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藤井達吉の全貌 野に咲く工芸 宙を見る絵画

2014-06-17 21:30:00 | 美術
見てきました

渋谷区立松濤美術館

会期は2014年6月10日から2014年7月27日。

今回は近代工芸の先駆者、藤井達吉(1881-1964)の全貌展。
後程触れますが、独学で大きな展覧会に出展することもなく制作を続けていたため記録も少なく、近代美術史で取り上げられることもありませんでした。
しかし、近年、その活動が見直されるようになり、展覧会の機会も増えてきました。
東京での藤井の展覧会は18年ぶりとのこと。

藤井の理想は「工芸家が同時にそれ自身が画家でもあり、建築家、彫刻家でもある」こと。
工芸は生活の中の存在であることを目指し、大衆へ向けた眼差しを持ちづつけました。
その活動は、七宝、刺繍、染色、金工、木工、陶芸、手漉き和紙。
日本画、墨画、油彩画、木版画、装丁など多岐に渡ります。
今回はそういった藤井の全盛期の作品を含め、全貌を展観する規模で構成された展示です。

まずは簡単に藤井について。
幼い頃から手先が器用だったそうで、"針吉"、"凧吉"とも呼ばれていたそうです。
1892(明治25)年に棚尾小学校を卒業すると、木綿問屋の尾白商会に奉公に出ます。
この会社では朝鮮半島に渡り砂金を金塊へ鋳造する仕事などをしました。
帰国後は美術学校への進学希望を父に伝えますが許されず、名古屋の服部七宝店に入社。
セントルイス万博で仕事をするために1904(明治37)年に渡米。
この際にボストン美術館で東西の美術品を目にする機会を得ます。
これが人生の転機だったかもしれません。
帰国後、服部七宝店を退社。
1905(明治38)年、上京し美術工芸家としてのキャリアをスタートさせるのです。

明治の終わりから大正時代にかけて、吾楽会、フュウザン会、装飾美術家協会、日本美術家協会、无型などの前衛的なグループに参加。
当時の気鋭の画家・彫刻家・工芸家と親しく交わりました。
型にとらわれない斬新な作品を生み出します。
また、家庭婦人向けの工芸の手引書を執筆。
更に官展に工芸部門を加えるための運動を行い、これは大正12年の帝国美術院への美術工芸部門設置という形で実を結びました。

昭和に入ると次第に中央から離れていきます。
大きな展覧会に出品することも、画商に作品を売り込むこともしなかったため、記録は少なく、近代美術史で取り上げられることは少なくなっていきました。
後半生は郷里での後進指導に重きを置き、特に、瀬戸の陶芸や小原の和紙工芸の現在の発展の基礎を築きます。
1964(昭和39)年、永眠。83歳でした。

「草木図屏風」
2曲1隻の屏風。
名前から見ればよくある作品。
ですが、これは木を彫ってあるもの。
そこに螺鈿の花などがちりばめられています。
変わっていておもしろい。

「うるし深山(裏:水辺の石)」
2曲1隻。
金色のように見える地に、白い水が流れる山の景色。
葉は色づき、山頂には金が施されています。
秋の景色。

「大島風物図屏風」
2曲1隻。
すごく素敵です。
藤井は1916(大正5)年川端龍子、鶴田吾郎らと伊豆大島へ旅行へ行きます。
この作品はその時の大島の記憶。
あらわされているのは椿の木々の間をあるく女と牛、そして海の見える景色。
金の布地の上に赤や青のビロード地の色布を、女の頭巾や前掛けには絣の布地をそのまま貼り付けています。
輪郭線は二重に細ひもを縫い付けて表現し、その上から着色も。
このような屏風があるなんて、という驚き。
とても温かみのある作品です。

「椿」
こちらも椿。
木に何かかかっているのですが(!?)寒さ除け!?
それとも、お祀りするみたいな感じなのかなぁ……
落ちた椿の花の色が鮮やかで美しいこと。
幻想的です。

「薊図」
チラシにも使われている作品。
2曲1双。
右隻が白い花。
左隻が赤い花。
これほどまでに大きくアザミを取り上げるとは。
その美しさにうっとりです。

「日光(朝)」「日光(昼)」「日光(夜)」
日光の景色を描いたもの。
(朝)は1本の白樺がすーっと伸び、若々しい印象です。
(昼)は紅葉の山。流れ落ちる滝の白さが眩しい。荘厳な空気感です。
(夜)は中禅寺湖畔。水面には山の影が映り込んでいます。手前には大きな枯れ木。空には星が輝き、これがまた素晴らしい。
静寂が漂うとともに、澄んだ空気も伝わってきそうです。

「草花図(裏表/表:藤井久和子)」
藤井にはは姉(篠)と二人の妹(くわ・ふさ)がいました。
また早くに母をなくした姪(悦子)を長く面倒見ていました。
この姉妹と姪はみな手芸を得意としていたそうで、藤井とともに制作し、当時の主要な展覧会にも出品していました。
そして賞を受賞するなどしていたそうです。
この作品も片面はくわの作品。
手先の器用さやセンスは遺伝なのでしょうか。
素晴らしいです。

「海辺の月」
なんだかマグリットを思い出しました。
竹のようなものが描かれ、空にはピンクの雲。
不思議な不思議な世界です。
色彩の組み合わせも面白く、大好きな作品。

「土星」
こんなにも変わった作品、見たことない。
掛け軸に描かれているのは土星。
暗い宙に浮かぶ輪のある土星。
周りには星が煌めいています。
星には金箔が使われているそうです。
すごく素敵な作品です。

藤井は日本画家としては1921(大正10)年に院展初入選。
院友にも推されたそうです。

「染付けあざみ模様ティーポット」「染付けあざみ模様小鉢」
藤井の初期の工芸作品。
これは絵付けのみだそうで、青であざみを描いています。
藤井作品、椿も多いけどあざみも多いなぁ……
可憐な花がかわいらしい。

「茶入(ゆめよ夢)」
楽焼で成形から絵付けまで手掛けたもの。
形も素朴です。
名前がいいな。

「草花図(茶室天井画)」
サクラソウなどの様々な花が、大きさ約40cmほどの板に描かれています。
藤井の後援者である、さる繊維会社の実業家の自宅に茶室を備えるにあたって、天井を飾るために描かれました。
この茶室は取り壊されてしまいましたが、天井画だけは残されました。
描かれているのは道端に咲いているような花たちばかり。
侘び寂びの茶室の中にはふさわしいのでしょう。
柔らかな線で描かれ、優しい印象です。

「創作染織図案集(限定50部のうち15号)」
1933(昭和8)年、文雅堂刊行。
図案は藤井、彫師は山岸主計、摺師は西村熊吉。
モチーフは草花で装飾的になっています。
おしゃれです。
紙は岐阜の"小原和紙"
このために特注で梳かせたものだそう。

「静物・花」
青い花瓶に不思議な花。
ルドンのグラン・ブーケを思い起こさせます。
色彩の組み合わせなど好みです。

2-15「大島遠望」
数少ない油彩です。
噴煙たなびく伊豆大島を描いています。
藤井は伊豆大島を甚く気に入っていたそうです。
私も行ってみたくなりました。
もちろん、椿の季節に。

このあたりには着物や帯などもありました。
親しい人たちに贈っていたそうです。
"使ってこそ工芸"と考えていた藤井の言葉どおり、贈られた人も使っていたそうで、その後もありました。

そこまで期待していた展示ではなかったのですが、とてもとてもおもしろい展示でした。
行ってよかった!!
おすすめの展示です。



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