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【cinema】『めがね』

2007-10-07 00:55:10 | cinema
'07.09.30 『めがね』@TOHOシネマズ市川コルトン

これは見たかった。『かもめ食堂』のスタッフ&キャストが再び集まって撮った映画。『かもめ食堂』は好きだった。

「プロペラ機で南の島に降り立ったタエコ。手書きの地図をたよりに浜辺の宿ハマダに到着する。宿の主人ユージも先客サクラも一風変わった人々で・・・」という話。前作『かもめ食堂』以上に特に何の事件も起きない淡々とした映画。セリフもあまりない。登場人物たちも島の高校教師ハルナがタエコに時々つっかっかる以外は、特に踏み込むでもなく、突き放すでもない絶妙な距離の取り方をする。ユージとサクラのその佇まいはスゴイ。実際、身近にいたら気になる存在ではあると思うけど、どこか不安になる気がする。受け入れてくれているようで、受け入れられていない。そのくせ全て分かってくれているような不思議な感じ。タエコは食事の時や様々な場面で違和感や居心地の悪さを感じているけど、それはハルナのぶしつけでやや意地悪な質問のせいだけではない。2人のその感じもあると思う。

彼らは食事や浜辺で毎朝行うメルシー体操にタエコを誘う。誘いはするけど強要はしない。だから気になる(笑) この感じがいい。2人が突出しておかしな人なのではないのがまたいい。登場人物たちはタエコですらどこか不思議な人達。結局、一体どういう人達なのかさっぱり分からないまま映画は終わる。でも、そんなことはあまり問題ではない。耐え切れなくなり宿を出てしまったタエコを迎えに行くサクラがいい。この感じにすべて盛り込まれている気がする。

人にはいろいろある。30代後半以上と思われるタエコがたった一人で浜辺の宿に来たからには何かしら事情があるはず。特別大きな出来事があったわけでなくても、きっと心が疲れているのだと思う。そういう事情を根掘り葉掘り聞くのは自分の好奇心を満たすだけで、決してその人を知ることにはならない。そういう感じがとってもいい。ユージにもサクラにもハルナにも、そしてタエコを訪ねてやってきたヨモギにも、きっとこの島にいる理由があるはず。でも、それは語られない。それがいい。"余白"が何かを物語る感じ。見ている人達がそれぞれ感じる"余白"がある感じ。でも、その"余白"が嫌いな人は合わないかもしれない。

ロケは与論島で行われたらしいけど、海がとてもきれい。私は泳げないので海に特別思いいれはないけれど、この風景は素晴らしい。白い砂浜に真っ青な海、そして青空。でもギラギラしてはいない。ハマダもいい。部屋にはテレビもないしケータイも通じない。キッチン&食堂もいい。『かもめ食堂』でもオープン・キッチンになっていたけど、ハマダではさらに壁も窓もないオープン・スペースになっている。ここで和食を中心とした朝食や夕食をみんなで一緒に食べる。居心地の悪さや違和感はだんだんなくなっていく。

前作もそうだったけど、今作も好きな役者さんばかり。タエコの小林聡美、サクラのもたいまさこ、ヨモギの加瀬亮。ユージの光石研は「時効警察」で初めて見たけど好き(笑) タエコは前作のサチエに比べるとやや頑なで面白みのない女性。でも、毎朝足元に正座してサクラに起こされればあんな反応にもなるかも(笑) 多分、見ている側はタエコ目線でいる。最初は彼らの距離感が分からなくて戸惑うはず。そして、少しずつ「苦手」を受け入れていくことが自分を開放することを知る。その感じを小林聡美が好演。最初はタエコを頑なだと思うけど、いつしか"余白"を楽しめない、羽目をはずような事をしたくないと思っている現代人を体現していることに気付く。それが上手い。ヨモギは後からやってきて、先に達観して帰ってしまうけど、その存在がタエコの気持ちを少し楽にする。その辺りを加瀬亮が飄々と演じていていい。ユージも力の抜けた人物だけど、そういう人物になるに至った背景までも感じさせていた。

そして、やっぱりもたいまさこはスゴイ! サクラは本当に謎の人物。仙人のような存在。毎年、春になるとふらっと現れて、カキ氷屋を開く。このカキ氷が人々の心に何かを芽生えさせる。こんな役もたいまさこじゃなきゃできないと思う。リアリティーが一切無くてもダメだけれど、リアリティーがありすぎてもダメ。その感じが絶妙。

実際、タエコが何故この島にやってきたのかは分からない。サクラやユージ達に出会い、何を感じたのかも、人々がこの宿にやってくる理由「たそがれること」が出来て癒されたのかも分からない。でも、見ている自分が見終わったあと、ゆったりほんわかしたのは事実。サクラがアズキを煮ながらタエコに言う「焦らず、ゆっくり」という言葉が心に染みた。人生は自分で焦ってみてもどうにもならない。焦らず、ゆっくり自分に出来ることをすればいい。それが見つからないなら、立ち止まって考えてみればいい。そういうメッセージを発信していると勝手に判断して、勝手に受け取った(笑)

私のように特別小難しく考えて見なくても、海の美しさや、畑の美しさ、ハマダの食堂の感じなんかを見ているだけで癒される。和食を中心とした食事は全部おいしそうだし、何よりサクラのカキ氷が食べたくてたまらない! このカキ氷はいろんな意味を持っている。その使い方もいい。メルシー体操もいい。ポスターやチラシでキャスト達がやっているのがそれ。このチラシのもたいまさこの姿勢が絶妙。この体のラインなかなか出せない。「めがね」については全員めがねを掛けている以外特に映画の中では触れていないけど、ラストでその意味が分かる。その感じもよかった。饒舌に語るだけが映画ではない、自分勝手な感じはダメだけど上質な"余白"、映画的に言えば"たそがれ"は、後からいろいろ考えたりできていい。

見終わった直後は『かもめ食堂』の方が好きかもと思ったけど、こっちの方が後からじわじわ来た。


『めがね』Official site

コメント (6)
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