HOBNOBlog

ロンドンから徒然に

チャリング・クロス街

2009-01-14 | 文学
 日本にいた頃は帰宅前に書店に立ち寄るのが習慣になっていたので、ついついあれやこれやと買い込んでしまい、週に2~3冊のペースで読まないと追いつかないくらいになっていました。
 ところがいまやさっぱり。さすがに英語の小説だとすんなり読み進めるはずもなく、日本語の新刊は殆どまともに入ってこないか、あっても3倍くらいの値が付いたりするので、つい億劫になってしまいます。

 じゃ、Amazonを利用したら? そう、雑誌などならそれでも構わないのですが、ついコレクター心(?)が働いて、小説は“初版帯付き”で揃えるという、人から見たらどうでもいい拘りがあるもので、その確認のできないAmazonはつい敬遠してしまいます。それにさすがにロンドンまでだと配送料も数千円以上しますしね。

 それから何より、書店で少し立ち読みして自分のセンサーを働かせ、これから伸びそうな新人だとか隠れた名作だとかを見つけるのが楽しみなので、その辺りの日本の情報はさすがにロンドンに住んでいてはあまり匂ってこないのです。

 “見つける”という意味での醍醐味は何と言っても古本屋。書棚でこちらを待っていたに違いないと思うような作品に時を隔てて巡り逢うと、それだけで幸せになってしまいます。

 ロンドンで有名な古本屋街は“チャリング・クロス街Charing Cross Road”にあります。
 本好きな人は『チャリング・クロス街84番地』という本を思い出すかもしれません。NYに住む主人公の女流作家が、新聞広告で見つけたロンドンの古書店に、地元で見つけることのできなかった珍しい本を注文します。そこの主人からの丁寧な返信をきっかけに長年に渡る文通が始まるという心温まる話で、映画化もされています。



 この本のモデルになったのがチャリング・クロス街なのですが、本を読んで憧れて訪れると、ちょっとがっかりさせることになるかもしれません。
 もともと神田みたいに広範囲に渡って書店があるわけでもないのですが、最近は特にひとつ抜け、ふたつ抜け、元書店が単なる土産物屋や漢方の店やカフェに変わったりして、かつての面影はありません。

 それでもいくつかアートを専門にしている店は残っていて、そこを訪ねるのを楽しみにしていたのですが、今日店の前を通りかかるともぬけの殻。ドアに閉店の知らせが貼られていました。
 こんな調子で、いずれここが古本屋街だったことさえ知っている人がいなくなるのではないかと思うと寂しい限りです。