日本社会の階層分化や、“下流社会”化を論じている三浦展の『団塊格差』(文春新書)という本を読みました。
内容は、要するに、昭和22年から24年に生まれたいわゆる“団塊の世代”に対して、社会では、同質的なひとかたまりの世代として見るのが一般的だが、実は“団塊の世代”の内部で大きな格差が発生している、というのが著者の主張のようです。
著者によれば、団塊の世代の年収は、1000万円以上が13%に対して、300万円未満が22%、貯蓄高は、2000万円以上が19.1%に対して、500万円未満が39.3%など、けっこう格差が開いているというのです。
さらに、住宅を購入したのが、バブル期以前(およびバブル崩壊以降)の人と、バブル絶頂期に購入したため過大なローン返済を抱えている人たちとの間の格差、その子たち(“団塊ジュニア”)が生まれた年(→就職の年)の影響などで、フリーター、派遣などの非正規雇用者となっている者も、団塊全体の30%近くいるなど、子どもの格差もみられるようです。
この世代を同質的な“ひとかたまり”と見なしていたのは、ひとかたまりだという幻想を抱かせておいて、同じような商品を大量に売りさばこうとした売り手側の魂胆だったというのです。
面白かったのは、“団塊の世代”の嗜好です。
団塊世代の好きな洋服は、ユニクロが1位で54%、2位が青山で32%、3位はナイキ22%などとなっており、VANは6%、ポール・スチュアート2%、ブルックス・ブラザース3%などはいずれも振るわないようです。著者がパルコのマーケティングをやっていた頃の同僚には、世田谷生まれの慶応ボーイで、ブルックス・ブラザースを着ているようなのが多かったといいます。
これには、ぼくはちょっと異論があります。ブルックス・ブラザースは、もともとニューヨークではビジネスマン向けのスーツ(いわゆる500ドル・スーツ)を売っていたブランドの1つであって、アルマーニなどとは別格です。日本に進出する際に、ブランド・イメージを高める戦略が功を奏したのでしょうが、ブルックスは、いうならば“ニューヨークの青山”です。団塊がブルックスで買うのも、青山で買うのも、実は同じようなことなのです。(ちなみに、上海では青山は高級ブランドだそうです。)
ぼくは、けっこうブルックスブラザースのスーツやジャケットを愛用していますが、ブルックスは、1月と7月の西武と東武のバーゲンの時と、あとはふらりと立ち寄った季節はずれの軽井沢ショッピングプラザで、バーゲン価格になっているときにしか買いません。あの程度の値づけが適正だと思うからです。正月早々の東武のバーゲンのときなど、試着室の前の列を見ると、けっこう団塊のおっさんたちが並んでいます。
もう一つ、団塊が5年以内に買いたいと思っているクルマは、1位BMW9.6%、2位クラウン8.2%、3位プリウス8.1%、4位ベンツ7.2%、5位マークX5%、6位レクサス4.9%だそうです。これも違和感があります。うちの近所は世帯主が大体団塊世代の人たちですが、車庫に並んでいる車を見ると、カローラ、ジープ・チェロキー、ユーノス500、ヴェロッサ、アリオン、ゴルフⅣなんてクルマです。もう一つの特徴は、皆さん結構長く使っています。5年で買い換えると少し気恥ずかしいくらいです。もちろんベンツ、BMW、アウディの家もありますが、こういったクルマを有難がる人はすでに所有しているでしょう。
ぼくは、前にも書いたようにカローラに乗ってますが、森永卓郎さんの愛車もカローラだそうです(年収300万円時代で印税が入ったでしょうから、もう違うかもしれませんが)。
(写真は、1982年秋~冬のブルックス・ブラザース“Brooks Brothers”の型録。こういうので、ブランド・イメージを構築したのだろう。)