2020年12月23日 読売新聞「編集手帳」
作家の井上ひさしさんは貧しい学生時代を過ごした。
毎日キャベツばかり食べていたと、
随筆に書き留めている。
<わたしは醤油をかけた茹でキャベツを主食にしていた。
安く、
しかも大好きだったのでそういうことになったのだろう。
大量に食べると、
胃の調子もよかった。
なぜ胃にいいかについては「キャベジン」という胃腸薬が出来るまでは判らなかったけれど>
おいしいうえに胃に優しい野菜は最近、
家計にまで優しくなっている。
近所のスーパーで、
ひと玉100円で売られているのを見た。
宴会自粛などの影響らしい。
だが優しすぎるのも考えものだろう。
群馬県版の10大ニュースの3位、
猛暑を振り返る記事中にこうある。
<少雨により野菜の生育に影響が出た。
嬬恋村の特産キャベツは例年より小ぶりになり、
生産量も減った>。
夏の不作に冬の値崩れ。
群馬に限るまい。
もう一つ足せば、
春にも昨季の暖冬の影響で葉物野菜の値崩れが起こっている。
生産者にとっては苦しい1年が暮れようとしている。
この稿の中ほどあたりに、
<優>しいとあえて漢字で書いてみた。
人の横に、
憂いが立っている。