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[改憲パズル] 改憲バスに乗る前に(車掌の名前にきをつけよう)

2013-05-03 | Weblog

改憲バスに乗る前に

安倍首相は、念願の憲法改正に向けてテンションが高まっているらしい。外遊先でも、改憲を夏の参院選の争点にする意向を改めて示し、「まず国民投票法の宿題をやる。その後に96条から始めたい」と述べた。

第96条は、憲法改正の手続きを定めた条文。改正の発議のために必要な「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」を「過半数以上の賛成」にして、改正を容易にしようというのが、今回の改正の狙い。ただ、「96条から」との発言からも明らかなように、これはほんのとば口に過ぎない。では、ゴールはどこにあるのか。

自民党は、昨年4月に「日本国憲法改正草案」を決定している。マスメディアでは、この問題となると、第9条を書き換えて軍隊である「国防軍」を設置することばかりがクローズアップされがち。確かに、それは重要なテーマではあるが、自民党が目指すゴールは、そういうレベルの(と敢えて言うが)ものではない。まさに「革命」に匹敵するほどの価値観の変容を、国民に迫るものとなっている。

「個人の尊重」が消えて…

まず注目すべきは、「個人の尊重」の消滅。

日本国憲法第13条は、まず最初にこう書かれている。

〈すべて国民は、個人として尊重される〉

一人ひとりの「個人」が等しい価値の存在として尊重される。一人ひとりが、自らの生存と自由を守り幸福を追求していく権利を有する。その権利もまた等しく尊重されなければならないーーこれは、憲法の土台であり出発点であり、憲法全体を貫く価値観と言えるだろう。

これによって、立法その他の国政は、個人の人権を最大限に尊重しなければならない。人権と人権がぶつかり合う場合などは、「公共の福祉」の観点から調整し一部の権利が制限されることはある。だが、それは「個人」より「国家」が優先される、という類の発想とは本質的に異なっている。

 

ところが、「草案」ではこうなっている。

〈全て国民は、人として尊重される〉

国民は、一人ひとりの違いを認め合う「個人」として扱われるのではなく、包括的な「人」というくくりの中に汲み入れられる。違いよりも「人グループ」としての同質性に重きが置かれる。しかも、その人権には、「公益及び公の秩序に反しない限り」という条件がついた。ここには、明らかに「人権」より「公益及び公の秩序」、「個人」より「国家」を優先する発想がある。

「公益」や「公の秩序」に反すると認定されれば、「個人」の言論や思想の自由も認められないことになる。ツイッターやフェイスブックなどが普及した今、表現の自由は、多くの人にとって、情報の受け手としての「知る権利」だけでなく、発信者としての「言論の自由」に関わってくる。

戦前の大日本国憲法は、表現の自由に「法律ノ範囲内ニ於テ」という条件をつけていた。この旧憲法下で、様々な言論が制約され、弾圧が行われた。曖昧な「公益」「公の秩序」は、国家の方針やその時の状況によって、いくらでも恣意的な規制や制約ができそうだ。

表現の自由に限らず、「個人」より「国家」を尊重する。「人権」は「公益及び公の秩序」の下に置かれる。これが、自民党「草案」の基本。日本国憲法と似た体裁をとっているが、まったく別物であり、その価値観は天と地ほども違うと言わなければならない。

 

憲法が国民を縛る

憲法の役割も、180度変えてしまおうとする。現行憲法は国民の権利を謳い、平和主義を宣言し、国の統治機構を定めた後、こう締めくくっている。

〈第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。〉

 
 
憲法が縛るものは…

天皇陛下が即位直後に、「日本国憲法を守り、これに従って責務を果たす」と誓われたのは、この条文を意識されてのことだろう。

憲法は、この条文によって、政治家が法律を作ったり、公務員などがそれを執行する時に、憲法で定めた国民の権利を侵害するようなことがないよう、釘を刺しているのだ。つまり、憲法は、国民を縛るのではなく、政治家や公務員らの行動を縛るために存在していると、ここで念押している、といえる。

では、自民党「草案」はどうか。

これに当たる条文のまず最初に、こう書かれている。

全て国民は、この憲法を尊重しなければならない

憲法を「国民」の言動を律するものに変えよう、というのである。

ちなみに大日本国憲法は、「臣民」が「憲法ニ対シ永遠ニ従順ノ義務ヲ負フ」としていた。自民党「草案」は、この点でも明治憲法に先祖返りしている。

戦争ができる国に

そして、平和主義と安全保障の問題。

「草案」によれば、「国防軍」の活動範囲は、自衛のための活動のみならず、相当に広い。一応、「武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない」としているが、「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」ならOK。これによって、国連が武力行使容認決議を行っていない多国籍軍に参加し、戦闘行為、すなわち殺傷行為を行うことも可能となる。

また、「軍人」の職務実施に伴う罪や「国防軍」の機密に関する罪についての裁判は、「軍」内部に置いた「審判所」で裁く、とされる。いわゆる軍法会議の復活だろう。これについての問題点は、軍事ジャーナリスト田岡俊二さんの論稿に詳しい。

もう1つ見過ごされがちなのが、「草案」の第9章として新しく設けられた「緊急事態」。「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律に定める緊急事態」が起きた時に、内閣総理大臣が「緊急事態の宣言」をすることができる、とする。

とってつけたように「自然災害」が加えられているが、東日本大震災のような大規模な(しかも、原発事故を伴う)災害が起きても、日本では「公の秩序」が破壊されるような暴動など起きていない。法律や災害時の対応策をきちんと整備しておけば、憲法でわざわざ「緊急事態」の規定を置く必要はない。また、そのような「内乱」や「武力革命」が起きることも、日本では想定し難い。

要するに、「緊急事態」は戦争を想定した規定なのだ。現行憲法に規定がないのは、戦争をしないのが前提だから。9条の改変に加え、「緊急事態」の規定を入れることで、日本は戦争ができる国へと変貌する。

ひとたび「宣言」が出ると、内閣は強大な権限を持つ。法律と同じ効力を持つ政令を発することができる。つまり、国会抜きで国民の権利を制限することが可能。この「宣言」が発せられると、「何人も…国その他公の機関の指示に従わなければならない」とある。

まさに、総動員態勢で国民が総力を挙げて戦争に協力する態勢を作るための基礎を固めるのが、この「緊急事態」の規定と言える。

バスに乗る前に必要なこと

第96条改正の問題を考える時には、その先に、このような国家観、憲法観、人権などについての価値観が広がっていることを、まずは知っておく必要があるだろう。それを知ったうえで、自分の意見をまとめたい。

マスコミも改憲ありきの雰囲気になっているし、よく分からないけど96条だけなら変えてもいいかも…という人がいるかもしれない。でもそれは、行き先も確かめずにバスに飛び乗るようなもの。

バスに乗る前に、切符を買う前に、行き先と停まる停留所は確かめよう。

(文)江川 紹子ジャーナリスト

早稲田大学政治経済学部卒。神奈川新聞社会部記者を経てフリーランス。司法、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々。著書『人を助ける仕事』(小学館文庫)、『勇気ってなんだろう』(岩波ジュニア新書)など。


[改憲パズル] 権力側の暴走を防ぐ96条、それを変えろと騒ぐ権力側(何か変だ?)

2013-05-03 | Weblog

 

朝日記事:(憲法はいま)違憲判決、その心は 3裁判官を訪ねて

 「一票の格差」訴訟などで、今年は違憲判決が相次いでいる。三権分立の下、行政や立法のチェック役を期待されながら、違憲立法審査権の行使に消極的とも批判されてきた日本の裁判所。その中で違憲判決を書いた裁判官は、憲法についてどう考えたのか。今までになく改憲機運が高まるなか、各地を訪ね歩いた。

元裁判官・森野俊彦さん(66)

一票の格差訴訟

 

2010年3月、09年の衆院選をめぐる一票の格差訴訟で福岡高裁裁判長として違憲判決を出した。憲法14条の「法の下の平等」などが争点だった。

 

紙面写真・図版

森野俊彦さん

 ■「1人1票」30年前は止められた 2010年3月・一票の格差訴訟

 「何があっても最後は憲法を守ろう」。森野俊彦さん(66)=大阪市=は、そんな初心を胸に約40年間、裁判官を務めた。今は龍谷大学法科大学院で民事法を教える。

 2010年3月、09年の衆院選をめぐる一票の格差訴訟で福岡高裁裁判長として違憲判決を出した。

憲法14条の「法の下の平等」などが争点だ。

「誰もが過不足なく一票を有する」のが憲法の理念とし、従来の最高裁判決より国会の裁量を狭く解釈。原告側から「画期的」と評価された。

 「最高裁と違う判断をすることに迷いや抵抗はあったが、憲法を読み返してみると、やはり納得がいかなかった」と話す。

家裁勤務が長く、ニュースになるような訴訟を担当したことは多くない。ただ、大きな判断を迫られたとき、憲法の理念を守るのが役割だという心構えでいた。判決文にある「原点に立ち戻って検討すれば」との表現には、そんな思いがこもっている。

 憲法が公布された1946年に生まれた。任官した71年は、憲法擁護を掲げる団体に所属する裁判官らの政治的中立性が問題にされ、「司法の危機」が叫ばれていた。憲法に基づいて権力の乱用を防ぎ、少数者の権利を守る――。同じ志を持った司法修習の同期は7人が不採用になった。彼らの無念を、胸に刻んで過ごしてきたという。

 実は、裁判官になって10年たつころにも、大阪高裁で一票の格差訴訟を担当し、「1人1票が原則」とする判決を書こうとした。だが、裁判長から「最高裁で覆される。10年早い」とたしなめられた。「結局、30年後になりました」

 時代に合わせて憲法を見直すことに反対はしない。ただ、権力の暴走を防ぐために厳しい条件を定めている96条の改正は疑問だ。「一票の格差で違憲や無効の判決が相次いでいる。正当に選挙されていない国会が、憲法の根幹まで変えるのは問題ではないか」と森野さんは話す。

 最近の裁判所には、変化を感じてもいる。「価値観が多様化し、女性裁判官も増えた。出世志向で最高裁の意向を気にするのではなく、おかしいと思えばおかしいと自然体で言える世代になってきたのでは」

注:<一票の格差訴訟> 

国政選挙での「一票の価値」が選挙区によって異なることについて、憲法違反かどうかが争われている訴訟。最大格差が2・43倍だった昨年の衆院選をめぐっては今春、各地の高裁で違憲や無効の判決が相次いだ。最高裁判決が年内に出る見通し。

 

元裁判官・福島重雄さん(82)

長沼ナイキ基地訴訟

 

1973年9月、「長沼ナイキ基地訴訟」で「規模や装備からすると、自衛隊は明らかに軍隊であり、憲法9条に反する」との判決を出した札幌地裁の裁判長を務めた。

 

 

紙面写真・図版

福島重雄さん

■「9条に反する」冷や飯食っても 1973年9月・長沼ナイキ基地訴訟

 「裁判所が憲法判断を避ける傾向は、むしろ強まっている」。富山市の福島重雄弁護士(82)の見方は厳しい。一票の格差訴訟で違憲判決が相次いだのも、「最高裁がすでに違憲状態という判断を出していたからだろう」とみる。

 73年9月、「長沼ナイキ基地訴訟」で「規模や装備からすると、自衛隊は明らかに軍隊であり、憲法9条に反する」との判決を出した札幌地裁の裁判長を務めた。

憲法に特別な思い入れがあったわけではない。「必要があれば判断するのが裁判官。それがたまたま自分だった」と話す。

 ただ、福島判決は、高度に政治性のある問題に司法は立ち入らない、とする最高裁の立場に反していた。東西冷戦期、福島判決は政権側から「偏向」と批判を浴びた。二審で覆され、最高裁で確定。その後は地方勤務が多く、「冷や飯を食わされた」という。

 それでも、「裁判官は良心に従うもので、最高裁や上司に従うものではない。今やっても同じ判断でしょう」と淡々と語った。

 福島判決は「政策として自衛隊を持つことが適当かどうかを判断するものではない」と書いている。「違憲なら、憲法を改正するのも一つの選択だ。ただ、違憲だと思うのに司法が沈黙したら、現実を是認するだけになる」

注:<長沼ナイキ基地訴訟>

 ミサイル基地建設に伴う保安林の指定解除をめぐり、自衛隊の違憲性などが争われた訴訟。札幌地裁は住民勝訴としたが、札幌高裁は却下。最高裁も上告を棄却した。高裁、最高裁は憲法判断に踏み込まなかった。

元裁判官・小中信幸さん(82)

朝日訴訟

 

生存権を定めた憲法25条に基づき、生活保護のあり方を問いかけた「朝日訴訟」で、東京地裁は60年10月、当時の国の生活保護基準が憲法の理念に反するという判決を出した。主任として判決を書いた。

 

紙面写真・図版

小中信幸さん

■人らしい生活、考え抜いた 1960年10月・生存権めぐる朝日訴訟

 生存権を定めた憲法25条に基づき、生活保護のあり方を問いかけた「朝日訴訟」で、東京地裁は60年10月、当時の国の生活保護基準が憲法の理念に反するという判決を出した。

判決は高裁で覆されたが、地裁判決をきっかけに生活保護の水準は大きく改善された。

 主任として判決を書いた小中信幸さん(82)は東京都内で弁護士を続ける。担当になったのは、任官5年目のころ。憲法が「新憲法」と呼ばれていた時代だった。「経験が浅く、重荷だった」と振り返る。

 裁判長が日頃から口にしていたのは、「憲法は絵に描いた餅であってはいけない」という言葉だ。原告が暮らす療養所に出張し、生活ぶりも見て、「人間に値する生活とは何か」を考え続けたという。

 判決から半世紀が過ぎた今、社会の中で格差が拡大し、生活保護のあり方が改めて問題になっている。後輩の裁判官には「その時代の中で憲法が何を求めているのかを考え、判断してほしい」と願う。

注: <朝日訴訟>

 生活保護を受けていた結核患者の朝日茂さんが国の給付金について「健康で文化的な最低限度の生活」には不十分だと訴えた訴訟。東京地裁は主張を認めたが、東京高裁で逆転敗訴。朝日さんは亡くなり、最高裁は上告を棄却した。

 
(あとがき)
裁判官に求められることとは。最高裁で人事局長や事務総長を歴任し、最高裁判事まで約46年間裁判官を務めた泉徳治弁護士(74)に聞いた。

 裁判官は「国民に選ばれていない」という意識が強く、三権分立の中で、これまで立法や行政への介入には抑制的であるべきだという雰囲気が裁判所内には強かった。それが憲法判断を不活発にしてきた面はある。

 変わってきているとすれば、要因の一つは、社会が国際化していることだ。成年後見を受けた人に選挙権を認めた3月の東京地裁判決も、世界の潮流を強く意識していた。

 また、一票の格差訴訟のように、最高裁判決に多様な個別意見がつくと、地裁、高裁の判断にも影響を与える。異なる意見を比べることで、裁判官も考えを深められるからだ。

 退官後、外国の研究者から「日本では憲法は守るべき規範ではなく、抽象的な目標だ」と指摘された。行政や立法の「裁量」を尊重しすぎると、「憲法より法律が偉い」となりかねない。憲法を実社会の中で生かしていく努力が裁判官に求められるだろう。

(ほそく)

違憲立法審査権:法律や行政行為が憲法に違反していないか審査する権限。日本では、憲法81条により、最高裁に最終的な権限が与えられていることから、最高裁は「憲法の番人」とも呼ばれる。この規定により、地裁や高裁も憲法判断できる。日本の場合、個別の法律などについて抽象的に憲法違反を訴えることはできないとされており、具体的な争いの中で合憲・違憲が判断される仕組みになっている。


[米WSJ] 危うい安倍政権の原子力政策 米当局すら懸念を表明

2013-05-03 | Weblog

日本の核燃料再処理工場の稼働、米国などが懸念

5/2 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)

  日本は大規模な核燃料再処理工場の操業に向け準備を進めているが、米政府などがそうした動きに懸念を示している。北アジアや中東で核技術、ひいては核兵器の広範な開発競争を招く可能性を危惧しているためだ。

(六ヶ所村の核燃料再処理工場内にある中央制御室)

 日本の当局や原子力産業の専門家によると、青森県の再処理工場は核兵器に転用可能なプルトニウムを年間9トン生産できる能力を有している。核爆弾2000発分に相当する量だ。ただし、日本の当局者は再処理は民生利用を目的としたものだと話している。

 日本の当局者によると、2011年の福島第1原発事故で原発の安全性に対する懸念が高まり、日本では現在国内の原発50基のうちわずか2基しか稼働していないため、プルトニウムの利用目的は発電のみに厳しく制限されるという。原爆を投下された世界唯一の国として、日本の当局者は長年、核兵器の使用に反対している。

 六ヶ所村の再処理工場を運営する日本原燃の広報担当、福士泰史氏は、安倍晋三首相率いる自民党政権のもと、停止している原発は新たな安全基準を満たせば再稼働することになるだろうと述べた。また、使用済み核燃料の再利用を目指す国家的なエネルギー政策の一環として、政府は六ヶ所村の再処理工場の稼働を推進しているとも語った。

 だが、北朝鮮が盛んに核実験を行っているほか、周辺地域で領有権をめぐる緊張感が高まっていることから、米韓日の当局者は再処理工場が他国の核開発計画にも広範囲な影響を及ぼす可能性について懸念を表明している。

 米当局は、日本の近隣諸国、特に中国、韓国、台湾が六ヶ所村の動向を慎重に見守っており、独自の核燃料技術の開発、あるいは中国の場合は核燃料技術開発の拡大を検討すべきかどうかの判断に踏み切る可能性があるとみている。

 米シンクタンク「核不拡散政策教育センター」(本部ワシントン)のトップ、ヘンリー・ソコルスキー氏は、「実際問題として、六ヶ所村の再処理工場が稼働すれば、中国は日本ではなく、中国こそが東アジアで最も優位な核保有国であるということを再認識させるため対応に乗り出さざるを得なくなるだろう」と話し、「そうした核をめぐる応酬は泥沼化する可能性がある」と警告した。

そうした懸念を物語っているのが、北朝鮮が2006年に一連の核実験を強行したあと、日韓両国のタカ派の政治家が自国政府に核兵器開発を検討すべきだと要求したことだ。北朝鮮は最近では今年2月に核実験を実施している。

 米国の2つ目の懸念は、日本のプルトニウム備蓄の保安にかかわるものだ。日本は稼働原発を大幅に減らしたことで、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を燃やして発電する機会も減少したため、余ったプルトニウムを保管する必要性が出てくる。六ヶ所村の再処理工場は、使用済み核燃料を再処理することで原発から排出される放射性廃棄物を削減するためにも利用されるとみられている。

 六ヶ所村の再処理工場が92年に着工して以来、日本の政府や民間企業は210億ドル(約2兆円)を超える資金を投じてきた。だが日本の当局者によると、操業は技術的・財政的な問題で19回も延期されている。

 核政策に携わる米当局者によると、オバマ政権はそうしたたび重なる遅延の結果、六ヶ所村の再処理工場は計画が棚上げにされたとおおむねみている。こうした見方は、福島第1原発事故やそれを受けて日本政府が原発計画を段階的に大幅縮小する方針を明らかにしたことでますます強まった。

 1期目のオバマ政権で核拡散問題を監督したゲーリー・サモア氏は、「オバマ政権にとって(六ヶ所村を)注視する差し迫った必要性はなかった」と述べた。

 だが、12月の総選挙で安倍政権が誕生したことで、日本の原発計画や六ヶ所村の再処理工場の見通しが再び見直されている、と政府や業界関係者は話す。安倍氏は原発推進派だが、同氏の事務所は安倍氏は六ヶ所村についてはコメントしないと述べた。

 日本は核兵器に転用可能なプルトニウムを約9トン国内で生産可能なウラン濃縮と使用済み燃料再処理能力の両方を有している。当局や業界専門家によると、六ヶ所村の再処理工場が稼働すれば、それだけの量を毎年生産できるようになる。日本にはかつて茨城県東海村に再処理工場があり、07年に閉鎖されるまで約7トンのプルトニウムを生産していた。

 日本の原発はほぼ全てプルトニウムベースの燃料ではなく濃色ウラン燃料を利用している。原発には使用中の燃料に応じて、いずれも利用可能だ。核兵器も、核兵器に転用可能なレベルにまで濃縮したウランかプルトニウムを使用して生産可能だ。これに対してイランは、ほぼ核兵器に転用可能なレベルのウランを生産しているが、核兵器に転用可能なプルトニウムを生産できる重水炉も開発中だ。

 日米当局者によると、オバマ政権はここ数週間、余剰プルトニウムの保安に関する懸念を日本に伝えているという。

 内閣府日本原子力委員会の鈴木達治郎・委員長代理は4月、ワシントンでオバマ政権当局者と面会し、おおむね次のように伝えたと話した。日本がプルトニウムの利用計画に関する明確な展望のないまま大量のプルトニウムを保有することを許してしまえば、その他の世界に対して悪しき前例を作ることになる、と。

 日米当局者によると、鈴木氏が面会したのは、ダニエル・ポネマン米エネルギー省副長官やトーマス・カントリーマン米国務次官補をはじめとするオバマ政権の核拡散問題に関する窓口担当者だという。

 米国務省は、米国は日本に将来原発に依存すべきかどうかについて助言するつもりはないと述べた。だが米当局者は、日本政府は福島第1原発事故を踏まえた効果的な規制機関を設置し、六ヶ所村の再処理工場のような施設を効果的に運営できるようにする必要があると米国は考えていると語った。

 日本原子力委員会も日本原燃も六ヶ所村の再処理工場は10月に操業開始の見通し、と述べている。だが福島第1原発事故への対応策として設置された原子力規制委員会は、新たな安全基準は12月まで公布されないため、そのスケジュールに間に合わせるのは「不可能」との見方を示した。再処理工場の建設はおおむね完了しており、原子力業界の専門家は数カ月でフル稼働に至る可能性もあるとみている。

 日本原燃の福士氏は、プルトニウムの核兵器への転用防止に向け、国際原子力機関(IAEA)が再処理工場の操業を密接に監視することになると強調した。

 「日本はIAEAの査察を定期的に受けている。いきなりの査察も受けている。また、プルトニウムの管理状況や利用状況を公表している。これは日本が平和利用を目的にやっていることの証明になる」と福士氏は述べた。

 日本の原子力規制当局は、六ヶ所村の再処理工場の操業開始時期に関してもっと慎重な姿勢をみせている。

 オバマ政権は、六ヶ所村の操業開始がいつになるにせよ、それによって同地域に新たな摩擦の種がもたらされ、他国が核能力の拡大や核能力に対する支配力の強化を検討し始める可能性を危惧している。

 米国産の核燃料や資機材の韓国への輸出継続を可能にする新たな米韓原子力協定の締結は遅れている。

 韓国の交渉担当者は、新たな米韓原子力協定の締結により、自国でウラン濃縮や使用済み燃料の再処理に乗り出すことをともくろんでおり、韓国にとって民生利用を目的とした原発計画の拡大や確保にはそれら技術が極めて重要だと主張した。

 だが米政府はそれを認めず、両国は先週、そうした権利を盛り込まずに現在の協定を2年延長し、その間交渉を継続することで合意した。

 現・元米当局者によると、韓国は、長年のライバルで、かつての植民地支配国でもある日本と自らも同等の能力を持つべきだと考えており、米国にもそう主張している。

 米当局者は、六ヶ所村の再処理工場の操業開始は韓国からのプレッシャーを高めることになり、韓国が日本に倣って独自に核燃料の生産を開始するのを公式に認めるよう一段と迫られる可能性がある、としている。

 クリストファー・ヒル元駐韓米大使「韓国にはできないことを日本はできるという印象を韓国が抱くことになるのであれば、持続可能なコンセプトとは言えない」と語った。

 中国は先週、新たな使用済み核燃料の再処理施設の建設に向け仏原子力大手アレバと契約を交わした。六ヶ所村の再処理工場と同規模で、年間9トンのプルトニウムが生産可能な施設が建設される見込みだ。

 中国政府は同施設は民生利用のみを目的としたものだと述べた。だが、中国は数千もの核弾頭を保有しているとみられている。原子力の専門家は、日本に核兵器に転用可能な核分裂性物質の生産能力を拡大している兆しがみられれば、中国も追随する公算が大きいとみている。