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映画「ある過去の行方」(監督:アスガー・ファルハディ)を見た

2014-04-22 | Weblog

■製作年:2013年
■監督:アスガー・ファルハディ
■出演:ベレニス・ベジョ、タハール・ラヒム、アリ・モッサファ、他

現在活躍する映画監督のなかで、実に緻密にかつ繊細に描くことができる作家の一人がイランのアスガー・ファルハディだと思います。彼の映画はまるで文学作品を味わうような感覚で見ることができます。アスガー・ファルディ監督の近作の数々は、ベルリン映画祭、アカデミー賞、カンヌ映画祭と世界的な映画祭において何らかの賞を受賞しており、最早、大物映画監督であると言っても過言ではありません。あまり知られていないのかもしれませんが、イランは非常に質の高い映画を送り出しているのです。

 

この映画「ある過去の行方」も非常に繊細な映像が緻密に重ねられて展開していきます。スクリーンに映し出される映像は、ハリウッド映画に見られるようなこれみよがしのエンターテイメント性や、あるいは、CGによる人工的な空間性などというものは全くありません。ありふれた生活感ある風景の中で語られていくのです。この映画はパリが舞台となっているのですが、もしパリと映画の中で語られなかったら、そこがパリであるとは気がつかないと思います。そこではよく知られている観光的なパリらしさというものは映りません。文化都市パリではなく、どこの国でも見られるであろう風景、人が生活し、生活臭溢れる雑多なる居住空間で繰り広げられる男と女の話、これが「ある過去の行方」なのです。

 

一人の女性を巡って彼女と離縁しようとする男、彼女と再婚しようとする男、そして彼女と彼ら、または、彼らとは別の男との間に生まれた子供達が一つ屋根の下で出会います。その複雑な関係性とそこから生まれる些細なトラブルはすべて過去の産物であり、タイトルにあるように<過去>の行方として<今ここ>の現在時間の中で人間模様が交錯するのです。途中からはちょっとしたサスペンスもどきに展開を見せるものの、基本的には地道でしっかりした監督の演出により過去の痕跡としての現在が鮮烈に浮かび上がり、<生きる>ということがヒシヒシとクローズアップされてくるのです。

 

現在という時間は過去の延長であり、どうしても過去の呪縛を受けざる得ないのですが、登場人物はいずれもその過去を引きずったまま、現在を好転的に変えることができずもがいています。過去をどうとらえ消化していくのか?過去の連続性の先にある<今ここ>としての私、その<今ここ>を生きる私、それを考えずにはいられない映画でした。最後に見せる涙は、まさに現在に<生きる>故に流すことができる雫なのです。じわっとくるいい映画でした。

於:「新宿シネマカリテ」にて 

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