人に会うのに出不精のぼくだが、昨日は西国分寺のナリガサワさん宅にカミさんと訪れた。ナリガサワさんは今年84歳になられ、出版の大先輩でもある。ナリガサワさんから自著の小説集を送って戴いたので、そのお礼を兼ねて、先週山で採ったすだちをお持ちした。40年前、うちのカミさんがナリガサワさんの経営する「食品流通経済」という生鮮食料品仲買人向けの業界雑誌を発行する会社にお世話になっていたことがあり、その後カミさんがぼくのいる出版社に転職し、ぼくとカミさんは知り合ったわけだが、そんな縁で、ぼくとカミさんが結婚した時にも、ささやかな8人の披露宴にナリガサワさんは来てくださった。以来、四十年のお付き合いになる。ナリガサワさんは網走の出身で、出版社を経営する傍ら小説を書き続けておられたようだ。お子さんもなく、自分の分身のような今まで書いた小説と最近の一遍を後世に残しておきたいとこの度単行本にまとめられた。そのほか今まで「軍事原論」や「いのちの書」など評論集もまとめてこられてきた。雑誌を造る傍ら、小説、評論活動と、ある意味、ぼくと生き方が似ているところがあって、ぼくは「ナリガサワ先生」と読んでいる。ご自宅で安らいだ後、近くの「夢庵」に行って奥さんと四人で食事をした。「今日は若い元気をいただきました」。84歳のナリガサワさんはヨタヨタ生きている61歳のぼくの手をそう言って固く握ってくださいました。ナリガサワさんは血圧が高く、食事中、「たぶん、逝くとなれば、脳梗塞か脳溢血でしよう」と言っておられた。確かに男の84歳は、もう突然いつ逝ってもおかしくない年齢だ。こうして一期一会をあい交わす時は、今日が最期かもしれない。そんなことを言っていて、ぼくのほうが早いかも知れない。いずれにしてもぼくたちにはこの世の時間が少なくなっている。ひとの一生、ぼくの人生、一期一会、そして、生き物はすべて消滅する哀しいものだ。
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