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飾釦

飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

ハネケの映画は哲学する#3…「ファニーゲーム」

2013-04-17 | Weblog

■製作年:1997年
■監督:ミヒャエル・ハネケ 
■出演:スザンネ・ローター、ウルリッヒ・ミューエ、フランク・ギーリング、他

 

後味が悪い映画No.1と巷で言われている?のがミヒャエル・ハネケ監督の「ファニー・ゲーム」。そのお墨付きの映画を見ました。後味が悪いとなると過去にラース・フォン・トリアー監督の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を見たときに数日引きずるような後味の悪さを感じたことがあるので、その「ファニー・ゲーム」を見るまなかなか時間がかかりました。私はここ最近は、夜寝る前に映画を見るという習慣がついているため、後味が悪いものを見てしまうと寝付きが悪くなるんじゃないかと心配してしまうのでした。ましてやミヒャエル・ハネケという世界的に評価の高い監督だけに半端ないんじゃないのかと想像してしまう・・・。

映画はクラシック音楽の曲をあてっこしながらドライブする平和な家族(父母と息子の)の映像から始まりますが、タイトルとともにいきなりヘビメタ調の、私などの年齢からすると騒音そのものでしかない激しい感情を掻き乱し、神経を逆撫でするかのような音楽へと変わります。この始まりはやっぱり尋常じゃない。家族はバカンスで別荘か何かへ来ているようで、妻が携帯電話で話ながら料理をしているところへ、卵を取りにきたという太めの青年がやって来ます。その青年の様子がどこかおかしい。わざともらった卵を落として割ってしまっているようだし、故意に妻の携帯電話をシンクの中に落として水浸しにしているように見える。招かざる客、ここから段々と空気が怪しくなってくるのですが、何気ない日常風景を描いているにもかかわらず、その緊張感が尋常ではありません。私はここまでの演出を見ていてハネケのすごさを感じずにはいられませんでした。

 

その後、太めの青年の仲間の男がやってきて、一気に家族は恐怖のどん底に落とされ戦慄の展開へとなだれ込んでいきます。怨恨でも物取りでもない、ただゲームを楽しむような殺人、その描き方が半端なく冷血で、下手なホラー映画より数段怖いのです。罪の意識なく子供から父親、そして母親と殺していくその様は鑑賞者のこの凍りつくような恐怖と憤り、怒りの感覚が湧いてきます。それは見てみないとわからないとしかいいようがないほどのもの。全くハネケはなんという映画を作ったのだと。後味が悪いとは救いがないということ。カタルシスが全然ないのです。だから、嫌な感覚だけが残される映画となるわけです。しかし、演出において傑出しているのは、殺害においてホラー映画のように残酷なシーンを映していないことです。そのプロセスで見るものを凍らせるのです。

 

途中、殺人者の男が画面から観客に向かって語りかけるところがあり、その不意の展開も驚きです。「まだ映画の上映時間には足りないんだぜ」との語り口は、観客をこの無慈悲で不条理な殺人をゲームを楽しむ傍観者のように巻き込んでくるからです。その大胆不適な演出!さらには、子供が殺され夫婦2人になったとき、女が銃を手に取り、太っている若い青年を撃ってしまう反撃の場面があったのですが、あっと思ったら突然画面が停止し、あれっ?と言う間に映像がビデオの早戻しのように女が銃を手にする前に戻り、そんなことはなかったんだよ、とばかりやり直しが始まり、結果女は銃を取り損ね、逆に銃を取った男が夫を撃って殺してしまうという、なんともやるせなく厳しい展開を見せたのも一層辛く感じたのでした。これとは全く違う展開ですが、私は夢の中であることをやろうとするのですが、上手くいかず何度もやり直すということを見ることがあるので、この巻き戻しの映像のところは、すごい感性だなと思いました。 ミヒャエル・ハネケ監督はただものではない。芸術家としての映画監督というカテゴリーがあるならば、すごい作家だなと痛感しました。ただただ、びっくりです。

ファニーゲーム [DVD]
スザンヌ・ローター,ウルリヒ・ミューエ,アルノ・フリッシェ,フランク・ギーリング
アミューズソフトエンタテインメント

 

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