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「豚と軍艦」(1961年)
■製 作:日活
■製作年:1961年
■監 督:今村昌平
■出 演:長門裕之、吉村実子、丹波哲郎、加藤武、小沢昭一、南田洋子、他
冒頭、横須賀の夜の繁華街をワンカットでカメラがパンをして、そこに集う群像を描いたシーンが、まず素晴らしい。それは、夜半に照らされた電球に吸い寄せられた昆虫のように蠢く眠れないモンモンたち、今からそこで繰り広げられようとする猥雑性が見事に表現されいはいないか。そこに映っているのは、アメリカ水兵らや風切ってあるく地場のチンピラ達、これから始まる物語を予感しているのだ。
今村昌平は、背景としての人物をただの通行人とはしていない。それは通行人のレベルの域を超えてそこに生きている住人としてキッチリと存在感をもって演出している。実にきめ細やかなのである。それはさりげないシーンにも見ることができる。たとえば、貧乏長屋で殿山が寝ている横を大きなネズミを横切るところがある。それだけで彼が住んでいる環境と生活が演出されているわけだ。
そして何よりもこの映画がエネルギッシュに感じられるのは、それぞれの登場人物が個性的に色分けされており、喜怒哀楽を剥きだしに表現しながら、基本的には躍動感を持って演技をしているからであろう。そこにテンポのいい今村の演出がさらにそれを倍増させる。
この映画が創られたのは1961年、なんとボクが生まれた年である。あたり前といえばあたり前だが、映画に見ることができる風俗や風景はレトロな時代を感じるものの、登場人物たちひとりひとりがイキイキと描かれているため、とても46年前の映画とは思えないほどパワーを持っている。当時はCG技術などあるわけないので、映像はカメラに映ったものすべて捉えてしまう。つまり現場のリアル感がモロ出てしまう。そういったことを差し引いてみても、この「豚と軍艦」は今の映像と負けないほどの存在感があると、言いたいのである。
ところで、リアルといえばトッツポイあんちゃんを演じ主演をはった長門裕之は、ホントにサザンの桑田に似ているなとつくづく思う。その長門演じる気の弱いチンピラは、最後でピストルで撃たれのたうち回りながらトイレの便器の中に顔を突っ込みながら壮絶な死を見せる。このシーンは、貧しさから脱出したい、それに対しヤクザからの誘惑にチャンスとばかりやすやすと乗ってしまう、そんな危うくい青年のみじめな死を描いており、その説得力は中途半端な青春映画よりもずっと重く迫ってくる。それを観ていてボクはワイダ監督の名作「灰とダイヤモンド」のラストシーンを想起させられたのだった。
しかし、凄まじいのが今村の演出指示である。“今村昌平が僕の目の前で、「十日前にトイレのセットをつくってくれ。そこで、スタッフは全部ウンチなりオシッコなりしろ。それで、流すな。」、そういうことを命令するわけですよ。冗談じゃねえよって気分ですよね、こっちは。そしたら、美術の皆さんが、そんなことはできないからっていうんで、本当にリアルなウンチをつくってくれて、これは嬉しかったな。本番では、その中へ思い切り顔をぐしゃぐしゃっと突っ込みましたよ。”と長門は語っている。(村松友視著「今平犯科帳」NHK出版より引用)冗談か本気なのかわからない今村の姿勢には驚くしかないのだ。
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今村昌平は、背景としての人物をただの通行人とはしていない。それは通行人のレベルの域を超えてそこに生きている住人としてキッチリと存在感をもって演出している。実にきめ細やかなのである。それはさりげないシーンにも見ることができる。たとえば、貧乏長屋で殿山が寝ている横を大きなネズミを横切るところがある。それだけで彼が住んでいる環境と生活が演出されているわけだ。
そして何よりもこの映画がエネルギッシュに感じられるのは、それぞれの登場人物が個性的に色分けされており、喜怒哀楽を剥きだしに表現しながら、基本的には躍動感を持って演技をしているからであろう。そこにテンポのいい今村の演出がさらにそれを倍増させる。
この映画が創られたのは1961年、なんとボクが生まれた年である。あたり前といえばあたり前だが、映画に見ることができる風俗や風景はレトロな時代を感じるものの、登場人物たちひとりひとりがイキイキと描かれているため、とても46年前の映画とは思えないほどパワーを持っている。当時はCG技術などあるわけないので、映像はカメラに映ったものすべて捉えてしまう。つまり現場のリアル感がモロ出てしまう。そういったことを差し引いてみても、この「豚と軍艦」は今の映像と負けないほどの存在感があると、言いたいのである。
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しかし、凄まじいのが今村の演出指示である。“今村昌平が僕の目の前で、「十日前にトイレのセットをつくってくれ。そこで、スタッフは全部ウンチなりオシッコなりしろ。それで、流すな。」、そういうことを命令するわけですよ。冗談じゃねえよって気分ですよね、こっちは。そしたら、美術の皆さんが、そんなことはできないからっていうんで、本当にリアルなウンチをつくってくれて、これは嬉しかったな。本番では、その中へ思い切り顔をぐしゃぐしゃっと突っ込みましたよ。”と長門は語っている。(村松友視著「今平犯科帳」NHK出版より引用)冗談か本気なのかわからない今村の姿勢には驚くしかないのだ。
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