夜更かしタイプの睡眠障害について考える
このことについては基本的なことを当店毎月発行(2017.10.25)の新聞で記事にし、このブログでも、その画像を掲載したところです。
それだけでは寸足らず、となりましょうから、「睡眠相 後退症候群」に関してだけで恐縮ですが、もう少し掘り下げて説明したいと思います。
睡眠障害にはいろいろなタイプがあります。その中で「概日リズム睡眠障害」というものがあり、これは昼夜のサイクルと体内時計のリズムが合わないために生ずるものです。
さらにそれは5分類され、その中でよく見受けられるのが「睡眠相 後退症候群」です。
「睡眠相 後退症候群」の極端な例は、明け方近くまで寝つけず、いったん眠ると熟睡はできるのですが昼過ぎまで目が覚めないという状態になります。そこまでいかなくても、いつも2時間3時間なかなか寝付けず、起きる時間がそれだけ遅くなるというものです。
そうした方は、“あんたは夜更かしばかりしているから、そういう癖が付いてしまったんだ”と言われてしまうことが多いのですが、決してそうではありません。
眠くなって床につく、これを自然に行ってくれる大きな要素として体内時計があります。
大方の人は、長年にわたる毎日毎日のお日様の巡行サイクルに順応して、体内時計は24時間に概ね合わさっています。でも、なかにはこの時計が狂ってしまっている、例えば、おいそれとは時計が進まず、1日のサイクルが24時間ではなく、25時間、いやもっと長くなるという方がおられますし、朝、お日様の光刺激を受けても体内時計がリセットされないという方もおられます。
ところで、ヒトの体内時計は1日が何時間か。
これについては以前は定説があり、25時間というものでした。今でもしぶとくこれは生き残っています。どんなものも、いったん定説にされてしまうと容易には改められませんから、体内時計についても25時間というのがまかり通っています。
これは、1979年に、ドイツのマックス・プランク研究所という研究機関が、光や音をさえぎった、外部から隔離された環境に被験者を置いて実験したもので、被験者たちの生活リズムが24時間から26時間ぐらいの周期になり、平均すると25時間ぐらいになると発表され、これがもとでヒトの体内時計は25時間というのが定説になったようです。
1999年に、同様な実験が、今度は米国のハーバード大学で行われ、平均すると24時間11分という結果が出ました。その少し後で、日本の国立精神・神経医療研究センターで測定した日本人のそれは、平均で24時間10分という結果となりました。
そうしたことから、定説の25時間は24時間に改めねばならないと言われているのですが、小生にはこうした言動が気になります。25時間にしろ24時間にしろ、皆がこの時間だと断定するような言い切り型はおかしいからです。詳細なデータは知りませんが、ハーバード大学の実験の場合、23時間40分~24時間40分位の間に70%の被験者が入るとのことで、かなりの幅を持っており、個人差がけっこうあると捉えねばならない性質のものだからです。マックス・プランク研究所の場合においても、大きな幅を持っているようで、こうしたものは、通常、正規分布を示しますから、幅を持った表現にすべきものです。
それはそれとして、ヒトの体内時計が平均して1日約24時間という結果が出たのは、しごく当然なことです。ヒトは、生後、毎日お日様の巡行サイクルに合った、24時間サイクルの生活をするしかなく、大人はそれに概ね順応させられているからでしょう。その結果、日照や騒音から完全に隔離されて、時間が全く分からなくても、ヒトの生理現象のサイクルは順応させられた太陽時に概ね従うことになっていると考えるのが妥当です。
さて、ここで、平均で1時間なり11分とか10分という太陽時に対する遅れがどの実験でも出ていることは注目に値します。これは、太陽時に順応した24時間の体内時計と、それとは違った太陽時より時刻の刻み方が遅い体内時計が別にあって、それがために、どれだけかの遅れを生じさせているのではないか、とも考えられるからです。
先に結論を申しますが、ヒトが本来持ち備えている、その体内時計は、約24時間ではなくて、誰しも1日約25時間であったのは間違いない事実です。それを説明しましょう。
新生児の哺乳時刻を覚醒、睡眠時刻とともに図表にすると、どんな新生児にも必ず現れるひとつの形、学問的には“Spiral Milky Way”、日本語では“らせんに巻いた天の川”が出生15週あたりまで、きれいに現れるのであり、胎児も当然に1日約25時間のサイクルを刻んでいたのは間違いないことです。
(下の図表は三木成夫著「内臓とこころ」から孫引きしました。クリックしてください。)
そして、このことについて、三木氏(故人)は1982年頃に「発生学サイドからして、ヒトは潮汐周期(2周期で約24時間50分)を生命記憶していると考えるしかない。生物の進化の歴史において、動物が波打ち際から陸上へ進出するまでの間において長期間経験した1日のサイクル、それが約25時間であって、遠い海辺の時代の生命記憶は、ことあるごとにその頭をもたげようと、うごめき続けているのだろう。」という感想をお持ちになっておられました。
なお、潮汐周期に合わせた生活パターンは海辺の動物に顕著なものがあり、海釣りをなさる方はご存知のとおり、魚の採餌行動は、潮止まりは休息に入り、その前後で活発になるという傾向を示します。もう一つの採餌行動は朝マズメ、夕マズメという太陽の運行に合わせたパターンで、両者が混合していますが、何を食べているかによって、魚種により両者の出方には差があります。
ところで、地球の歴史において、動物の陸上への進出となると、最初は両生類であって、それは古生代デボン紀(約4億年前)であり、その後に、爬虫類や哺乳類の祖先系が石炭紀(約3億年前)に生じて、ペルム紀にこれら全てが繁栄し始めます。そして、ペルム紀の終わり(2億5千万年前)に地球史上最大規模とも言われる大量絶滅が起き、時代は恐竜が栄えた中生代へと入っていきます。
さて、この時代、古生代の1日(太陽時)の長さはというと、地球の自転速度は今より速く、約21.5時間(4億年前)ないし約23.5時間(2億5千万年前)であったことが、サンゴ化石の成長線の読み取りなどから推計されています。また、これは理論計算でも概ね同様です。一方、潮汐周期はというと、ネット検索では見つかりませんでしたので、自分で計算してみたのですが、今日の月の公転周期の遅れぐあいをそのまま引き伸ばしてみると、1億年で約0.2日長くなる計算になりますので、4億年前は約0.8日、2億5千万年前は約0.5日短かかっただけになりますから、今の潮汐周期(2周期で約24時間50分)の誤差範囲に収まってしまいます。
こうしたことを鑑みると、ヒトの「遠い海辺の時代の生命記憶」は大昔の4億年も前のことであり、一方、その当時の1日(太陽時)は今より2時間ほど短かったのが、だんだん長くなって、これについては逐次“上書き保存”されて、太陽時の生命記憶は24時間に“書き改められた”ものの、潮汐2周期の25時間だけはそのまましっかりと生命記憶されている、ということになるのですが、これは何だかおかしな感じがします。
その疑問を解消してくれるひとつの仮説があります。直立二足歩行する裸の猿「人類」の誕生を顧みたとき、これはエレイン・モーガン女史が提唱された人類水生進化説が、小生は正しいと思うのですが、初期人類は潮汐の影響をもろに受ける内湾の汽水域で長く暮らしていたものと想像され、これが億年前の生命記憶に重ねられたかどうかは分かりませんが、ついこの前(数百万年前から百万年単位の間)まで、ヒトは海辺の時代をしっかり経験し、それがために、今でも1日が約25時間という潮汐体内時計を根強く持ち続けているのではないのか。よって、どんな新生児にも“らせんに巻いた天の川”が現れるという現象を示すことになったのではないかと、想像されるのです。
だいぶ脇道へそれてしまいましたが、新生児が持ち備えている潮汐体内時計25時間というものが、半年も経たないうちに24時間太陽時に無理やり矯正され、馴染まされることになるも、なかにはしぶとく潮汐25時間を守り通したり、大きくなってぶり返すことも無きにしも非ずではないでしょうか。体がいったん覚えたものは、環境が変わっても、そう易々とは変えられない保守的な体質の方はいくらでもいらっしゃいます。
特に、大学生となって単身住まいとなると、朝、家族に無理やり起こされることもなくなり、しつこく25時間の潮汐体内時計を持ち続けている主は、体内時計のリセットが免れますから、ついつい夜寝るのが遅れがちとなり、とうとうお昼近くまで寝ているといった、昼夜が逆転した生活サイクルに陥りがちになります。
大学時代の小生が正しくそうで、一時は昼夜が完全に逆転するまでになってしまいました。これではいかんと徹夜(“徹昼”)して元に戻すも、すぐまた1日1日、夜のほうへずれよう、ずれようという力が働き、いかんともし難い生活を長く送ったものです。
この傾向は社会人になってからも続いたのですが、自宅からの出勤でしたから無理やりたたき起こされ、何とか体内時計をリセットして踏ん張ったものの、午前中の仕事は能率が上がらず、ために残業せざるを得なくなりました。でも、残業時は、めっちゃ能率が上がり、瞬く間に仕上げてしまっていました。
小生の体内時計が、24時間太陽時時計のほうが優位になったのは還暦を迎えた頃からでしょうか。年を食って睡眠時間が減ってきて、朝の太陽光の刺激で目が醒める、という自然のリセットが働き出し、夜遅くなると猛烈に睡魔が襲い、バタンキューで寝てしまうという理想的な睡眠形態にやっと入ることができました。
ところが、小生より少し年長の知人Nさんは、若かりし頃は2つの体内時計がどっこいどっこいの状態にあったものの、最近では潮汐25時間時計が圧倒的に優位となったのでしょう、深夜になっても目が冴え渡り、なかなか寝付けなくて悩んでおられます。
何とかならないかと相談を受けるも、ごく一般的なことしかアドバイスできず、いかんともしがたい状態です。古希を過ぎた方に、“毎朝、奥さんに叩き起こしてもらって朝からちゃんと仕事せえ”なんてことも言えず、ほとほと困っているところです。
まあ、ここは、夜型の生活スタイルを通しつつ、どこかで時々うまいこと折り合いを付ける、例えば時々半徹夜(“半徹昼”)してみたり、早く寝られたときには丑三つ時に起きてみたり、といった方法を試したりして、24時間太陽時時計が優位になる方法を、試行錯誤を重ねて見つけ出すしかないなあ、ということになりましょうか。
Nさん、こんなところで御免なさい。