慰安婦問題や在沖縄米軍をめぐる一連の発言で批判を浴びた、橋下徹・日本維新の会共同代表。27日午後の会見では、挑発的な発言を繰り返す「橋下流」は封印し、慎重に言葉を選ぶ場面も目立った。ただ、「風俗業」発言は撤回しつつ、持論を譲らぬ橋下氏の姿勢には、慰安婦問題に詳しい歴史研究者や、欧米や韓国の事情に詳しい専門家らの評価も分かれた。
■「細部は歴史学者に」貫く 現代史家・秦郁彦氏
現代史家の秦郁彦氏は、「ニコニコ動画」のネット中継で橋下氏の会見を見た。「政治家が何十年も前にあった歴史事実を正確に説明するのは困難だ。うろ覚えなのに自分の言葉で説明しようとするから失言につながる。今回は持ち前の放言型を封印し、細部は歴史学者に任せるという姿勢を貫いた」と評価した。
橋下氏が「戦場の性の問題は、旧日本軍だけではない」とした点については「どの軍隊も形態こそ違っても身に覚えがある。一緒にざんげしましょうという文脈で、他の国も怒るに怒れないはずだ」と話す。
ただ、「国会議員でもなく、実現できる政治状況でもないのに、日本が慰安婦問題に対処すると期待を持たせる発言で、思わせぶりなことを言ったと、後に批判を招くのではないか」と懸念も示した。
秦郁彦氏
■口先だけの反省、不誠実 中央大教授・吉見義明氏
慰安婦問題に詳しい吉見義明・中央大教授は、橋下氏が米軍に「風俗業の活用」を勧めた発言は撤回する一方、「慰安所は必要だった」との発言は撤回しなかった点について「不誠実だ」と批判する。
「『慰安婦』制度は居住や外出、廃業などの自由がない性奴隷制であったことは明白」「橋下氏は慰安婦を性奴隷制とも、慰安所で強制があったことも認めていない」と指摘した。
吉見氏は「慰安婦制度が国家の意思として組織的に女性を拉致・人身売買した証明を求める姿勢は、国の責任論へのハードルを高めたものにすぎない」とし、こう強調した。
「いくら『過ちに目を向けて反省を』と語っても、口先だけになってしまう」
吉見義明氏
■欧米は到底納得しない 元外務省国際情報局長・孫崎享氏
元外務省国際情報局長の孫崎享(うける)氏は、橋下氏が慰安婦問題に言及した当初から「人間の尊厳を踏みにじる発言」とみて、国際問題になると感じていたという。
外国人特派員らに説明した会見の内容について「橋下氏は、女性を性的な対象として使った点で日本も他国も同じと主張するが、日本の慰安婦の場合、軍と政府の関与が大きい。占領下の日本でも、米軍が自ら女性をあっせんする組織をつくってはいない。欧米のメディアは到底納得しないだろう」とみる。
さらに「米国などでは女性の尊厳を傷つける考え方自体が大きな問題となり、旧日本軍時代を正当化する動きにも懸念が広がっている。橋下氏はおわびをしただけで、考え方の説明はしていない」と指摘。今後も「対米関係に影響を残すだろう」と話す。
孫崎享氏
■日韓の対立と混乱深めた 韓国・世宗大教授・朴裕河氏
日本文学や日韓関係の研究で知られる朴裕河(パクユハ)・世宗大教授は「韓国では橋下氏は妄言を重ねる政治家と報道されている」と話す。
朴氏によると、韓国内では慰安婦問題を女性の人権問題と考える見方も近年は出てきたが、未解決の植民地問題と長年認識されてきた。日本の首相名でのおわびの手紙や民間募金による「償い金」事業も「ほとんど知られていない」という。橋下氏の会見発言も「額面通りに受け取られないだろう」とみる。
朴氏が心配するのは、慰安婦問題が日韓の政治問題にとどまらず、ネット上などで両国民が互いに中傷しあうテーマになってしまった点だ。「そもそも双方の議論がかみ合っていないのに、橋下氏の一連の発言はさらに混乱と対立を深める結果を招いた」とみている。
朴裕河氏