新◻️36『岡山の今昔』伝統文化(神事や踊り)

2021-12-04 09:45:04 | Weblog

36『岡山の今昔』伝統文化(神事や踊り)

 さて、日本伝統文化には、神事にまつわるものが多い。近代に入っては、その神のありがたさ、「こ利益」のかなりがはく落してきた。とはいえ、「無病息災」や「家族安寧、家内安全」「金運」などへの期待は、形をかえ、現代に息づく。
 そこで、すこしばかり紹介したいのは、他でもない、岡山に伝わる文化の一つとして、地元の人々に古代もしくは近世から受けつがれて来ているもの(思い)を、歌や踊りなどを介在させながら演じる行事のことだ。
 ごく主な行事をひもとくと、「備中神楽(びつちゅうかぐら)」、「白石踊り」、「護法祭り」、「牛窓唐子踊り」、「西大寺会陽(さいだいじえよう)の祭り」、「阿波(あば)八幡神社花祭り」などがあろう。

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 これらのうち備中神楽というのは、荒ぶれた魂を鎮めるための「荒神神楽(こうじんかくら)」を源流とするも、江戸時代末期の神官、西林国橋(にしばやしこっきょう)が「古事記」「日本書記」などの記述を参考に「神代神楽」を考案したと伝わる。
 その背景にあったのは、「何年も凶作が続いた江戸末期のこと、神の怒りを解くため年一度の氏神さまの祭礼を盛大に行い、神楽を奉納することになった。そこで、それまでの神楽とは異なった題材が考えだされ、古事記や日本書記に取材して神話劇がつくられた。内容が平易で楽しめることから各地に普及し、現在の盛況をみた」(研秀出版による「日本の民話」12、1977)とされる。

 勇ましくもメリハリ効いた古代衣服に身を包み、ダイナミックに踊る。「ストーリー性が豊かな神話劇」との評価があり、五穀豊穣、家内安全を願う庶民の味方として、現在においてもファンが多いとのこと。
 なお、当地には、江戸時代の1648年(慶安元年)、備中松山藩主、水谷勝隆(みずたにかつたか)の肝いりで始まったともされる、五穀豊穣と町屋の繁栄を祈っての夏の風物詩「備中高梁松山踊り」とも親和性があるのではないだろうか。

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 白石踊りは、笠岡市白石島、それは、笠岡港の沖合約16キロメートルの瀬戸内海に浮かぶ、その小さな島に伝わる盆踊りで、毎年8月13日~16日の夜に行われる。大宮踊、備中松山踊りと並んで、岡山県下三大踊りの一つともされる。
 一つの口説き(音頭)に合わせて、男踊・女踊・娘踊(月見踊)・笠踊・奴踊・扇踊など13種類の踊りがあるとのことで、
音頭には「那須与一」などがある。
 その由来は、かの源平による水島合戦の戦死者の霊を弔うためであるらしい。重要無形民俗文化財に選定されているとのこと。ビデオで垣間見るのは、いかにも、「古式ゆかしい盆踊り」との評判にたがわず、潮騒の音まてがこちらに聞こえてくるかのようだ。

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 3つ目に、牛窓唐子踊りをご存知だろうか。こちらは、朝鮮からの「通信使」が牛窓を宿としていたのと、関係があるらしく、例えば、こう言われる。
 「その牛窓に現在も伝えられている稚児舞(ちごまい)が唐子(からこ)踊り。「こんねんはじめてにほんへわたり、にほんのみかどはおりません」歌詞の意味は不明だが、朝鮮語らしき部分もあり、朝鮮通信使の影響があることはあきらかだ。」(赤岩州五、北吉洋一「藩と県、日本各地の意外なつながり」草思社、2010)

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 次に移ろう。護法祭(りょうざんじごほうさい)というのは、毎年8月14日から15日にかけて行われる、仏法擁護、伽藍安全の守護神である「二上山鎮守護法善神」に祈念する奇祭で、県指定重要無形民俗文化財に認定されているとのこと。場所的には、三咲町の両山寺、それに隣接する久米南町の清水寺と両仙寺で現代に伝わる。
 その中でも最古とされるのが、両山寺の祭りにして、境内に氏子(うじこ)たちを迎えて派手に執り行われるという。
 どれくらい古いのかというと、1275年(建治元年)、時の両山寺の僧・定乗が、護法善神より託宣を得て、天下泰平・風雨順時、五穀豊穣・万民豊楽を願うものだ。なお、護法善神とは、仏教を守る守護神・鎮守として両山寺本堂の北上にある二上神社にその社があるとのこと。

 こちらのルポルタージュとしては、さしあたり、久保田裕道氏の著作「日本の祭り解剖図鑑」(株式会社エクスナレッジ、2018)を中心に紹介したい。こちらでは、各場面が絵入りで紹介されているので、便利だ。つまるところ、そのクライマックス場面が実に変わっていて、護法実(ごほうざね)と呼ばれる男性と護法善神(通称は「ゴーサマ」)とが登場して、かなりの立ち回りを演じている。なにしろ、神と仏が混合したかのような護法善神を境内に招き入れた後には、その神が護法実に乗り移る。護法実の頭には、紙手(しで)と呼ばれる帽子のようなものが乗っかっていて、多数の半紙を重ね作っているのだという、すなわち、はじめから神がかりなのだ。まあ、そこまでは、なんとなく頷けよう。
 そして、お迎えした護法善神の化身は、「境内をお遊びになる」というのだが、そのやり方が尋常ではない。しかも、彼には、「ケイゴ」の異名をもつ少年たちが動員されて、身辺警護を務めているとのこと。つまり、「ザ・ガードマン」たちがいるのだ。この祭りのクライマックスは、「手火」と呼ばれる大きめの松明(たいまつ)の火を消してから始まるという。そして、護法実が暗闇の中を寺の周囲を走り回り、観客は捕まらないよう逃げまどうというのだから、驚きだ。
 しかも、「もしこの護法実を、邪魔するなどして、捕まれば、その人は3年以内に死ぬと伝えられているから恐ろしい」(前掲書)とも。これに取り入れてあるのは、仏教ばかりではなくて、バラモン教、ヒンドゥー教、ゾロアスター教の影響もあるような、そんな気がするのだがいかがであろうか。

(続く)

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