植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

なんと勿体ない 石井雙石さんの印を削るなんて

2023年03月06日 | 篆刻
ヤフオクで落札したお品が2口届きました。

例によって篆刻用印材ですが、今回はスペシャルで、非常に著名な篆刻家の側款がある印でありました。同じ方が2件同時に出品していて、生井子華先生作が1本と石井雙石先生2本でありました。

石井雙石(1873-1971)さんは、浜村蔵六・河井荃廬といった明治の偉大な篆刻に師事しましたた。 明治神宮、皇大神宮、東京大学などの官印を彫った昭和を代表する印人であります 。
また、 生井先生(1904-1989)は、西川寧さんを師とした篆刻家で、中村蘭台さんなどの影響を受け、篆刻界でも長老と呼ばれて重鎮として活躍し、河野隆さんなどの優れた弟子を育てています。

この方たちの印は、篆刻を学ぶ人のみならず、博物館級の文化的芸術的価値のあるものとして、1本5万円~10万円位で取引され、ヤフオクでもあっという間に5~6万円ほどに入札価格が上がっていくのを指をくわえてみるよりありません。

ところが、この3本は案外ウオッチが少なく、ほとんど価格が更新されなかったのです。最低落札価格が石井さんのが2本で15千円、生井さんが1本10千円。両方でなんと29,500円で落札できたのです。それにはちゃんとした訳がありました。通常、側款ありの印は印面にも彫があるので、出品者さんは本物である一つの証に捺した印影か、印面の写真を載せます。この2点の出品にはそれが付いていませんでした。横からの写真も斜めに切られて様な角度が付いていました。

蒐集家さんは、彫の無い印・潰した印なので、価値が低いと見たのです。ワタシが札を入れた時も、うすうすそれと気づいていました。そうでなければ、1本1万円などといった安い値段では入手できるはずも無いのです。

そして、届いた印がこれでありました。


もしかしたら印が彫ってあるかも、といった虫のいい淡い期待は裏切られ、案の定、3本共にすり潰されていました。この状態になったのは、①そもそも偽物で側款だけは似せて入れたが、肝心の印を彫るには未熟であった。②この印の所有者・使用者であった方が物故し、遺品整理に出した遺族が印の知識が乏しく故人の名前を出さないために削った、といった事情かもしれません。

その印に彫られた姓名や雅号が大変著名な書道家さん・日本画家さんのもので、実物の印を悪用して贋作を捏造されるのを恐れたのではないか、と推理しましたが。

こうした、時代物で有名作家の手になる篆刻印は、当然その「印面の彫り」が命であります。たとえ側款が本物であったとしても、字が彫られていなければその篆刻技術や世界観と言ったものにも触れられないのです。従って、価値も半減あるいはもっと少なくなります。どうして、そんな芸術性があり2度と復元できない歴史的な美術品を無価値に近いような状態に毀損するのか、それを理解できません。ワタシが1本1万円で落札した印は、もし印面が残っていればその10倍払う人が必ずいますよ。

それでも、側款はまず間違いなく先生方によるものと見えます。また、印材は寿山系の名石「杜陵坑」または「高山凍」であり、飾りの紐もその道の専門家(恐らく中国の職人さん)が丁寧に刻んだと思えるのです。50年から100年ほど前までは一級品の印材が産出されていました。往時の頂点に居た篆刻の大家が、その時期のもっとも高価で質のいい美しい石材を、依頼印として用いるということは想像に難くありません。つまりこれらの石は、今では入手困難な逸材である可能性が高いのであります。

従って、この三顆は、当然ながらもっとも貴重で大事にすべきコレクションに加えます。手持ちの収集物の中には、中島藍川さんなど同様に刻字なしのものも、あるいは複数の篆刻家さんが削っては、彫り直している時代物の印もあるのです。



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