新◻️163『岡山の今昔』新見から高梁へ

2021-12-23 09:12:35 | Weblog
163『岡山の史と岡山人』新見から高梁へ

 それから、新見からの南方向への線路が伯備線(はくびせん)であって、こちらは高梁川沿いを辿って、やや東に偏(かたよ)りを見せつつ南下する。こちらの鉄路は、ほぼ現在の国道180号線沿いを辿る。新見を出た列車は、まずは石蟹(いしが)の駅に滑り込む。
 ついでにこの駅で下車してみよう。国道180号線を約2キロメートル北に行き、正田の交差点を左折してから高梁川を渡る。今度は、本郷川に沿って上流に約1キロメートルで金谷へ。さらに、本郷かわと河本ダムのある西川との合流点付近の川原に行くと、その辺りには約2億年前の石灰岩とそれに隣接しての花こう岩の地層が見られるとともに、方解石やガーネットといった種々の鉱石が拝見できるとのこと(柴山元彦「ひとりで探せる川原や海辺のきれいな石の図鑑」創元社、2017)。
  さて、鉄路に戻ろう。石蟹からは、井倉(いくら)へと南下していく。井倉駅から出て直ぐの左に見えるのが井倉洞(岡山県高梁川上流県立自然公園にも指定されている天然記念物にして、新見市井倉にある)である。そこから「下流へ約8キロメートルの間をいい、高梁川がカルスト台地たる阿哲台の石灰石を深くV字状に刻み、蛇行して流れ峡谷をつくっている」(立石憲利「高梁川上流の渓谷」:「日本の湖沼と渓谷」2中国・四国、ぎょうせい、1987に所収)と紹介されている。
 日本三大鍾乳洞の一つとされ、石灰岩が堆積した地層が隆起したものであるとも、阿哲台地の石灰岩地帯に長年雨水等が浸食してできたとも説明される。高梁川の流れに寄り添ってあることから、井倉駅から方谷駅にかけては、井倉峡だと言われる。そんな井倉洞だが、全長が1200メートルもあるという上に、高低の落差も相当に上るらしい。鍾乳洞の入口のあるところは、高さ240メートルの石灰岩の絶壁が聳える麓にあると言われる。さても、伯備線の列車に乗っている自分の目を見開いていると、高梁川沿いにそそり立つ絶壁の壁面には、たしかに割れ目のような入口が見て取れる。
 物の本や多くのガイドによると、入り口を入って暫く行ったところには「月ロケット」と呼ばれる竪坑が上に伸びており、さらに上ると「水晶殿」「鬼の手袋」まで行って水平方向に転回し、さらに奥へ奥へと続いていく。それらの行程の道すがら、に入って行くにつれ、鍾乳石が天井からぶら下がっての「つらら石」や、下からタケノコのように生えてきたかの「石筍」(せきじゅん)などの形となって、しつらえられた照明に浮かび上がってくるのだという。聞けば、その姿は「まるで美しい石のカーテン」だの「まさに幻想の世界」だとか、さまざまに称賛される。私もいつか時間を得て、ひんやりした空気を感じながらも、ここを訪ね歩いてみたいものだ。
 有名な鍾乳洞といえば、もちろん、この井倉洞ばかりではあるまい。こういう場合、日本人は「3大」云々と喧伝しがちなのだが、競争じみて来ると、反面見えなくなってくるものが多くあるのではないか。ここではやはりどれも素晴らしい内容と景観ということなのであり、それぞれの特徴を中心に愛(め)でればよいのではないか。山口県にある秋芳洞(あきよしどう)の延長は約10キロメートルと言われており、同じ中国地方にあって、地層などでどう関係しているのか興味深い。岩手県にある龍泉洞(りゅうせんどう)については、この洞内に住むコウモリと共に国の天然記念物に指定されているのが珍しい。こちらの総延長は知られている所で3.6キロメートルだとか。高知県にある龍河洞(りゅうがどう)の泉洞だが、こちらの見所は、奥の方から湧き出る清水が数カ所にわかって深い地底湖を形成していることにあるという。人間などまだ一人としていない頃に、かつて海中にあった生物の残骸、化石として堆積されていたものが地層とともに隆起して来た。生物のそれこそ気の遠くなるような年月に亘ってつくられていったことに、敬意を表したいものだ。
 さて、井倉洞を過ぎてからは、そのまま白絹を掛けたような趣のある絹掛(きぬがけ)の滝、鬼女洞などが織りなす井倉峡の渓谷美を間近に堪能しながら方谷(ほうこく)、次いで備中川面、木野山へと下っていく。この「方谷」という駅名は、藩政改革に功のあった山田方谷を記念して名付けられた。木野山までやってくると、訪れる者の目の前にはもう現在の高梁市の北に聳える臥牛山(がぎゅうざん)の勇姿が目前に迫りつつある。
 この中流域からの高梁川は、古来からしばしば歌に詩に詠まれてきた。明治以降の例でいうと、岡山の女流詩人の永瀬清子の作品「美しい三人の姉妹」に、こうある。
 「高い切り崖(ぎし)にはさまれた高梁川は/気性のいさぎよい末の娘。/奇(めず)らしい石灰岩のたたずまいに/白いしぶきが虹となる。/山々はカナリヤの柔毛のように/若葉が燃えだし/焔(ほのお)のように紅葉がいろどる/そそり立つ岩壁の足もとに/碧(あお)い珠玉(たま)をところどころに抱いて/歴史をちりばめ、地誌を飾り/いつもお前の魅力は尽きない。」(『少年少女風土記、ふるさとを訪ねて[Ⅱ]岡山』(1959年2月、泰光堂)。

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