見てきました![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0151.gif)
世田谷美術館![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0235.gif)
会期は2013年9月14日から2013年11月10日。
久しぶりに世田谷美術館行ってきました。
改装後初、かな。
相変わらず駅から遠いね……
世田谷美術館のコレクションってちょっと変わっている。
そんな印象があります。
万人受けする絵画ではなく、素朴派や美術教育を受けていない画家の作品や現代アートなど。
まぁ、ルソーは人気もあり"万人受けしない"作家ではありませんが。。
今回はその世田谷美術館が注目してきた素朴派とアウトサイダー・アートのコレクション展示です。
美術の専門教育を受けなかった画家たちが、どのような経緯で作品を作り出したのか、何が制作に向かわせたのか。
「余暇」「晩年」「放浪」「心の中」などのキーワードをもとに10コに分類され、関連する近現代の作品も合わせて約140点の展示です。
《1. 画家宣言―アンリ・ルソー》
パリの税関に22年間勤めながら独自の世界を描き出したルソー。
40歳から独学で描き始め、どんなに嘲笑されようと描くことをやめませんでした。
今回はそんな私も大好きなルソーの作品から始まります。
アンリ・ルソー「サン=ニコラ河岸から見たシテ島」
青い空に浮かぶ白い月。
シートのかかった荷物を見張る番人。
ルソーらしく大きさなどいろいろなところがおかしいのですが、それでも好き。
この作品は空が好き。
幻想的です。
アンリ・ルソー「フリュマンス・ビッシュの肖像」
広々とした野に立つ一人の男性。
ダリ風のヒゲを生やしたなかなかダンディな方。
ルソーは仲のいい人に肖像画を送るなどしましたが、この作品もそのように贈られたもの。
送った相手は思いを寄せていた女性。
ルソーはこの女性を2番目の妻に、と思っていたそうです。
で、この描かれている男性は女性の結婚相手。
??不倫……????
いえいえ。
ルソーはこの女性を思い贈り物攻撃としてこれをプレゼント。
この男性は亡くなってしまい、女性へと慰めの気持ちで送ったのだとか。
これは、、恋愛テクとして効果あるんでしょうか。。。
アンリ・ルソー「散歩(ビュット=ショーモン)」
パリ91区にある公園を描いたものだそう。
元は石の採掘場でしたがその後ゴミ捨て場になり、19世紀の都市開発で公園になりました。
エキゾチックな木々が並ぶ中、細い道がありその先には真っ暗な入り口。
これは人口の滝が流れ落ちる洞窟の入り口だそう。
パリで行きたいところが増えてしまったよ。。笑
《2.余暇に描く》
美術評論家のヴィルヘルム・ウーデによって第一次大戦後に"聖なる心の画家たち"という展示が開催されました。
ルソーほか4名の独学の画家達を紹介した展示です。
彼らの共通点は職業画家ではなかったこと。
ある程度年をとってから独学で描き始めています。
アンドレ・ボーシャン「地上の楽園」
森の中のようなところに全裸の男性と動物たちが描かれています。
赤いポピーのような花も咲きにぎやかなイメージ。
ボーシャンというと花瓶に溢れるほどの花を描いた作品が多いのですが、それは元々家業の造園に従事していたためでしょう。
カミーユ・ボンボワ「三人の盗人たち」
カミーユ・ボンボワは農場手伝いや道路工事、見世物のレスラーなどをしていました。
この作品には3人の女性が描かれています。
3人、女性、盗む……キャッツアイ!??
といきたいところですが。。
えっと、すんぐりむっくりな女性です、はい。
おばさん顔だし。。。
それぞれ赤、青、黒のミニワンピですが、なんとも。。
特に黒。手に折れた枝を手にして尻餅をついています。
その傍に散乱する果実。。
果物泥棒か……
ルイ・ ヴィヴァン「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」
郵便局員だったヴィヴァン。
数々の画家が描いたムーラン・ド・ラ・ギャレットが描かれています。
サイズやバランスはかなりおかしいですが、それでも引き込まれる不思議。
細かな線をいっぱい使って描いています。
オルネオーリ・メテルリ「楽師と猫」
オルネオーリ・メテルリは靴職人。
デザイナーとして国際コンクールの名誉審査員も務めたこともあるような人です。
芝居と音楽を愛し、チューバをやっていたそうですが、50歳で断念。
その後、絵を描きます。
サインのところには必ず婦人靴のシルエットも。
靴職人らしくていいですなぁ。
この作品にはトロンボーンを抱えた楽師と猫が静かな街の中にいる様子が描かれています。
バランスはおかしいし、ちょっと不思議な空間なのですが、ちょっと影とか秘密の感じがして好きです。
サー・ウィンストン・S・チャーチル「ループ・リヴァーの淵」
場面は森の中。
水の波紋が独特です。
緑が写り込んで鮮やか。
さて、このチャーチルさん。
イギリスの政治家。
知らない方はいない
第一時大戦の戦略ミスの責任をとり、引き篭もります。
それ以降、絵を描くことを趣味とし、どこに行くにも絵の具一式を持参していたとか。
政治思想からチャーチルに好感を持っていなかったピカソでさえも「チャーチルは画家を職業にしても、十分に食っていかれただろう」と評価していました。
作家としてもノーベル文学賞を受賞しています。
《3. 人生の夕映え》
ここでは引退後に描き始めた・作り始めた作家の作品が並んでいました。
エーリッヒ・ベデカー「カウボーイ」
炭鉱夫だったベデカー。
60歳の誕生日にもらった人形をきっかけに製作を始めます。
実物大の人形を約1000体も残しました。
これは木やコンクリート、金属などで作られたカウボーイ。
細長い顔、茶のテンガロンハット、切り株に腰をかけ、青い服を着たカウボーイ。
ディ〇ニーのヤツに似てる……
テンガロンハットの反り返った部分は金属の円盤をまげて使ったりと様々な工夫が見えました。
グランマ・モーゼス「川を渡っておばあちゃんの家へ」
モーゼスおばあちゃんと呼ばれ人気を誇るグランマ・モーゼス。
刺繍を趣味としていましたが、リウマチになったことをきっかけに絵を描きます。
75歳のときです。
その後はアメリカの農村の景色を絵本の世界のような可愛らしい色彩で描きました。
この作品も雪景色の中、橋を渡る人が描かれています。
描かれているいくつもの家はミニチュアのようでかわいらしい。
グランマ・フラン「とれたての野菜」
こちらもグランマです。
遠く離れた2歳の孫に手紙を書くために絵を描き始めます。
明るい色彩で農場とそこで働く、遊ぶ人々が描かれています。
男性は青い服、女性は赤い服。
にわとりに牛に野菜に。。
細かく描きこまれ、こちらも絵本の世界のよう。
塔本シスコ「秋の庭」
脳溢血のリハビリが絵筆を握ったきっかけ。
真ん中に描かれた薄は茎が青。
回りにはルソーが描くような緑色の濃い、熱帯の植物。
エキゾチックな印象を与えつつ、琳派の装飾性も感じられました。
おもしろい作品です。
《4. On the Street, On the Road ―道端と放浪の画家》
道端に座りながら描いた人。
放浪の中で目にした光景を描いた人。
ストリート・アーティスト、などなど少し境遇の変わった作家の作品が展示されていました。
ビル・トレイラー「人と犬のいる家」
奴隷の子として生まれます。
85歳で拾った鉛筆を使い描き始めました。
今回のチラシやポスターにも使われている作品です。
平面的な家の前に影絵のような犬。
屋根の上にはシルクハットの男性。
家の中では女性。
ともに指で上を指しています。
なんだろ、、不思議。
山下清「晩秋」
貼り絵とおにぎりでおなじみ(!?)、山下清。
ドラマでは旅先で制作していましたが、実際は旅から帰ってきてから制作していました。
この作品は木々が秋色に色づく里の景色。
空は大きな紙で貼られ、木々や家は小さな紙で制作されていました。
《5. 才能を見出されて―旧ユーゴスラヴィアの画家たち》
ユーゴスラビアは独自の国家を築く過程でイヴァン・ゲネラリッチという農民画家を発見します。
そして彼に続く素朴な画家たちは国民画家として国を代表するに至ったそう。
美術の世界などは国家動向を気にせず、ときにあえて逆らったりしますが、彼らの作品は国家の動向と結びつく傾向があったそうです。
今回、一番おもしろい発見だったのがここ。
旧ユーゴスラビアの文化ってまったく知りませんでした。
イヴァン・ゲネラリッチ「ダブル・ポートレート」
ガラス絵です。
そう、ここに展示されている作品はほぼガラス絵でした。
それがまたすごく綺麗なんです。
この作品は雪景色を背景に2人の男性が描かれているもの。
真ん中で区切られていて、真ん中は枯れ木に大きなきのこという秋の景色でした。
ミーヨ・コヴァチッチ「焼き物師」
とても幻想的です。
馬車の荷台に座る男性は何かを食べています。
茅葺屋根の絵本の中のような家が背景に立ち並び、不思議な空間となっていました。
イヴァン・ラツコヴィッチ「散在する村落」
描かれているのは冬の森。
枯れ木が立ち並ぶ中、中央に存在するのは木よりも大きな木製のテーブルのようなもの。
そこには青いクロスがかけられ、その上に家が立ち並んでいます。
端っこからは雪がおちるかのように家が落ちています。
そのテーブルの足元には大きな斧。
不思議な世界ですが、かなり好き。
マグリットとかが好きな人は好きなんじゃないかな。
イヴァン・ラツコヴィッチ「冬」
これは先程の作品と少し似ています。
冬の枯れ木の森。
空に写る飛ぶ鳥のシルエットが寂しげな冬を醸し出しています。
空のグラデーションがとっても綺麗。
空の色がたまらなく好きです。
イヴァン・ラブジン「神秘な光」
これも好き。
パステルカラーの空、そして雲。
空の真ん中に大きな穴があり、そこから雲がもくもくと連なって出てきています。
ピンクから青へ淡い色でグラデーション。
神秘的な雰囲気です。
明るい色だからか、穏やかな気持ちになる作品。
《6. 絵にして伝えたい―久永強》
カメラ店を営みクラシックカメラの修理の腕は一級品、な久永強。
あるとき、画家・香月泰男がシベリア抑留体験をもとに描いたシベリア・シリーズを見て衝撃を受けます。
「私のシベリアはこれではない。」
久永は、自らのシベリアを伝えるために描き始めました。
久永強「過ぎ去った50年の風景」
暗い暗い森の中。
1本だけ見える白樺の木。
この木だけ輝いて見えます。
希望だったりしたのかな、、とも。
久永強「レクイエム・その1」
シベリア抑留中はバーム鉄道建設の作業に携わっていたそうです。
そこでは1日のノルマが課せられ、昼間できないと夜も作業が続いたそう。
それは暗い暗い森の寒い寒い世界での出来事。
1日に300gの黒パンと雑穀のスープのみというひもじい食事で戦友は次々と亡くなっていったそう。
これはその友を埋葬する場面。
屍の着物は大切な物資。
死者から剥ぎ取るように指示されたそう。
極寒の地でのせめてものはなむけ、と思いつつも指示に背くわけにはいかない。
明日はわが身と思いつつ衣服を脱がせたそうです。
また衝撃的だったのが死体がバラバラになること。
あまりにも寒い地域のため、すぐに凍ってしまうそうです。
そのためぶつけたりすると折れたり割れたりしていまうのだとか。
そうならないように気をつけて埋葬するのもまた重労働だったそうです。
画面以上に重苦しい空気がそこには漂っていました。
久永強「鬼の現場監督」
1人のロシア人男性が描かれています。
顔の左半分は影になっていますが、見えている右半分からの印象は強烈。
青い目がじっとこちらを見つめています。
"私は忘れない。残忍な鬼の目を。"
久永強「東の国に渡る鳥」
空を見上げて鳥が見えたら。
翼が欲しい。帰りたい。
そんな気持ちが存分に伝わってくる作品。
ご飯が食べたい。母に会いたい。
そう言って亡くなった友の、そんな気持ちまで伝わってきます。
ここに展示されていたものはとても思いの詰まった作品でした。
素朴派とかそういったものではない。
伝えなければいけないという使命感に駆られての作品。
《7.シュルレアリスムに先駆けて》
ここはシュルレアリスム、、というか。
霊界や見えない世界など少し変わった作品が並んでいました。
モリス・ハーシュフィールド「母と子」
ポーランドに生まれたハーシュフィールド。
20歳前にアメリカに移住。
工場労働者として働き、数年後独立。
織物関係の世界で成功をおさめます。
しかし、健康を崩した1935年に仕事を辞めざるを得なくなります。
失望の淵で見つけたものが絵を描くことだったそう。
この作品も周囲に布織物の柄のようなものが細かく描き込まれています。
マッジ・ギル「"マイニナレスト"モーセ」
女性の顔がとにかくたくさん描かれています。
19歳で看護師となったマッジ・ギル。
38歳で守護霊と交霊します。
……んっ!??
そうゆうことですが。。
草間の作品にも女性の顔をたくさん描いたものがありますが、何か意味があるんだろうか。
草間彌生「ねぐらにかえる魂」
初期のコラージュ作品です。
夕暮れの森を飛ぶ鳥たち。
こちらを見るたくさんのフクロウ。
フクロウのあのらんらんとした目がだんだん水玉模様に見えてきました。。。
《8. アール・ブリュット》
アール・ブリュットとは「生の芸術」という意味。
主に、子どもや、正式な美術教育を受けずに発表する当てもないまま独自に作品を制作しつづけている人の芸術のことを指したりします。
ジャン・デュビュッフェは、生のままの芸術「アール・ブリュット」を提唱して戦後美術に大きな影響を与えました。
カレル・アペル「親猫・子猫」
らんらんと光る大きな目をした猫が3匹描かれています。
確かにこれは、、こどもの落書きか、、ととれます。
アウトサイダーアートとかアールブリュットとか難しいですね。。。
《9. 心の中をのぞいたら》
近代精神医学は20世紀初頭から、心に病を持つ人々の創作に注目してきました。
オーストリアの精神科医レオ・ナヴラティル博士は、患者の中に優れた芸術的才能をもつ人々を発見し、彼らが芸術家として生きる場所を作り出しました。
マリア・グギング国立神経科病院内にあった「グギング芸術家の家」活躍した作家の作品の展示です。
アドルフ・ヴェルフリ「ツィラー=タールの聖三位一体」
スイスの貧しい家庭に生まれたアドルフ。
両親に虐待されて育ち、成長すると農場労働者として働くように。
その後、軍隊に入り、精神病院へ。
精神病院への入院は三回も幼女相手に性犯罪をしたのが原因。
以後死ぬまで病院で生活します。
彼は自らを聖アドルフ巨大王国の王、聖アドルフ二世だと名乗りました。
29000ページ、45巻におよぶ聖アドルフとしての自伝も書いています。
エネルギッシュなんですね……
この作品も細かく細かく描かれていました。
上手いか下手か、芸術的センスは??と問われたら疑問ですが。。
ルイ・ステー「身振りをする6人」
建築家ル・コルビュジエの従兄弟です。
以前のル・コルビュジエの展示でその作品を見ましたが、この病院に入院していたんですね。。
指とインクで描かれた作品は躍動感ありました。
オスヴァルト・チルトナー「お辞儀をする人たち」
体がなく頭のしたから足が伸びている人たちが首を曲げています。
一定の感覚で描かれたその人たちの同じ行為は不思議です。
とても情報量の多い展示でした。
最後のほうは見ていて私も病んでくるんじゃないか、と思えてきましたが。。。
今回は職業画家ではない画家たちの作品。
描くことは自分を表現すること。
アートって普段の日常生活の中にあって身近なもの、と感じることができる展示でした。
とてもおすすめです。
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世田谷美術館
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会期は2013年9月14日から2013年11月10日。
久しぶりに世田谷美術館行ってきました。
改装後初、かな。
相変わらず駅から遠いね……
世田谷美術館のコレクションってちょっと変わっている。
そんな印象があります。
万人受けする絵画ではなく、素朴派や美術教育を受けていない画家の作品や現代アートなど。
まぁ、ルソーは人気もあり"万人受けしない"作家ではありませんが。。
今回はその世田谷美術館が注目してきた素朴派とアウトサイダー・アートのコレクション展示です。
美術の専門教育を受けなかった画家たちが、どのような経緯で作品を作り出したのか、何が制作に向かわせたのか。
「余暇」「晩年」「放浪」「心の中」などのキーワードをもとに10コに分類され、関連する近現代の作品も合わせて約140点の展示です。
《1. 画家宣言―アンリ・ルソー》
パリの税関に22年間勤めながら独自の世界を描き出したルソー。
40歳から独学で描き始め、どんなに嘲笑されようと描くことをやめませんでした。
今回はそんな私も大好きなルソーの作品から始まります。
アンリ・ルソー「サン=ニコラ河岸から見たシテ島」
青い空に浮かぶ白い月。
シートのかかった荷物を見張る番人。
ルソーらしく大きさなどいろいろなところがおかしいのですが、それでも好き。
この作品は空が好き。
幻想的です。
アンリ・ルソー「フリュマンス・ビッシュの肖像」
広々とした野に立つ一人の男性。
ダリ風のヒゲを生やしたなかなかダンディな方。
ルソーは仲のいい人に肖像画を送るなどしましたが、この作品もそのように贈られたもの。
送った相手は思いを寄せていた女性。
ルソーはこの女性を2番目の妻に、と思っていたそうです。
で、この描かれている男性は女性の結婚相手。
??不倫……????
いえいえ。
ルソーはこの女性を思い贈り物攻撃としてこれをプレゼント。
この男性は亡くなってしまい、女性へと慰めの気持ちで送ったのだとか。
これは、、恋愛テクとして効果あるんでしょうか。。。
アンリ・ルソー「散歩(ビュット=ショーモン)」
パリ91区にある公園を描いたものだそう。
元は石の採掘場でしたがその後ゴミ捨て場になり、19世紀の都市開発で公園になりました。
エキゾチックな木々が並ぶ中、細い道がありその先には真っ暗な入り口。
これは人口の滝が流れ落ちる洞窟の入り口だそう。
パリで行きたいところが増えてしまったよ。。笑
《2.余暇に描く》
美術評論家のヴィルヘルム・ウーデによって第一次大戦後に"聖なる心の画家たち"という展示が開催されました。
ルソーほか4名の独学の画家達を紹介した展示です。
彼らの共通点は職業画家ではなかったこと。
ある程度年をとってから独学で描き始めています。
アンドレ・ボーシャン「地上の楽園」
森の中のようなところに全裸の男性と動物たちが描かれています。
赤いポピーのような花も咲きにぎやかなイメージ。
ボーシャンというと花瓶に溢れるほどの花を描いた作品が多いのですが、それは元々家業の造園に従事していたためでしょう。
カミーユ・ボンボワ「三人の盗人たち」
カミーユ・ボンボワは農場手伝いや道路工事、見世物のレスラーなどをしていました。
この作品には3人の女性が描かれています。
3人、女性、盗む……キャッツアイ!??
といきたいところですが。。
えっと、すんぐりむっくりな女性です、はい。
おばさん顔だし。。。
それぞれ赤、青、黒のミニワンピですが、なんとも。。
特に黒。手に折れた枝を手にして尻餅をついています。
その傍に散乱する果実。。
果物泥棒か……
ルイ・ ヴィヴァン「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」
郵便局員だったヴィヴァン。
数々の画家が描いたムーラン・ド・ラ・ギャレットが描かれています。
サイズやバランスはかなりおかしいですが、それでも引き込まれる不思議。
細かな線をいっぱい使って描いています。
オルネオーリ・メテルリ「楽師と猫」
オルネオーリ・メテルリは靴職人。
デザイナーとして国際コンクールの名誉審査員も務めたこともあるような人です。
芝居と音楽を愛し、チューバをやっていたそうですが、50歳で断念。
その後、絵を描きます。
サインのところには必ず婦人靴のシルエットも。
靴職人らしくていいですなぁ。
この作品にはトロンボーンを抱えた楽師と猫が静かな街の中にいる様子が描かれています。
バランスはおかしいし、ちょっと不思議な空間なのですが、ちょっと影とか秘密の感じがして好きです。
サー・ウィンストン・S・チャーチル「ループ・リヴァーの淵」
場面は森の中。
水の波紋が独特です。
緑が写り込んで鮮やか。
さて、このチャーチルさん。
イギリスの政治家。
知らない方はいない
第一時大戦の戦略ミスの責任をとり、引き篭もります。
それ以降、絵を描くことを趣味とし、どこに行くにも絵の具一式を持参していたとか。
政治思想からチャーチルに好感を持っていなかったピカソでさえも「チャーチルは画家を職業にしても、十分に食っていかれただろう」と評価していました。
作家としてもノーベル文学賞を受賞しています。
《3. 人生の夕映え》
ここでは引退後に描き始めた・作り始めた作家の作品が並んでいました。
エーリッヒ・ベデカー「カウボーイ」
炭鉱夫だったベデカー。
60歳の誕生日にもらった人形をきっかけに製作を始めます。
実物大の人形を約1000体も残しました。
これは木やコンクリート、金属などで作られたカウボーイ。
細長い顔、茶のテンガロンハット、切り株に腰をかけ、青い服を着たカウボーイ。
ディ〇ニーのヤツに似てる……
テンガロンハットの反り返った部分は金属の円盤をまげて使ったりと様々な工夫が見えました。
グランマ・モーゼス「川を渡っておばあちゃんの家へ」
モーゼスおばあちゃんと呼ばれ人気を誇るグランマ・モーゼス。
刺繍を趣味としていましたが、リウマチになったことをきっかけに絵を描きます。
75歳のときです。
その後はアメリカの農村の景色を絵本の世界のような可愛らしい色彩で描きました。
この作品も雪景色の中、橋を渡る人が描かれています。
描かれているいくつもの家はミニチュアのようでかわいらしい。
グランマ・フラン「とれたての野菜」
こちらもグランマです。
遠く離れた2歳の孫に手紙を書くために絵を描き始めます。
明るい色彩で農場とそこで働く、遊ぶ人々が描かれています。
男性は青い服、女性は赤い服。
にわとりに牛に野菜に。。
細かく描きこまれ、こちらも絵本の世界のよう。
塔本シスコ「秋の庭」
脳溢血のリハビリが絵筆を握ったきっかけ。
真ん中に描かれた薄は茎が青。
回りにはルソーが描くような緑色の濃い、熱帯の植物。
エキゾチックな印象を与えつつ、琳派の装飾性も感じられました。
おもしろい作品です。
《4. On the Street, On the Road ―道端と放浪の画家》
道端に座りながら描いた人。
放浪の中で目にした光景を描いた人。
ストリート・アーティスト、などなど少し境遇の変わった作家の作品が展示されていました。
ビル・トレイラー「人と犬のいる家」
奴隷の子として生まれます。
85歳で拾った鉛筆を使い描き始めました。
今回のチラシやポスターにも使われている作品です。
平面的な家の前に影絵のような犬。
屋根の上にはシルクハットの男性。
家の中では女性。
ともに指で上を指しています。
なんだろ、、不思議。
山下清「晩秋」
貼り絵とおにぎりでおなじみ(!?)、山下清。
ドラマでは旅先で制作していましたが、実際は旅から帰ってきてから制作していました。
この作品は木々が秋色に色づく里の景色。
空は大きな紙で貼られ、木々や家は小さな紙で制作されていました。
《5. 才能を見出されて―旧ユーゴスラヴィアの画家たち》
ユーゴスラビアは独自の国家を築く過程でイヴァン・ゲネラリッチという農民画家を発見します。
そして彼に続く素朴な画家たちは国民画家として国を代表するに至ったそう。
美術の世界などは国家動向を気にせず、ときにあえて逆らったりしますが、彼らの作品は国家の動向と結びつく傾向があったそうです。
今回、一番おもしろい発見だったのがここ。
旧ユーゴスラビアの文化ってまったく知りませんでした。
イヴァン・ゲネラリッチ「ダブル・ポートレート」
ガラス絵です。
そう、ここに展示されている作品はほぼガラス絵でした。
それがまたすごく綺麗なんです。
この作品は雪景色を背景に2人の男性が描かれているもの。
真ん中で区切られていて、真ん中は枯れ木に大きなきのこという秋の景色でした。
ミーヨ・コヴァチッチ「焼き物師」
とても幻想的です。
馬車の荷台に座る男性は何かを食べています。
茅葺屋根の絵本の中のような家が背景に立ち並び、不思議な空間となっていました。
イヴァン・ラツコヴィッチ「散在する村落」
描かれているのは冬の森。
枯れ木が立ち並ぶ中、中央に存在するのは木よりも大きな木製のテーブルのようなもの。
そこには青いクロスがかけられ、その上に家が立ち並んでいます。
端っこからは雪がおちるかのように家が落ちています。
そのテーブルの足元には大きな斧。
不思議な世界ですが、かなり好き。
マグリットとかが好きな人は好きなんじゃないかな。
イヴァン・ラツコヴィッチ「冬」
これは先程の作品と少し似ています。
冬の枯れ木の森。
空に写る飛ぶ鳥のシルエットが寂しげな冬を醸し出しています。
空のグラデーションがとっても綺麗。
空の色がたまらなく好きです。
イヴァン・ラブジン「神秘な光」
これも好き。
パステルカラーの空、そして雲。
空の真ん中に大きな穴があり、そこから雲がもくもくと連なって出てきています。
ピンクから青へ淡い色でグラデーション。
神秘的な雰囲気です。
明るい色だからか、穏やかな気持ちになる作品。
《6. 絵にして伝えたい―久永強》
カメラ店を営みクラシックカメラの修理の腕は一級品、な久永強。
あるとき、画家・香月泰男がシベリア抑留体験をもとに描いたシベリア・シリーズを見て衝撃を受けます。
「私のシベリアはこれではない。」
久永は、自らのシベリアを伝えるために描き始めました。
久永強「過ぎ去った50年の風景」
暗い暗い森の中。
1本だけ見える白樺の木。
この木だけ輝いて見えます。
希望だったりしたのかな、、とも。
久永強「レクイエム・その1」
シベリア抑留中はバーム鉄道建設の作業に携わっていたそうです。
そこでは1日のノルマが課せられ、昼間できないと夜も作業が続いたそう。
それは暗い暗い森の寒い寒い世界での出来事。
1日に300gの黒パンと雑穀のスープのみというひもじい食事で戦友は次々と亡くなっていったそう。
これはその友を埋葬する場面。
屍の着物は大切な物資。
死者から剥ぎ取るように指示されたそう。
極寒の地でのせめてものはなむけ、と思いつつも指示に背くわけにはいかない。
明日はわが身と思いつつ衣服を脱がせたそうです。
また衝撃的だったのが死体がバラバラになること。
あまりにも寒い地域のため、すぐに凍ってしまうそうです。
そのためぶつけたりすると折れたり割れたりしていまうのだとか。
そうならないように気をつけて埋葬するのもまた重労働だったそうです。
画面以上に重苦しい空気がそこには漂っていました。
久永強「鬼の現場監督」
1人のロシア人男性が描かれています。
顔の左半分は影になっていますが、見えている右半分からの印象は強烈。
青い目がじっとこちらを見つめています。
"私は忘れない。残忍な鬼の目を。"
久永強「東の国に渡る鳥」
空を見上げて鳥が見えたら。
翼が欲しい。帰りたい。
そんな気持ちが存分に伝わってくる作品。
ご飯が食べたい。母に会いたい。
そう言って亡くなった友の、そんな気持ちまで伝わってきます。
ここに展示されていたものはとても思いの詰まった作品でした。
素朴派とかそういったものではない。
伝えなければいけないという使命感に駆られての作品。
《7.シュルレアリスムに先駆けて》
ここはシュルレアリスム、、というか。
霊界や見えない世界など少し変わった作品が並んでいました。
モリス・ハーシュフィールド「母と子」
ポーランドに生まれたハーシュフィールド。
20歳前にアメリカに移住。
工場労働者として働き、数年後独立。
織物関係の世界で成功をおさめます。
しかし、健康を崩した1935年に仕事を辞めざるを得なくなります。
失望の淵で見つけたものが絵を描くことだったそう。
この作品も周囲に布織物の柄のようなものが細かく描き込まれています。
マッジ・ギル「"マイニナレスト"モーセ」
女性の顔がとにかくたくさん描かれています。
19歳で看護師となったマッジ・ギル。
38歳で守護霊と交霊します。
……んっ!??
そうゆうことですが。。
草間の作品にも女性の顔をたくさん描いたものがありますが、何か意味があるんだろうか。
草間彌生「ねぐらにかえる魂」
初期のコラージュ作品です。
夕暮れの森を飛ぶ鳥たち。
こちらを見るたくさんのフクロウ。
フクロウのあのらんらんとした目がだんだん水玉模様に見えてきました。。。
《8. アール・ブリュット》
アール・ブリュットとは「生の芸術」という意味。
主に、子どもや、正式な美術教育を受けずに発表する当てもないまま独自に作品を制作しつづけている人の芸術のことを指したりします。
ジャン・デュビュッフェは、生のままの芸術「アール・ブリュット」を提唱して戦後美術に大きな影響を与えました。
カレル・アペル「親猫・子猫」
らんらんと光る大きな目をした猫が3匹描かれています。
確かにこれは、、こどもの落書きか、、ととれます。
アウトサイダーアートとかアールブリュットとか難しいですね。。。
《9. 心の中をのぞいたら》
近代精神医学は20世紀初頭から、心に病を持つ人々の創作に注目してきました。
オーストリアの精神科医レオ・ナヴラティル博士は、患者の中に優れた芸術的才能をもつ人々を発見し、彼らが芸術家として生きる場所を作り出しました。
マリア・グギング国立神経科病院内にあった「グギング芸術家の家」活躍した作家の作品の展示です。
アドルフ・ヴェルフリ「ツィラー=タールの聖三位一体」
スイスの貧しい家庭に生まれたアドルフ。
両親に虐待されて育ち、成長すると農場労働者として働くように。
その後、軍隊に入り、精神病院へ。
精神病院への入院は三回も幼女相手に性犯罪をしたのが原因。
以後死ぬまで病院で生活します。
彼は自らを聖アドルフ巨大王国の王、聖アドルフ二世だと名乗りました。
29000ページ、45巻におよぶ聖アドルフとしての自伝も書いています。
エネルギッシュなんですね……
この作品も細かく細かく描かれていました。
上手いか下手か、芸術的センスは??と問われたら疑問ですが。。
ルイ・ステー「身振りをする6人」
建築家ル・コルビュジエの従兄弟です。
以前のル・コルビュジエの展示でその作品を見ましたが、この病院に入院していたんですね。。
指とインクで描かれた作品は躍動感ありました。
オスヴァルト・チルトナー「お辞儀をする人たち」
体がなく頭のしたから足が伸びている人たちが首を曲げています。
一定の感覚で描かれたその人たちの同じ行為は不思議です。
とても情報量の多い展示でした。
最後のほうは見ていて私も病んでくるんじゃないか、と思えてきましたが。。。
今回は職業画家ではない画家たちの作品。
描くことは自分を表現すること。
アートって普段の日常生活の中にあって身近なもの、と感じることができる展示でした。
とてもおすすめです。
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