飲するのは考えものです。でも、水で7倍程度に薄めて半日ほど常温で放置すると、乳酸菌などが発酵を始めて砂糖が乳酸に代わるようです。これは、故・甲田光雄氏がその著書「家庭でできる断食健康法」の中で、そのように書かれていましたので、お試しなさったらいかがでしょうか。なお、製造メーカーによって性状が違いますから、希釈倍率、放置時間は異なるかと思われます。

 最後に、発酵乳製品であるチーズとヨーグルトについて触れておきます。
 ともに乳酸発酵を主体としていますが、熟成させるには酵母菌を加えることがあります。
 ただし、フレッシュチーズは単に乳のたんぱく質を固まらせただけのもので発酵食品ではないです。
 発酵乳製品は、発酵生成物が含まれる点では体にいいと言えますが、牛乳と同様の理由で、あまりお勧めできない代物です。(詳細については2015.2.28「ヨーグルトは体にいいのか悪いのか、その答えは明らかです」と題して記事にしましたから、そちらをお読みください。)
 一つは、たんぱく質や脂肪があまりにも多すぎるという点です。どちらも摂取量を極力抑える必要がある代替栄養(日本人の食生活からすれば、これらは単にエネルギー源になるだけ)であって、特に日本人には、その消化と代謝に負担が掛かりすぎます。
 もう一つは、ヨーグルトには乳糖が多く残っていたり、それが2分解されたガラクトースが残っていたりすることです。日本人の大半(除く赤ちゃん)は、乳糖不耐症で乳糖がほとんど消化されず、乳糖は下痢の原因になり、腸内環境を悪化させる恐れがあります。また、ガラクトースは吸収されて多くがブドウ糖に変換されるのですが、日本人はその機能が弱いようで、牛乳の多飲や乳製品の多食は白内障の原因になるなど害になる恐れがあります。
 よって、発酵乳製品は、良い面より悪い面が多く、少量の摂取であれば乳糖が消化されたりガラクトースが利用されて問題ないでしょうが、大半が乳糖耐性の欧米人並みに大量にパクパク食べるのは禁物です。
 概ね1万年前から動物性たんぱく質と脂肪という極端な代替食糧を摂るしかなかった欧米人は、それなりに消化や代謝機能が適合してきているのですが、つい数十年前まで植物性食品がほとんどであった日本人がその真似をすれば、体を壊しかねません。
 やはり日本人には、味噌や漬物そして醤油や食酢といった古来より日本人が利用してきた発酵生成物が体に合っていると言えましょう。こうした食品群を利用した料理を毎日の食卓に飾っていただきたいものです。

(※)類似した主張(2015.2.28追記)
 内視鏡外科の先駆者であり、世界一の臨床例をお持ちの名医である新谷弘実医師は、全ての酵素の元となる物質が体内で産生されていると想定し、ミラクル・エンザイムと名づけ、その利用を節約することで長生きができるのではないかと考えておられます。また、新谷氏は、食物中の酵素が分解され消化吸収された後にも、体内で容易に酵素に再構成されるであろうと考えておられ、酵素を多く含んだ食品を摂取することは消化の助けになるだけでなく、体内で代謝に使われる酵素を補充する意義もあるとされています。でも、これは実証されたものではなく、単なる仮説の域を出ていないものです。

(同日補記)
 最近は酵素ブームということもあって、次のような説明が反乱しています。
 「人が作る酵素は5000種類以上、腸内細菌にあっては3000種類以上の酵素を作っている。この腸内細菌が作る酵素が人に体内における代謝にも役立っている。」
 これに輪を掛けて「腸内細菌に生命力の源である酵素を作ってもらっている」とも。
 これには困ったものです。
 ヒトも細菌も同じ生き物ですから、その生命活動は類似したものになり、持っている酵素の数に大差がないのは当然のことです。そして、腸内細菌は自分が生きていくために数多くの種類の酵素を作っているだけのことでして、人に酵素を供給しているものではありません。腸内細菌が体外へ吐き出す酵素は、ごく一部の消化酵素だけで、それも自分に必要な栄養を得るための必要な限度においてのみです。
 なお、ヒトが腸内細菌が吐き出した酵素を吸収しようとしても、大きなタンパク質の塊ですから大腸での吸収は不可能で、もし、大腸の荒れでその酵素が体内へ流入したとしても、異質なタンパク質として白血球に認識され、白血球が飲み込んで分解してしまう性質のものです。
 

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米国がついにマーガリンなどトランス脂肪酸の禁止へ動く。日本は?何とバターより安全なマーガリンあり!?

2013年11月08日 | 正しい栄養学

米国がついにマーガリンなどトランス脂肪酸の禁止へ動く。日本は?何とバターより安全なマーガリンあり!?
(最新更新:2019.12.12)

 2013/11/08-12:05 時事ドットコム
 トランス脂肪酸、禁止へ=食品使用「安全と認めず」-米

 米国の食品医薬品局(FDA)は、トランス脂肪酸(マーガリンなど)を食品に用いることを原則禁止とする規制案を提示した。60日間の猶予期間を経て施行する。
 理由は、心筋梗塞などの心疾患の発生リスクが高まる、というもの。
 2006年に使用表示義務付け以降、使用量は減っているが、より踏み込んだ。
 以上のような内容となっています。
(2016.9.9挿入追記)
 その後、施行が引き伸ばされ、2018年までに全廃するとのことです。(挿入ここまで)
 
 さて、日本は、厚生労働省がどう動くかですが、トランス脂肪酸については欧米に比べて規制が弱い状態にありますから、認め続けるかもしれません。
 “半固形プラスチック”であるマーガリンです。体にいいわけがありません。
 食べないでいただきたいものです。
 心疾患のリスクだけでなく、様々な弊害が予想されるトランス脂肪酸です。
 このことについては、過去記事の中で2度取り上げました。
 興味がお有りな方は「マーガリン」でブログ内検索なさってください。

(2013.12.5追記)
 読者の方からコメントを頂きましたので、それを踏まえて補記します。
 トランス脂肪酸については、世界的傾向として、その含有量を減らそうと、製造メーカーも技術開発を進めているようでして、日本には極めて含有量の少ないマーガリンがあることをコメントを見て初めて知りました。(2019.12.12追記:このころからパーム油などに代替され始めたようです。)
 なお、反芻動物である牛は、その胃内で細菌によるトランス脂肪酸の生成が起き、それが肉や乳に2~5%入り込んでいると言われています。よって、バターにも同程度含有されています。こうしたことから、牛関連食品の多食、多飲も望ましくないと言えます。
 その対策として、パンに塗るにはバターよりも場合によってはマーガリンの方がいいということになります。今、使われているマーガリンのトランス脂肪酸含有量をお調べになってみてください。ただし、化学工業的に水素添加された脂肪酸を主成分とするマーガリンは天然物ではないですから体に悪影響を及ぼす懸念があります。

2019.12.12追記
 最近ではマーガリンの主成分は水素添加植物油脂(トランス脂肪酸を数%から十数%含有)から熱帯油脂(トロピカルオイル=パーム油など)に切り替えられましたが、水素添加植物油脂は、ショートニング(マーガリンの純度を高めたのもの。さっくり感やパリッとした食感を出すのに好都合で、菓子類製造に利用されることが多い)としてその後も使われています。
 その後、トランス脂肪酸そのものの害は恐れられていたほどのことはないことが分かってきたものの、植物油脂を化学的に水素添加するときにジヒドロビタミンK1(ビタミンK1の変性物)が副生し、これに強い毒性があることが判明しました。
 このことに関して、記事にしましたのでご覧ください。
 水素添加植物油脂はトランス型脂肪酸以外の毒物により食用に不適です

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“江戸患い”が静かに流行しています。ジャンクフード多食者は脚気(かっけ)にご用心あれ。

2013年06月22日 | 正しい栄養学

“江戸患い”が静かに流行しています。ジャンクフード多食者は脚気(かっけ)にご用心あれ。

 うっとおしい梅雨。食欲が失せます。白米飯のお茶漬けサラサラ。
 これを続けていると、足がむくみ、痺れ、そして最後には心不全でご臨終に。
 これが、豊かになった江戸町人を悩ませた「江戸患い=脚気(かっけ)」で、これが元で亡くなるのを「脚気衝心(しょうしん)」と言いました。
 年中あったようですが、特に梅雨時に多かったようです。
 これは、平和で豊かになった元禄時代以降、江戸町人に限らず、大坂町人にもあったようですし、将軍家でも起きたようです。第13代徳川将軍・家定、第14代家茂と正室の皇女和宮が
脚気衝心で亡くなったと言われています。

 いずれも、白米の多食によるビタミンB1不足が原因しています。これを防ぐには麦飯に限るのでして、江戸詰めの地方の武士が江戸では脚気の症状を呈しても、藩に帰れば麦飯になって症状が消えました。こうしたことから、脚気になったら麦飯を食べればよいことが当時から分かっていましたが、どれだけも守られなかったようです。

 グルメ文化の怖いところがここで、白米飯に馴らされてしまうと、“こんな美味いものはない”となってしまい、容易には麦飯に変えることはできないのでしょうね。
 もっとも、現代においては、その白米飯がまずくなっています。
 原因は2つ。有機肥料を使わなくなったことと、機械乾燥させるからです。有機肥料を使えば甘味が出ますし、ハサ掛けなどで自然乾燥させると稲の葉や茎から籾にうまみ成分がまだまだ入り込みますから米が美味しくなるのです。
 横道にそれますが、5月半ば過ぎに久し振りに絶品の白米飯に巡り合いました。
 昼神温泉に泊まったときです。仲居さんが地元の農家から直接仕入れた米と言っておられましたが、きっと昔ながらのやり方で栽培し収穫されたものでしょう。かつ、収穫時期から半年以上経っていますから、籾摺りせずに脱穀したまま(籾の状態)で保管し、必要な分だけ籾摺り・精米されたのではないかと推察されます。
 なんせ、おかずなしで白米だけで“美味しい美味しい”と、お代わりまでして食べたくらいですから。魚沼産のコシヒカリの新米を時々いただくのですが、それより上でした。
 こうしたことを考えると、昔の白米食はきっと今よりもずっと美味しく、おかずなしで食べられたことでしょう。
 よって、ビタミンB1不足となり、脚気が多発したものと思われます。

 明治になって富国強兵政策が取られ、農家の次男坊、三男坊を兵隊募集します。1日2食(昼と晩)で主食が雑穀米(良くて麦飯)であった彼らにとって「日に3度、白い飯が腹いっぱい食える」という殺し文句の募集案内に大いなる魅力を感じて、質実剛健な若者が兵隊募集に殺到したことでしょう。
 ところが、軍隊で脚気が大発生し、4人に1人が罹患する事態に至ります。
 原因不明(ではなかったのですが、軍はそう言っていました)なるも、明治18年に麦飯にしたらピタッと止まりました。
 そこで、海軍は麦飯(当初はパン)を続行しましたが、陸軍は明治27年の日清戦争から、何と白米食に戻してしまいました。理由は定かでありませんが、兵隊が麦飯を嫌ったことと、戦地への輸送・管理は白米が楽であったからのようです。
 当然、戦地で脚気が再び大発生します。
 
                                 
 日清戦争での病死者は定かでありませんが、約4千人とも言われています。
 陸軍ではその後も白米食が続けられ、日露戦争では病死者が約2万数千人にものぼったと言われています。また、乃木大将の突撃命令で203高地を駆け上がろうにも剛健な兵士は皆無に等しく、1万人近い戦死者を出しています。
 ドイツ医学の権威者で陸軍軍医のトップ(訂正:戦争中までナンバー2、戦後にトップ)の座に就いていた森鴎外が「脚気伝染病説」と白米万能の「陸軍兵食論」に固執し続けたのです。部下の軍医が「麦飯を」と進言しても、聞く耳持たず、でした。加えて、森鴎外に絶対的信頼を置いていた乃木大将も兵食を変えようとせず、その結果、大悲劇を生んだのです。
 乃木大将はその後責任を取って自刃しましたが、森鴎外はその後、のうのうと文筆活動を行い、今日でも偉大な文化人として評価されているのは何とも理解に苦しむところです。
 こんなことがまかり通る日本ですから、薬害問題もあとを絶たないのでしょうね。日本の薬害問題の第1号とも言える森鴎外です。恐ろしいことです。
(この段落で訂正したのは、2017.6.29にNHKで本件について放映された事実に基づくものです。よくぞ放映したNHK、ご立派。番組名:フランケンシュタインの誘惑(科学史 闇の事件簿)「ビタミン×戦争×森鴎外」 <BS再放送 7.26 23:45 >)

 脚気は、米糠や胚芽に多く含まれるビタミンB1不足で起こる過去の病気となっていますが、どっこい静かに増え始めています。それは1975年以降です。
 
国民栄養調査によれば、ビタミンB1は高齢者は足りているようですが、若い人となると不足気味のようです。でも、この調査は毎年11月(食欲の秋)に行われていますから、梅雨時から夏場は当然に多くの人が不足します。
 ビタミンB1はエネルギーを燃やすのに必須のものですが、ミネラルの1種、マグネシウムも同時に必要です。今日、このマグネシウムも不足し始めました。


       
 そして、ビタミンB1とマグネシウムはもとより、これを補助する各種ビタミン・ミネラルも同時に必要となります。
 今日では、昔のような白米の多食はなくなりましたが、麦・ソバも精白すれば各種ビタミン・ミネラルの多くが失われます。精白された穀物は色がきれいで味に癖もなく、一定の味が出せて品質管理が容易です。よって、食品加工で多用されています。
 可能であれば、極力、無精白の穀類を取りたいものです。

 さて、近年、再び発生し出した脚気は、今、申しましたことも影響していますが、大きな原因となっているのが「ジャンクフード」です。
 
 「ジャンク」とは「がらくた、屑」の意味で、カロリーは高いがビタミン・ミネラル少ない「インスタントラーメン、スナック菓子など」を指します。
 こうしたものを多食する若者(そうでない方も)に脚気の症状が発生し出したのです。

 これからの時期、普通の食事ではどうしても不足がちとなる各種ビタミン・ミネラルですから積極的に補給して、梅雨を乗り切りたいものです。
 朝起きたときに、体がだるいと感じたら、ビタミン・ミネラル不足と思って良いでしょう。

 参考までに、「ジャンクフード」と似たものとして、「ファ(ー)ストフード」というものがあります。これは、短時間で調理できたり、注文してすぐ出てくる手軽な食事を言い、ハンバーガー、フライドチキン、牛丼といったものです。これは「ジャンクフード」ほどではありませんが、やはり各種ビタミン・ミネラルが不足がちになる恐れがあります。
 なお、「ファ(ー)スト」は英語の「fast」で「早い」と言う意味があり、「ファースト = first」(最初の、一番)とは別物です。また、「ファスティング = fasting」となると、これは「断食」という意味になってしまいます。この際、ついでに覚えておいてください。

(本稿は、当店「生涯現役新聞」2005年7月号を一部改定し、補足したものです。)

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古典的な砂糖の害の原因は間違い。本当の害は“ブドウ糖の暴走”なのです。

2013年02月15日 | 正しい栄養学

古典的な砂糖の害の原因は間違い。本当の害は“ブドウ糖の暴走”なのです。

 このブログの過去記事「砂糖は健康に悪いのか良いのか」(2012.5.25)で、砂糖の害を総論的に述べ、古典的な砂糖の害の原因についても少々触れました。
 でも、古典的な砂糖の害の原因にはこれといった根拠がなく、正しいとはいえません。
 そこで、本稿では、真の原因を科学的根拠に基づいて説明することにします。

 まず、砂糖とは何か、どんな形で体内に吸収されるかをみてみましょう。
 砂糖とは蔗糖のことを言い、ブドウ糖(グルコース)と果糖(フルコース)が結合した二糖類です。ブドウ糖、果糖は単糖と言い、C6H12O6の分子式で書き表され、異性体(構造が異なるもの)です。同じ異性体としては、乳糖(二糖類:ラクトースとグルコースが結合)を構成するラクトースがあります。さらに、最も代表的な単糖であるブドウ糖には3種類の異性体があり、その中のαグルコースがたくさん結合したものがデンプンです。

 さて、砂糖を摂ると、小腸で容易に加水分解されてブドウ糖と果糖に分かれ、速やかに吸収されて、いったん肝臓に入ります。
 先に、果糖の動きについてみてみましょう。生体内ではブドウ糖が使いやすいようで、空腹時には果糖はその3分の2が肝臓でブドウ糖に変換されるようです。変換されなかった果糖は貯蔵が利きませんので、血液で運ばれ、全身の細胞に渡されて、エネルギー産生回路に入れられ、消費されます。
 ただし、砂糖を過剰に摂ると、一気に果糖が吸収されてしまいますから、その処理が追いつかず、エネルギー産生回路で一時的に乳酸を過剰に発生させます。そして、過剰な乳酸は肝臓に送られ、ブドウ糖に変換されて、一件落着となります。
 次に、ブドウ糖ですが、少し形を変えて肝臓で貯蔵されたり、幾つもを結合させてグリコーゲンにして貯蔵することができますが、血糖値が一定レベル以下であれば、ブドウ糖の多くは血液中に入り、全身に供給されます。
 ただし、砂糖を過剰に摂ると、肝臓での貯蔵処理が間に合わず、一気に血液中に大量に入り込み、血糖値(ブドウ糖の血液内濃度)が急激に上がるのは知られた事実です。
 そして、全身の細胞がインスリンの働きを借りてブドウ糖の受入れをします。ブドウ糖を受け入れた細胞は、その一部をエネルギー産生回路に回しますが、過剰なブドウ糖は、筋肉であればグリコーゲンに、脂肪細胞であれば脂肪に変換して蓄えます。

 このようにして、砂糖を大量に摂ったとしても、通常は何も問題なくスムーズに処理されてしまい、健康上悪影響を引き起こすものではありません。
 でも、飽食してブドウ糖やグリコーゲンが十分に体内に存在する状態で、砂糖を大量に摂った場合には、必然的に大きな問題が生じてきます。
 肝臓や細胞でのブドウ糖や果糖の受入れ余力が小さいですから、脂肪細胞に受け入れてもらうしかなく、これには時間がかかりますから、高血糖状態が長く続きます。
 これは、糖尿病の状態と同じことですから、体にいいわけがありません。

 参考までに申しますが、果糖の摂取による乳酸の産生は何ら問題がありません。
 乳酸飲料を飲んだからと言って何ら害がないのと同じことです。
 蛇足ながら、激しい運動をすると乳酸が筋肉中に溜まり、これが疲労物質として筋肉痛を起こすと言われていましたが、近年、これは否定されています。確かに乳酸は溜まるものの、乳酸はエネルギー産生回路の途中の段階で生ずる物質ですから、これが害になるものではなく、筋肉痛は微細な筋繊維の損傷が原因しているとのことです。
 また、乳酸の産生との絡みかもしれませんが、砂糖の摂取は血液を酸性に傾かせ、健康上問題が生ずるとの説明をよく見かけますが、血液のPHは恒常性が保たれており、これは、血液中にかなりの高濃度で存在する重炭酸イオン(HCO3-)やアルブミンが緩衝材として働いていますから、その説明は間違いとしてよいと思われます。

 さて、これより、砂糖の本当の害について説明することとしましょう。
 その前に、ブドウ糖というものの特性について触れておきます。
 ブドウ糖は生体内に入ったとき、エネルギー源になるだけでなく、様々な物質と化学的に結合したり、物理的に結合したりします。
 配糖体と呼ばれるものは、ブドウ糖(他の単糖の場合もあり、以下同じ)が、他の物質と化学的に結合したもので、有用な作用をするものが非常に多いです。例えば、抗酸化物質で有名なポリフェノールの代表的なものにフラボノイドがありますが、これは、別名フラバン配糖体とも呼ばれ、ブドウ糖が化合しています。この他に、サポニンも配糖体です。
 また、人の体内で作られる配糖体も数多くあり、その例は後ほど紹介します。
 これら配糖体は酵素を介してブドウ糖が化合するのですが、酵素なしで勝手にブドウ糖が化合する場合もあります。その代表的なものが、メイラード反応です。
 メイラード反応は、食品加工で良く知られた化学反応ですが、加熱によって、ブドウ糖とアミノ酸(たんぱく質のアミノ基)が結合し、香気がある褐色物質を生み出します。
 タマネギを炒めたとき、肉を焼いたとき、パンを焼いたとき、ご飯のおこげ、チョコレートの色素形成など、非常に多いです。
 このように、ブドウ糖は加熱により、あらゆる物質と化合する性質があります。
 ここに例示したものは有用なものばかりですが、害になるものも多いです。例えば、高温加熱してポテトチップスを作るとき、ブドウ糖がアスパラギン酸と化合してアクリルアミドになり、これは神経毒性があったり、発がん作用があって、問題視されています。

 こうしたブドウ糖の性質は、何も加熱により起こるだけでなく、常温であっても起きますし、体内でもいろいろ起きています。常温の例としては、味噌や醤油の醸造です。味噌、醤油の香はメイラード反応によるもので、味噌の場合は長く寝かせるとメイラード反応がより進み、味噌の色が褐色から黒へと変わります。(* この1文は2016.12.24挿入)
 体内でのよく知られた例が、糖尿病の指標となる糖化ヘモグロビン(HbA1c)
です。高血糖が続けば、ブドウ糖がヘモグロビンとメイラード反応を起こしやすくなり、糖化ヘモグロビンが増えて、ヘモグロビンの活性が失われ、酸素供給力が落ちることになります。
 でも、糖尿病の方でも、糖化ヘモグロビンの割合が異常に高くなることはなく、酸素の運搬にさしたる悪影響を与えませんが、生体内で起きるメイラード反応で、健康に大きく悪影響するものがかなりありそうです。主なものを紹介しましょう。
 まず、体内で作られる代表的な抗酸化物質であるSODがメイラード反応を起こしてしまい、その機能が発揮できなくなりますから、活性酸素の害を防ぐのが難しくなります。
 次に、細胞外たんぱく質であるコラーゲンがメイラード反応を起こし、これによってコラーゲン間に架橋ができてしまいます。水晶体の濁り(白内障)がそうです。
 3つ目に、免疫グロブリン(血液中にある抗体)の活性が失われます。これは、そもそも配糖体なのですが、違う箇所にもブドウ糖が化合してしまうことによります。
 以上の3つは、糖尿病を進行させる元になります。SOD不活性で活性酸素を十分に消すことができないから動脈硬化が進みますし、コラーゲン間架橋で白内障が進行しますし、抗体の不活性で感染症を拾いやすくします。
 これら皆、糖尿病の進行と一致し、過剰なブドウ糖の存在により、メイラード反応が盛んになることによって起きてしまうと考えられます。

 このことは、何も糖尿病患者に限らず、飽食生活をしていた人が、砂糖を大量に摂取したときには高血糖状態がかなりの時間続くことになるのですから、その間は、メイラード反応が盛んになって、同じことが起きてしまうことでしょう。
 そして、いったんメイラード反応が起きてブドウ糖が化合してしまうと、元には戻らず、後々まで悪影響が続くのです。これが、メイラード反応の怖いところです。

 生体内におけるメイラード反応は、この他にもいろいろあります。その程度は、まだ研究が始まって間がないようですから、手元に情報が少なく、小生の調査不足で分かりませんが、何らかのメイラード反応を起こすことが分かっているものを例示しましょう。
 酵素:カテプシンB、リゾチーム、膵リポアーゼ、炭酸デヒドラクターゼ
 血清:アルブミン、フィブリン、フィブリノーゲン
 ホルモン:甲状腺ホルモン、インスリン
 細胞:赤血球膜たんぱく質

 この最近の知見からして、砂糖の摂り過ぎで糖尿病になる可能性が高いのは、インスリンがメイラード反応を起こして、インスリンが不活性になることも影響しているのではないかと思われます。
 また、砂糖の摂り過ぎで赤血球同士が固まりやすくなるのも、赤血球膜たんぱく質のメイラード反応が原因しているのかもしれません。
 そして、アレルギーに関する最近の研究では、砂糖の摂り過ぎでアレルギー反応が強まるのは、アレルゲンにブドウ糖が結合し、その作用が強まるからと考えられています。

 ここまでは、過剰なブドウ糖によるメイラード反応という化学的結合について述べてきましたが、ブドウ糖が単にくっ付くだけという物理的結合もブドウ糖には強いようです。
 砂糖の摂り過ぎで赤血球同士が固まりやすくなるのは、これによる可能性が大です。
 そして、砂糖を取りすぎると、免疫細胞の1種であるマクロファージ(最前線で細菌やウイルスを飲み込んで消化する白血球)の活性が大きく落ちることが知られています。これは、ブドウ糖の化学的結合なのか物理的結合なのか定かでないですが、いずれにしても高濃度のブドウ糖が原因していると考えるしかないでしょう。

 砂糖は精製糖であり、ビタミン・ミネラルが除去されていて、砂糖をエネルギー変換するときに必要なビタミンB1やマグネシウムなどの貴重なビタミン・ミネラルが消費されてしまい、これらが不足してしまうから、砂糖はよくないとも言われています。
 たしかに、これも一理あって、過去記事で粗製糖が望ましいと書きました。
 でも、砂糖の本当の恐ろしさは、こうしたことではなくて、一気に吸収されて体内に入り込み、体中でブドウ糖が高濃度になり過ぎることにより、ブドウ糖の特性であるところの、何にでも化学的・物理的に結合してしまうという“ブドウ糖の暴走”にあるんだ、ということを十分に理解していただきたいです。

 最後にご忠言申し上げます。
 砂糖たっぷりの甘い物は、腹が減って腹が減って死にそうだ、というときになって、はじめてお召し上がりください。そうなされば、高血糖になるのを防げますからね。
 なお、『甘』という字は、“落とし穴”の象形文字ですから、“甘い物”にはくれぐれもご用心なさってください。“触らぬ神にたたりなし”と言いますから、できることなら“落とし穴”である“甘い物”は口にしないことですね。

(本稿は、 医学博士・歯学博士・薬学博士 堀泰典オフィシャルサイト の中の メディア掲載記事:アトピーについて「甘党は老化しやすい」 を参考にさせていただきました。) 

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