○○82『自然と人間の歴史・日本篇』神話・伝承による国家争奪の過程(天孫降臨とその後)

2017-07-08 08:08:39 | Weblog

82『自然と人間の歴史・日本篇』神話・伝承による国家争奪の過程(天孫降臨とその後)

 こうして武力もしくは懐柔など、あの手この手を使って地上を制したアマテラスは、自分の息のかかった孫のニニギノミコトらの神々を地上の九州に遣わす。この関係であるが、ニニギノミコトは女性神であるアマテラスの孫にして、天忍穂耳尊(アマノオシホミミノミコト)の子というのであっても、血筋がどう繋がっているかはなんら語られていない。アマテラスがどんなにして、その子の親を懐胎したのかは問うべくもない、それが神のなすことであるから、人知の及ぶところでない、ということになっているのかもしれない。これを「天孫降臨」(てんそんこうりん)と呼んでいる。
 さあ、これでオオクニヌシに代わってこの国を治める、新しい支配者が現れるための前提がととのった。このようにして、平定された葦原中国にニニギノミコトが降り立つ。そこに忠臣として登場した猿田彦命(サルタヒコノミコト)を道案内に従え、三種の神器を携え高千穂(たかちほ、現在の九州の宮崎県高千穂町あたりか)にやって来る。地上に住み出したニニギノミコトは、そこで木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)と出会い、二人は恋になり、結婚する。こうして彼らは、日本列島版の創世記・人間の登場の巻というべきか、かの「アダムとイブ」の関係になったのだ。その子供は二人いて、兄が火照命(ホデリノミコト、通称は海幸彦(ウミサチヒコ))、弟の方を彦火火出見尊(ホデミノミコト、通称は山幸彦(ヤマサチヒコ))というのであった。
 ところが、この両人は仲が良くなくて、とうとう争いを起こす。海の呪力を得た弟・山幸彦に、兄・海幸彦は劣勢に陥り、約束して服従ことになる。勝利者となった山幸彦は、かねて親しく霊力をもらっていた、海神の娘である豊玉姫命(トヨタマヒメノミコト、略称はトヨタマヒメ)との間に一人の子を設ける。ところが、これから出産という時になって異形の姿を山幸彦に見られてしまったトヨタマヒメは、子供を生みに実家へ帰ってしまう。そして生まれた山幸彦の子はトヨタマヒメの妹を娶り、二人の間に4人の子が生まれる。それがイツセ、イナヒ、ミケヌ、カムヤマトイワレビコとある。これらのうち末子の正式名称カムヤマトイワレビトが、後に「神武大王」(じんむだいおう)として即位する。先に天孫降臨したニニギノミコトから4代目のことであった。この神武大王については、明治時代に入って、政府が墳墓を懸命に探したのであったが、見つからず、ついに諦めてしまったことがある。
 彼は、おそらく、その儘の内容での実在の人物ではなかった。ただし、そういう人物が確実にいなかったという証拠も見つかっていないのであるから、ここでは、そういう人物がわが国古代の伝説的に「正史」に組み込まれていることを、承知してもらいたい。そこで、彼のその後であるが、おそらくは西の方からやって来て、播磨からは最短ルートで大和(現在の奈良県)に進入するのではなく、あえて紀伊半島の熊野に迂回して、そこから太陽を背にして敵に向かう戦法をとることとし、夢のお告げで「佐土不都(さどふつ)」と呼ばれる七支刀(しちしとう)を受け取り、それをかざして敵をなぎ倒し、大和の地に入ることができた。ちなみに、この刀が石上神宮(いしのかみじんぐう)に伝わっているとの記述のあることから、国宝として伝わっている七支刀との関係を取り沙汰する向きもあるようだ。物語はこれから後半に入り、神々の支配から、大王、その後さらに天皇による支配へと移っていく。

(続く)

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