今年8月29日のブログで「
日本の借金事情と将来展望」と題した記事をアップしました。その後、政権が代わり民主党の来年度予算の骨格が固まりました。
そこで、8月29日の記事のアップデートを行いたいと思います。日経新聞によれば、2010年度末の国債残高は637兆円で前年度比+37兆円とされておりますが、
財務省の発表資料によると、今年9月末現在で既に国債だけで694兆円に達しております。このあたり、日経新聞のデータ出所が実に不可解なのですが、とりあえず、9月の財務省発表の国債及び借入金現在高の864兆円を採用して試算します。
◆国債および借入金残高:864兆円(対GDP比:182%)09年9月末現在
前提:IMFは、かつてイギリスが史上2度にわたって返済ができた対GDP比217%までは許容できると言っておりますので、これを限度とします。また、毎年の新規国債発行は2010年度並の44兆円とします。
◆5年後の国債残高:(44兆円X5)+864兆円=1084兆円
◆GDP実質成長率:1.4%(2010年度政府見通し)
これが5年間続くと仮定します。現在473兆円のGDPは5年後には507兆円に。
◆5年後の国債残高の対GDP比:1084兆円÷507兆円=213%
単純計算では、IMFが許容できる対GDP比での国債残高は、5年後でもぎりぎり満たしております。
これが44兆円の発行をなんとしても守るために政府が言っている財政規律の意味だったのです。
問題は、今後5年間に年44兆円の国債発行をした結果、果たしてその時点の財政がその後も耐えることができるのかどうかという点です。
試算1:
2010年度予算では国債費を20.6兆円(今年度比+3000億円)としております。当初財務省が想定した長期金利2.5%の場合21兆9158億円となるはずでした。(8月27日の報道記事)21年度当初予算での利払い費比率は46%、残りの54%は元本償還費でした。来年度は2.5%の金利想定ではなく現状に合わせて2.2%程度に下げたものと思われます。
(これは実勢金利ではなく、当年度に万が一の金利高騰があっても予算上は対応できるための、かなり水位の高い金利であることに留意)
2.2%の想定長期金利利率が今後5年にわたって続く保証はありません。アメリカ並みの3.5%へと上昇することは想定しなければなりません。この金利上昇分だけ今後とも国債費が上昇するものと思われます。
そこで、2010年から2014年度までの想定長期金利を以下のように設定します。新規国債は毎年44兆円とします。国債費には元本償還費も含みます。
・2010年度末:2.2%→国債残高908兆円、国債費:20.6兆円
・2011年度末:2.4%→国債残高952兆円、国債費:22.8兆円
・2012年度末:2.8%→国債残高996兆円、国債費:27.8兆円
・2013年度末:3.2%→国債残高1040兆円、国債費:33.28兆円
・2014年度末:3.6%→国債残高1084兆円、国債費:39兆円
試算2:
さて、2014年末の国債費の39兆円がリーズナブルにまかなえるかどうかです。1.4%のGDP成長率が今後続いたとしても、GDPは現在の+7%増の507兆円にしか伸びません。この比率で税収が伸びたと仮定します。
・2014年度末:税収見込み=37.4兆円(2010年度見込み)X1.07=40兆円
試算3:
2010年度の一般会計は、国債費を除いておよそ72兆円です。この歳出基準を2014年まで守ると仮定します。そうすると、
2014年度:(一般歳出72兆円+国債費39兆円)-(税収見込み40兆円+新規国債発行44兆円)=27兆円の赤字。
この27兆円の赤字を消すことが、財政規律を守り続けるためにはどうしても不可欠です。
◆対応策のまとめ:
この27兆円の赤字を消すことができたとしても、国債費は元本が増え続ける限り膨張をし続けます。かつ、一般歳出の上昇圧力は社会保障費の年平均増加だけでも1兆円ありますので、そもそも2010年度並の72兆円に押さえ込むことは至難の業です。
しかしながら計算上は、次のような対応が考えられなくもありません。
・歳出:72兆円+社会保障費年1兆円増=77兆円(2014年度一般歳出規模)+国債費39兆円=116兆円。
・歳入:税収40兆円
・ギャップ:116兆円-40兆円=76兆円。
対応案:一般歳出カット3割→77兆円X0.3=23兆円
消費税増税+27%(32%へ)=2兆円X27%=54兆円
計77兆円。
これが新規国債発行をゼロにし、国債費を39兆円に打ち止め、IMFの対GDP比の国債残高を217%程度に押さえ込むためのシナリオということになります。
しかし、5年後の歳出カットの3割はともかく、消費税の+27%というのは無理でしょう。4年間は上げないと言っている訳ですから。
となると、税収増の範囲内での控えめな新規国債発行を続けながら、歳出カットを更に積み上げる以外にはなくなりますが、77兆円の一般歳出予算をいくらカットしてもゼロにはできません。
このように見ていくと、計算上は完全に日本の財政というのは袋小路へと入り込んだのではないでしょうか。
これが外国から見てゲームオーバー、あるいは後の祭りと言わしめている理由です。後は、いかにして世界経済へのインパクトを最小にする「日本の安楽死」を見いだすかという点だけが残されております。
この絶望的な状況は、過去の財政の分析をすれば誰でも容易に推定できることです。それを民主党は4年間は消費税を上げないと声高に叫んでいるのは、財政の現状に対する無知蒙昧か意図的な政治キャンペーンとしか思えません。
この結果は民主党の責任ではない訳ですから、今からでも遅くはありません。一刻も早く、国のあり方の将来展望とともに、財政再建計画を出すべきでしょう。
国際社会とマーケットから見放され、スパイラル的な金利高騰が円安を招き、輸入物価の急上昇から激しいインフレになり、半分近くの国民が食料の入手にも困難をきたすようになってからでは、いかにも遅い。それは第二の「敗戦」を喫するのと同じことです。その時になってもまだ「国民の生活が第一」と言える政治家がいるなら是非お目にかかりたいものです。